うみの現場見学会

 日本埋立浚渫協会は、第26回「うみの現場見学会」を2月13日に東京港の臨港道路南北線沈埋トンネルで開きました。東京理科大学、芝浦工業大学、東海大学で土木工学を学ぶ学生ら31人を招き、建設中の大規模海底トンネル内を案内。会員各社が取り組む海洋工事の意義や役割、仕事の魅力をアピールしました。参加した学生にとっては、今後の学生生活や就職活動の参考となる貴重な経験になったようです。

貫通したトンネルを歩いて通り抜ける

 東京港の中央防波堤地区と有明・青海地区とを結ぶ南北のアクセスは現在、青海縦貫線だけで、コンテナ車両などの集中により、激しい交通渋滞が慢性化しています。幹線道路の渋滞緩和や新しい物流ルートの確保を目指すために国土交通省関東地方整備局が計画したのが臨港道路南北線です。
 延長5.7kmの路線のうち、有明の10号地その2地区と中央防波堤内側地区を海底トンネル(延長930m)で結びます。片側2車線で中央部に歩行者と自転車が通る通路を設けます。中央部の通路は非常時の避難通路としても利用されます。
 見学会では冒頭、当協会の山下朋之企画広報委員会委員長があいさつし、「完成すると、東京港の道路交通事情が改善されます。東京五輪・パラリンピック会場へのアクセス道路にもなります」と整備の意義を説明。「海洋土木のスケールの大きさや技術の醍醐味、技能者や技術者の知恵といった建設業の魅力を味わって下さい」と呼び掛けました。
 東京港の事業について説明した関東地方整備局の酒井敦史東京港湾事務所長は「われわれが造ったものが100年以上にわたり、皆さんの地元のランドマークになります。これを一つの大きな誇りとして仕事をしています」とやりがいを強調。「港は船が大きくなるので、それに合わせて新しいものを造っていかないと陳腐化してしまいます。同じものに造り替えたのでは、まったく通用しません」と港湾整備の特徴を紹介し、「魅力を感じ、(建設業界に)入ってくれる人が一人でも二人でもいることを願っています」と話しました。
 メインの見学対象は「東京港臨港道路南北線沈埋函(4号函・5号函・6号函)製作・築造等工事」。五洋・東洋・新日鉄住金エンジJVが沈埋函3函の製作と築造に加え、トンネル内の設備工事を担当しています。工期は2017年4月13日~2020年5月29日で、1月末時点の進捗率は87.1%となっています。
 学生らと年齢の近いJV若手職員が、あらかじめ造った沈埋函を海底に沈めてつなぎ合わせる沈埋トンネル工法を紹介。沈埋函一つの大きさは高さ8.35m、幅27.8m、長さ134.0mで、長さはサッカーフィールドよりも大きいと説明しました。
 沈埋函はトンネル全体では7函。4,000PS級の引船4隻で1函ずつ設置場所に運びました。沈設作業は2018年7月に始まり、中央防波堤地区側の1~5号函を順次沈設していきました。有明側は接続部と連結する7号函を先行して沈設。最終函の6号函の沈設作業を2019年7月11日に終え、全函がつながりました。
 最後に沈める6号函には、五洋建設の特許工法「キーエレメント工法」が採用されました。斜めにカットされた函が最後に収まることで5号函と7号函に圧力がかかり、すべての函が安定するのが特徴です。函の接続作業で許される誤差はわずか5cm以内です。
 同じ規模のトンネルだと7年から10年くらいかかるところを、この工事は約4年で完成を目指しています。完成すれば国内最大級の沈埋トンネルとなります。外壁は鋼殻にコンクリートを充てんした構造で、海底の水圧に100年は耐えられるということです。
 トンネルの名称は公募で「東京港海の森トンネル(愛称・海の森トンネル)」に決まりました。学生たちは、貫通した約1kmのトンネルを南から北に向かって30分ほどかけて歩いて通り抜け、職員からジェットファンや耐火板の役割などについても説明を受けました。
 質疑応答では、地震対策への質問があり、JV若手職員が「沈埋函と沈埋函の間の可とう性継ぎ手で地震が起きた時に生じるひずみを吸収し、沈埋函全体に影響が出ないようにしている」と回答しました。このほかにも専門的な質問が寄せられ、「着眼点が鋭い」と感心する職員もいました。
 閉会のあいさつをした当協会の藪下貴弘企画広報委員会副委員長は「国内ではクルーズ船、コンテナ船、ばら積み船に対応した港湾計画があります。世界の港湾にはもっといろいろな計画があります。受注者であれ、発注者であれ、私たちと一緒に令和の時代の港づくりに一緒に関わってくれることを切に願っています」と締めくくりました。

あいさつする山下委員長(左)
事業を説明する酒井東京港湾事務所長(右)

説明を聞く学生たち

ジェットファンが設置されたトンネル内

参加者集合写真