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 2050(令和32)年の脱炭素化社会実現に向け、物流・産業の拠点である港湾を中心に二酸化炭素(CO2)の排出削減を推進しつつ、次世代エネルギーへの切り替えと合わせて地域の産業活性化につなげるカーボンニュートラルポート(CNP)構想。先行する複数の港湾エリアでは、官民の関係者らによるCNP形成に向けた議論が活発化している。国土交通省は各地の取り組みを後押しするため、「CNP形成に向けた施策の方向性」や「CNP形成計画」策定マニュアル(初版)を2021(令和3)年12月にまとめた。今回示された施策の方向性などを踏まえ、CNPの今後を展望する。
全国規模でCNP最適配置へ
 周囲を海に面する日本にとって港湾は、輸出入貨物のほぼ100%が経由する国際サプライチェーンの拠点であると同時に、CO2排出量の約6割を占める発電所や鉄鋼、化学工業などの多くが立地する臨海部産業の拠点である。
 エネルギーの一大消費拠点でもある港湾とその周辺エリアで取り組むCNP構想は、2050年のカーボンニュートラル実現を目指す政府の重点施策の一つである。水素や燃料アンモニアといった次世代の脱炭素エネルギーの大量・安定・安価な輸入や貯蔵などを可能とする受け入れ環境を港湾に整え、港湾一帯で脱炭素化を促すとともに、新たな産業誘致や設備投資に伴う地域活性化につなげる狙いもある。
 国土交通省は2021年6月に産学官の関係者らによる「CNPの形成に向けた検討会」(座長・小林潔司京都大学経営管理大学院特任教授)を設置し、地域の取り組みを加速させる各種方策を整理しながら、今後の方向性などを議論してきた。
 次世代エネルギーとしての水素や燃料アンモニア以外にも、木質バイオマス燃料などが輸入されることを想定し、港湾での受け入れ環境の整備・拡充を急ぐ必要がある。海上輸送コストを削減し、効率的な大量一括輸送の実現に向け、輸入拠点港湾で大型船の受け入れ施設を整備し、内航船で国内他港へ二次輸送する海上輸送ネットワークの構築などを推進方策に挙げる。
 こうした輸入拠点港湾については、比較的小規模な需要家も網羅する広範な供給網を形成する観点から、誰でも同じ条件で利用可能な「オープンアクセス」タイプの港湾として整備・運営する必要性を指摘している。輸送されるエネルギーキャリアの特性やリスクマネジメントなどを踏まえ、港湾間の連携も考慮しつつ、全国規模でCNPの最適配置が検討されている。
 港湾経由で運ばれた水素や燃料アンモニアなどは、貯蔵タンクに入れられた後、需要先に応じてパイプラインや輸送トラックなどで配送される。パイプラインを敷設する際は域内の将来需要を想定した上で、適切な規模・範囲を検討することなどを留意点に挙げる。
 水素については、液化天然ガス(LNG)発電から水素発電へと移り変わる確度が高く、LNG基地が水素基地へ転換する可能性もあるとされている。合成メタンの輸入、LNGから水素・燃料アンモニアなどを製造する際に発生するCO2の輸送、水素とCO2から天然ガスの主成分であるメタンを合成するメタネーションについても、既存のLNG基地の活用を検討。港湾に貯蔵される次世代エネルギーは、舶用燃料としての利用も見込まれることから、船舶への燃料供給体制の整備も見据えながら、受け入れ施設の計画を練る必要がある。クリーンエネルギー供給の観点から、洋上風力発電設備の基地港湾の整備と洋上風力の普及促進の動きに合わせ、洋上風力による余剰電力を活用した水素の製造や海上輸送ネットワークによる配送にも取り組もうとしている。
CNP形成計画の策定イメージ(国土交通省港湾局2022年度予算関連資料より)
協議会を核に脱炭素化推進
 港湾エリアでは荷役機械、係留中の船舶、港湾を出入りする大型車両などを含め、港湾オペレーションでの脱炭素化を推進する。特に公共ターミナル(国、港湾管理者らが所有する岸壁やふ頭用地)については、2050年までにすべての公共ターミナルでカーボンニュートラル実現を目指すとしている。
 周辺地域と専用ターミナル(民間事業者が所有する岸壁やふ頭用地)でも、火力発電所や化学工業、倉庫など臨海部に立地する産業との連携を含め、面的な脱炭素化を推進。行政機関や港湾立地・利用企業らが連携するプラットフォームとなる「協議会」を設け、国が示す施策やマニュアルを踏まえつつ、地域の実情を勘案してCNPの形成に取り組むとしている。
 また、民間投資をCNPに呼び込むため、各港湾のターミナルでの取り組み状況を第三者が客観的に評価する認証制度の創設も検討される。制度設計ではグローバルスタンダードを念頭に置きつつ、ターミナル関連業務に精通した事業者らの知見を反映。荷主や船社に加え、投資家や金融機関から評価されるよう、認証を受けるメリットを明確に打ち出す考えである。
 港湾オペレーションにとどまらず、港湾工事の脱炭素化、藻場・干潟といったブルーカーボン生態系の造成・再生・保全など、港湾空間を活用したさまざまな脱炭素化の展開も期待されている。
 港湾の施設整備では、CO2吸収型コンクリートなどカーボンリサイクル技術を用いた低炭素型材料の活用のほか、施工機械の低炭素化・自動化といった新技術の積極的な導入が求められている。老朽化が進む作業船についても、電動・ICT化や動力源の脱炭素化の推進方策の具体化にも取り組む。
 港湾工事の発注に当たり、施工者の脱炭素化の取り組みを後押しする。先行事例として、昨秋に関東地方整備局港湾空港部がカーボンニュートラルを考慮したモデル工事の初弾案件の発注手続きに入った。施工段階でのCO2排出削減を技術提案の項目に位置付け、総合評価方式で施工者を決める。
 検討会が示したCNPの方向性については、国の「港湾の開発、利用及び保全並びに開発保全航路の開発に関する基本方針」などに位置付けるとともに、全国レベルでのCNP形成に向けたロードマップを作成し、進捗管理していくことを求めている。
CO2排出量・削減ポテンシャルの推計結果イメージ(CNP形成計画策定マニュアルより)
重要港湾以上で積極展開
 CNP形成計画の策定は、重要港湾以上(国際戦略港湾、国際拠点港湾、重要港湾)の港湾を対象に率先して進められる。地方港湾での策定も推奨していく。
 次世代エネルギーの利用と供給に必要な設備や、既存インフラを駆使した供給体制の在り方などを港湾ごとに検討するに当たり、地方整備局が中心となって2020(令和2)年度に6地域7港湾(小名浜港、横浜港・川崎港、新潟港、名古屋港、神戸港、徳山下松港)でCNP検討会を先行して開いた。2021年度に入り、6港湾(酒田港、鹿島港・茨城港、清水港、北九州港、苅田港)、2地域(四国、沖縄)などでも議論が本格化している。関係者らが地域の特性などを踏まえながらCNPの具現化に向けて活発に意見を交わしている。
 CNP形成計画の策定マニュアルでは、港湾管理者が国の方針に基づき同計画を策定、進捗管理するプロセスや考え方などを明示した。「水素等の受け入れ環境等の整備」「港湾地域の面的・効率的な脱炭素化」の2つの観点からCNPを形成。関連施策の計画期間や目標年次については、政府が掲げる2030(令和12)年度(短中期目標)、2050年(長期目標)の温室効果ガス削減目標を踏まえて設定する。
 CO2排出量の推計では、①港湾ターミナル内(公共、専用別)/排出源=荷役機械、陸上電力供給設備、リーファーコンテナ用電源、管理棟・照明施設など②港湾ターミナルを出入りする船舶・車両(公共、専用別)/排出源=停泊中の船舶、コンテナ用トラクター、ダンプトラックなど③港湾ターミナル外(貨物を取り扱う関連事業者を対象)/排出源=発電所や工場での活動、倉庫・物流施設での活動、事務所での活動などに区分。排出源ごとに排出量を計画策定時と基準年で推計する。推計結果を踏まえ、目標年次のCO2削減目標のほか、具体的な取り組みと各施策によるCO2削減量も示す。
 次世代エネルギーの導入に向け、目標年次での水素・燃料アンモニアなどの需要量を推計した上で、供給目標を設定。その際には、現在の化石燃料使用量などから推計される将来の需要ポテンシャルを前広に推計し、参考値として示すことが望ましいとしている。
 対象港湾での受け入れ環境の整備に当たり、需要推計を踏まえ、現実的かつ具体的な供給計画を策定する。必要な主な施設として「係留、荷役施設(岸壁、荷役機械)」「貯蔵施設」「水素化施設」「運搬施設」「水素生産施設」などの規模や配置計画を検討し、サプライチェーンの強靱化のため、耐震対策や護岸のかさ上げ、適切な老朽化対策も望ましいとしている。
 港湾・産業立地競争力の強化に向けた方策では、環境への取り組みを積極的に公表することで、環境志向の強い荷主からの集荷増が期待できることに言及している。温室効果ガスの削減計画、施設整備計画などに関する具体的なロードマップを示すことにより、CNP形成に向けた関係者の意識・意欲を喚起し、取り組みの実効性を高める。
 脱炭素化関連の制度整備をはじめ、水素・燃料アンモニアに関する最新技術は急速に進展することが予想される。特にCNP形成計画の初期段階では前提条件を明確にし、社会・技術動向を見極めながら柔軟かつタイムリーな取り組みができるよう、計画の見直しの必要性を指摘。マニュアルについても世界の脱炭素化の政策や技術開発の動向などを踏まえ、継続的に見直すよう求めている。国土交通省港湾局の担当者は「マニュアルを参考に各港湾で検討中のCNP形成計画の内容をブラッシュアップしてもらいたい」と話している。
主なCO2排出源での削減対策例(CNP形成計画策定マニュアルより)
新技術活用した実証事業を展開
 菅義偉前政権からバトンを引き継いだ岸田文雄政権でも脱炭素化の取り組みは、重要施策の一つに挙がる。昨年10月4日に発足した岸田内閣の斉藤鉄夫国土交通相は、翌日の就任会見で「2050年カーボンニュートラルの実現に向け政府一丸となって取り組む必要があり、特に国土交通省はその主体者として取り組む決意だ」と表明。地域の暮らしや経済を支える幅広い分野を所管する国土交通省としても、民生・運輸部門の脱炭素化に積極的に取り組む考えを示している。
 運輸部門の具体的な施策では次世代自動車の普及や船舶・航空分野の脱炭素化、CNPの形成、物流の効率化などを列挙。国土交通省関連のインフラを活用した洋上風力、太陽光発電等の再エネの導入促進といった関連施策についても、関係省庁と連携しながら注力すると強調した。
 CNP関連の対応では、貿易立国である我が国がカーボンニュートラルに向けた物流ネットワークを構築していく中で、「海を使った物流、港湾の整備というのは非常に重要な課題だと認識している」との考えを示した。国際競争力という観点から現在の我が国の競争力を「大変厳しい状況にある」と分析した上で、産業競争力の向上とカーボンニュートラルの達成などの観点から、港湾整備に重点的に対応すると決意表明した。
 国土交通省の浅輪宇充港湾局長はCNP形成に向け「官民で協力しスピード感を持ちつつ着実に取り組みを進める」ことが重要と指摘する。水素など次世代エネルギーを扱うために必要な設備、安全対策の実証事業を推進。港湾管理者向けの支援制度も設け、「成功、失敗両面の事例を整理し水平展開しながら総合的に進めていく」との方針を掲げる。
 全国各地でCNPを創出する国の本気度が示されることで、対象港湾とその地域内外の関係者らも関連施策やESG(環境・社会・企業統治)投資などに積極的に取り組むことができる。
 国土交通省の2022(令和4)年度予算関連の新規施策では、CNP形成計画策定の支援制度、新技術を活用したCNP形成への高度化実証事業を展開。陸上電力供給設備などCO2排出量を抑える設備の導入を後押しする税制改正なども行う。国土交通省の担当者は「さまざまな支援メニューをパッケージ化し、CNPの取り組みを加速させたい」と話している。今後、港湾の脱炭素化に向けた建設産業の役割も一段と広がることが期待される。
CNP形成に関する高度化実証事業の概要(国土交通省港湾局2022年度予算関連資料より)


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