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国土交通省港湾局産業港湾課 一瀬 輪子
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 洋上風力発電施設の建設工事において、風車部材や基礎鋼材の陸揚げ、保管、事前組立、積出しといった作業を実施するためには拠点港湾が必要となるが、国内では拠点港湾の整備が今後の課題である。そこで洋上風力部会では、今後の実施工を見据え洋上風力発電施設の施工方法を想定し、公表されているプロジェクト計画から必要と考えられる拠点港湾の規模や仕様を検討し、2019年度の検討成果としてとりまとめた。なお、この成果は2019年12月に発足した「洋上風力発電施工技術研究会」〔会員:(一社)日本埋立浚渫協会、(一社)日本建設業連合会、オブザーバー:(一社)日本風力発電協会〕においても検討され、拠点港湾のあり方の重要性を洋上風力関係者に広めることができた。
1.はじめに
 2020(令和2)年10月、「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことが菅内閣総理大臣により宣言されました。
 島国日本において港湾は、輸出入貨物の99.6%が経由する国際サプライチェーンの拠点であり、また、CO2排出量の約6割を占める発電、鉄鋼、化学工業等の多くが立地する臨海部産業の拠点、そして、エネルギーの一大消費拠点でもあります。(図1)
 他方、脱炭素社会の実現に向けては、燃焼時にCO2を排出しない水素や燃料アンモニアといったカーボンニュートラルな燃料の活用が不可欠であり、これらのエネルギーは港湾を経由して輸入されることが想定されています。
 また、国際的には、SDGs(持続可能な開発目標)やESG投資(環境・社会・ガバナンス要素も考慮した投資)に関心が高まっており、国際港湾における競争力として、コスト、スピード、サービス面に加え、「環境」を意識した取り組みが重要な要素の一つとなりつつあります。
 このような中で、水素や燃料アンモニア等の大量輸入や貯蔵・利活用等が期待できる港湾地域において、カーボンニュートラルに向けた先導的な取り組みを推進することは、我が国の2050年脱炭素化社会の実現に大きく貢献するものと考えられます。
 このため、国土交通省港湾局では、水素・燃料アンモニア等の大量かつ安定・安価な輸入を図るとともに、脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化等を通じて、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラルポート(CNP)」を形成し、我が国全体の脱炭素社会へ貢献していくこととしています。
 本稿では国土交通省港湾局におけるCNP形成の取り組みについてご紹介します。

図1 国際サプライチェーンの拠点・エネルギー拠点となる港湾
2.カーボンニュートラルポート形成の背景と必要性
(1)政府方針としての2050年カーボンニュートラルの実現
 2020(令和2)年10月の第203回国会における内閣総理大臣の所信表明演説において、「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことが宣言されました。
 これを受け、昨年12月に開催された第6回成長戦略会議において、経済産業省が関係省庁と連携して策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が公表されました。同戦略の14の重要分野の1つである「⑧人流・物流・土木インフラ産業」の実行計画においては、「我が国の輸出入の99.6%を取り扱う物流拠点であり、かつ様々な企業が立地する産業拠点である国際港湾において、脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化や臨海部産業の集積等を通じて温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする『カーボンニュートラルポート(CNP)』を形成し、2050年の港湾におけるカーボンニュートラル実現を目指す」ことが明記され、CNPの形成が位置付けられています。
 また、「②燃料アンモニア産業」及び「③水素産業」の項には、海外での積出港における輸出に対応した岸壁・供給設備等に対する出資の検討や、国内港湾における配送・貯蔵等を可能とする技術基準や港湾計画の見直し等の検討について記載されています。さらに、水素の利用・輸送・製造に関する革新的技術について、大規模な水素需要が見込まれる発電所等を含む港湾・臨海部などを中心に、多様な分野で集中的に水素利活用の実証を行うということについても言及されています。

(2)国際エネルギー機関(IEA)のレポート
 2019(令和元)年に国際エネルギー機関(IEA)が作成したレポート「水素の未来」には、水素利用拡大のための短期的項目として「工業集積港をクリーン水素の利用拡大の中枢にすること」、政策提言の一つとして、「今後2030年を見据え、既存の工業集積港を水素のための拠点にして最大限活用する」ことが記述されています。水素等の利活用のポテンシャルが大きく、安価な供給が可能な港湾地域において、水素等の利活用に係る先導的な取り組みを推進することは、我が国の2050年脱炭素化社会の実現に大きく貢献するものと考えられます。

(3)港湾地域からの二酸化炭素の排出量
 我が国のCO2排出量(約11.1億トン:2019年速報値)のうち、発電、鉄鋼、化学工業等の産業からの排出量の合計は、全体の約6割を占めますが、これら産業の事業所の多くは、港湾地域に立地しています。また、港湾には、日常的に多くの船舶や貨物車両が出入りするほか、大量の電力を消費する物流施設等も立地しています。このため、港湾におけるCO2排出量の削減の取り組みは、我が国の温室効果ガス排出量の削減にとって重要かつ効率的と言えます。

(4)水素や燃料アンモニア等の輸入・貯蔵・配送拠点
 脱炭素社会の実現のためには、炭素分を含まず、燃焼時にCO2を排出しないエネルギーである水素やアンモニア等の利活用を促進することが重要です。水素やアンモニア等のエネルギーは、長期間の貯蔵や長距離の輸送が可能であるため、再生可能エネルギーや化石燃料からCCUS等※を利用して生成したエネルギーの貯蔵・輸送キャリアとして利用することができるという利点を持っています。現在、石油、石炭、天然ガスといった化石燃料に代えて火力発電の燃料として活用する技術や、燃料電池を車両・機械に搭載して活用する技術等の研究開発が進められており、今後、我が国において脱炭素化の取り組みを進めていく上で、海外から大量の水素や燃料アンモニア等の輸入が必要になることが想定されます。
 政府の目標値としては、前述の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、2030年に水素導入量を最大300万トン、2050年には2,000万トン程度の供給量を目指すとされています。また、2021(令和3)年2月に燃料アンモニア導入官民協議会が作成した「中間取りまとめ」では、2030年には国内で年間300万トン(水素は換算で約50万トン)、2050年には国内で年間3,000万トン(水素換算約500万トン)の燃料アンモニア需要が想定されています。輸出入貨物の99.6%(重量ベース)を取り扱う我が国港湾は、国際サプライチェーンの中で、大量の水素・燃料アンモニアを船舶から陸揚げ・貯蔵・配送する、国内の起点としての役割が求められます。
 ※CO2を回収し、地下に貯留するCCS(Carbon Capture and Storage)や、再利用して、燃料や化学品、建材等を製造・利用するCCU(Carbon Capture and Utilization)、古くなった油田にCO2を圧入することで、油田に残った原油を圧力で押し出し、CO2の貯蔵と石油の増産に利用するCCUS(Carbon Capture Utilization and Storage)といった技術

(5)港湾の環境価値の向上
 SDGs(持続可能な開発目標)やESG投資(環境・社会・ガバナンス要素も考慮した投資)への関心が高まる中、国際港湾の競争力として、コスト、スピード、サービス面での競争力の強化に加え、「環境」というキーワードを意識した取り組みも重要となってきています。
 上記の背景や必要性を踏まえ、国土交通省港湾局では、「カーボンニュートラルポート(CNP)」を形成し、我が国全体の脱炭素社会への貢献を図ることとしています。

3.カーボンニュートラルポート形成に向けた具体的な取り組み
 国土交通省港湾局では、今までも、洋上風力発電の導入促進、デジタル化による車両渋滞の緩和、LNGバンカリング拠点の形成、ブルーカーボン生態系の活用検討、内航フェリー・RORO船へのモーダルシフトの推進等の脱炭素化に資する取り組みを進めてまいりました。
 CNPの形成に向けて、従前のこれらの取り組みに加え、水素・燃料アンモニア等の大量かつ安定・安価な輸入を可能とする環境整備、船舶への陸上電力供給促進、港湾ターミナルにおける自立型水素等電源の導入、洋上風力発電からの余剰電力を活用して生成した水素等の内航船による輸送等について検討を進めてまいります。(図2、3)
 CNP形成に向けて、2021(令和3)年1月から3月にかけては、まずは多様な産業が集積する6地域7港湾(小名浜港、横浜港・川崎港、新潟港、名古屋港、神戸港、徳山下松港)において、地方整備局、港湾管理者、地元自治体、立地する民間事業者等により構成するCNP検討会を開催し、各港湾地域におけるCO2排出量、水素・燃料アンモニア等の需要、その利活用方策、必要となる港湾の施設の規模等について検討を行いました。
 そして、2021(令和3)年4月、各検討会においてCNP形成に向けた各地域の取り組みの検討結果をとりまとめるとともに、港湾局においてCNP形成計画を作成する際のマニュアル骨子をとりまとめました。(表1)
 引き続き、有識者等の意見も聴取しつつ、更なる内容の精査、深堀りを行うとともに、効果を発現させるための仕組みづくりや円滑・効率的な実施手法なども検討の上、2021(令和3)年度内にマニュアルの初版を完成させるなど、CNP形成を全国の港湾に展開させる取り組みを推進してまいります。
図2 脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化(イメージ)
図3 カーボンニュートラルポートの形成イメージ
表1 カーボンニュートラルポート形成計画(仮称) 作成マニュアル 骨子

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