プロムナード 人と、海と、技術の出会い

プロムナード 人と、海と、技術の出会い

港湾を代表する施設に「防波堤(Break Water)」がある。
文字通り、外から押し寄せる波を遮り、港の安全を守る重要な外郭施設だ。
海域の特性を生かしながら、より安全性を高め機能的な防波堤を築造するための技術が開発されてきた。
わが国の港湾にはさまざまな構造や機能をもつ防波堤がつくられている。
その防波堤の基本的な機能、構造、特徴を紹介する。

図−1 傾斜堤

図−2 直立堤

図−3 混成提

図−4 消波ブロック被覆提

『経験』から『理論的』設計法へ進化を遂げる

 防波堤は、海底から水面上まで構造物を設置し、外からの波力を遮断するのが基本的な原理である。築造される海域の特性を踏まえたうえで、水理実験などに基づく理論的な設計法が確立され、安全で機能的な施設が建設されてきた。

 防波堤による波の遮蔽は、港内の静穏度を高め、安定した港湾機能を確保するが、元来の地形に変化を与えることから、海水の浄化機能や流れ等に何らかの影響を及ぼす可能性もある。そのため、それらの影響を極力低減させる方策として、防波堤に海水を交換するための機能を付加する、あるいは海草等が着生しやすい環境協調型構造を採択する等の努力が地道になされてきている。近年は港湾の性格も物流機能を重視した内容から、環境・文化・安全・安心を提供するまちづくりの一環としての港の創造も目標とされるように変化してきており、防波堤にも市民が安心して自由に出入りし、くつろぎを求めることができるようになってきた。そのためこのシリーズのタイトルのごとく、防波堤上にもプロムナードが設けられ、景観的配慮も十分に行われるようになり、環境、景観、安全等を含めた新たな防波堤のさまざまな研究が進められている。

 配置は、港の地形や気象条件、必要とする港内の水面の面積などをもとに決定される。陸から突き出ているのは「半島堤」、陸岸から離れているのは「島堤」。地形に応じてこの2つを組み合わせて配置されるが、もっとも単純なのは一本の直線的な構造の防波堤である。卓越風が一方向に限られた地域、あるいは三方向を陸岸に囲まれた地形に適する。天然の良港といわれている入口が狭い湾では、湾口部に短い防波堤を設けるだけで、湾内の静穏度を確保しやすくなるものである。しかし、この様な地形の場合、地震による津波の被害を受けやすいため、効果的に湾内の港の施設を守れる防波堤を建設することが大切であるといえる。

4タイプに分類される防波堤の基本構造

 ひと言で防波堤といっても機能や使う材料、施工法などで分類は異なる。構造も見方によっても分かれるが、基本的には「傾斜堤」「直立堤」「混成堤」「消波ブロック被覆堤」の4つに分類できる。

 傾斜堤は、捨石堤ともいわれ、石や消波ブロック等を積み上げて建設する。歴史的に最も古いタイプの防波堤だ。

 直立提は、コンクリートのブロックやケーソン、などを使い、海底から海面上までほとんど垂直につくる防波堤のことである。

 捨石堤を基礎に、その上部に直立提を設置したのが混成堤だ。傾斜提と直立提の複合的な構造で、現在のわが国の主流になる防波堤である。傾斜堤と直立堤の長所を兼ね備えた合理的な構造といわれる。

 さらに直立堤や混成堤の外洋側を、消波ブロックで被覆したものが消波ブロック被覆堤と呼ばれる。この構造は、直立堤や混成堤の機能に消波という機能を付加した改良型ということができる。

 基本的にはこれら4つの構造になるが、これ以外に特殊防波堤と呼ばれるものもある。鋼管杭を壁のように海底に打ち込む鋼管防波堤などがその例である。

条件に応じて選択、それぞれに有利性

4つの基本構造の特徴を整理すると、以下のようになる。

1. 傾斜堤
(1) 軟弱な海底地盤にも適用しやすい。
(2) 施工が容易である。
(3) 維持補修が容易である。
(4) 反射波の発生が少ない。
 傾斜堤は、底面の幅が広くなるため、必然的に港内の利用できる水域が狭くなる。水深が深い場合、大量の構造材が必要なため、安い材料の入手など経済的な配慮も大切だ。定期的な維持補修も必要になる。

2. 直立提
(1) 断面積が小さく材料費を軽減できる。
(2) 港口を広くしないでも有効港口幅が確保できる。
(3) 防波堤背面を係船護岸として利用できる。
 直立堤は波を堤体で反射させることを目的としており、反射式防波堤とも呼ばれている。海底地盤が安定している場合、非常に経済的に建設可能な防波堤である。

3. 混成堤
(1) 水深の大きな場所に建設できる。
(2) 基礎地盤の不陸に対応しやすい。
(3) 直立部があるので、傾斜堤に比べて材料が少なくて済む。
 混成堤は1960年代以降、第一線の防波堤として全国の港湾で非常に多く建設され、その基本的な設計や施工技術は1970年代にはほとんど整備されている。現在の新型式の防波堤はこの混成堤をさらに発展させたものが主流になっている。

4. 消波ブロック被覆提
(1) 波が防波堤を超える(越波)のを少なくできる。
(2) 反射波を少なくすることができる。
(3) 消波ブロックで波力を緩衝するため、堤体幅を縮小できる。
 消波ブロック被覆堤は1960年代後半から混成堤の改良型として普及し、越波や反射波を低減する機能を有する。わが国独自の優れた構造を持つ防波堤だ。
 これらは、立地条件などによって判断され、最適な防波堤の構造形式が選択される。

特性を把握して効果的・経済的に施工

 近年の防波堤は、より高度な港湾機能を確保するため、大規模・大水深化傾向にある。そのため堤体にケーソンを採用した防波堤が一般的になってきた。ケーソンとは、主に鉄筋コンクリートの箱状構造物で、予め地上のケーソンヤードや、フローティングドッグで製作され、現場まで曳航される。

 前回までの「プロムナード」でも紹介してきた通り、建造される海域の特性に合わせ、様々な構造のケーソンが開発されている。防波堤は基本構造をベースに、さらなる進歩・発展を続けている。