山形県を貫流する最上川の河口に開けた酒田市。県内唯一の重要港湾に指定された酒田港は地域の経済・産業や生活を支える大きな役割を果たしている。同港の2016年のコンテナ貨物取扱量は2万3,658TEUと3年連続で伸び、3年前の3倍強に達している。このため外港地区ではコンテナ船の2隻同時着岸が可能になるよう既存岸壁(−14m)の延伸が計画された。岸壁本体のケーソンを製作するのは本間組。新潟本社管理本部人事部人事課の森優貴さんが現場を訪ねた。
森 工事の概要を教えてください。
古田 酒田港外港地区でコンテナ船が接岸する既存岸壁を延伸するためのケーソンを製作・仮置きする工事です。事業全体としてはケーソンを4函並べて岸壁を80m延伸しますが、昨年度の工事で2函製作しているため、当工事では残りの2函を製作します。ケーソンの形状・寸法は長さ20.0m、幅13.4m、高さ15.5mとなっています。当社が所有するフローティングドック(にいがた7501)で2函同時製作を行っています。
森 今回製作しているケーソンは特殊な形状をしていると聞きましたが。
古田 「スリットケーソン」と言われるもので、一部の側壁や隔壁にスリットと呼ばれる細穴が開いた構造になっています。ケーソン式岸壁に打ちつけられた波がスリットからケーソン内に浸入し、遊水室内で波のエネルギーが打ち消し合うことで波の力を弱める構造です。防波堤などは波の力を弱めるために前面に消波ブロックを積んだりしますが、岸壁の前面にブロックを積んでしまうと船が接岸できなくなってしまいます。従って、岸壁自体に消波効果を持たせたのが「スリットケーソン」といえます。
森 どのように造っていくのですか。
古田 フローティングドック上に足場を組んでから、鉄筋と型枠を組み立て、コンクリートを打設してケーソンの壁を構築します。この作業を上に向かって6回繰り返すとケーソンが完成します。
森 今回の工事で苦労しているところや難しいところはどこですか。
古田 壁にスリットを入れる部分の構築には多くの手間がかかります。スリットがない1ロット目から4ロット目までは1週間に1ロットのサイクルで工事が進みますが、スリットが入る5、6ロット目は1サイクルに倍の2週間かかります。スリット部は単純な壁と違って、建築物のように柱と梁の構造になりますから、鉄筋の組み方も複雑です。強度を高めるため、梁部分の鉄筋は柱部分より数倍太いものが使われます。その分、重量も増すので荷重を分散する鋼材の架台を立てるなどの工夫を凝らしました。また、今冬は最強とも言われる寒波の襲来で年末から厳しい気象条件の中での作業となっています。当日の作業環境の中でできる仕事を見極めて進めていかなければなりません。
森 工事の進捗状況はいかがですか。
古田 2月20日頃にコンクリート打設を完了し、スリットに止水板を取り付けるなどの準備作業を行い、3月中旬に進水する予定です。進水作業は2日間で行いますが、事前に天候と海の状況を予測して実施日を決めなければなりません。時化が続けば工程にも余裕がなくなってしまいます。
森 現場の作業環境が非常に厳しいと感じました。
古田 夏は直射日光を遮るものがありません。冬は日本海からの雪と強風が吹き付け、これも遮るものがありません。夏は水分補給や塩飴の配布を徹底したのに加え、農業用の遮光シートを使った休憩所も設けるなど熱中症対策に工夫を凝らしました。冬のこの時期は現場事務所の一角に乾燥室を設置し、作業に出る時はいつも乾いた合羽を着られるようにしています。作業員の皆さんがいつもできるだけ快適に仕事ができるようにするのも我々の役割です。それが安全や品質の向上につながると考えています。
森 初めて現場を見て、そのスケールの大きさにも圧倒されました。コンクリートでできた巨大なケーソンが水に浮かぶというのが簡単には想像できません。
古田 ここで造るケーソンは1函の重さが3,168tあります。成人男性1人当たりを体重60kgで換算すると5万2,800人分。東京ドームの収容人数とほぼ同じです。そこで説明用にフローティングドックとケーソンの模型を作りました。見学会では水槽にこの模型を実際に浮かべてみてもらっています。模型のケーソンも相当に重いですが、本当に浮かぶので皆さん驚かれますね。
森 現場を見学される方も随分多いそうですね。
古田 PRに非常に積極的な発注者のご理解を得ながら、大きな見学会はこれまでに2回、ほかにも大学生や工業高校の生徒、地元の方が参加された小規模な見学会も何回か開いています。そのほか、インターンシップも受け入れ、参加された学生さんはそのスケールの大きさに大変驚いていました。多くの方に興味を持っていただけるのはうれしいですし、自分たちの仕事が地域のお役に立っていることを実感でき、誇りにも思います。