PORT REPORT 新みなとまち紀行

PORT REPORT 新みなとまち紀行

Cover Issue  大陸や九州から本州西端の玄関口として発展してきた下関港。江戸時代は北前船により諸国の物産が集散、明治期以降は国内有数の貿易港として歴史を重ね、1995(平成7)年には日本の港湾で唯一、年中無休の通関が可能となった。そして日本と東アジア諸国との関係発展に注目が高まる現在、下関港は人・物・情報の集積基地として、機能のさらなる高度化に取り組んでいる。


下関港の歩み 下関港は関門海峡を挟んで九州に近接し、大陸に最も近いという位置条件を活かし、早くから海陸交通の要衝として発展してきた。
 明治時代には、関門・関釜両連絡船の基地が置かれるとともに大陸や台湾などとの貿易港になり、港湾諸施設も整備拡充。1899(明治32)年に関税法にもとづき第一種港湾として開港された。
 太平洋戦争後は大陸貿易が途絶え、関門トンネルの開通などから連絡港としての性格は薄まったが、1970(昭和45)年に再開された下関と釜山を結ぶフェリー航路は日本初の国際定期航路として注目を集めた。1983(昭和58)年から毎日運航となり、以降も下関港国際ターミナルの開設や新造船などにより関釜航路は活性化をつづける。1980(昭和55)年に始まった中国・青島フェリー航路も1998(平成10)年から定期化し、現在では週3便に増便。2005(平成17)年からは中国・上海フェリー航路開設。日本最大の国際フェリー基地としての基盤を強固にしている。
 こうした国際航路の機能は本港地区に集積。下関港唯一のコンテナターミナルである岬之町地区、工業地帯に近接する西山・荒田・福浦地区と長府地区、東港地区では関門海峡の景観とアクセスを活かしたウォーターフロントとしての整備を推進。そして、国際的運輸・物流基地、海洋産業基地、技術・文化・レクリェーションなどの交流基地として、新港地区に沖合人工島の整備が進められている。


アクセス
[ 空路 ] 山口宇部空港からシャトルバス約75分
[ 鉄道 ] JR下関駅から徒歩7分で本港下関国際ターミナル、岬之町地区・東港地区へバスで約5分
[ 車 ] 下関I.C.から各地区へ約10〜15分
[ 海路 ] 小倉・門司(福岡県)、松山(愛媛県)間に定期船運航


「海峡の街」の特性を活かしたウォーターフロント整備

関門橋を臨む「あるかぽーと」エリア

カモンワーフの飲食店や生鮮加工品・土産物店に大勢の客が足を運ぶ。

市街から水際へ広がる賑わい

 下関港の瀬戸内海側は、同港のなかで特に人々の往来・滞留が活発なエリアだ。JR下関駅に近接し「下関港国際ターミナル」を擁する本港地区では市民や市内散策へ出かける観光客に加え、日本の家電製品・化粧品等と韓国の食品・衣類等の“個人貿易”を商う「ぽったりさん」と呼ばれる韓国人女性の姿が見られる。彼女たちのなかには毎日フェリーで往来して1日の半分を船上で過ごし、残り半日を下関か釜山での商売に当てる人も少なくない。下関ならではの草の根的日韓経済交流だ。

 東港地区には門司港との連絡船が発着し、また唐戸桟橋は宮本武蔵と佐々木小次郎の決戦で有名な巌流島への周遊船が運航する観光スポット。一帯にボードウォークが設けられ、ヤシの樹が連なる「あるかぽーと」エリアでは、文化、教育、観光、商業、流通、イベントなどの様々な機能を集約し、下関らしさを活かしたウォーターフロントの創造を目指す「海峡まるごとテーマパーク」をコンセプトとした整備が展開されている。

 昔から市民の台所を支えてきた魚市場をベースに、観光客にも下関の食文化を伝えるべくスケールアップした新しい「唐戸市場」が
2001(平成13)年4月にオープン。さらにはレストランゾーンやショッピングゾーンを備えた「カモンワーフ」も2002(平成14)年4月に開設された。山陽の穏やかな気候風土と新鮮な海の幸が楽しめる賑わいと安らぎの空間として、大勢の市民や観光客が足を運ぶ。また、国際的な交流の拠点として5万t級の外航旅客船に対応すべく整備された「あるかぽーと岸壁」は、大型船のクルージングや、客船、帆船の一般公開にも利用されている。

 下関市では東港地区の活性化の一環として、対岸の北九州市「門司港レトロ地区」とタイアップを図り、両地区を往来するウォーキングイベントなどを実施。地勢を活かした試みが、両市にまたがって定着している。

唐戸市場は一般の観光客も気軽に入場できる。

新鮮な海の幸が集まる唐戸市場

高さ143mの海峡ゆめタワーの展望室からは、瀬戸内海、関門海峡、日本海、九州までを一望できる。

「リトル釜山」の知名度向上をめざして

JR下関駅前からは、約800mの「グリーンモール商店街」がつづく。ここは一般商店とともに、韓国の人々が営む食料品やチマチョゴリの店、焼肉店などが並び、ちょっとした異国気分が味わえる通りだ。商店街の自治繁栄会の代表、中野忠さんに話を聞いた。

 「毎年11月23日に『リトル釜山フェスタ』というイベントを開催しています。第一ステージでは韓国の伝統芸能やテコンドーなど、第二ステージではジャズバンドのライブを実施。商店街も賑わいます。年1回の開催ですが、市の支援もあり地道に続けて徐々に知名度を上げて行ければと考えています」(談)。

グリーンモール商店街自治繁栄会 代表 中野 忠 氏

リピーターを獲得する水族館

 下関市立しものせき水族館「海響館(かいきょうかん)」は延べ床面積12,300㎡、1階から4階まで関門海峡の海の自然を目の当たりにできる。2001(平成13)年にオープンしたこの施設が、ウォーターフロント整備「あるかぽーと」計画の第一弾。現在に至るまで九州北部を含む近隣地域の話題を呼び、順調に客足を伸ばしている。

 全長26m、世界に数体しか存在しない最大級のシロナガスクジラの骨格標本をはじめ、下関のシンボルであるフグの仲間を集めたコーナー、約900tものスケールで展開される関門海峡潮流水槽など、他では見ることのできない展示が目白押し。また、イルカやアシカなどのショーも充実しており、大人から子どもまで十分に楽しめる施設だ。

 また、海響館の1階スペースの大部分が無料開放されており、下関水産大学の協力によるオープンラボやキッズコーナーが設けられている。さらに、フグ・ウニ・クジラなど、下関の漁業史が学べる展示コーナーも。地元の子どもたちへの教育を目的としたサービスが奏功し、リピート客の獲得という成果を上げている。下関市観光施設課の前田邦博主任は次のように語る。

 「海響館の屋根部分は特殊な建築様式を採用しており、外観デザインはグッドデザイン賞を受賞しました。関門海峡の景観との調和に配慮したデザインになっています。展示内容については、下関や関門海峡の海域ならではの特徴を出すよう心がけ、特にイルカのパフォーマンスは水準の高いものをお見せできるよう努めています。ドラマ仕立てになっているうえ、一度来館されたお客様にまた足を運んでいただけるよう定期的に演目を変えています。おかげさまで市民の皆様はもちろん広島や福岡、大分、熊本などの地域からもお客様がお越しくださり、市外からのお客様は全体の95%に上っています」。

下関市観光産業部 観光施設課 前田 邦博 主任

下関のシンボル「フグ」のコーナーでは世界中から50種類のフグが紹介されている。

海響館の前身は、1956(昭和31)年、長府地区に開設され、当時東洋一の規模を誇った下関市立水族館。老朽化したこの施設を市民の要望を受けてリニューアルするにあたり、あるかぽーと計画の“起爆剤”として現在の施設が開設された。