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 生産年齢人口の減少が叫ばれる中、国土交通省は2016年を「生産性革命元年」と位置付け、所管する産業分野の生産性向上に一段と力を入れだした。建設分野ではICT(情報通信技術)などを積極的に導入する建設現場の生産性向上策「i-Construction」を本格展開。港湾分野でも調査・測量から設計、施工まで3Dデータを活用しながら、一連の業務・作業の効率化や省力化に取り組んでいる。i-Con始動から5年が経過し、進展するハード・ソフト面の整備状況や各プロジェクトの取り組み事例を紹介する。
ICT施工を多工種へ順次拡大
 i-Conをはじめとした港湾分野の生産性向上策の検討に当たり、国交省は有識者会議を設置し、具体的な施策や取り組みの方向性などを議論してきた。「港湾におけるICT導入検討委員会」(2016~19年度)を2020年度には「港湾におけるi-Construction推進委員会」に改称。よりi-Conを意識した形で、現場の生産性向上に関する施策の具体化や高度化に取り組む。
 港湾分野のICT施工は2017年度の浚渫工を皮切りに、基礎工、ブロック据付工、本体工と対象工種を段階的に追加。工事件数も2017年度24件、2018年度69件、2019年度87件、2020年度142件(うち浚渫工69件、基礎工42件、ブロック据付工26件、本体工5件)と右肩上がりで伸びている。
 2020年度はICT浚渫工で測量に加え、施工箇所の可視化など施工のICT化も本格運用の段階に入った。ICT基礎工(事前測量、捨て石数量計算、施工可視化)、ICTブロック据付工(完成断面の測量、施工可視化)では試行工事を実施。ICT本体工についてはケーソン据付工でモデル工事(半自動据え付け)を行った。
 試行・モデル工事結果の整理・分析とともに、フォローアップ調査を実施。ICT活用工事の推進・拡大に向け、生産性向上の観点から課題の抽出・整理、対応策を検討した。併せて、ICT関連の適用技術をより活用しやすくするため、それぞれの工種の関連要領・マニュアルを改定版として今年4月に更新している。
 ICT施工の新規工種として海上地盤改良工(床掘り工・置き換え工)を追加。マルチビームによる3D測量、3Dデータによる施工数量(床掘り土量・置き換え砂量)の算出、ICTを用いた施工管理(施工中の可視化、3D出来形測量、施工履歴の活用)、3Dデータによる検査といった各段階でICT活用を進める。
 九州地方整備局が2019年度に行った先行工事に基づき作成した要領案をベースに、全国版としてICT海上地盤改良工用のマニュアルや各種要領を今年4月に策定した。2021年度以降、ヒアリング結果などを踏まえ、施工履歴(浚渫船の施工管理システムなどの履歴)の出来形管理への活用などを検討していく。
港湾のICT・BIM/CIM 活用事業の実施状況(国交省港湾局提供)
先進技術の開発・実用化を継続展開
 ICT施工の要となる先進技術の高度化にも積極的に取り組んでいる。i-Con推進委の委員は、港湾工事の機材は使用台数があまり多くないことや、輸入品の占める割合が高いことなどから、メーカー単独による技術開発が進みにくい環境にあると分析。現在の市場動向を踏まえ、ハード・ソフトを含めて国などの発注者側でも技術開発を行い、開発した技術を受注者が使用するような取り組みを求める意見も出されている。
 こうしたニーズを踏まえ、国が港湾分野のi-Con関連の技術開発で力を入れているプロジェクトの1つが「マルチビームデータクラウド処理システム」だ。マルチビーム音響測深機によって取得した海底の測深データは、測量後に点群化処理した後、手動で3D図化の作業などを実施しており、時間と労力を要しているのが現状。測深する際には気泡などによって音波が反射され、海底面と異なる地点データ(ノイズ)が計測されることがあり、完全なノイズ除去も手動で行われ
 現在開発中のマルチビームデータクラウド処理システムでは、マルチビーム音響測深機によって船上で取得した点群データをクラウドサーバーに送信。クラウド上で点群データをリアルタイムで表示しながら、2D・3Dに自動図化したり、事務所など遠隔で出来形を確認したりできる技術を目指している。2020年度は九州地方整備局と港湾空港技術研究所が現場での検証試験を含む試験システムの構築に取り組んだ。2021年度には点群化処理などのクラウドへの実装を予定している。並行して同システムの迅速化・省力化を推進するため、AI技術を活用したマルチビーム測深データのノイズ処理プログラムの開発を国土技術政策総合研究所(国総研)で実施。必要なデータを拡充しながら、本運用に向けた検討を進めている。
 マルチビーム測深データのクラウド処理システムについて、i-Con推進委の委員はAI処理との組み合わせでノイズ処理がさらに効果的になると説明。測量作業の効率化だけでなく、浚渫や石材投入といった施工中の出来形の随時確認など、施工管理での有用性を強調する。
 国交省港湾局の関係者は「マルチビームのデータクラウド処理システムは、港湾分野のi-Con関連技術で開発プロジェクトの初弾と言える。2022年度以降の本格運用に向け、クラウドサーバーの管理を含めたシステムの運用主体など、持続的に利活用できる体制を2021年度中にも固めていきたい」と話す。
マルチビームデータクラウド処理システムのイメージ(i-Con推進委の資料から抜粋)
BIM/CIM原則適用へ環境整備
 現場の生産性革命の観点から、3Dデータをより幅広く業務に活用するBIM/CIMの取り組みも広がりつつある。国交省は2023年度までに小規模を除くすべての公共工事でBIM/CIMの原則適用を目標に掲げている。
 港湾施設のBIM/CIMモデルは、「地形(現況)のBIM/CIMモデル」と「港湾構造物(計画)のBIM/CIMモデル」を基本に構成される。受注者は個々のモデルだけでなく、モデル全体を組み合わせた統合モデルを作成。統合モデルは関係者協議、施工計画や景観などの検討に活用する。
 国交省の港湾分野でのBIM/CIM対応を振り返ると、2018年度に杭式桟橋と臨港道路などの設計業務を対象に導入を開始。2019年度からは工事にも適用している。現在の対象は業務が「土質調査業務」「岸壁(桟橋構造)の予備設計、基本設計、細部設計、実施設計業務」、工事は「岸壁(桟橋構造)」となる。いずれも発注者が認めた場合は、受注者希望型で他の構造形式でも導入可能としている。
 BIM/CIMの活用状況の推移を見ると、2018年度の10件は業務のみ。2019年度が15件(うち工事4件)、2020年度は53件(同30件)と急増している。導入をさらに加速させるため、BIM/CIMモデルの既存要領を今年4月に改定した。
 同3月に策定したBIM/CIM活用ガイドラインの港湾編では、「構造物モデル等の作成」から「事業の実施」に主眼を置き、各段階の活用方法を提示。各段階の構造物モデルに必要となる形状の詳細度、属性情報の目安も示した。▽設計=図面作成、数量計算、施工計画、協議・報告▽施工=設計図書の照査、事業説明・関係者間協議、施工方法(仮設備計画、工事用地、計画工程表)、施工管理(品質、出来形、安全管理)、工事完成図(主要資材情報含む)▽維持管理-の各段階でのBIM/CIMモデルの活用例を紹介している。
情報プラットフォームで監督・検査を省力化
 BIM/CIMモデルを活用して監督・検査の省力化に向けた取り組みも進めている。調査、設計、施工時に得られた情報を付与したBIM/CIMモデルを、情報プラットフォーム「港湾整備BIM/CIMクラウド」に登録し、工程管理や品質・出来形管理などに活用する。施工情報の共有・一元化により、建設生産から維持管理も含めた港湾施設に関わる業務の生産性や品質を高める狙いだ。
 受注者側は各工事で3Dモデルや属性情報のフォーマットを共通化し、作成・更新したCIMモデルをクラウドに随時登録。アクセス権限などクラウドの管理に必要な情報が割り当てられる。登録済みのCIMデータを基に、クラウド環境上で出来形・品質管理に適した形式でデータを随時表示・出力できる。各工事データの統合、3Dモデルと属性情報のリンク、管理項目ごとの凡例切り替えなどの機能を持たせる。
 2020年度は「横浜港新本牧ふ頭整備事業」をモデルに、関係する受発注者らで検討を行い、クラウドのプロトタイプを構築。BIM/CIM活用の地盤改良工事3件を対象に、出来形・品質管理での活用を目的にクラウドの監督・検査への適用性などを検証した。2021年度以降、システムの改築、他の工種や管理項目への拡張を進める。2021年度は基礎工と一部本体工、2022年度に本体工で検証を予定している。利活用のルールづくり、管理主体の選定なども進め、BIM/CIMを全面適用する2023年度までにクラウドの本格運用にこぎ着けたい考えだ。
港湾施設BIM/CIMモデルの構造例(国交省のBIM/CIM活用ガイドラインから抜粋)
人材育成を含めインフラDX加速
 生産性向上には先進技術・システムの導入と合わせ、使う側の人材育成も重要となる。i-Con推進委の委員も発注者向けの研修会・講習会だけでなく、国などの公的機関による受注者向けのi-Con関連の知識やスキルの習熟を図る環境整備の重要性を訴えている。
 港湾局では海洋土木のi-Conに特化した研修資料の作成に2021年度中に着手する。コロナ禍を受け、国総研が発注者の職員向けに行っているi-Con関連のウェブセミナーに、民間事業者らが参加できるよう門戸を広げることも検討している。
 i-Conの推進は、国交省を挙げて積極的に取り組みだしたDX(デジタルトランスフォーメーション)にも大きく関わる。各地方整備局ではインフラ分野のDX推進に向け、人材育成拠点を次々と開設している。BIM/CIMモデルの操作やICT施工の研修など、受・発注者双方の関係者が学べる場を拡充しながら、デジタル人材の確保・育成を図り、建設産業全体の生産性革命を後押しする。
 ICTを活用した現場の生産性向上の取り組みでは、ウエアラブルカメラなどによる遠隔臨場の試行工事の拡大も進む。2020年度に港湾版の要領を策定し、試行導入した工事の施工業者へのアンケートでは過半数が生産性向上に「有効」と回答している。
 港湾分野の生産性革命に当たり、浅輪宇充港湾局長は「DXやi-Constructionは建設現場における重要課題として、これまで強力に推進してきており、コロナ禍を背景にその重要性はますます高まっている。港湾工事においても、DXなどを通じての非接触・リモート型への働き方改革、抜本的な生産性・安全性の向上に向けた取り組みを進めている。今後、これら取り組みのさらなる加速化を図るとともに、港湾工事のすべての関係者に浸透させることが極めて重要であり、業界全体の魅力向上と担い手の育成・確保に向けて、関係者の皆様のご協力をぜひお願いしたい」と意気込みを語る。
港湾整備BIM/CIMクラウドのイメージ(i-Con推進委の資料から抜粋)

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