ポート エコロジー port ecology

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 海洋で生息する生物によって吸収される二酸化炭素(CO)「ブルーカーボン」が、注目を集めはじめている。昨年10月に国連環境計画(UNEP)が発表した報告書によると、地球上の生物によって吸収されるCOのうち、約55%がアマモやヨシなどの藻場や、干潟、マングローブが吸収するブルーカーボンによるものだという。現政権は温室効果ガスの90年比25%削減を打ち出しており、ブルーカーボンを今後上手に活用できれば温室効果ガス削減の切り札にもなる可能性もある。ブルーカーボンとはどのようなものか、まとめてみた。

◆生物が固定するCO量の55%◆

 ブルーカーボンは、環境問題に関する国連の機関である国連環境計画(UNEP)が新たに命名したものだ。森林によって吸収されるCO「グリーンカーボン」に対し、海洋の生物によって吸収されるCOを指す。
 UNEPの報告書によると、全世界から1年間に排出されるCO量72億トン(2000〜2005年の平均値)のうち、海洋全体で吸収される量は22億トンある。これにはCOが海水に溶け込む量に加え、海洋生物に吸収される量(ブルーカーボン)も含まれている。ブルーカーボンのCO固定化量は、森林をはじめとする陸上の生物が固定化する年間CO量(9億トン)の約55%相当の量と言われている(図−1)。
 陸上の植物によって吸収されるCOは世界的に認知され、排出権取引の対象にもなっている。ブルーカーボンによるオフセット効果が今後認められれば、四方を海に囲まれている日本にとって、大きな経済効果をもたらす可能性が高い。
 ただ、ブルーカーボンを活用するには、そのメカニズムの解明と、複合的メリットを明確化しておく必要があるが、現段階では情報量が少なく、曖昧な点も多いのが現状だ。

◆枯死してもCOは固定される◆

 これまでブルーカーボンによるオフセット効果が認知されなかった最大の要因は、アマモやヨシなどの海草藻類や海辺の植物が生育してCOを吸収しても、枯れて死ぬときに再度分解してCOを排出し、ゼロになってしまうと考えられていたからだ(図−2)。UNEPは、これを一部が有機物として残って海底に泥のような形で固定されるため、ゼロにならないと指摘している。
 ブルーカーボンによるCO固定のメカニズムは、こうした海草藻類が吸収したCOが枯れて死んでも一部が固定されて、沿岸生態系の内部で蓄積される「系内埋没」と、アマモなどの海草藻類が流れ藻となり、外洋や深海などに沈降してCOを固定する「系外埋没」がある。さらに、新たに藻場や干潟を造成することで生物量が増え、COが固定されるという考え方もある。
 系内埋没によるCO固定量は最近の独立行政法人港湾空港技術研究所などの研究で1年間で1ha当たり0.2〜5トンC(炭素)程度あると言われる。一方、系外埋没は海草藻類などの外洋漂流や沈降の正確な数値が把握できていないが、系内埋設の2〜4倍は固定量があるという。
 藻場や干潟造成による固定とは、アサリなどの貝類や生物類が新たに生息することで炭素が固定されることを指す。これは、貝類の殻や肉体、植物体が炭素から構成されているため、海洋の生物が増えることも、広い意味でブルーカーボンに含まれるという考え方だ。
 人工干潟による環境共生型護岸の技術は、国交省関東地方整備局の横浜空港港湾技術調査事務所が「潮騒の渚」ですでに実用化している。この時の海洋生物の増加量をもとに、COの固定量を試算すると、1ha当たり0.2〜3.7トンC程度になるという。

◆日本はブルーカーボンの主要な貯蔵国◆

 ブルーカーボンについて、国土交通省や環境省は強い関心を寄せており、必要に応じて気象庁などとも連携し、今後政府全体として政策に取り組む体制を構築していくもようだ。独立行政法人港湾空港技術研究所も「沿岸生態系による炭素固定に関する研究」をすでに検討を進めており、財団法人港湾空間高度化環境研究センター(WAVE)も内部検討を開始し、専門家を交えた研究会の設置などを検討している。
 日本の海岸線延長は約35,000kmあり、国土面積当たりの海外線延長は先進国でも最大級。ブルーカーボンによるオフセット効果が認められれば、日本はブルーカーボンの主要な貯蔵国になる可能性がある。さらに、干潟や藻場の再生技術も保有しており、こうした技術を活用して新興国を支援できれば、ビジネスチャンスも広がりそうだ。

図−1排出された二酸化炭素の行方

図−2アマモ・ヨシCO固定量の変化(イメージ図)

財団法人港湾空間高度化環境研究センター第2調査研究部研究主幹諸星一信氏インタビュー
カーボンオフセットの対象の可能性大きい干潟造成なども含めた総合的な対策を

 「国連環境計画(UNEP)が昨年10月にブルーカーボンという新たな概念を発表したのは、12月にデンマーク・コペンハーゲンで開催された第15回気候変動枠組条約締約国会議(COP15)を意識してのことだ。ただ、COP15では議論されなかったが、いずれはブルーカーボンもCO削減の吸収源としてカウントされると見る学識者は多い。わが国も、その方向性をしっかりと認識した上で、今後対応していかなければならない」
 「ブルーカーボンについてはまだ情報量が少なく、明確な位置づけがされていないことも多い。ただし、アマモやヨシなどの海草藻類や海辺の植物が枯れて死んで、COの一部が固定された状態で生態系内に蓄積していく『系内埋没』は十分考えられることだ。海草藻類が深海などに流れ藻となって沈殿する『系外埋没』もあり得る話だ」
 「日本国内の藻場・干潟の面積はすでに計135,000haあると言われており、系内埋没による炭素固定量を独自に試算すると、年間10〜280万トンとなる。これは日本全体でのCO排出量(2005年で約13億トン)の約0.3%にあたる。系外埋没も含めて試算すると、約1.5%に相当する。この数値は決して無視できない値だ」
 「厳密に言えばブルーカーボンの定義から外れるかもしれないが、干潟や浅場の造成もCO吸収に大いに役立つと考えている。動物は呼吸によりCOを排出するが、それをCOの固定量から差し引いても吸収効果がある。干潟の造成などは海域環境の改善や水産振興、地域振興にもつながる」
 「グリーンカーボンに対する林業政策は、治水効果や水源涵養、自然環境の回復・創造などのさまざまな施策と併せて総合的に展開されている。ブルーカーボンも同様に、干潟や浅場の造成なども含めた総合的な対策を講じていく必要があると考えている」

諸星一信氏


(文・日刊建設工業新聞社)