若き海洋人たち

若き海洋人たち

田村寿海さんは、今春、水産加工会社で社会人のキャリアをスタート


東京海洋大学 海洋科学部 食品生産科学科 田村 寿海(としみ)さん

『新緑』『薫風』という枕詞が似合う季節になりましたが、読者の皆さんの周囲でも“フレッシャーズ”の初々しさをふりまく期待のルーキーが頑張っていることでしょう。今回は、幼少から海に親しんだ経験が高じて、水産業界でキャリアをスタートした若者をご紹介します。

在学中はラグビー部で活躍。
「会社のラグビー部にも入るつもりです」(田村さん)


 JR品川駅から東京湾方面に向かって10分ほど歩くと、オフィス街の雰囲気が一変。ふ頭へつづく道路沿いに、都営住宅やマンション、個人商店などが並び、昼間は人通りもまばらで、駅周辺の喧騒から解放されたような気分を味わえます。
 そんなエリアの一角にあるのが、東京海洋大学の品川キャンパス。同学は、海洋資源から海上輸送、環境保全、海洋政策、海洋産業など、海の有効かつ持続可能な活用を総合的に研究する国立大学法人です。
 ここの学生たちは、いわば“海洋国”日本の将来を支える人材。この春も、大勢の期待のホープたちが社会へ羽ばたいていきました。
 今回、話を伺ったのは、海洋科学部食品生産科学科を卒業した田村寿海さん。名前からも海への縁が感じられます。今年3月、卒業を目前に控えた彼に、これまでの歩みと将来の展望を語ってもらいました。
 「幼いころから海に親しんできたのは、名前に『海』の字が入っていることからも察せられるでしょうが、海が好きな父の影響です。子どものころ、よく海に連れて行ってもらいました。出身が千葉市で、海に近かったこともあり、高校時代にも友人たちと海へ遊びに出かけたものです。と言っても、マリンスポーツをやるわけでもなく、遊び場として自然に海に行っていました(笑)」(田村さん)。
 彼は身近に海があることが当たり前な環境に育つとともに、「どちらかというと暗記は苦手で、ロジックに沿って考えるほうが得意」という理工系の資質を持っていたことから、東京海洋大学への進学を志しました。
 「父が本学の前身である東京水産大学の卒業生だったこともありますが、何より自分の適性に合っていると思いました」
 1〜2年生にかけては基礎的な生物学や物理学、数学などを学び、3年生で食品に関する専門科目を学ぶうち食品物性学に興味を持ち、これを専攻することになります。卒業研究では微生物由来の成分『ジェランガム』という物質のゲル化について取り組みました。食品に加えて寒天のような食感を与える成分で、ゼリー菓子などに使われるものです。
 そして、この春、大手水産食品メーカーへの就職が決定しました。
 「父は別の水産会社で長い間漁船に乗っており、いまはタンカーに乗っています。学校は同じですが、違う道に進もうという気持ちは、確かにあったと思います。入社後は商品開発に携われたらいいなと思っていますが、もしかしたら営業など他の部門に配属されるかもしれません。いずれにしても、この学校で学んだ経験を仕事に活かしていきたい」
 今後、時代が進むにつれ、国内・海外を問わず、食糧問題は次々と新しい局面を迎えることでしょう。世界でも屈指の水産国である日本が、独自に打ち出せる対策はあるはず。そうした期待を担う先進的なノウハウは、海に対してごく自然なスタンスで馴染んできた田村さんのような人材にこそ身に付くものなのでしょう。


田村さんが卒業研究に用いた測定機器。透明カバー内の高精度センサーが対象物の弾力性を測り、コンピュータで数値化される

物質の表面積を測る機器。一品一様のオーダーメードで作られる専用機器だ

田村さんの研究は、ジェランガムの分子に脂肪酸(アシル基)が多く結合した(高アシル化)ものと、少ない(低アシル化)ものを混合して水に溶かし、冷やして固めたとき、混合比率や冷却方法により、固さや粘りがどう変わるかを調べた


海の無限なる可能性を求めて
 2003(平成15)年、東京商船大学と東京水産大学が統合し「東京海洋大学」が誕生。四方を海に囲まれた海洋国・日本において、海を総合的・専門的に教育研究する一大拠点となることを目指している。
 海にまつわる問題を、水産学・農学・理学・工学・社会科学・人文科学の視点で教育・研究する海洋科学部、実践的な工学の知識・技術とリーダーシップを備えたエンジニアの育成を目指す海洋工学部を開設。その他、大学院海洋科学技術研究科、博士課程修了者を対象とした水産専攻科、乗船実習科を含め、多角的なアプローチによる人材育成が行われている。

東京海洋大学品川キャンパス

キャンパス内には、水産大学時代の実習船が保存されている