プロムナード 人と、海と、技術の出会い

プロムナード 人と、海と、技術の出会い

わが国の港湾の地盤は軟弱な沖積層であることが多い。
このため世界有数といわれるほど、地盤改良工法が発展してきた。
多種多様の工法が開発され、地質条件や環境、構造物の種類や規模、重要度に応じて最適な工法が選択されている。
わが国の海洋土木に欠かせない工法の1つである地盤改良にスポットをあてる。

5つの改良原理で生まれた地盤改良工法

 地盤改良工法は、欧米から導入した技術をベースに、わが国の実状に合わせて独自の改善を加えながら新しい工法が開発されてきた。いまやこの分野では、世界でもっとも進歩した国の1つとなっている。
 地盤改良とは、狭義に解釈すれば対象となる地盤そのものの性質を改良することを意味する。だがもっと広い意味で解釈し、地盤の置き換えや補強を含めるのが一般的である。
 港湾工事では、地盤のせん断破壊の防止、液状化防止、圧密沈下の軽減などを目的に実施される。さらに地下掘削時の地下水位の低下や廃棄物護岸の汚濁溶出防止など、透水性を制御するための地盤改良もある。改良原理は大きく5つに分類でき、(1)置換、(2)脱水による密度増大、(3)締固めによる密度増大、(4)固結、(5)止水である。さらに、「港湾の施設の技術上の基準・同解説」(旧運輸省監修)を参考にすると、その分類は基本原理として以下のように説明できる。
1.軟弱地盤を撤去して良質材料と置き換える置換工法
2.圧密、排水を促進する工法
3.地盤の締固めによる強度増大工法
4.化学的・熱的固化による地盤改良工法
5.地盤内に補強材料を導入する地盤補強工法

 また地盤を改良する目的とそのために使われる工法は、対象となる地盤が粘性土系か砂質土系かによって選択される。粘性土系では置換工法、脱水工法(バーチカルドレーン工法、プレローディング工法)、軽量混合処理土工法、深層混合処理工法など、砂質土系では締固め工法としてサンドコンパクションパイル工法やバイブロフローテーション工法などがある。
 いずれにしても不均一で複雑な地盤が対象になるため、施工中や完成後に異常変位や地盤破壊がないように、入念な施工計画や施工管理体制、改良効果評価を行ったうえで施工されている。

多種多様な地盤改良工法

粘性土に適用される主な工法をあげる。
1.置換工法
 軟弱土を除去して良質土に置き換える工法。もっとも古い歴史があり経済的である。ただし掘削土の処分問題、掘削に伴う濁りの問題、良質土の確保の問題などで、近年は減少している。
2.バーチカルドレーン工法
 軟弱な粘性土地盤に排水(ドレーン)材を打設し、排水距離を短くして圧密を早期に促進させる工法。港湾土木での地盤改良を代表する工法の1つである。ドレーン材の種類により砂を用いたサンドドレーン工法をはじめ多様な工法がある。
3.プレローディング工法
 軟弱地盤上に計画されている構造物と同程度の荷重を載せて圧密沈下させ、所定の量まで沈下した後に荷重を取り除き、構造物を建設する工法。圧密を促進させるためにバーチカルドレーン工法を併用する場合が多い。
4.軽量混合処理土工法
 浚渫土に水を加え含水率を調整し、セメントなどの安定剤と軽量材料(発砲ビーズなど)を混練りミキサにより混合する。通常より密度の低い地盤が形成される。
5.深層混合処理工法
 セメントなど化学的安定剤を軟弱土に攪拌混合し、化学的固結作用で地盤改良する工法。短期間で高い強度が得られるので、急速施工が可能である。大深度まで改良が可能で、大規模な構造物を建設する場合に適している。

 砂質土に適用される主な工法をあげる。
1.サンドコンパクションパイル工法
 締固め砂杭工法の1つで、緩い砂地盤に衝撃や振動を与えて砂を圧入し、締固めて砂杭を打設する工法。液状化や支持力に対する安定性を高める効果がある。最近では粘性土系の改良にも多用されている。
2.バイブロフローテーション工法
 緩い砂地盤を締固めると同時に、振動体を振動させて周辺地盤を締固め、地震時の液状化を防ぐ工法。棒状の振動機を使って施工する。

■地盤改良工法の分類例

■サンドコンパクション船

■地盤改良船による施工イメージ

わが国固有の立地条件が世界最高の技術を生む

 軟弱な地盤の上に立地する宿命をもつわが国の港湾や埋立地にとって、沈下や地震による液状化を防止する地盤改良工事は絶対に欠くことのできない技術である。それゆえに多種多様の技術が開発されてきた。しかもわが国の場合、地震国という宿命が、さらに地盤改良技術を多岐に、かつ高度に発展させてきた。
 特に、液状化対策は象徴的なものであり、港湾施設の設計や施工でも、液状化防止対策の技術開発が進展した経緯がある。もともと欧米から技術導入されたものが多いが、こうした特殊な条件を克服する過程でわが国を世界でもトップといえる技術レベルに押し上げたわけである。
 品質、経済性、工期といった要素に加えて、港湾における他の工事と同様に地盤改良工事においても、環境保全が重要な指標の1つになってきた。工事における濁りの発生に対して、海域生物などへの影響を最小限に止めることも地盤改良工事における必須課題である。
 また港湾土木工事で地盤改良の主流の1つであるバーチカルドレーン工法では、排水材として砂が使われてきたが、砂の採取地の環境に与える影響も無視できない。化学繊維材の排水材も多いが、半永久的に地中に残ることから、地盤の環境を護るため、生分解するヤシの樹皮等を活用した新しいドレーン材の研究も進められている。さらにセメントなど化学的安定剤を使う固結工法でも、一時的とはいえ海水への影響も配慮する必要がある。環境への負荷を低減し、環境保全と一体になった地盤改良工法、対策工法の研究開発が積極的に進められている。
 単に1つの工法ではなく、いくつかの工法を組み合わせた施工法もある。また工法そのものも日進月歩で改良され、安全で効果的な地盤改良を、経済的で効率的に施工できるようになった。それを支える技術として、施工機械があり、港湾土木の分野では、地盤改良のために特殊な作業船が建造されている。
 次回は地盤改良工事で活躍しているこれらの作業用船舶の概要と機能を紹介する。