若き海洋人たち

若き海洋人たち

この春、第三管区海上保安本部の巡視船「しきね」の通信科に配属になった櫛山信之さん。


第三管区海上保安本部 横浜海上保安部 通信科 櫛山信之さん

“海の警察”海上保安官を主役に据えたテレビドラマが人気を集めています。日本に住むわたしたちにとって海の安全、そして危険が、非常に身近なテーマであることの表れといえるでしょう。海上の治安を維持することに日夜心血を注ぐ、若き海上保安官に、ドラマとは違った角度から迫りました。

体格や表情、態度も精悍さを感じさせる。


 「この職業を志したのは高校3年生のころ。工作船の大きな事件が起こり、ニュースで海上保安庁の活躍を知って、感動しました」

 今春、横浜の第三管区海上保安本部に配属された新人職員の櫛山信之さんのコメントです。宮崎県出身で、幼いころから海に親しんできた彼にとって、平成13年の九州南西海域工作船の事件は、海上保安官に対する憧れを募らせるのに十分なインパクトを持っていたようです。

 パソコンやITに関心の高かった櫛山さんは、高校卒業後、海上保安学校の情報システム課程に学び、現在、巡視船「しきね」の乗組員として、陸上機関や海難船との通信業務に携わっています。

 夢をかなえた彼の、実際に仕事に就いての感想は「……疲れますね」と苦笑まじり。やはりハードな仕事なのだろうと詳しく尋ねると、無理もないと思わせられる勤務状況でした。1週間から10日間に及ぶ航海中は、いうまでもなく船内にカンヅメとなり、4時間勤務の3交代制で、1日にならすと8時間勤務になるシフト。勤務中は常に緊張を強いられ、勤務時間外もまとまった睡眠が取りづらく、ただでさえ体力の消耗が激しい環境です。まだ勤務歴の浅い櫛山さんは、船の揺れや機関室の音が熟睡の妨げとなり、疲れが取れにくいとのこと。そのうえ、彼には少々ハンデがありました。

 「恥ずかしながら自分は船酔いするので(笑)」(櫛山さん)

 巡視船の乗組員は、いざ有事となると、全員が救助活動や不審者の取り押さえに乗り出せるよう、陸に上がっている期間は、搭載船の操船や逮捕術などの訓練を行います。船内という閉塞的で不安定な空間から解放されても、ほっと一息というわけにはいきません。

 休みも不定期とあって、空手初段・体力派の櫛山さんでも、さすがにグロッキーに。しかし、休日の過ごし方を尋ねると、買い物や映画、友人との酒席に続いて「トレーニング」との答えが返ってきました。

 「自分はまだまだ巡視船の仕事に未熟です。経験を重ねながら、警備に必要なあらゆる能力を向上させることが当面の目標です。海上保安官としてのビジョンは、その目標をクリアしたうえで考えて行きたい。いまは頑張るだけです」(櫛山さん)

 こうしたモチベーションを支えるのは、高校時代に体験した感動と、実際の仕事を通じて培った使命感なのでしょう。

 いま、人気を集めるテレビドラマや映画などの影響で海上保安官が脚光を浴びており、今後、この仕事を志す若者が増え、優秀な若者たちが夢をかなえてくれれば、わたしたちも心強い限り。しかし一方で、ドラマだけではなく、同じテレビから流れてくる不審船や海難事故などのニュースにももっと意識を向けながら、櫛山さんのような海上保安官の現実の激務に思いを巡らせることも、守られる側のわたしたちがとるべき態度では。そんなことをあらためて考えさせられました。


第三管区海上保安本部の所属船「しきね」は、PL型(1,000トン型)の巡視船。海上紛争やデモなどに対する警備技術に特化した「警備実施等強化指定船」として、乗組員は警備業務に要する能力を高めるための訓練・研修を行う。

「しきね」の乗組員は航海科、機関科、通信科、主計科に分かれている。ちなみに主計科とは、航海中の食事の用意が担当業務。航海を終え、陸に上がると、乗組員全員が万一の事態に備え、逮捕術などの訓練を受け、次の航海へ向かう。


第三管区海上保安本部

東京湾を中心に東は茨城・福島県境まで、西は静岡・愛知県境まで、南は沖ノ鳥島海域までを担任水域とし、海上の治安の維持と交通の安全確保、海難の救助、国際協力、海上防災・海洋環境の保全、マリンレジャーへの対応、海洋の調査と情報提供、環境保全・海上災害の防止を目的に活動している。1,635名の職員が在籍し、船艇75隻と航空機11機を保有。

横浜海上防災基地