Umidas 海の基本講座

umidas 海の基本講座

春まだ浅い紋別の海を流氷が覆う


流氷の海は豊かな漁場

 オホーツク海は水産資源の豊富な海としても知られるが、これには流氷も一役買っている。流氷の生成には対流が大きな役割を果たすが、これにより水面と海底の海水が混じりあい、海の深い部分の成分(栄養塩)が上昇。これを植物性プランクトンが食べて繁殖し、結果として、食物連鎖により魚介類も豊富になる。また、凍っていない海水が太陽光を反射または吸収するのに対し、流氷は透過するため、植物性プランクトンの光合成が促進されることも、オホーツク海が豊かな漁場となる要因になっている。

広く深い海が凍る理由

 全国各地で次第に春の兆しが感じられ始めるこの時期、オホーツク海を望む北海道沿岸部では、美しい流氷を見ることができる。地球上の海は北極や南極を含め、全体のおよそ1割が凍ると言われているが、日本周辺ではオホーツク海でのみ、それを見ることができる。一般的に流氷(drift iceまたはpack ice)とは海上を漂い流れていく氷のことを言う。このため海水が凍った「海氷」のほか、地上に積もった雪が海上に流出して堆積した「氷山」、川の水が凍って海に流れ出した「河川氷」、湖の水が凍った「湖氷」なども、海に流れ出した場合には一括して流氷といわれる。
 ここではその中でも、海水が凍ってできる「海氷」について解説しよう。普通、池や川などの淡水の水は、気温が低下し表面が冷やされると、深いところにある温かい水と入れ替わりはじめる(対流)。対流は摂氏4℃まで続くが、全体が4℃まで冷えると対流は止まり、水面が冷やされ、0℃になると凍り始める。しかし海水は塩分を含んでいるため、対流が止まる温度はより低くなる。このため海水の場合は、対流している部分の温度が−1.9℃になった段階で、表面が凍り始める。
 ところで、川や池に比べてはるかに深く広大な海の場合、海面から海底まで、海全体の温度が海水が凍り始める温度(結氷点)である−1.9℃になるわけではない。「では凍らないか?」というと、そうではなく、海水には深さによって密度の違いがあるため、海面が冷やされた場合、同じ密度の層までが結氷点になればその層の対流が止まり表面が凍りはじめる。このため深い海でも海氷が生まれるのである。

結晶から一年氷まで

 海水が結氷点に達すると、まずは海水の中の真水の一部が結晶となり氷ができ始める(晶氷)。晶氷が増えると海面は氷の結晶の膜で覆われ、スープのような氷の結晶の層(グリース・アイス)となり、さらにこれに地上の雪など(雪泥)が混じり合うとスポンジ氷となる。以上の晶氷やグリース・アイス、雪泥やスポンジ氷は、まとめて新成氷と呼ばれる。新成氷がさらに冷やされると、薄い膜のある表面が固い氷(ニラス)か、表面が硬く光沢をもった氷殻となる。ニラスや氷殻が集まりさらに冷やされ、厚さ10〜30cmになったものが板状軟氷。これがさらに厚さを増し30cm〜2mになり、かつ1年以上経過していない海氷を一年氷と言う。
 また流氷は、その組成や大きさからもいくつかに分類される。直径2m以下でさまざまな形に砕けた浮氷が集まったものは「砕け氷」、一つの、あるいは複数の氷丘が凍り付いてできた大きな海氷塊は「氷盤岩」。大きさを基準にすると、直径20m未満の比較的平坦な海氷は「板氷」、直径20m以上の比較的平らな海氷塊は「氷盤」となる。また、氷盤はさらに小・中・大などに分類され、直径2〜10kmのものは巨氷盤、これよりもさらに大きな直径10km以上のものは巨大氷盤という。

流氷の南限・オホーツク海

 世界の海の1割が凍るなか、オホーツク海は、流氷の南限となっている。しかも同じ北海道北部の海でも太平洋側や日本海側は凍らず、オホーツク海だけが凍る。この理由は、オホーツク海がシベリアやカムチャッカ半島、千島列島などに囲まれた、閉じられた海である点にある。ここにシベリアのアムール川から大量の真水が流れ込むことで、海面下50mほどの塩分が薄い層ができる。これが大陸からの冷たい空気に冷やされることで対流が起こり、水温が急速に低下することで、オホーツク海にのみ、流氷が生まれるというわけだ。
 しかし近年、急速な地球の温暖化にともない、オホーツク海沿岸の平均気温は100年前に比べ、0.6℃も上昇。それによって流氷は40%減少しているという。専門家によれば、オホーツク海の平均気温が100年前よりも4℃上昇すると流氷ができなくなるといわれている。このまま温暖化が続けば、海面上昇により、一部の島しょ部や海抜の低い地域が水没する可能性も指摘されている。オホーツク海の流氷は、地球温暖化の指針ともなっているといえるだろう。

流氷を砕きながら進む観光船「ガリンコ号」

アザラシにとって天敵のいない流氷の上は、格好の遊び場だ


氷の海の神秘に触れる流氷ダイビング&ウォーキング
 流氷に閉ざされた海の中には、どのような世界が広がっているのか?極地を思わせるような、氷原を歩いてみたい!そんなオホーツクの海ならではの体験を楽しむことができるのが、北海道斜里町にある「アクアサービス流氷」だ。より多くの人に流氷の魅力を感じてもらおうと、8年前の設立当時から、流氷ダイビングを行っている。流氷ダイビングでは、オホーツク海を知り尽くした地元漁協の潜水士がインストラクターとなり、普通のダイビングでは経験できない、流氷下の神秘の海を案内してくれる。ダイビングポイントは岸から50〜100mほどの沖合いで、深さは5〜8mほど。氷に3mほどの穴を開けてエントリーする。ダイビングのライセンスがない人や、ちょっと怖いという人には、流氷ウォーキングがおすすめだ。ドライスーツを着用の上で、流氷の上を思うままに歩き遊ぶことができる。普段の生活では立つことのできない流氷の上に足を踏み出せば、気分はもう極地探検家だ。

流氷ダイビングの様子

アクアサービス流氷
住所:北海道斜里郡斜里町文光町57
TEL.01522-3-1860
http://www11.plala.or.jp/aqua-ice/index.html