東日本大震災 復旧・復興だより

東日本大震災 復旧・復興だより

 太平洋沿岸地域に甚大な被害をもたらした東日本大震災が発生して2年が経過した。震災直後、壊滅的な被害を受けた各港湾施設もこの2年間で、9割の岸壁が利用可能となった。復旧した岸壁には震災前と同様に、多くの船舶が着岸する。被災地の産業復興に併せ、猛スピードで復旧工事が進む被災港湾の現状について、国土交通省東北地方整備局の梶原康之副局長に聞いた。

国土交通省 東北地方整備局 梶原 康之 副局長

早期の状況把握と手配で資材不足に対応

港湾機能の回復に企業活動も連動

被災港湾の復旧状況は。
 東日本大震災では、東北・関東の太平洋沿岸域の港湾施設が甚大な被害を受けた。東北地方整備局では、その被災した八戸港(青森県)から小名浜港(福島県)までの主要港湾に立地(あるいは港を利用)している企業104社について、活動状況を定期的に調査している。その調査結果をみると、港湾機能の回復に連動して港湾利用企業の活動も正常化している。
具体的には岸壁や企業の活動状況は。
 被災した主要港湾299岸壁(水深4.5m以上)のうち、震災後半年後の一昨年9月時点で約6割の岸壁が暫定も含め、利用可能になっている。港湾利用企業も4分の3の企業が仮復旧を終え、半数以上の企業が全復旧している。震災後1年後の昨年3月時点では、86%の岸壁が利用可能になり、港湾利用企業も86%が仮復旧、64%が全復旧している。現時点でみると、岸壁が9割弱、企業の全復旧も約9割となっている。昨年に入って岸壁の割合が余り伸びていないのは、暫定的な供用を行い、本復旧工事を進めているためで、完全復旧には多少時間がかかっている。
岸壁の復旧が早期にできた要因は。
 いろんな理由が考えられるが、まずは施工業者である建設会社が頑張ってくれたことだ。作業員不足、資機材不足などの困難な状況もあったが、受・発注者の連携がうまくできた。被災地域の方々も復旧工事に理解を示していただいた。各被災港湾ごとに行政担当者、民間事業者らで構成する協議会を設け、復旧工事の優先順位などを決めた。こうした港湾利用者の意見を聞きながら復旧工事を進めたので、被災企業の物流活動の足を引っ張ることなく、復旧工事ができた。

今年度上期には本格復旧がほぼ終了

国の直轄で実施している港湾工事の復旧の状況は。
 国の直轄施設は水深があり、比較的大きな42岸壁を担当しているが、2012年度末で完全復旧するのは23岸壁にとどまる。ただ、2013年度上半期にはほぼ本格復旧を終えるだろう。被災した港湾の中でも、被災状況は異なっている。例えば仙台塩釜港から北側の港は津波による被害だが、南側の相馬港や小名浜港は地震動による被害が大きい。いわゆる液状化や岸壁のはらみ出しの被害だ。こうした地震動による被害の大きい港湾は多少時間がかかっている。
今後の復旧工事はどうなるのか。
 2011年度および2012年度の予算で港湾の災害復旧費として約1,330億円が計上された。このうち、契約ベースでいくと、すでに9割の工事が契約済みで、1割が2013年度に繰り越される予定だ。一部の港湾施設を除き、震災後2年程度で本格復旧させる目標を掲げていたが、若干の遅れはあるものの、ほぼ機能的には目標を達成できているのではないか。大規模な施設となる釜石港、大船渡港の湾口防波堤、相馬港の沖防波堤なども震災後5年程度の復旧に向け、鋭意工事を進めている。
資材不足など復旧工事では課題もあったのではないか
 海上工事は気象や波浪など自然条件によって工事が左右されるため、できるだけ前倒しでさまざまな対策を検討した。生コンクリート不足では、コンクリートミキサー船の導入を早期に決断し、宮古港には現在も2隻のミキサー船を配置している。釜石港の湾口防波堤は、大量の生コンが必要なため、地元の生コン組合と協議し、防波堤専用の生コンプラントを設置した。石材なども全国の供給量を調べ、その調査結果をもとに受注業者が不足分を遠くは今治(愛媛県)や小豆島(香川県)、北海道などから調達している。早期の状況把握や早期の手当、そうした先手、先手の対応がうまく機能した。

膨大な工事量を重大災害ゼロで邁進

そのほかで特徴的なことは。
 工事面で強調したいことがある。これだけの工事量を進めながら、重大災害がこれまでゼロということだ。重大事故が発生すれば、工事が中断する。それだけは絶対避けたいと考えた。『無理と手抜きが事故のもと』というスローガンを掲げ、忠実に基本を守り、施工業者に無理をさせないような形で工事を進めていこうと職員には声をかけてきた。また、当庁舎内には全工事の件名と施工業者を張り出し、事故の有無で印を付けた。施工業者も事故防止に細心の注意を払ってくれたと思う。ただ、今後は潜水士が行う作業も増えてくるので、引き続き安全第一で工事を進めていくつもりだ。

被災メカニズムを分析し、粘り強い構造へ

復旧工事では「粘り強い」構造も採用した
 八戸港の北防波堤などで粘り強い構造の検討を進め、設計がほぼ固まりつつある。北防波堤の被災メカニズムを分析すると、津波によって防波堤で仕切られた港外側と港内側に大きな水位差が生じ、港外・内での静水圧の差でケーソン(防波堤)が押し出されるケースと、津波が防波堤を越流し、港内側の基礎マウンドが洗掘されてケーソンが動いたケースの二つになる。
 このため、水位差への対策として、ケーソンの下に摩擦増大マット(アスファルトやゴム製のマット)を設置する。新たに摩擦増大マットが設置できないものには防波堤の背後に腹付け工を置き、防波堤全体の重量を重くする。越流による洗掘対策では上部工をパラペット型にし、津波の水流を変える。さらにケーソンを置くマウンドが洗掘されないように被覆ブロックを設置する。これらの対策を組み合せて粘り強い構造にしていくつもりだ。腹付け工には民間企業が開発した腹付けブロック(サブプレオフレーム)の効果もすでに実験で確認しており、採用する。

新たな東北の港湾ビジョン作成へ

4月から「災害時建設業事業継続力認定制度」をスタートさせた。
 東日本大震災時に被災した港湾の啓開作業を実施してくれたのは建設会社だ。そうした建設会社のおかげで早期に応急復旧ができた。事業継続計画(BCP)を整備し、災害時でも応急復旧活動などに対応できる建設会社を適正に評価しようというのが今回の認定制度だ。同制度に認定された建設会社は、総合評価方式の「地域精通度・貢献度」で加点し、インセンティブを与える。
今後の東北の港湾はどうなるのか。
 今年2月に「東北港湾ビジョン有識者委員会」を設置し、今後の東北の各港湾のあり方について検討を開始した。現行ビジョン「みちのく港の将来像」が作成後10年以上が経過したこと、産業のグローバル化が進んだこと、東日本大震災で各港湾が甚大な被害を受けたことなどを踏まえ、中長期的な視点で東北の港湾の将来像を示していきたい。
 委員会では、港湾施設の老朽化や船舶の大型化への対応、国際コンテナ戦略港湾や国際バルク戦略港湾との機能分担、エネルギー政策と港湾施設のあり方、リサイクルポート、クルーズ船の寄港なども含めた観光戦略、災害時の代替機能などが議論のテーマになるだろう。
 東北が持つ特徴を十分に把握した上で、港湾がどのような役割を担えるのか、さらには各港湾ごとに役割をどう分担していくのか、そうした視点で1年程度かけて、東北の港湾の将来ビジョンを検討していきたい。被災者の方々が活き活きと働ける場が確保されてこそ、本当の意味での復興と言える。港湾も物流という側面からその一翼を担っていきたい。

国土交通省資料 港湾機能の回復と企業の復旧

宮古港で上部工に生コンを打設するミキサー船