PORT REPORT 新みなとまち紀行

PORT REPORT 新みなとまち紀行

Cover Issue  館山市は南房総を代表する景勝地。海水浴や花摘み、いちご狩りなど、豊かな自然を活かした季節ごとのレジャーを目当てに、年間約155万人の観光客が訪れる。東京湾口に位置する館山湾は「鏡ヶ浦」の別名を持ち、首都圏屈指の絶景として知られる。そしていま、この地では近隣の市町も含めた地域振興に取り組んでおり、その中枢に位置づけられているのが館山港を中心とした海辺の交流空間の創出。地域の活性化を主目的としたみなとまちづくりに、注目が集まっている。


館山港の歩み  房総半島の南端に位置する安房地方は、三方を海に囲まれ、北側は丘陵地帯で隔てられているため、明治時代まで地域外との交通運輸は主として海上交通に頼っていた。館山港は、この地方を代表する天然の良港であった。
 明治時代に入ると汽船会社が操業し、館山港の海運はますます栄えたが、1919(大正8)年に鉄道が館山まで延伸されたことにより、東京〜館山航路の旅客数は5分の1以下に減少。ただし貨物輸送は衰えることなく、物流機能の拡充を図る港湾整備が進められてきた。1930(昭和5)年、館山海軍航空隊の開設に伴い、漁船や一般貨物船は一時的に締め出しを受けたが、戦後は軍の専用施設が一般に開放された。
 かつては飲食品や燃料、各種消費物資、飼肥料などの移入と鮮魚、生花、竹材などの移出が盛んであったが、昭和40年代以降は砂・砂利類の移出が主となっている。
 館山港は「千葉県地域防災計画」「港湾における大規模地震対策施設の整備構想」における緊急物資などの輸送拠点に定められており、2004(平成16)年に水深−5.5m・全長90mの耐震強化岸壁が完成した。一方、2000(平成12)年「特定地域振興重要港湾」に指定されたことにより、今後、観光・レクリエーション機能を中心とした整備を進めていく。


アクセス
[鉄道]JR館山駅より徒歩約20分
[車]東関東自動車道館山線「木更津南I.C.」
または「君津I.C.」より約70分
/東京湾アクアライン「木更津」より約70分


貴重な自然や海の姿が、人々を館山へいざなう

海辺そのものの魅力を活かす

 南房総地方の東京湾の玄関口にあたる館山湾の別名「鏡ヶ浦」は、対岸の富士山が鏡のように映りこむほど波が静かで平らな海面に由来する。  
 江戸時代、この地から徒歩で江戸へ辿り着くのに約4日間を要したのに対し、帆船なら約10時間で着いたことから、地域外との交通運輸は海上交通がメインであった。その後、明治・大正を通じて旅客船や貨物船が盛んに出入りし、館山港は大いににぎわった。
 しかし、鉄道や幹線道路の拡充に伴って、主要なアクセスルートは陸上交通へ移行。現在、館山を訪れる観光客の約7割が自動車を利用している。

千葉県県土整備部 港湾課 港湾整備室 小谷竜一 副主幹

 とはいえ、首都圏においては貴重といえるほど美しい海に恵まれた地勢が、館山の財産であることに変わりはない。
 2000(平成12)年5月、館山港は観光・レクリエーション分野の振興を図る港湾として、「特定地域振興重要港湾」に選定された。これを受けて、国・県・市の三者共同で「館山港港湾振興ビジョン」が策定され、多彩な海の観光・レクリエーション活動や憩いと交流・環境教育の場を提供する拠点の形成を目指し、海辺のまちづくりが進められている。
 千葉県県土整備部港湾課港湾整備室の小谷竜一副主幹は次のように語る。
 「観光振興といっても、大規模なアミューズメント施設を作り、それが集客の目玉になる時代ではありません。館山の場合、裸足で歩ける海岸やさまざまな自然体験の場を設けるなど、海辺の景観や自然環境そのものを活かすことこそが、魅力あるまちづくりにつながると考えます」。

[写真左]館山港を見渡す
[写真中]館山港は砂・砂利の移出拠点として利用されている
[写真右]館山港の落陽は「日本の夕陽百景」に選ばれた

海から街へのアプローチ

 館山は温暖な気候のため、冬でも楽しめる花摘みやいちご狩りなど、自然の恩恵にあずかった観光資源で知られている。もちろんマリンスポーツ、新鮮な海の幸は一年を通じて楽しめる。
 経済効果や利便性が優先された都市開発は、確かにわたしたちの暮らしを豊かにしたが、一方で自然に親しむ機会から隔てることとなった。そのようななかで、東京湾岸の千葉県側で美しい砂浜を残す南房総は、都心からもアクセスしやすい憩いのエリアである。
 JR館山駅から西側に降り立てば、館山湾は目と鼻の先だ。海をたっぷりと楽しんだ余韻を残したまま帰路につくこともできる。
 しかし、海辺の街として、より多くの人々に親しまれるためには、海上アクセスの拡充も必要だ。海から街へのアプローチとしては、現在、館山港へ発着する定期旅客船はなく、神奈川県の久里浜から富津市の浜金谷へフェリーが着き、そこから陸路でのアクセスとなる。館山のまちづくりにおいて、館山港への旅客船誘致は重要な位置を占めており、そのために港湾施設を拡充する計画が進行中である。湾内に停泊することの多い大型客船や帆船の着岸、定期旅客船の就航を実現するとともに、桟橋基部には自然の海を活かした集客施設やイベント広場などを設け、にぎわいを創出することを目指している。
 計画の概略は、沖へ約400mの道路桟橋を延ばし、その先端に全長240m、水深−7.5mの係留桟橋を配置するというもの。係留桟橋は潮流に影響の出ない構造を採用し、あくまで自然の海を守ることを前提としている。
 このような港湾整備に、海岸環境整備と都市計画道路を加えた3つの事業を通じて、館山は周辺の市町を含めた南房総全体の振興を牽引する中核拠点を目指す。

[写真左]南欧風にデザインされた館山駅
[写真中左]館山駅からすぐ目の前で海を臨める
[写真中右]多目的観光桟橋イメージ

館山市港湾観光部 海辺のまちづくり推進課 推進グループ 上野 学 主幹

超高速ジェット船の臨時運航で館山港に新たな可能性
 本年2月10日から3月14日まで館山〜伊豆大島〜下田間、3月15日から3月31日まで東京〜館山〜大島間で超高速ジェット船の臨時運航を行いました。前者の航路に乗船された方は3,132人。後者は昨年につづいての実施となりましたが乗船者数7,029人と、昨年を約400人上回る結果となりました。
 館山〜大島航路の乗船客の居住地分析によると、館山市を含む安房地域が46%、君津地域が18%、外房地域が12%、長生・山武地域から7%、県北地域から7%の利用がありました。館山〜大島間が約50分というスピードで、これまで「近くて遠い島」だった大島のイメージが一変され、県全体に及ぶ関心を集める結果につながったようです。
 こうした実績を受けてさらに定着化を図り、館山の振興に寄与できればと考えています(談)。