『海紀行』人とまちを支える港を訪ねて

『海紀行』人とまちを支える港を訪ねて

「PFI」と「特区」を背景とした港づくり

 北九州港で展開されている事業はハードウェアの整備だけではない。「ひびきコンテナターミナル」の開発にはわが国の港湾改革の先駆的な手法が取り入れられている。事業の背景について北九州市港湾局響灘整備推進室の宮崎彰三主査はこう話す。「モノやハードといった施設が整備されているだけで貨物は来るのか?実はハブポート構想が策定された頃からそうした議論がありました。従来のコンテナターミナルの在り方とは別の展開方法があるのではないか。そこで導入されたのが『PFI方式』による開発と運営です」。「PFI(Private FinanceInitiative)」とは公共施設の建設と運営にあたって民間の資金とノウハウを活用し、公共サービスの提供を民間主導で展開する手法のことだ。北九州市はこの新手法をいち早く取り入れる。民間企業からの出資を募り運営会社を設立、国、市、銀行等の融資によって荷役機械や施設等を整備する。船会社からコンテナ取扱料などの収益をあげ、独立採算型の港湾運営が展開される。
 また「北九州市国際物流特区」の指定により立地に必要な規制も緩和され、助成金制度などにより企業進出が加速している。現在整備が進められているマリナクロス新門司には自動車輸送メーカーが完成車の流通基地として立地することを決定した。愛知県から九州圏内で販売される車を船で移入、帰りに九州内の工場で生産された輸出用の完成車を名古屋港へ搬送する。従来より海上輸送距離が短縮された分コストが低減され、自動車製造メーカーにもメリットを還元できる。新制度の導入によって名古屋、三河に比肩する自動車港湾がここ北九州港に誕生するかもしれない。

市民の日常とウォーターフロントを結ぶ港へ

 環境問題と親水空間の創出も港湾が担う大きな課題だ。北九州港では市民生活に密着したこうしたテーマにも積極的に取組んでいる。
 北九州港が廃棄物を港湾に集積し新たな産業分野の資源として供給する「リサイクルポート」の指定を受けたのは平成14年。それ以前にも公害を克服する過程で培われた市民、企業、行政の連携は非常に強固なものだった。これを基盤に「北九州エコタウンプラン」が策定され、響灘地区にリサイクル企業や研究施設が誘致された。同地区の一画にはペットボトルや空き缶からOA機器、自動車までをリサイクルする約20社の企業が進出している。最先端の廃棄物処理技術を開発、実証する研究機関が集中するのもこの地区だ。
 さらに、北九州港は産業振興を目的として港の整備がされてきたことから、親水性の高いウォーターフロントを創造しようという動きがある。市民と港を身近なものにするのは「海辺のマスタープラン2010」だ。2010年までに市民に親しまれる水際線25km、29箇所を整備する。都市型アメニティ拠点の砂津・末広エリア、レトロな観光地として名高い門司港エリアなどなど5つの拠点エリアと地域生活に密着した7つのエリアで様々な取組みが行われている、関門海峡に突き出た防波堤を活用した海峡釣公園や、地元小学生や地域住民の意見を聞きながら整備・利用にこだわった人工海浜等の整備が進められている。
 港湾機能の整備と、それをバックアップする新しい制度や運営手法の導入。血の通ったみなとまちづくり。北九州港は従来の概念に捕われることなく新しい港湾の姿を描く広大なキャンパスだ。

完成間近のひびきコンテナターミナル

北九州港PFI事業の整備分担

北九州市港湾局 響灘整備推進室
宮崎彰三 主査

自動車の集積基地となる新門司地区の整備

響灘地区にはリサイクル企業が数多く進出している

中国・大連港と友好港の締結をした北九州港のフェリーターミナル

「海辺のマスタープラン2010」の整備拠点のひとつ戸畑・若松エリア

響灘地区には西日本で最大級の風力発電設備も整えられた

散策を楽しむ観光客が絶えない門司港レトロ地区の夜景

写真/西山芳一

COLUMN

「は〜とぽ〜と21」に誕生する空の玄関 新北九州空港

 整備中の新門司のふ頭から遥か海上に浮かぶ広大な埋立地が見えた。関門航路の整備等によって発生する浚渫土砂を有効利用して造成された人工島「は〜とぽ〜と21」(全体面積373ha)だ。ここに新しい九州の玄関「新北九州空港」が誕生する。現在、福岡空港の需要は過密状態にあり、圏域人口200万人の北九州としても潜在的な航空旅客に対応するための新空港建設は以前からの悲願だったという。国土交通省九州地方整備局 北九州港湾・空港整備事務所の赤瀬川良治副所長にお話をうかがった。「以前から現北九州空港への大型ジェット機の就航が熱望されていましたが、周辺は市街化しており、また隣接する干潟への配慮から滑走路の延長は困難でした。そこで海上空港用地として注目されたのが浚渫土砂を活用した苅田沖海面土砂処分場だったんです」。恒常的な浚渫事業で発生する土砂の処分場と空港建設のニーズが合致したところが出発点だった。建設予算や周辺航路、空域の調整等の課題をクリアして新空港としての政令指定を受けたのが平成6年、ようやく平成18年3月オープンが見えてきた。「建設現場は高含水比の粘性土からなる超軟弱地盤で決して容易な工事ではありませんでした。将来にわたって地盤沈下が極力発生しない安定した地盤を確保するため採用されたのが『プラスチックドレーン工法』です」。水が通りやすい溝が掘られた帯状のプラスチックを地中に打込み、垂直方向に土中の水を排出する工法だ。その後、良質な盛土を施すことによって地盤を早期に安定させることができる。
 海面土砂処分場の活用によって建設コストも低減され、周防灘沖合3kmの立地は騒音問題もクリアする。将来的には24時間フルオープンも可能な空港として期待を集めている。

写真:九州地方整備局 北九州港湾・空港整備事務所