プロムナード 人と、海と、技術の出会い

プロムナード 人と、海と、技術の出会い

循環型社会の構築に向けて、廃棄物の有効利用や適正処理が大きな課題となっている。
埋立地はこれまでも海面を利用した処分場として整備され、廃棄物の処理問題の解決と、新たな利用用地の創出という2つの側面から貢献してきた。
近年、環境問題に対する意識の高まりを受けて、安全性だけでなく保全、環境との共生という視点が整備の大きなテーマになっている。
内陸部における処分場の立地が困難になってきた今日、海面を利用した処分場への期待は大きい。
今回のプロムナードは、海面処分場の立地を可能にする「廃棄物埋立護岸」にスポットをあてる。

海から守り外には出さない!

 廃棄物はできるだけ発生量を抑制すること、そしてできる限り有効利用するのが大原則だ。しかしそれでも処分しなければならない廃棄物は発生する。これらを処分するのが最終処分場だ。ひとことで廃棄物最終処分場といってもいくつかあり、大きく分けただけでも安定型と管理型がある。  廃棄物埋立護岸とは、海面に立地する廃棄物処分場に適用される護岸のことだ。計画された処分場の回りを護岸で囲み、処分場を波から守ったり、護岸内にある廃棄物から水が外に漏れないような役割を担う。

 国土交通省によると、1999年度までに、全国の76港湾及び1湾(大阪湾)の98地区で、総面積約5,000haの廃棄物埋立護岸が整備され、現在も全国のいたる所で計画が進んでいる。内陸部での最終処分場の整備が困難になっている現状を考えると、今後その役割はますます大きくなっていくものとみられる。

 その一方で、環境や安全性に対する国民の意識は高まり、廃棄物埋立護岸を整備するにあたっての重要な課題になってきた。これを受けて廃棄物埋立護岸に要求される機能や構造は飛躍的に高度化し、技術の研究開発が進んでいる。

 このため、国土交通省は2000年に、一般廃棄物や管理型産業廃棄物で埋立られる管理型廃棄物最終処分場の廃棄物埋立護岸について、構造や施工方法、管理方法を示した「管理型廃棄物埋立護岸 設計・施工・管理マニュアル」を作成した。廃棄物処理法に規定されている管理型廃棄物最終処分場について、外周護岸だけでなく内側に設けられる内護岸、さらに遮水工や地盤改良などについての技術的なあり方や留意事項を手引きとしてまとめている。

重力式護岸における遮水工の例

捨石式護岸における遮水工の例

二重鋼管矢板式護岸における遮水工の例

セル式護岸における遮水工の例

構造安全性などから本体構造は4タイプ

 海面処分場は波浪の影響を受けやすいため、廃棄物と海面を確実に遮断し、安全性や環境保全の課題をクリアしたうえで建設が進められる。

 廃棄物埋立護岸本体の構造形式で比較的多いのが重力式護岸、矢板式護岸、セル式護岸、捨て石式護岸の4形式。それぞれに特徴があり、護岸本体と遮水工との効率的な組み合わせや構造の安定性、工費・工期などを判断して選定する。

 いずれにしても、海域に面した護岸(外周護岸)は、波浪や高潮、津波に対して安全であると同時に、護岸で囲まれた埋立地にある保有水が周辺海域へ流出しない構造であることが前提だ。護岸の天端高さは、許容される越波流量や高潮時の潮位などを考えて設定する。必要に応じて外周護岸の内側には中仕切用の内護岸も設置される。

 わが国の海面処分場は、軟弱地盤上に設置される例が多いため、地盤改良も重要なテーマだ。護岸の安定性を確保するための地盤改良と、遮水性を確保するための地盤改良があり、サンドコンパクションパイル工法や深層混合処理工法で改良される。とくに粘性土地盤は遮水性が高い一方で軟弱なため、遮水性を確保しながら改良することが必要だ。

 一方、廃棄物などに含まれる保有水の流出を防ぐ遮水工は、護岸本体と一体にしたり、護岸本体から独立させて築造する。鋼矢板の継ぎ手に膨潤性遮水材を塗ったり、鋼管矢板の継ぎ手にモルタルや不透水性材料を充填する方法(遮水矢板)、遮水能力や強度、耐久性に優れたシート(遮水シート)で防止する方法、ケーソン目地部の遮水工などがある。また、護岸への土圧を軽減するため裏込めを施工するが、裏込め法面に遮水シートが敷設されることが多い。

施工の生命線は遮水性の確保

 護岸本体の構築や地盤改良に高い技術が要求されるのは当然として、廃棄物埋立護岸の役割上、施工でもっとも重要になってくるのが遮水工だ。廃棄物護岸の品質を決定づける生命線ともいえる工事である。いくら優れた設計であっても、適切な施工なくして護岸の機能は発揮できない。

 遮水シートの施工を例にすると、大きく 1)敷設面の平坦性の確保 2)遮水シートの敷設 3)遮水シートの接合 4)遮水シートの定着という4つのステップがある。

 シートの損傷を防ぐために、捨て石マウンドなどの法面を形成したあと、砕石などで間詰めをしてシートが破損しないように平坦性を確保する。その上でシートを敷設していく。

 遮水シートの接合も遮水性能を左右する重要な工程だ。熱溶着による接合が一般的で、重ね合わせ代10cm、溶着幅は3cmが目安となる。接合したシートを敷設したら、被覆層で定着させて遮水工は完了である。

 適切な設計と施工、さらにここでは触れないが、適切な維持管理の3つが一体となり、初めて廃棄物護岸の機能は発揮される。わが国の廃棄物埋立護岸は、この3つの視点から建設されてきた。安全性や環境への意識の高まりは、その傾向をより一層強め技術も高度化を遂げている。

 国土交通省によると、全国で発生する一般廃棄物総処分量の約2割は、廃棄物埋立護岸による埋立で海上処分されている。東京・千葉・埼玉・神奈川の1都3県の東京湾での海上処分比率は約49%(1997年度)と高い比率になっている。狭い国土に加えて、陸上部への立地の難しさという2つの課題を抱えるわが国にとって、これを解決する糸口を海に求める声は強い。廃棄物埋立護岸とその建設を可能にする技術開発に対する期待は、今後もますます高くなりつつある。