訪日クルーズ旅客を2020年に500万人まで拡大するという政府が掲げた目標を達成するため、各地でクルーズ船の受入環境を整える事業が進行している。東京湾の東岸南部に位置する木更津港でも、貨物船が接岸する南部地区のG・H岸壁の係留設備を改良し、360m級の大型船も利用可能な環境を整えるプロジェクトが進行している。大本組が施工した「木更津港南部地区岸壁(−12m)付属施設改良工事」は岸壁改良の初弾事業として、船舶の接岸に不可欠な係船柱を改良・新設した。東京支店管理部の小島由梨香さんが現場を訪ね、木更津港岸壁作業所長の天野研之氏に工事のポイントなどを聞いた。
小島 工事概要を教えて下さい。
天野 水深12m、総延長500mのG・H岸壁にある合計10基の係船曲柱を、大型クルーズ船の係留にも耐えられる大型なものに交換するとともに、両岸壁のヤード部分に一つずつ着脱が可能な係船直柱を新設しました。係船柱の改良・新設に続いて行われる防舷材の改良が完了すると、360m級の大型クルーズ船も接岸できる岸壁になる予定です。 二つの岸壁は輸入木材の陸揚げや輸出中古車の船積みに使われている公共岸壁で、施工中でも供用を止めることはできません。貨物船の接岸状況を考えながら工程を組む必要があり、実質的な作業可能日数は工期全体の半分程度しかありませんでした。また着工から3カ月半後にクルーズ船を試験的に接岸させる計画があり、それまでに新しい係船柱を使用可能な状態にしなければならず、工期は非常にタイトな状況でした。
小島 工事はどのように進めたのですか。
天野 岸壁にある19基の係船曲柱のうちG岸壁4基、H岸壁6基の係船曲柱は岸壁のコンクリートを壊して撤去し、同じ位置に150tの引っ張り力に耐えられる大型の物に交換しました。新しい係船曲柱は岸壁にアンカーを打ってエポキシ樹脂で固めましたが、既存の鉄筋を傷めないように作業をしなければならず、慎重に仕事を進めました。曲柱の設置後にかさ上げコンクリートを打設して交換は完了なのですが、工期を短縮するため普通コンクリートに比べて4分の1の時間で初期強度が得られる早強コンクリートを採用し、ひび割れ防止策としてナイロン繊維入りの添加材を加えました。
小島 工期短縮と港湾利用者との調整が工事のポイントと感じました。
天野 その通りです。工期短縮では工事の受注が決まった後、社内で技術検討を行いました。曲柱は当初、1基ずつ交換作業を行う予定でしたが、それでは工期内の完了が難しいと分かりました。そのため港湾管理者、利用者とも協議をして一度に2基ずつ交換する工程としました。曲柱の土台は十分な強度を得るために岸壁から盛り上がる形になりました。港湾利用者からは荷役に支障が出るとの意見もいただきましたが、丁寧に説明することで理解を得ることができました。工程変更によって岸壁は早期の使用再開が可能になり、発注者と港湾利用者、施工者にとって〝三方良し〟の結果が得られたと思います。 供用中の公共岸壁で行う工事では、貨物船の予定に合わせて工程を組まなければなりません。気象条件によって入出港の予定が突然変わることもしばしばです。工程に合わせて人員や資機材を手配するため、その調整には苦労しました。着工当初は港湾利用者との協議にも腐心しましたが、工事が進むごとにこちらの要望も聞いてもらえるようになるなど、意思疎通は上手くいったと思っています。