うみの現場見学会

日本埋立浚渫協会(埋浚協)は、第23回「うみの現場見学会」を7月6日に北海道石狩市の石狩湾新港で進む北防波堤建設工事の現場で開きました。地元の北海道大学と北海道科学大学から女子8人を含め土木などを学ぶ26人の学生を招き、海底の地盤改良を行う巨大なサンドコンパクション船を見てもらうなどして、会員各社が行う海洋工事の意義や役割、そのスケールの大きさ、やりがいをアピールしました。これから就職活動に入る学生たちにとっても、進路を考える際の参考となる貴重な経験になったようです。

開会のあいさつをする山下委員長

石狩湾新港について説明する矢野所長
石狩湾新港は、北海道経済の中心地である札幌圏の北に位置し、港の背後地には道内最大級の冷凍冷蔵倉庫が集積。LNG(液化天然ガス)発電や洋上風力発電など、北海道の日本海側のエネルギー供給拠点にもなっています。1982年に第1船が入港という比較的新しい港湾ですが、大きな経済圏を背後に抱えているだけに、エネルギーや建設資材、日用品、製紙業の原材料となる木材チップの供給拠点などとして発展し、近年は取扱貨物量や貿易額が増加。中国向け再利用資材の輸出や札幌圏への日用品の輸入増でコンテナ取扱貨物量も増えています。2017年には取扱貨物量が613万t(速報値)と過去最高を記録しています。
石狩湾新港の西港区では、内陸部に立地する製紙工場への原材料の輸送コストを削減するため、大型バルク貨物船が係留可能な国際物流ターミナルを整備中です。2006年には水深14m岸壁の供用により木材チップの輸入が始まり、北海道の基幹産業の一つ、製紙業の競争力強化に寄与しています。現在は、船舶の安全な入出港と係留のために北防波堤の整備が進められており、今回の見学対象となったのは、この北防波堤を延伸する工事です。
見学会では、まず港近くの会場に全員が集まり、石狩湾新港とその整備状況、見学する工事の概要についての説明が行われました。冒頭あいさつした埋浚協の山下朋之企画広報委員長は「海の工事は一般の方に見ていただく機会が少ないが、社会インフラを下支えする重要な役割を担っています。われわれが行っているような仕事を、将来の進路の一つとしてぜひ考えてみてください」と学生たちに呼び掛けました。
石狩湾新港の整備を担当している国土交通省北海道開発局小樽開発建設部の矢野隆博小樽港湾事務所長は「石狩湾新港は物流やエネルギーなど北海道の経済を支える重要なインフラの一つになっています」とこの港の重要性を説明すると同時に、ICT(情報通信技術)を活用して工事の生産性向上を進めるなど、整備事業に当たっては官民一体で働き方改革に取り組んでいることも紹介しました。
見学対象の工事は「石狩湾新港北防波堤建設工事」で、東洋建設・吉本組JVが施工しています。北防波堤を沖へ向けて400m延伸するために、粘性土の軟弱地盤が分布している海底地盤をサンドコンパクションパイル(SCP)工法で改良し、支持力を高めてから防波堤本体のケーソンを設置するのが目的です。東洋建設の高山智久石狩作業所長が、工事の規模や工程、施工方法などを説明しました。埋浚協の白川隆司北海道支部長によるCIM導入事例の説明も併せて行われました。
当初、学生たちは船に乗って港内を回り、施工現場を見学する計画でしたが、あいにく海象条件が悪く、船上からの見学は断念。バスで移動しながら港内を見学し、ふ頭に接岸したSCP船に乗り込みました。
工事では、地盤を締め固める直径2mの砂杭を計279本(長さ8.8m108本、長さ15.4m171本)打設します。工事に使われるSCP船は不動テトラが所有する「ぱいおにあ第30フドウ丸」。海底地盤に貫入するケーシングパイプを支持する鋼製リーダーの高さが海面から77mある国内最大級のSCP船です。操船室に案内された学生たちは、ケーシングパイプの位置や貫入深度、圧入する砂の量などを管理するコンピューターシステムや作業方法などについて説明を受け、さまざまな計器類に興味深げに見入っていました。操船室を出て、間近に見上げる巨大な鋼製リーダーは大変な迫力です。
沖合で長時間作業するSCP船には生活用具もそろっています。「船内に寝泊まりしながら工事ができます」「女性専用のトイレも備えています」との担当者の説明に驚きの表情を見せる学生も。終了後のアンケートでは、「進路の選択肢が増え、迷ってしまう」「4週8休を導入したり、導入に尽力されたりしていることを初めて知った」という感想も寄せられました。
閉会のあいさつで埋浚協の藪下貴弘企画広報委員会副委員長は「マリコンの魅力を高めるには一般市民の理解を得ることが重要です」と現場見学の意義を強調。学生たちに海の工事により興味を持ってほしいと呼び掛けました。

工事概要の説明を聞く学生たち

SCP船の操船室で

SCP船をバックに