PORT REPORT 新みなとまち紀行

PORT REPORT 新みなとまち紀行

 能代港は明治以降、秋田北部地域だけにとどまらない大規模な産業を支える拠点として発展してきた。その歩みは、製材や木工、機械工業、火力発電所と、常に時代の移り変わりとともにありつづけている。21世紀に入り、能代港が新しく獲得したポジションもまた、いまのこの時代にきわめて密接だ。世界遺産「白神山地」への海の玄関口、そしてリサイクル関連企業のターミナル拠点。環境保全の気運の高まりに呼応しながら、能代港はさらなる進化をめざす。


Port History — 能代港の歩み
 能代は、全国でもっとも長い歴史を持つみなとまちのひとつである。658(白雉9)年、越国守阿倍比羅夫(こしのくにのかみあべのひらふ)が蝦夷征伐のため軍船180隻を率いて上陸したのが現在の能代港だったと言われ、また「斎明記」「続日本記」には、光仁天皇の宝亀年中、大陸からの使臣350余人を乗せた船10隻が、この地に着いたと記されている。関ケ原の戦いの後、久保田藩北部の物資集積地とするため材木受勘定所が設置され、日本海側有数の港町として繁栄していく。幕末には、外国船出没に伴い、港は海防の要所としていっそう隆盛した。
 明治時代、良質な秋田杉の利用開発のため機械製材が盛んになり、大小の製材・木工・機械工業の企業が設立され、「木都能代」の名声が海外にまで及んだ。一方、港の付近は砂丘であるため、一度西風が吹けば砂礫を飛ばし、家屋の埋没などの被害が続出した。このため、長年にわたる大々的な砂防林工事がおこなわれた。
 繁栄をつづけた能代港であったが、米代川の洪水による土砂の流出が激しく、吃水の浅い漁船等しか入港できなくなった。そのため戦後、港の整備が本格的に進められ、1974(昭和49)年、5,000t級船舶の入港が可能となり、植物防疫法による指定港となり、かつ関税法による開港指定を受けた。1979(昭和54)年には大森地区に15,000t岸壁が完成。1981(昭和56)年、重要港湾に指定されるとともに、能代石炭火力発電所の建設がはじまり、エネルギー港湾として関連施設の整備が進められた。
 2001(平成13)年、大森地区の多目的国際ターミナル-13m岸壁が供用を開始し、翌年には日本海沿岸東北自動車道が開通。また、
2006(平成18)年にはリサイクルポートに指定され、県北部エコタウン計画と連携した総合静脈物流拠点として、背後地域の活性化に寄与するものと期待されている。


アクセス
[空路]大館能代空港から車で70分
[陸路]JR五能線「能代駅」から車で10分/秋田自動車道「能代南I.C」から10分


繁栄の歴史の源となった港に今日も人々が集う

 1889(明治22)年に町村制が施行されたときに付けられた町名は「能代港町」。このことからも、能代における港の存在の大きさが伺える。
 良質な建材「秋田杉」の名が全国に知られるようになったのは、豊臣秀吉が京都伏見城の改修用材として、大館(おおだて)の杉の大木を能代港から大坂(大阪)に積み出してからと言われている。また、能代港は北前船の寄港地でもあった。
 明治に入ると、当時東洋一の製材工場として有名な「秋田木材株式会社」が設立された。積出港となった能代港は「木都能代」の繁栄の源となる。市民にとっては、まさに豊かな地域社会の象徴と位置づけられたことだろう。
 いまでも能代港は、市民にとって非常に身近な港だ。能代市街から日本海をめざして西へ進むと、やがて前方に鬱蒼と茂った松林が見えはじめる。能代港の大森地区に、南北総延長14km、東西幅1km、面積約760haの樹海。日本最大規模を誇る松林「風の松原」である。
 昔から、能代地方は海岸からの飛砂に悩まされてきた。その対策として防砂林の植林がはじまったのは1713(正徳7)年。越前屋久衛門と越後屋太郎右衛門という2人の町人が、4000本の松苗を植えたのだ。その取り組みは後継の町人たちによって受け継がれ、さらには久保田藩も植林に力を注ぎ、時代が進むにつれて防砂林の面積は広がりつづけていく。
 現在、約700万本の松が植えられており、景観の美しさが評価されて「21世紀に残したい日本の自然」など計5つの「100選」に選ばれている。
 樹海には遊歩道や広場が設けられ、四季の散策やジョギング、キノコ狩りなど、レクリエーションの場として市民の人気を集めている。
 町人自らが着手した植林が代々受け継がれて、後世に地域の名所を残した。そして、先人たちが築いた繁栄の象徴である港で、大勢の市民が憩う。能代の暮らしには、みなとまちの歴史が確かに息づいている。

[写真左]能代港全景。左上部の米代川が内陸へ伸びる
[写真中]昭和20〜30年代 馬ぞりでの木材運搬(能代市井坂記念館所蔵)
[写真右]江戸時代の能代。町が木々に守られている(秋田市立千秋美術館蔵)

港の手作りアートと絶景が楽しめるロケーション

 港の西側に出ると、その景観に眼を見はる。護岸一面に絵が描かれているのだ。大森地区の護岸1,200m、360区画を一大キャンパスにした「はまなす画廊」は、市民が凧絵やキャラクターなどを自由な発想で描いたもの。区画ごとにモチーフもタッチも異なる絵が一体となって、ユニークなコラージュ作品に仕上がっている。
 視線を北へ向けると、一転して雄大な山の連なりが見える。海のむこうに望めるのは、世界遺産の白神山地だ。白神山地の全体像を一望できるスポットは限られており、能代港はその数少ないうちのひとつ。この貴重な観光資源を活かすべく、能代港発着の海上クルージングが毎年おこなわれている。能代市産業振興部の土崎銑悦次長によると「一昨年に社会実験をおこなったところ好評で、昨年度からは民間団体の主導で継続しています。もともとは釣り好きの市民の方が『海から見る白神山地の眺めはとてもいいよ』とおっしゃったのが発端だったのです」(談)
 地元の人が発見した絶好のロケーションが、能代の観光振興へと発展しはじめた。

能代市産業振興部 土崎銑悦 次長

[写真左]大森地区の護岸を市民の絵で埋めつくした「はまなす画廊」
[写真中]「風の松原」の広場で市民が憩う [写真右]「はまなす展望台」からは日本海や白神山地、 男鹿半島も見渡せる

雄大な白神山地を日本海から望む!
 本文でご紹介した「白神クルーズ」は、海上から白神山地を望む、全国でも唯一のレジャープラン。能代港と八森港(秋田県)を拠点とした50分、90分、120分のコースから選ぶことができる(120分コースは能代港発着のみ)。遊漁船でのんびりと海上を進み、さまざまなアングルから世界遺産を眺める体験は、心躍る。期間は6月1日から9月30日まで、時間は午前8時から午後6時のあいだで、予約制により随時運航する。晴れた日の夕刻には、日本海の見事な夕陽も。料金は2,400円〜3,600円(大人1名)。
■問い合わせ:能代市観光振興課 TEL.0185−89−2179

海上から望む世界遺産・白神山地

遊漁船で風を浴びながらリラックス