若き海洋人たち

若き海洋人たち

大学の卒業研究で開発したヒト型遊泳ロボットを手にする青木将一さん


独立行政法人海上技術安全研究所 平田宏一研究室 研修生 青木 将一さん

 近年、さまざまな分野でロボットの実用化が進んでいます。いま、もっとも注力されている研究開発テーマのひとつが、人間や動物の自由で柔軟な動きの実現で、二足歩行ロボットがその一例。自然界の動きを模倣するために最先端の技術が投入されているのです。舞台を海中に移すと、めざすところは、やはり魚の動き。海洋探査や生体観測への実用をめざして魚ロボットの研究が進められています。

青木さんは水球や水泳を得意とするスポーツマンでもある


 法政大学大学院機械工学専攻の青木将一さんは、2006年から独立行政法人海上技術安全研究所の平田宏一研究室の研修生として、魚ロボットの研究に携わっています。
 同研究室では、1999年から大学の卒業論文や修士論文の作成にあたる理工系の学生を研修生として受け入れ、魚ロボットやスターリングエンジン、船舶バリアフリーなどの研究を進めています。青木さんは、卒業研究をおこなうために、昨年同研究室に参画。2年目の今年から、修士論文用の研究に入りました。
 「昨年は魚ロボットへの導入として、ヒト型遊泳ロボットの駆動メカニズムの研究をおこないました。水害救助や福祉などへの利用を前提として考えた場合、近代泳法のなかではもっとも実用性と実現性が高く、推進効率も優れているクロールのバタ足を基本に設計・試作を進めました」(青木さん)
 水中ロボットの研究開発は、海洋開発や海洋環境保全の分野で重要視されています。なかでも高速かつ高効率で泳ぐマグロ、加速性に優れ機敏に泳ぐマス、狭い隙間を自由に泳ぎ回るウツボなど多種多様な魚類の泳法をメカニズムに応用し、海中調査や生体観測に資する魚ロボットの開発が世界の注目を集めています。現在、米国や中国の大学などでも盛んに開発が進められているなか、同研究室では他国から参考にされるほどの実績を上げています。
 青木さんは幼いころから機械が好きで、とくにロボットに関心が高かったことから機械工学の道に進みましたが、卒業研究のテーマを選ぶにあたっては、もうひとつの彼の得意分野がきっかけとなりました。
 「子どものころから水泳が得意でした。スクールにも通っていましたし、海水浴で海にもずっと親しんできました。中学と高校では水球をやっていて、大学に入ってからも水泳部に所属。いま、魚ロボットを研究するうえで、泳ぎのメカニズムなどを解析していますが、選手時代に知っていたら競技に役立ったのにと思う内容もけっこうあります」
 彼の冷静で訥々とした語り口は、いかにも機械工学の学生然という印象。一方、がっしりとした肩幅と厚い胸板が、本格的な水泳経験をうかがわせます。ロボットと水泳・海、自分の関心や得意なことを組み合わせた研究に打ち込むことは、まさに本望といえるでしょう。
 彼は今年から取り組む修士研究で、胸びれと尾ひれの動きのバリエーションを組み合わせた3次元的な動きをする魚ロボットの開発に着手。従来の研究は、前進と上下または左右の2次元的な運動に限られていることが多く、彼の修士研究はそれをさらに発展させ、実物の魚さながらの機動性を持たせるものです。
 「基本的にはコンピュータ・プログラムを用いず、機構だけで動かします。昨年のヒト型ロボットの開発のときからそうだったのですが、陸上のロボット開発では発生しない負荷や抵抗を計算しなければならない点が難しい」  各年度ごとの研究成果が、次の研究のベースとなる形で進展していく同研究室の取り組み。青木さんの研究もまた、魚ロボットの実用化へ向けた重要な礎となることでしょう。


研究室を主宰する平田宏一先生(右)と研修生仲間である工学院大学4年生の北島宏一さん(左)とともに

動力にはモーターを用い、マイクロコンピュータで制御するタイプのモデル

エイの独特な泳法をモデルにした魚ロボット

魚の動きなどの解析にはコンピューターが用いられるが、モデルの試作はきわめてアナログの世界


独立行政法人 海上技術安全研究所
 2001(平成13)年発足。海難事故対策等の海上活動に関する安全確保、船舶からの海洋汚染、大気汚染等の環境問題対策、海事産業における熟練技能者減少に対する対策等、海事・海洋分野のさまざまなテーマに取り組む。
 また、これらの研究成果の社会還元を通じ、安心で安全な質の高い国民生活、環境と調和した社会の実現、海事産業の競争力強化に寄与するとともに、シーズ技術の研究開発を進め、未来を拓く技術の創造にも努めている。
 毎年4月と7月には、東京都三鷹市の本所で研究成果の一部を一般公開するほか、広報誌やインターネットのホームページを通じて、企業や研究者、生活者に対する情報発信をおこなっている。
●海上技術安全研究所ホームページ http://www.nmri.go.jp/