プロムナード 人と、海と、技術の出会い

プロムナード 人と、海と、技術の出会い

海や川で隔てられた場所を、船ではなく道路や鉄道で結ぶのは、古くからの人々の夢だった。
方法は大きく2つ。
橋を架けるかトンネルで結ぶかである。
近年の大型プロジェクトには、海底トンネルで結ぶ方法も多い。

沈埋トンネルの工事工程

トンネル標準断面図

函を沈めてトンネルをつくる

 沈埋トンネルとは、コンクリートや鋼板でつくった函体を、海底に沈めてつくられるトンネルをさす。19世紀末にアメリカで開発され、100年あまりの歴史をもつ。欧米を中心に発展してきたが、日本でも有効な海底トンネルとして全国各地につくられてきた。
 
 沈埋トンネルには以下のような有利性がある。

(1)函体はドライドックや造船ドックでプレハブ方式により製作されるので、構造的に高品質で水密性に優れた構造ができる。

(2)トンネルの土被りを少なくできるので、トンネル全長を短くできる。

(3)函体の比重が小さいため、地盤の支持力があまり必要ない。

(4)プレハブ方式なので、現場での沈設・据付時間が短くてすむ。

構造は4つのタイプに大別

 沈埋する函体は、構造上は「鋼殻」「コンクリート」「鋼コンクリート合成」「プレキャストセグメント」の4タイプに大別することが可能だ。施工性や経済性、製作ヤードなどを考えて決定される。

 鋼殻構造は、造船所などで鋼殻を造り岸壁などに一次曳航し、鋼殻を浮かせた状態で内部にコンクリートを打設して製作する。浮遊打設を条件とした形式で、構造的には鉄筋コンクリート式のみ。鋼殻は曳航時の外殻、コンクリート型枠、防水鋼板としての役割をもつ。  コンクリート構造には、鉄筋コンクリート式とプレストレストコンクリート式がある。両方式とも函体端部を鋼殻、底面と側面は防水鋼板、上面は防水シートで被覆するのが一般的だ。前者が通常の鉄筋コンクリート構造なのに対して、後者は横断方向や軸方向にプレストレスを導入した構造で、部材を薄くできるメリットがある。

 鋼コンクリート合成構造は、鋼とコンクリートの長所を生かした構造で、オープンサンドイッチ式とフルサンドイッチ式がある。オープン式は函体外面を鋼板で製作したあと、内側に鉄筋を組みコンクリートを打設して一体構造にする方式。鉄筋コンクリート式に比べて外側鉄筋を大幅に低減できる。一方のフル式は、函体外面・内面すべてを鋼板で造り鋼板の間にコンクリートを打設して一体にした方式。内外鋼板が鉄筋の代わりになるので、鉄筋は不要だ。

 プレキャストセグメント構造とは、トンネル延長方向に分割されたセグメントを工場や製作ヤードで製作し、これらを連結してPC鋼材で一体化する工法をさす。鉄筋コンクリート式とプレストレストコンクリート式があり、コンクリートの水密性を確保することで防水鋼板を省ける一方で、セグメント間の止水性を確保する必要がある。

見せ場は函体沈設、求められる接合精度

 沈設は沈埋トンネル施工のハイライトだ。プレーシングバージ方式、タワーポンツーン方式、SEP(自己上昇式作業台船)方式といった沈設方法があり、地形や函体の大きさ、水路の広さなどによって選択される。

 海底の設置場所は、あらかじめ函体を埋める掘り込みをし、その底部には基礎捨石を敷設して基盤面を整備しておく。ここにアンカーワイヤーで位置を調整しながら函体を据え付け、終わったら隣の函とのつなぎ目の水を抜き、締め切ってあった扉を開放していく。

 このため接合には、高い精度が求められる。

 接合方法には、継手部の周囲を水中コンクリートで固める方法や、ゴムのガスケットを使い水圧を利用し、引き寄せて圧着させる方法がある。近年は、施工性や経済性に優れた水圧方式が一般的だ。

 さらに最終接合は、締め切りをしてドライワーク方式で行う方法、Vブロック、ターミナルブロックと呼ばれる特殊な函体を別につくって使う方法などが開発されている。どの方法を採用するかは施工条件や水深といった現場の条件を判断して決められる。

 こうした方法で据え付けられた沈埋函は、最後に函の上に土を盛って元の海底の高さまで埋め戻す。さらに内部の仕切り壁をつくったり、舗装工事などでトンネル内部を構築して完成となる。

 沈埋トンネルは、わが国では1944(昭和19)年、大阪市安治川の河底に第一号が完成した。都市の臨海部における河川、運河、航路などを横断する際に、有力なトンネル工法として採用されている。建設費が低廉なのに加えて、用地が少なくて済む、施工が比較的容易といった利点から、これまで約30の沈埋トンネルが建設されてきた。

シールドと並ぶ海底トンネルの有力工法に

 橋梁やシールドトンネルに比べて、経済性などで多くの有利性をもつ沈埋トンネルではあるが、同時に技術的に留意しておくべきいくつかの課題もある。

 まず接合や止水には、技術的に十分な検討が必要になることだ。接合方法には水圧接合方式や水中コンクリート打設方式などが採用されている。とくに大水深海域での施工には、高度な技術が要求されており、こうした分野の研究開発は著しい。さらに航路になっている海上での施工も多くあり、近くを航行する船舶に影響を与えないような慎重な作業も求められてくる。

 とはいえ海底トンネルの有力な工法の1つであることは間違いない。現在、沖縄で大型の沈埋トンネルが施工されており、シールドトンネルと並び、次世代を担う海底トンネル工法として期待されている。