うみひと物語 海を想う人のまなざし

うみひと物語 海を想う人のまなざし

海洋建築、港湾計画を通して未来の暮らしを考える

「船橋フィッシャーマンズワーフプロジェクト」について学内発表をおこなう古賀さん


日本大学大学院理工学研究科 海洋建築工学専攻 古賀隆弘さん 近藤貴弘さん

古賀隆弘さん

近藤貴弘さん

[写真左]発表会には大勢の市民が来場した [写真中]長い歴史を持つ船橋漁港 [写真右]古賀さんと近藤さんは研究のかたわら、ティーチングアシスタントとして後輩の指導にあたっている

昔ながらの漁港を賑わいのある空間に

 船橋漁港(千葉県)は、江戸時代からつづく漁港で、現在もノリやアサリ、スズキ、カレイ、イワシなどがとれ、首都圏を中心に出荷される。
 昨年、漁港を核とした新しい集客拠点をつくろうという「船橋フィッシャーマンズワーフプロジェクト」が、国土交通省関東地方整備局の主導で進められた。「フィッシャーマンズワーフ」とは、米国サンフランシスコ市の人気観光スポット。沖に向かって突き出す岸壁にギフトショップやレストランが並び、とれたての新鮮な魚介類が食べられる。昔ながらの風情を漂わせる船橋漁港を、都心へのアクセスと多様な漁獲を活かして、活性化しようというプランである。プロジェクトには、地元船橋市の日本大学理工学部ほか3校の大学生グループが参加した。
 「わたしたちのグループのプランは、小中学生へ向けて漁港を中心とした環境教育の場をつくろうというもの。漁師の方が港で働くのは、主に早朝です。そこで昼間に小中学生の体験学習として見学したり、魚を食べたり。夕方には保護者が魚を買いに来るといったタイムテーブルが可能。船橋市には小中学校が多いということが調査で明らかになり、年間で回したら1日に何クラスが見学できるという詳細な数値まで出しました。環境教育を通じて港の改善点を浮き彫りにして取り組めば、持続可能なプランになる」と語るのは、日本大学大学院理工学研究科海洋建築工学専攻の古賀隆弘さん。
 「地元の漁業協同組合の方のお話を何度も聞きに行きました。とにかく現場に行かなければ話にならないので、研究を通じて相当フットワークがよくなったと思います」と、同じグループでプロジェクトに参画した近藤貴弘さんは振り返る。
 彼らが学ぶ「戦略的企画創造工学研究室」では、海洋の土木や建築、システムほか幅広い工学のノウハウを集約して、戦略的な視野でテーマに取り組み、企画を策定。新しい切り口と机上のプランにとどまらない実践的なプランニングを身上とする。

建築の将来の可能性は海にあると思った

 プロジェクトに参加した大学の各グループは、昨年10月、船橋市民に向けてプレゼンテーションを実施。同研究室からはもっとも多数のグループが発表の場に立った。
 「市民のみなさんからは厳しい指摘もありました。主に施策による街の活性化と、漁師の方々の生活を共存させるにはどうすべきかという点です」(古賀さん)
 「他のグループのプランで、意匠に優れているものがありましたが、建築の面では評価できても、いまある漁港が活かされていないというご意見も。研究から企画、プレゼンテーションを通じて多くのことを学んたという実感があります」(近藤さん)
 海洋建築工学の道を志した動機について、二人は次のように語る。
 「海とモノづくりが好きだった。それにつきます。理系に進むことは漠然と考えていましたが、海洋建築工学という学科があることは知らなかった。オープンキャンパスに参加してはじめて知り、非常に興味を引かれました」(近藤さん)
 「海も好きでしたし建築にも興味があって、建築を取り上げたテレビ番組をよく見ていたものです。住宅やビルなど、きれいな建物に魅力を感じていました。進路を決めるにあたって、海洋建築工学科の資料を見ていたら、ウォーターフロント開発を研究している先生が本校にいることを知り、『建築の将来の可能性は海辺にある』と思ったのです」(古賀さん)
 研究室を率いる近藤健雄教授が提唱するコンセプトは“Something New”(なにか新しいこと)。明確な目的のもと、自由な発想で新しい仕掛けを展開する考え方である。
 「ただし、いくら自由な再開発プランといっても、市民や漁師の方々の暮らしに資するものでなければならない。そこが難しいし、勉強になる点でもあります」(古賀さん)
海やモノづくり、建築という青年の夢。そこに地域や社会への貢献という意義と、青年特有の探究心が加わったとき、夢は現実味を帯びてくるのだ。


戦略的企画創造工学研究室
 日本大学理工学部海洋建築工学科の近藤健雄教授の研究室。常に新しい視点で海や沿岸域のプロジェクトを提案し、弱者を考慮した社会システムの向上に貢献している。
 主な研究テーマは「地域・都市活性化計画系」としてみなとまち活性化方策と観光港湾計画、瀬戸内海の歴史的景観計画、漁港漁村の活性化計画、体験観光による地方都市の活性化方策。「人間・海洋環境系」として高齢者と海のユニバーサルデザイン計画、環境にやさしい砂浜のデザイン、エコツーリズムおよび体験観光と環境教育、高齢者および障害者対応のマリーナ整備。「海洋プロジェクト計画系」として海の情報戦略と知的所有権創造、Something New Projectなど。

研究室主宰の近藤健雄教授(写真右)