プロムナード 人と、海と、技術の出会い

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これまでに紹介した「新たな形状のケーソン」だけでなく、環境に適応する効率的なスタイルとして、オーソドックスな函型ケーソンも進化している。第4回は、高知県の「高知港三里地区」を例に新たな港湾整備に共通する課題となる大水深と高波浪に、大型化で適応する「長大ケーソン」をご紹介したい。

図−1 高知港三里地区長大ケーソン構造図

図−2 高知港三里地区長大ケーソン基本設計断面図

写真−1 ウインチと引船による長大ケーソンの据付作業

位相差によって低減されるケーソンに作用する波力

 通常、ケーソンはその堤体に受ける波力のピーク値を想定して、幅が算定される。この波力のピーク値は、ケーソンに対し波峯線の波頂が、同時に、直角に入射するという条件が前提とされている。しかし実際の波はこのような状況で堤体に作用するとは限らず、むしろ角度を持つ場合が多い。波は微妙な時間差を持って、徐々にケーソンにぶつかることになるため、波力には位相差が生じることになる。そのため、同じ波力の波が直角である場合と角度を持つ場合で比較すると、角度を持つ波は位相差によって波力が低減される。

これを「波力の平滑化効果」と呼ぶ。この平滑化効果は、ケーソンを長くするほど大きくなる傾向にある。

長くすることで「断面」を小さく、工事を効率化

 この波力の平滑化効果を生かして開発されたのが、文字どおり長く大きな「長大ケーソン」だ。ケーソンの長大化によって得られるメリットは、大きく2つとなる。

●断面を小さく
 長大ケーソンと、同じ長さを分割したケーソンを比較した場合、平滑化効果により長大ケーソンの方が断面を小さく(幅を小さく)することが可能になる。

●据付け工事回数を削減
 長大ケーソンを採用することにより、防波堤全体を構成するケーソンの数は減少する。そのため、据付け現場の工期の短縮が可能になる。

2つのメリットを総合し、防波堤整備の経済化も期待できることになる。

「港湾の大水深化」のモデルケースのひとつである高知港

 高知県の高知港は、浦戸湾内に位置し、16世紀後半から港湾整備が始まった。太平洋に面した西日本の海の玄関として活用されてきた港だ。しかし、わが国の大半の港湾と同様、自然地形を生かした河口港であり、
◎湾口部幅の制限
◎土砂の堆積に起因する水深の制限により、
◎航行する船舶の増大
◎船舶の大型化
への対応が困難になった。

その対応として、湾外の三里地区に外港(高知新港)を整備する計画が立てられた。

長大ケーソン採用にあたっての課題をクリア

 この高知新港は波浪条件が厳しく、また大水深を持つ外海に建設される。そのため、長大ケーソンを採用するに当たり、運輸省第三港湾建設局では様々な視点から詳細な検討がなされた。設計、施工上の主な特徴を整理すると以下のようになる。

●波力平滑化効果により想定される波力が低減され、従来のケーソンより堤体幅が縮小された
●波力によるケーソンの平面的な回転に対する安定性が検討された
●マウンドの不同沈下に対する強度、曳航時波浪によって生じるねじれについて検討された
●長大ケーソンの製作が可能なスペース(造船用ドライドック)が、確保された

鉄骨、PC鉄骨+鉄筋からなる「PC鉄骨式構造」を採用

 さらに、施工性、技術開発性、経済性などの面から総合評価した結果、ケーソンの構造には「PC鉄骨式」が採用された。

 これは、鉄筋コンクリート構造の部材を鋼桁により補強し、さらに水平方向にPC鋼材を使用するというハイブリッド構造だ(図1)。鋼桁を縦桁に、PC鋼を水平桁に。さらにすじかい状の鋼桁も組まれる。この骨組に鉄筋コンクリートの外壁が組まれていくことになる。全長100m、高さ13.5mのケーソンは、横20mごと縦9.85mごとのコンクリート隔壁により全体で10室に分割される。幅は従来のケーソンでは21.6mになるのに対し、19.7mに短縮された(図2)。

岡山県宇野港から、4日かけて曳航、据付を実施

 ケーソンの製作は、岡山県の宇野港で行なわれ、完成後は約330kmの距離を4日かけて曳航された。

 長大ケーソンは、据付にあたっては波力や潮流力が大きく作用する。特にケーソン着底間際には、ケーソン底面から水が逃げなくなるため、波力とともに港外側と港内側の水位差から生じる水圧も作用することになる。そのため、ウインチと引船を併用した据え付け作業では、細心の注意を払ってレベル制御が行われた(写真1)。

 この長大ケーソンには、設計施工上の課題を検証するため、各種の計器が設置された。平成4年の曳航時から2年弱、各種データが計測され、貴重な資料として残されている。