Umidas 海の基本講座

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自律型の深海探査ロボット 深海巡航探査機「うらしま」(CG)[写真提供]JAMSTEC


自由に動き回るAUVを捕まえろ!

 海中を自由に、しかも自律的に動き回るAUV。しかし自律的に動くということは、勝手にどこかに行ってしまい、最終的に回収できないのではないか? そこで、海中ロボット開発者は、ロボットの回収手段も開発しなければならない。
 たとえば東京大学生産技術研究所海中工学研究センターの海中ロボットには、GPSが搭載されている。これにより、ロボットが海上に浮上すれば衛星通信を使って位置を確認することができ、その場でロボットを回収できるようになっている。ここでも、電波の届きにくい海中で活動する海中ロボットならではの工夫がされているといえるだろう。

海のなかを自由に動き回るAUV

 地上では、すでに産業用ロボットは大規模大量生産などに欠かすことのできない存在となっている。また人型ロボットについても、日本は世界の最先端を行く国として年々開発が進み、近い将来、介護などの現場での活躍が期待されるまでになってきた。海においても、リモートコントロールで操作する海中ロボットは、すでに多くの港湾土木事業などで活躍している。それでは、リモートコントロールではない、完全に自動化された「自律型」の海中ロボットはどのように開発され、活躍しているのだろう。
 自律型海中ロボットの歴史は意外に古く、1970年代には機械振興会の出資によって作られた歴史がある。その後、1980年代後半になると、東京大学生産技術研究所海中工学研究センターやJAMSTEC(独立行政法人海洋研究開発機構)などの研究機関で開発や実用化が進められてきた。  海中ロボットは、ケーブルで母船と繋がれて遠隔操作される無人潜水機であるROV(Remotely Operated Vehicle)と、母船などと繋がれることがなく、固有の動力源を持ちコンピュータからの指示で自律的に海中を動き回るAUV(Autonomous Underwater Vehicle)の2つに分類される。現在、多くの研究者が開発に取り組んでいるのが、自律型海中ロボットであるAUVだ。
 さらにAUVは、マグロやクジラのような形で水中を自由に泳ぎまわる「航行型」と、カニやクモのような形で水の底を歩く「歩行型」の2種類がある。現在、航行型の海中ロボットについては、さまざまなロボットが開発され、実際の海中調査に試験的に使われている。一方で、歩行型の海中ロボットは、開発と実用化が非常に難しいといわれているが、これについても日本では先進的な取り組みが進められているという。

電波の通じない海中に必要な自律性

 海中ロボットを作るにあたって、陸上のロボットと最も異なるのは、全自動でなければならないということである。電波がよく通じ遠隔操作できる地上にくらべ、海中は電波が通じにくい。このため、当初はROVのような有線で操作するロボットが主流であった。しかし、母船に繋がれているということは、それだけ操作可能なエリアが限定されるということになる。こうした点から、最初から全自動で動く自律型ロボットであるAUVが求められるのだ。
 1998年からJAMSTECが開発を続けている自律型の深海探査ロボット 深海巡航探査機「うらしま」は、機体に内蔵したコンピュータにあらかじめ設定されたシナリオに従って、自分の位置を計算しながら航走することができる。この「うらしま」は2005年2月28日、閉鎖式燃料電池を用いた317kmという連続長距離航走に成功し、世界第1位の記録を樹立。実用化へ向けて大きな一歩を踏み出した。
 東京大学生産技術研究所海中工学研究センターは、2003年に航行型海中ロボットである「R2D4」を開発した。この海中ロボットは、魚雷形で重量は1t。設計深度は4000mとなっている。また東京工業大学では、ヘビのような動きで水中を自在に動き回るタイプの海中ロボットを開発している。

※「うらしま」による今回の探査イメージ図。芝刈りのように航行しながら音響探査を実施し海底面の微細地形図を作成するデータを取得する。[写真提供]JAMSTEC

社会貢献の一環として海中の生態系の調査にもロボットが活用されている[写真提供]JAMSTEC/GODAC(国際海洋環境情報センター)

環境調査などに活躍するAUV

 こうした海中ロボットの活躍が期待される分野は、まず、AUVによる水中観測がある。たとえば地震や津波などの自然災害の際、海洋構造物や港湾区域周辺の環境観測を行うというものだ。また、これまで観測の難しかったクジラやイルカなどといった水棲生物の観測にも、AUVの活躍が期待されている。
 2006年、「うらしま」は音響探査を実施し※、泥火山頂部付近の地形を詳細に画像化することに成功した。泥火山と海溝型巨大地震の関係解明やメタンガス(メタンハイドレート含む)生成のメカニズムに関する研究に貢献するものであると考えられる。
 その他には、2005年「AE−2000」という海中ロボットが小笠原海域でマッコウクジラの観測を実施。2006年には先に説明した「R2D4」が、インド洋ロドリゲス諸島の熱水地帯の観測に成功した。さらに翌2007年には、鹿児島湾にある熱水の湧出域で、「Tri−Dog1」という海中ロボットがサツマハオリムシを観測し、生物学研究の歴史に大きな一歩を示している。一方で今後の課題は、AUVの生産コストの低減、海底・海中の観測をはじめ港湾や水産などでのAUVを活用するマーケットの開発が求められている。
 人が到達しがたい深い海底で縦横無尽に海中ロボットが動き回り、学術上の新発見や産業振興、あるいは人命救助などに活躍する日は、もう目の前に近づいている。


水中バックホウ

港湾土木で活躍するROV
 自律型の海中ロボットであるAUVがいまだ開発途上にあるのにくらべ、ケーブルなど有線でコントロールされるROVは、すでに多くの港湾土木事業などで活躍している。
 「水中バックホウ」は、陸上からのリモートコントロールにより、海底を自動で歩行し、連続的な浚渫作業をおこなう。ちなみに「バックホウ」とはショベルカーのこと。陸上のバックホウのエンジンの代わりに水中電動機を搭載し、各部に耐圧・防水対策を施してある。周辺海域を汚濁することなくシルトから砂質土まで浚渫できるディスクカッターを採用するなど、海洋環境への影響を抑えるための仕様が採用されている。
 また、大水深下での均し作業をおこなう作業ロボットもある。港湾の護岸や防波堤などの基礎マウンド構築に欠かすことのできない捨石均し作業を、大水深下をはじめとした海洋環境の悪い条件下でも、安全かつ効果的に実施できる。
 港湾土木分野の海中ロボットの研究における、重要なテーマのひとつが「目」。陸上の工事で、現場の状態や作業状況、施工箇所などを目視でチェックするように、海中の工事にも同様の管理が必要なのだ。現在、ロボットにカメラやセンサーを搭載し、陸上でモニタリングするシステムや、ロボットの機体にかかる負荷等の情報を変換して可視化するシステムなどの研究が、港湾土木企業や工科大学などを中心に進められている。