PORT REPORT 新みなとまち紀行

PORT REPORT 新みなとまち紀行

Cover Issue  近年、取扱貨物量の増大がつづく小名浜港。国際貿易港としての歴史は、関税法における開港指定を受けた1956(昭和31)年に端を発する。
 一貫して地域振興を支えつづけ、開港50周年を迎えた小名浜港には、次なる発展の萌芽が見えている。
 “浜っ子”気質が受け継がれてきた市民の視線も熱く、港と人が一体となったまちづくりが今後さらに進められていく。


小名浜港の歩み  小名浜港が位置する福島県いわき市には、江戸時代中期の1747(延享4)年に幕府の代官所が置かれ、磐城各藩の納付米を海路で江戸に積み出したことにより小名浜港の基礎が築かれた。
 明治に入り全国で石炭需要が増加すると、小名浜港は常磐炭鉱から産出する石炭を移送する基地となる。
 1923(大正12)年に漁港修築工事が完成。また、1929(昭和4)年着工の第1期工事と1941(昭和16)年着工の第2期工事を通じて、商港としての修築整備が行われた。
 1956(昭和31)年に関税法上の開港となり、1964(昭和39)年に「常磐・郡山地区」が新産業都市に指定され、臨海工業地域が形成されていくとともに、小名浜港も国際貿易港として港勢を拡大してきた。
 今後は常磐自動車道、磐越自動車道など、背後地域の高速交通体系の拡充に伴い、国際貿易港としての物流機能の強化や国際コンテナ貨物に対応するため、施設の環境整備を図っていく。また一方で、市民や観光客が海の自然や文化とふれ合うことができる親水・交流空間の整備も進められている。


アクセス

[車]常磐自動車道いわき湯本I.C.より15分
[鉄道]JR泉駅より路線バス(江名行き、小名浜車庫行き、洋向台行き)、支所入口下車徒歩7分


時代ごとの産業トレンドを集積・発信する南東北の玄関口

地域の発展を担ってきた歴史

 東北地方の太平洋沿岸の南端に位置する福島県いわき市小名浜は、東京とも仙台とも200km圏内に位置する。地域を代表する産業を持つ街にとって、大きな消費が見込める都市に近いという条件は非常に有利だ。小名浜は古くから時代ごとの地場産業に恵まれ、小名浜港を輸送拠点として産物を各地へ供給することで発展してきた、名実ともに「みなとまち」といえる。
 江戸時代には磐城各藩の納付米がこの港から江戸へ向けて積み出された。明治時代には、北茨城にまで広がる常磐炭鉱から採れる石炭の海上輸送拠点となる。さらに時代を下り主要エネルギーが石炭から石油に代わると、小名浜港は石油の備蓄・供給基地となり、背後には臨海工業地帯が形成された。
 一方、小名浜は漁業の街としても栄えてきた歴史を持つ。福島県沖は黒潮と親潮がぶつかる恵まれた漁場で、小名浜港は北洋サケ・マス漁の拠点であった。
 商港として漁港として、地域経済を大きく潤してきただけに、小名浜の住民は、港に対してひときわ強い思いを寄せてきた。昭和に入ると商港修築工事が行われたが、1929(昭和4)年、第1期工事が着工された矢先に、政府の緊縮財政方針により、計画が中止になりかけた。すると217名の小名浜町民が集結し、全員が白いたすき掛けのいでたちで内務省へ陳情。その結果、削減された予算が復活し、修築工事は当初の予定通り行われた。このときの町民の組織は「白だすき隊」と呼ばれ、地元で功績が語り継がれている。その後、1951(昭和26)年に港湾法による重要港湾に指定、1956(昭和31)年には関税法における開港指定を受け、国際貿易港となった小名浜港の発展は、港に育まれた地域住民その人々が勝ち取ったものといえる。

小名浜港の全景。ふ頭ごとにそれぞれ機能や用途を特化している

[写真左]明治中期の小名浜港石炭積出桟橋
[写真中]大正7年には東京・塩釜間の避難港として漁港修築工事が行われた
[写真右]修築工事予算の削減に反対陳情するために結成された「白だすき隊」

いまふたたび隆盛の兆しが

福島県小名浜港湾 建設事務所 企画調査グループ 矢吹敏雄主任主査

 船舶の大型化への対応が遅れ、後背地の企業が移転したことなどにより、小名浜港はかつての勢いを失った時期があるが、開港50周年を迎えた現在、往時に比肩する隆盛の兆しが見えている。
 ここ数年、総取扱貨物量は増加傾向にあり、昨年には過去最高の1,603万tを記録した。この要因として、2004(平成16)年4月に大型船舶に対応する5号・6号ふ頭の全面供用がスタートし、近隣の火力発電所の燃料供給基地として石炭取扱貨物量が伸びたことが挙げられる。世界的な原油高も石炭の需要増に大きく影響した。
 5号・6号ふ頭は、水深−12mの岸壁と−14mの岸壁を備え、前者は耐震強化岸壁で、大規模災害時の輸送拠点としての機能を有している。
 また、上海・釜山間等との外貿や東京・横浜でのトランシップ(貨物を積み替えて外国へ輸送すること)を行う内航フィーダーによるコンテナ取扱いも堅調だ。なかでもスウェーデンからの製材の輸入量の伸びは特徴的で、今後についても見通しは明るい。福島県小名浜港湾建設事務所企画調査グループの矢吹敏雄主任主査に話を聞いた。
 「近年、日本でスウェーデン住宅の需要が高まっており、小名浜港はその製材の輸入拠点になっています。そして今年、JETRO(日本貿易振興機構)が小名浜とスウェーデンのイェブレ市とのLL(ローカル・トゥ・ローカル)事業を採択。本港に陸揚げ後、組み立てやすい加工方法を共同で考案しコスト削減につなげるなど、一層の輸入拡大に取り組んでいきます」
 時代ごとにニーズの高い商材を取り扱ってきた小名浜港に、また新たな可能性が生まれたのである。

[写真左から1枚目]1号・2号ふ頭は親水空間や観光拠点として利用されている
[写真左から2枚目]3号ふ頭では主に石灰石や工業塩を取り扱う
[写真左から3枚目]4号ふ頭では主にセメントや石膏、化学品を取り扱う
[写真左から4枚目]5号・6号ふ頭の大水深岸壁は大型船係留や大規模災害時の緊急物資などの輸送拠点となる

[写真左]石炭やスクラップ、金属鉱、石油製品を取り扱う7号ふ頭
[写真中]コンテナ貨物を取り扱う大剣ふ頭
[写真右]期待のスウェーデン製材は、専用の作業倉庫が設けられた藤原ふ頭へ陸揚げされる