若き海洋人たち

若き海洋人たち

船舶工学科に学ぶ竹迫大地さんと、池上国広教授


長崎総合科学大学 工学部 船舶工学科 竹迫 大地(たけさこ だいち)さん

日本の基幹産業のひとつである造船業ですが、いま他の業界同様、優秀な人材の確保に苦戦しているといいます。四方を海に囲まれ、かつ、ものづくりを得意とする日本において、優秀な造船技術者の育成は重要なテーマ。ここにご紹介する彼のような有望な人材の登場に大きな期待が寄せられます。

卒業研究の完成に向けて意気盛んな竹迫さん


 「単純に船が好きだったということです。鹿児島県の出身で、海の近くに生まれ育ちましたし、漁師をやっていた伯父に、小さい頃からよく船に乗せてもらっていました」
 長崎総合科学大学工学部の船舶工学科4年生、竹迫大地さんは同校を選んだ理由について上記のように振り返りました。
 同校の前身は長崎造船大学で、現在、日本で唯一船舶工学科が置かれています。各地から造船を志す学生が集まっており、卒業生は全員造船会社へ就職。竹迫さんも大分県の造船会社へ設計者として勤務することが決まっています。
 「高校時代から理系の科目が得意でした。大学の授業はやはり船に特化した内容ですが、ある程度物理の知識があれば、スムーズに馴染めます。3年生までに学んだ材料工学や構造力学、流体力学などは、とても勉強になりました」(竹迫さん)
 現在、彼は池上国広教授のゼミで卒業研究に取り組んでいます。テーマは「トレーラー式多連結バージシステム」という、複数のバージ(はしけ・荷船)を専用の装置で連結し、曳船で航行するという新しい形式。様々な貨物を積載して、複数の港を巡航しながらそれぞれの港に必要なバージだけを分配・回収することで、物流の効率化や停泊時間の短縮による排出ガスの削減を実現するものです。
 竹迫さんは、30分の1の模型を利用して海面などの条件によって船体にかかる荷重や抵抗などのデータを計測し、安定的な航行を行うための対策を研究しています。
 「研究はすでに大詰めを迎えています。一番大変だったのは、波の立った海面でのシミュレーション。船の速度が上がるほど船体にかかる負荷も大きくなり、航行に影響します。その対策を考えるのに苦労しました。最終的には船底にひれ状のダンバーを装着して抵抗を抑えることで解決できました」(竹迫さん)
 彼は卒業後の進路について、大学院へ進んで研究者の道を歩むことも視野に入れていましたが、大学で勉強したことを実社会に活かすべく就職することに。指導担当の池上教授は竹迫さんに大きな期待を寄せています。
 「彼は大学院へ進むにも十分な能力を持っています。テーマを徹底的に追求する学究肌ですね。私としても彼に大学院で学ばせたいという気持ちがありましたから、少々惜しいんですけどね(笑)。でも就職先の会社も優秀な人材を確保できたと喜んでいます」(池上教授)
 池上教授は大手造船会社勤務を経て現職に。多くの海洋構造物の研究開発を手がけ、日本造船学会海洋工学委員会委員長も務める、日本の海洋工学の第一人者です。実は若干研究者への道にも未練があるという竹迫さんですが、将来は池上教授のようなキャリアを歩む可能性も。志高き若者の前には、まさに大海のような夢が広がっています。


多連結バージシステムのシミュレーションに用いられる1/30モデル

船体模型にかかる負荷のデータをきめ細かく計測。

長崎総合科学大学グリーンヒルキャンパスからは橘湾の美しい景色が見下ろせる


日本で唯一の船舶工学科
 長崎総合科学大学には日本で唯一の船舶工学科が置かれ、造船技術者や海洋を仕事場とする技術者を育成することを教育理念とし、造船技術コースと海洋フロンティアコースを開設している。
 造船技術コースは、今後も日本を支えつづける造船業界の発展に寄与すべく、動機づけ教育から基礎・専門知識の習得を通じて、創意工夫、実践力に富んだ技術者の育成をめざしている。
 海洋フロンティアコースは、21世紀のテーマである環境や福祉を重視し、海から学び、海と親しむ心を育み、海から新しいものを生み出す開拓者となる人材の養成をめざしている。
 かつて「就職氷河期」と言われていたころにも同学科では高い就職率を誇ってきた。このような同学科の実績に造船業界が寄せる期待は、今後ますます高まることが予想される。

長崎総合科学大学のグリーンヒルキャンパス