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国土交通省港湾局技術企画課 課長補佐 田中 淳一
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1.背景
 建設業は、我が国の経済成長を牽引するとともに、地域の暮らしの安全・安心を支える基幹産業として重要な役割を担っている一方、建設工事従事者の長時間労働(休日労働を含む)の常態化や、高齢化の進行と若手入職者の減少及び短期間での離職率が他産業よりも高いこと等による労働力不足が大きな問題となっています。
 また、平成31年(2019年)4月より施行された改正労働基準法では、時間外労働は原則月45時間かつ年間360時間までとされ、特別条項でも上回ることのできない時間外労働の上限が罰則付きで設定されましたが、建設業においても令和6年(2024年)4月から当該規制が適用されることとなっており、建設業の働き方改革及び担い手の確保は、まさに「待ったなし」の状況となっています。
 これらの課題に対応するため、令和元年(2019年)6月に、「公共工事の品質確保の促進に関する法律」、「公共事業の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」、「建設業法」が一体的に改正され(いわゆる「新・担い手3法」)、このうち改正建設業法においては、長時間労働の是正や休日の確保にあたって「適正な工期」の設定が重要であることから、「著しく短い工期による請負契約の禁止」が盛り込まれました。
 また、建設業の特性上、工事の内容や工法、投入する人材や資材の量により工期の設定が異なるため、「著しく短い工期」であるかどうかについて一律且つ定量的な判断が困難であることから、令和2年(2020年)7月に、中央建設業審議会より、公共工事・民間工事を問わずあらゆる建設工事を対象とする、適正な工期を確保するための定性的な基準として「工期に関する基準」が勧告されました。
 一方、港湾工事にあっては、気象・海象条件等の影響を大きく受けることや、工事の施工にあたって大型の作業船を含む一定規模の作業船団を運用する必要があること、空港工事にあっては、空港の運用に係る高度な制約を受けること等、港湾・空港工事は一般的な陸上工事とは大きく異なる特徴を有しています。このため、「工期に関する基準」に加えて、港湾・空港工事の特徴を踏まえて考慮すべき事項について「港湾・空港工事の工期の設定に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)として策定することとしました。
ガイドラインの概要
2.ガイドライン策定の経緯
 ガイドラインの策定にあたっては、学識経験者の他、日本埋立浚渫協会をはじめとした関係業界団体、行政関係の委員を構成員とする「港湾・空港工事のあり方検討会」(以下「検討会」という。)を設置し、適正な工期を確保するための課題整理や対応策について、多様な観点からご議論頂きました。さらに、関係業界団体の意見等の集約にあたって、より実務的かつ詳細な検討を行うため、関係業界団体と行政関係の委員によるワーキンググループを設置しました。検討会は、令和3年(2021年)4月28日の開催以降、同年6月までに合計3回、ワーキンググループは同年7月までに合計6回開催され、活発にご議論頂きました。
3.ガイドラインの概要
 本ガイドラインは、設計図書に規定する品質の工事目的物を、建設工事従事者の休日を確保しつつ標準的な施工方法及び所要費用により施工する際に必要となる期間(=適正な工期)の設定に際して、港湾・空港工事の特徴を踏まえて考慮すべき事項をとりまとめたものです。
 港湾・空港工事の工種や工程は非常に多岐にわたるものであり、工期の設定に際しては、港湾・空港工事全てに共通するもの、工種や工程に応じて考慮すべきもの等、様々な切り口から考慮する必要があることから、より分かりやすく使いやすいものとするため、「本編」「工程・工種別編」「資料編」の3編構成で整理しました。
 「本編」は、ガイドラインの背景、趣旨、適用範囲、工期設定において受発注者が留意すべき事項、港湾・空港工事の特徴等、港湾・空港工事全般に関する工期設定の考え方等の基本的かつ重要な事項を記載しました。
 「工程・工種別編」は、港湾・空港工事の工期の設定に際して、工程、工種ごとに考慮すべき、具体的かつ詳細な事項を記載しました。なお、考慮すべき具体的な事項については、検討会での議論等を通じて可能な限り幅広く記載するよう努めましたが、必ずしも全ての事項が網羅できているものではないため、個々の工期の設定に際しては、ガイドラインの趣旨を踏まえつつ、当該工事の状況や性質に応じて個別具体的に考慮する必要があります。
 「資料編」では、港湾・空港工事の工期の設定に際して参照すべき法令や、国が発注する港湾・空港工事における適正な工期の設定にかかる取り組みに関する情報を記載しました。
4.発注者が想定する施工条件の明示について
 発注者は、施工に必要な実日数に加え、土日祝日及び年末年始休暇等の休日、荒天日等の不稼働日、関係機関との調整状況、関連工事の進捗状況等の施工条件を踏まえて工期を設定し、受注者は、特記仕様書において示された各種の施工条件や見積参考資料に基づいて施工に必要な期間や資機材の調達時期等の工事計画を検討しています。
 しかしながら、実際には発注者が想定した気象・海象条件の範囲内で施工できるとは限らず、結果的に受注者が休日を返上する形で工程管理上のリスクを負担するケースも見受けられます。また、特記仕様書等において発注者が想定する施工条件を相当程度詳細に記載したとしても、受発注者間で施工条件に係る情報共有に齟齬が生じてしまうと、結果的に受注者として想定する「施工に必要な期間」が確保できなくなり、工期及び休日を圧迫する等の適正な工期による施工の妨げになるおそれもあります。
 このため、以下の事項についてガイドラインに位置づけ、施工条件をより的確に明示するとともに、受注者の責に帰すことができない理由により施工条件に変更が生じた場合における取り扱い等を明確化し、工程管理上のリスク負担の更なる適正化を図ることとしました。
 ①施工条件の調査、把握を十分に行うとともに、特記仕様書において、工事の着手時期、施工時間帯及び方法の制限、工事の実施に係る関係者等との調整状況、作業ヤード等の用地関係の状況等、発注者が想定する施工条件について的確に明示すること。
 ②受注者における当初の工事計画の立案や、工事の進捗により発生する設計変更の円滑化等に資するため、特記仕様書の参考資料として、工程に関する施工条件や関係機関との調整等懸案事項となる案件に関する対応状況等を一覧できる資料(チェックリスト等)を提供すること。
 ③契約締結後においては、円滑な工事の実施及び品質の確保を図るため、受発注者で構成する協議の場を設置し、受発注者が施工条件、工事工程等について総合的な確認及び調整を行うこと。(国が発注する港湾・空港工事では、発注者が想定する施工条件や工事工程表を契約締結後速やかに受注者に提示するとともに、当該明示内容を踏まえて受注者が作成した施工工程について、工事着手までに「品質確保調整会議」等において、受発注者相互で確認及び調整することとしています。)
施工条件の明示方法の概要
5.休日確保・法定労働時間の遵守について
 発注者は、土日祝日や年末年始休暇等を休日とする工期の設定を原則としておりますが、港湾・空港工事においては、作業船や潜水士による作業を伴うため、曜日を問わず気象・海象条件が良好なときにしか作業を行うことができない工事、利用者等との調整により施工可能な時間帯に制約がある工事、一定の期間において連続して作業する必要がある工事等、土日を閉所する週休2日の確保や、一斉に閉所すること自体が困難な工事も少なくありません。国が発注する港湾・空港工事にかかる4週8休の達成状況については、令和元年度には約61%、令和2年度には約67%(国土交通省港湾局調べ)となっておりますが、こうした実態を踏まえつつ、4週8休の達成割合を今後更に上昇させ、港湾・空港工事における働き方改革の実現と、改正労働基準法に基づく時間外労働規制への着実な対応を図る必要があります。
 このため、休日確保・法定労働時間の遵守について以下の通りガイドラインに位置づけました。
 ①受注者の責に帰すことができない理由により当初の工期内に所要の休日が確保できない状況となった場合、契約変更事務ガイドライン等を活用しつつ適時適切に受発注者間で協議を行った上で、必要があると認められる場合は工期の延長及び請負代金の変更を行う等、所要の休日確保に配慮すること。
 ②当分の間、週休2日、4週8閉所、交代勤務制等の実施を通じた建設工事従事者一人ひとりの週休2日(4週8休)を達成した工事について、労務費や機械経費、共通仮設費率、現場管理費率の増加、及び成績評定での加点等の措置を講じること。
 ③荒天による工事の休止を余儀なくされた場合、受注者が休日を確保せずに工期遵守を図ることを抑制するため、当該休止に伴って生じた経費の精算を行うこと。
休日確保状況
6.その他の取り組みについて
 検討会及びワーキンググループにおいて、発注者が想定する施工条件の明示方法について、施工条件チェックリスト等の提供の他、契約前において概略工程表の開示を求める意見が寄せられました。概略工程表の開示については、施工条件の明示に際して有効な手段であると考えられるものの、新たな取り組みであることから、まずは国が発注する港湾・空港工事における試行工事の実施を通じて、概略工程表の開示に適した工事の選定、提示時期、内容、効果等について検討した上で、ガイドラインに記載することとしました。なお、本年10月より開始する試行工事においては、原則として競争参加資格通知時に概略工程表を開示し、各工種のおおよその工事期間や想定される不稼働日、開示時点における関係機関との調整状況や関連する他工事の進捗状況の概略を記載することとしておりますが、試行工事の結果を踏まえつつ、例えば入札公告時に開示する等、より効果的な開示時期や内容等について引き続き検討を行う予定です。
概略工程表のイメージ
7.おわりに
 適正な工期設定を通じて建設業における働き方改革を推進することは、将来の担い手を確保する観点からも極めて重要であり、適正な工期の実現に向けては、建設業者による生産性向上等の自助努力とあわせて、受発注者相互の理解と協力が不可欠です。
 本ガイドラインは、これまで必ずしも十分に整理されていなかった「適正な工期」を設定するための基本的な考え方を示すものであり、適正な工期を設定するための重要なツールとなることが期待されますが、適切に運用されなければ、策定した意義が大きく損なわれてしまいます。
 このため、本ガイドラインの策定を契機として、国が発注する港湾・空港工事に携わる地方整備局等の職員が適切な工期設定の実現を強く意識するとともに、様々な局面において本ガイドラインを踏まえた判断がなされるよう、機会をとらえて港湾管理者や民間企業を含む関係者の皆様にも幅広く周知し、しっかりとご活用頂けるよう協力を求めて参ります。また、本ガイドラインの実効性をより一層高めるため、工期の設定が適正であったかどうかの検証等を通じて、適正な工期の設定に資する取組に関する知見の蓄積に努め、適時適切にガイドラインの見直しを行って参ります。


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