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 2021年12月6日に迎える日本埋立浚渫協会設立60周年を記念し、この四半世紀ほどの間に会員企業が手掛けた時代を画する主要プロジェクトにスポットを当て、関係者の座談会で振り返る企画。4回目となる今回は、2018年にベトナム北部に開港した「ラックフェン国際港」の建設事業を取り上げます。
広大な海域で進むラックフェン国際港の工事
 2018年5月13日、ベトナム北部地域初の国際大水深港であるラックフェン国際港の開港式が地元のハイフォン市で盛大に開かれた。グエン・スアン・フック首相をはじめ、政府開発援助(ODA)でプロジェクトを支援した日本の政府関係者も出席。フック首相は日本の支援への感謝を述べるとともに、同港がベトナムの経済発展と国際競争力の向上に寄与することへの期待を表明した。
 ラックフェン国際港は、水深14m、総延長750mの2つのバースを有し、積載量10万トン級の大型コンテナ船の寄港が可能となっている。当該事業は、円借款を利用した航路や護岸などの基本インフラの整備と、日本とベトナムの間の初の官民連携(PPP)案件として民間投資で進められたコンテナヤードなどの整備に分けられる。
 基本インフラの整備はベトナム運輸省管轄下の公共事業。653億円の円借款が供与され、本邦技術活用条件(STEP)の適用案件として、日本の建設会社が元請として埋め立てや地盤改良、防波堤・防砂堤の建設、航路・泊地の浚渫などを施工した。
 ベトナムは市場経済への移行後、急速な経済成長を遂げ、貨物の輸出入も増大した。ベトナム北部地域の貿易の玄関口は従来、紅河の河口部に位置するハイフォン港だった。しかし同港は航路の水深が7m程度と浅く、既存ターミナルも面積・水深ともに不足し、入港制限やターミナル背後の交通渋滞などが深刻化。紅河上流からの大量の土砂流入による航路埋没の問題も抱えていた。
 こうした状況を背景に、取扱貨物量の増加と船舶の大型化に対応し、経済成長と国際競争力の向上を支える新たなインフラ整備事業としてベトナム政府が計画したのが、ラックフェン国際港の整備である。
 ラックフェン国際港は「ハイフォン国際ゲートウェイ港」とも称される。ベトナム政府は、ハイフォンを含む北部港湾開発計画の中で、ラックフェン国際港を中心に2030年までに16のコンテナバースと7つの一般貨物用バースを整備する計画を立て、最初の2つのコンテナバースをラックフェン国際港に整備することを2007年4月に決定した。2009年4月には日本に円借款を要請。国際協力機構(JICA)による協力準備調査とと詳細設計を経て、2013年7月、地盤改良と埋立工事が開始された。
 工事は埋立が1工区、航路・泊地の浚渫が2工区、防波堤・防砂堤が1工区の計4つの工区に分かれ、契約が行われた。事業はSTEPの適用案件であり、工事では日本の建設会社の優れた技術を生かした工期短縮やコスト縮減、安全性の向上などが期待された。
 埋立工区は敷地面積が約75haと、ベトナムでのODAによる港湾工事では最大級。建設地は河川から運ばれた土砂が堆積し、厚さ20m以上の軟弱な粘土層が形成されていたため、ドレーン材を打設するPVD工法と載荷盛土によって圧密を促進する地盤改良を実施した。コンテナバースの護岸部分では、ベトナムの海洋工事ではあまり普及していないセメント系深層混合処理工法(CDM工法)も適用して地盤を改良した。
 航路は、積載量2万トン級の船舶に対応していた既存航路(幅100m、水深7m)を幅160m、水深14mまで拡幅・増深した。施工延長は2つの工区を合わせて17.4㎞、浚渫土量は合わせて3,000万㎥を超えた。これだけの大規模な浚渫工事を効率よく施工するため、現地企業が保有するグラブ式浚渫船などに加え、海外から廻航してきた大型ポンプ式浚渫船や大型グラブ式浚渫船、8,000㎥積土運船が投入された。工事は供用中の既存航路で行われることから、航路断面を東側と西側に分割。まず西側の航路を運用しながら東側を浚渫。完了後に航路を東側に切り替え、西側を浚渫するという方法が採用された。
 一方、増深した航路が土砂で埋没するのを防ぐため、延長7.6㎞に及ぶ防砂堤も整備された。防砂堤は堆積粘性土の上に石によるマウンドを築造し、その上にプレキャストブロックを据え付けていく構造。8.4万個ものブロックを製作するため、4基の門型クレーンを備えた広さ12.5haに及ぶ製作・仮置きヤードが陸上に整備された。製作ヤードから海上の据付エリアまでの距離は約15km。曳航回数は5,500回に及んだという。
 また、浚渫工事の一環として、航路埋没の経過をモニタリングし、将来の維持浚渫や航路の管理運営についてベトナム政府に報告する業務も併せて行われた。潮流の変化や流速、濁度、波浪などの海象データと浮泥の発生・蓄積状況などの定期観測と深浅測量が工事と並行して進められ、モニタリングリポートがまとめられた。
 ラックフェン国際港の建設事業は「我が国の沿岸技術を総合的に駆使したインフラシステム輸出の開発協力援助」として2019年度の土木学会技術賞を受賞した。
 同港の開港を見越して、ハイフォン市周辺には全世界に製品を輸出する多くの世界的企業が進出し、工場の建設が相次いでいる。港の近くでは大規模な工業団地の開発も進んでおり、ベトナムの経済成長を支える大きな柱として期待されている。
  航路の浚渫工事
ブロックの製作ヤード
ラックフェン国際港の位置
林 寛之
国土交通省北陸地方整備局新潟港湾・空港整備事務所長
(外務省在ベトナム日本国大使館一等書記官)
桑原 善浩氏 五洋建設株式会社
国際部門ベトナム営業所長(パッケージ6副所長)
松隈 大輔氏 東亜建設工業株式会社
国際事業部ベトナム事務所長(パッケージ10工事主任)
吉岡 孝治氏 りんかい日産建設株式会社
国際支店ミャンマー営業所ヤンゴンマンダレー鉄道工事
(CP102)副所長(パッケージ9 工事課長)
岡本 元宏氏 東洋建設株式会社
国際支店営業部営業部長(国際支店ハノイ営業所長)
井澤 寛氏:司会 東洋建設株式会社
国際支店工事部工事部長(パッケージ8所長)
※カッコ内は当時の職名
今回の座談会は対面ではなく各者それぞれの場所からリモート接続し、“オンライン座談会”としました。
4工区で総額600億円超す大型プロジェクト
井澤まず自己紹介からお願いします。
林 2013年3月から2016年8月まで在ベトナム日本国大使館に書記官として勤務していました。大使館では運輸関連のプロジェクトのほか、円借款全般を担当しました。
松隈パッケージ(以下「pkg」という)10の防波堤・防砂堤築造工事の開始時から現場のコンストラクションマネジャーとして工事を担当しました。昨年10月末までが工期で、若干残工事があり、今年4月まで施工していました。現在はベトナム営業所長として駐在し、最終的な引き渡し検査など事務的な手続きをしています。
桑原ベトナムには1999年に初めて入り、出たり入ったりしながら駐在期間は今年で足掛け15年になります。ラックフェン港建設工事には入札時から携わり、施工も担当し、非常に思い出深い工事です。現状、工事の方は瑕疵保証期間も完了し、あとは多少の支払残金の回収が残っている状況です。
吉岡今はミャンマーで鉄道工事に携わっていますが、ラックフェン港建設工事ではpkg9に2016年から従事しました。いろいろと思い出深い現場です。
岡本現在は東京勤務ですが、ベトナムには2004年から2015年までいてラックフェン港建設工事の入札から関わりました。工事の前段の部分を担当したことになります。
井澤私は今、東京の国際支店で工事部にいますが、ラックフェン港建設工事ではpkg8の浚渫工事の作業所長をしていました。ラックフェン港建設工事はここ数年で最も大きい円借款工事の一つで、かつ日越間で初めての大型PPP案件でもあります。まず林所長から、ドナーサイドとしてプロジェクト立ち上げ時のお話を。
林 ベトナムは2000年代から急激な経済成長が続き、日本以外も含め様々な国の援助を受けて急ピッチでインフラ整備が進められていました。当時、日本からは年2,000億円ペースで円借款が供与されていました。これは当時の対ベトナム援助国の中ではダントツの規模です。日本の数ある援助対象国の中でも当時、ベトナムは最大の相手国で、ラックフェン港以外にもノイバイ空港やニャッタン橋、ハノイやホーチミンの地下鉄など、大型インフラ案件が目白押しという状態でした。ラックフェン港は、赴任から間もなくハイフォン市で着工式が行われ、まだハノイの地理にも明るくないうちにハイフォンまで3時間かけて移動したことを覚えています。PPP案件のコンテナターミナルの整備事業では、当時、南部のホーチミンでバースが供給過剰に陥っていましたから、北部のハイフォンでも需要に懐疑的な見方がありました。日越合弁で事業が進められたのですが、途中でベトナム側の企業が変わったり、日本側の企業が抜けたりしたこともあり、複数の民間企業の足並みを調整しながら大型インフラを整備する難しさを実感しました。ラックフェン港の工事が本格化してくると、訪れる度に景色がどんどん変わり、日本ではなかなか見られないようなペースで工事が進むさまは圧巻でした。急ピッチだった分、施工する皆さんのご苦労も多かったのではないかと思います。
井澤ハノイからハイフォンまで高速道路がまだ出来ていませんでしたね。建設会社サイドからはこのプロジェクトをどう捉えていましたか。
岡本マリコンの営業所長として港に大変興味を持っていました。駐在11年の間にハイフォン港の2期、ダナン港、カイメップ港、チーバイ港、ラックフェン港と北部から中部、南部と日本の政府開発援助(ODA)が実施され、日本埋立浚渫協会の会員各社が活躍していました。中でも特に北部の開発は日本が先行してODA支援をして、ハイフォン港の整備やハノイと連結する道路の整備が行われました。それと同時に幹線道路沿いに工業団地ができ、日本の大手製造業をはじめ、韓国やベトナムの企業も進出しました。これはODAの先行型開発モデルの成功例として、いろいろな所で紹介されています。ラックフェン港ができるまでは、ハノイ近郊の工業団地に日本企業の製造拠点がありましたが、日本の支援でラックフェンの大水深港湾や高速道路の整備などが現実味を帯びてくると、ハイフォン近郊の工業団地にブリヂストンが巨大工場の建設を始めるなどハイフォン近郊への投資が急激に活況になりました。当時、ハイフォン市が構想した港湾と工業団地が一体化した開発計画があり、その完成予想図を見て、こんなことができるのかと思いましたが、今はそれが現実のものになっており、感慨深いものがあります。ラックフェン港整備の時代背景としては、当時政権リーダーのズン首相が2006年から2016年まで市場経済を牽引していましたが、その時期がずれていたらラックフェン港の実現は難しかったかもしれません。ベトナムの港湾は、今は北部、南部とも物流需要が伸び、新規開発や製造業の進出も活発です。日本の支援は成功だったと思います。
井澤ラックフェン港プロジェクトの工事pkgは6、8、9、10の4工区からなり、合わせて600億円を超す大型プロジェクトでした。
桑原pkg6は請負金額は約130億円。港の土台づくりをする工事です。敷地面積は約75haとODAによるベトナムの港湾事業では最大級の規模でした。約240万㎥の埋立と、外周約1,700mの捨石式護岸、750mの消波ブロック式護岸、それとコンテナヤード前面の延長945mの控え式連続鋼管矢板護岸などを施工しました。地盤改良は、PVD打設後に載荷盛土をする在来工法と、深層混合処理工法の2種類の方法で施工しました。深層混合処理工法は日本独自の技術で、ベトナムでは陸上工事での活用が散見されるものの、海上での施工は普及していませんでした。2013年7月に着工し、2017年11月までの長丁場で、さらに港を運営する民間会社による桟橋工事やヤード舗装工事のための部分引渡しなどもあって大変でしたが、予定通り竣工しました。
井澤pkg9も桑原さんからご紹介いただけますか。
桑原pkg9は水深7m、幅100mの既存航路を水深14m、航路底面幅160mに増深・拡幅する浚渫工事で、浚渫土量は約1,558万㎥、請負金額は約198億円でした。2016年4月に着工し、2018年10月に竣工しました。浚渫土砂は片道約17km沖合の所定土捨場に運びました。既存航路を閉鎖せず、上流側の河川港への船舶航行を維持しながら施工することが条件でしたので、航路断面を東側と既存航路のある西側に分け、まず既存航路を生かしながら東側を浚渫、東側浚渫の完了後に航路を切り替え、西側を浚渫する手順で進めました。作業条件、手順、工期とも非常に難易度の高い工事でした。弊社が保有する大型ポンプ式浚渫船「第三スエズ」と、8,000㎥積み土運船3隻を海外から廻航して投入し、併せてベトナム協力企業保有のグラブ式浚渫船やドラグサクション浚渫船も活用し、工事を進めました。
井澤同じくpkg9を担当した吉岡さんお願いします。
吉岡浚渫した航路の埋没モニタリングを担当しました。河川が運んでくる流砂の計測と濁度、潮流、波高の測定を行い、モニタリングレポートをまとめる作業です。最初は施工者の仕事かという疑問がありましたが、やってみると、施工した航路を維持する上で非常に有意義なデータだと分かりました。例えば大潮の時には流砂の影響で午前と午後で海水の透明度が変わります。日本では見られない現象でした。沖に出ると、河口から迫ってくる流砂を目の当たりにすることもありました。大潮の場合、大雨の場合、時化の場合と浮泥の発生状況や、蓄積状況に特徴があり、素人ながら天気のデータなどと見比べてレポートを仕上げた記憶があります。
井澤pkg10は防波堤・防砂堤工区でした。
松隈受注時の請負金額は137億円でした。将来のコンテナターミナルの埋立工事を見越した先行護岸として、約2.5km、6バース分程度の築造と、pkg8、9で浚渫した航路に埋め戻る流砂を抑える7.6kmの防砂提の築造を施工しました。工期は2015年7月から2019年10月まで。防波堤部分の地盤改良として砂置換工法を採用し、それに関わるトレンチ浚渫工が150万㎥、浚渫した場所への砂の投入が140万㎥にもなりました。その上部に石によるマウンドを築造し、プレキャストブロックを据え付けます。石材は64万㎥、ブロックは8.4万個、コンクリート数量でいうと21万㎥にもなります。日本人10名、フィリピン人5名、ベトナム人スタッフ100名でチームを作り、下請として大小60社に上るベトナムローカル企業と契約して工事を行いました。海上の作業延長が10kmもあり、地道な作業が必要でした。4~10月のモンスーン時期は荒天で稼働率が低下し、台風の来襲もある厳しい条件でした。隣接工区との調整も課題でした。8.4万個のブロックを製作するために、陸上側に約12.5haの製作・仮置きヤードを整備しました。4基の門型クレーンを設置し、月に5,000~1万㎥のコンクリート打設を約3年間継続しました。ブロック据付エリアまでは海上を約15km運搬するのですが、運搬回数は約5,500回にも及びました。設置したブロックは将来的な沈下が予想されますが、引き渡し時には設計高を維持しなければならず、そのため現場では164カ所で土質調査を実施し、その結果から将来的な沈下曲線を算出した上で、それぞれの場所に合わせて沈下を見込んだ分だけ上げ越しで製作しました。工期が52カ月あり、早く着手した部分と後で着手した部分では沈下量が違うので、連続的な沈下モニタリングを実施し、嵩上げ措置などを行いながら施工を完了しました。
井澤 寛氏(司会) 林 寛之氏 岡本 元宏氏
松隈 大輔氏 吉岡 孝治氏 桑原 善浩氏
ベトナムへの技術移転でも大きな成果
井澤pkg8では工期30カ月で約1,600万㎥の浚渫工事を行いました。pkg9の上流側に位置し、工区の面積はpkg9より小さいのですが、それでも延長約7㎞もあり、新しく掘る航路が下幅160m、法面も入れると幅約400mですから、全部で約2.8k㎡にもなります。工区の特性から、下層の硬質粘性土を主にグラブ式浚渫船、上層の軟弱粘性土を主にドラグサクション浚渫船で掘削する計画を立てました。国内にはない大規模浚渫工事ということで、日本からも浚渫工事の経験豊富な方を現場に案内したのですが、工区の起点となる港から交通船で出発し、終点となるpkg9との工区境まで約7㎞となると、なかなか終点に着きません。おまけに「グラブ式浚渫船で一回一回バケットをいれていきます」と説明したら唖然とされました。工区が大きいので埋め戻りも多く、自主測量の結果を利用した計算では20カ月で約152万㎥の埋め戻りを確認しました。入札図書で想定されていた年間で60万㎥という数字を上回りました。
松隈ベトナムは河川港が多く、ローカル企業は外洋での施工経験があまりありません。pkg10では船舶、スタッフ、企業とも基本的には現地で調達して施工することにしていましたが、規模が大きいだけに調達の難しさがありました。ローカルの作業船は外洋での作業に耐え得る工事用設備や安全設備の調達に苦労しました。船長を含め外洋での施工経験者が少なく、歩掛が上がるまでに期間を要しました。安全管理面でも作業中止基準や待避基準などの意識があまり無いので、そうした決め事の周知徹底を図りました。ただベトナム人は非常に真面目で、一生懸命に説明するとよくやってくれました。ローカルスタッフは日本の進め方を理解している経験者を中心に組織し、新しいスタッフへのノウハウの展開を図りました。勤勉で英語など語学能力の高いエンジニアが多く集まりました。潜水作業では透明度が非常に悪い中での作業を強いられましたが、潜水士とクレーンオペレーターがコミュニケーションを取れる水中マイクを日本から持ち込んで標準装備としたほか、日本人潜水士を現場に配置し、技術と設備の安全、水中の出来形チェックの指導をお願いしました。施工エリアを2.5kmごとに分け、最初は難易度が低い陸上側の波浪の少ない場所で施工し、作業員の習熟度を高め、設備を増強しながら段階的に進めることで、最終的には工程も安全も予定通りになりました。8時間労働で単純に頭割りすると延べ73万人が参加し、580万時間の無災害を達成できました。当社のスタッフによる粘り強い対応と、ローカル企業の頑張りが大きかったと思います。
吉岡580万時間の無災害はすごい数字です。土捨て場には、投棄した浚渫土砂に魚が寄ってくるため、地元の漁師が現れます。漁船は警鐘灯を付けておらず、レーダーにも映らないことがあるので、ローカル船舶同士が連絡を取りながら慎重に土捨て作業をしました。松隈さんのお話の通り、ベトナムのローカル船は小さく、沖合施工には向いていません。そこで安全対策を大々的に行い、特にワイヤロープや、クレーンのジブ、ホイストのドラムなどをすべて交換するよう指導しました。ローカル船舶はラックフェン港建設工事に参加するとプレミアムが付き、その船は安全だと思われていたそうです。ワイヤの交換や点検回数を増やすなど、日本以上の安全対策をやっていたためだと思います。ボロボロだったローカル船が1~2年経つと、設備などの安全対策が整った良い船に変わっていました。ベトナムの企業はよく付いてきてくれたと感心します。
井澤船舶の安全管理や運航管理は国内では徹底されており、日本企業が得意とするところです。
桑原ベトナム協力企業所有のグラブ式浚渫船、土運船の安全設備・管理は非常に未熟で、その強化は重要なポイントでした。吉岡さんはいろいろと苦労され、工事の後半にはよく改善された船になっていました。浚渫工事の安全面では、施工エリアが一般船舶の航路の近傍のため、航跡波や潮流の変化が作業船にも大きく影響するという問題もありました。このため、特に大型一般船舶などの航行時には作業を中断する対応をとりましたが、規定の上限速度を超過して航行する船舶も多かったため、上限速度を遵守するようハイフォン市港湾局への働き掛けを行い、作業環境の安全確保にも努めました。
井澤ベトナム人スタッフは、技能職も含めて勤勉でコミュニケーション能力が高い印象があります。ベトナムでは多くの国際プロジェクトが進んでいることもあり、日本人はもとより、フィリピン人、インド人、ケニア人といった第三国のメンバーとも上手に協調して業務を遂行してくれました。日本から複数の大型グラブ式浚渫船を調達しましたが、24時間施工体制を構築するに当たってベトナム人船員は大きく貢献してくれました。次に、商務・契約といった面はいかがでしょうか。
林 工事の出来高が上がればベトナム政府から支払いをしてもらわないといけないのですが、支払い遅延が長引くケースではそれが1年、2年ということもあり、当時これが最大の問題になっていました。支払い遅延は、ラックフェン港建設工事に限らずベトナムの円借款の各案件で起きていました。このため、どの事業でどれだけ支払いが滞っているかを細かくリストアップし、大使がベトナム政府の要人と会う際に話してもらうようにしました。リストをベトナム語にして渡したりもしていました。日本は最大のドナー国であり、両国関係も良かったので、川上から話をすれば物事が容易に進んだ気がします。
桑原工事が竣工して2年以上が経っていますが、多少の支払残金があり、最終的な支払いは完了していません。ベトナム政府が年間ODA予算を制限しているため、工事期間中は、毎年度半ばには予算上限に達し、年度後半の支払いが遅延することが常態化していました。放置できない問題のため、発注者へのお願いと同時に、大使館やJICA、ベトナム日本商工会、JETROなどの担当者にも協力をお願いしたことにより、状況は改善に向かいました。
松隈pkg10も支払い遅延は他工区と同じような状況です。これから工事完了に向けて、どう回収するのか、他工区と足並みを揃えていきたいと思っています。
井澤ODA工事では通常、発注者の支払いが遅延した場合に、請負者側の利息請求権が認められています。しかしpkg8では、おそらく発注者の強い意向で盛り込まれたものでしょうが、特記条件で、発注者の意図していない支払い遅延には、利息請求権は適用しないと上書きされていました。他国のプロジェクトでは、こういった特記条件は見たことがなく、少しびっくりしました。契約上、コミュニケーション用の言語として英語とベトナム語の2つが適用されていましたから、やり取りするレター、報告書の類に至るまで、すべて英語とベトナム語で2つ用意する必要があり、書類の量が2倍になります。英語で作成した書類をベトナム語に翻訳する作業も発生します。発注者との会議でも、ベトナム語が用いられることがしばしばあり、通訳が英語に訳して伝えることになります。議論が白熱してくると、お互い使う言葉が激しくなるせいか、通訳がそのまま訳してよいのかどうか、泣きそうな顔で困っていたのを記憶しています。現地の生活面についてはいかがですか。
林 ベトナムは治安が良く、街中で突然拳銃を向けられるようなこともありません。スリやひったくりなどはありますが、自分で気を付けていれば問題無いレベルです。食べ物も米食、箸文化、醤油のような味付けなど日本人に合います。
松隈私は施工当初から家族帯同でハイフォン市内に住んでいました。通算で5年間ぐらいいましたが、この間にインフラ整備も含めドラスチックに変化しました。空港が国際空港化したり高速道路ができたりしました。高速道路ができる前は、帰国する際、ハノイの空港に行くのにかなり早めに出ないと間に合わないという状況でしたが、今は高速道路が開通し、2時間程度で空港まで行くことができ、便利になりました。ハイフォンには日系の企業がどんどん進出しています。日系のレストランもたくさんできたので、食事にも不自由しません。ローカルスタッフと家族ぐるみで付き合い、一緒に旅行にいったりもしました。家族を含めて良い思い出になったと思います。
桑原ラックフェン港ができたカットハイ島は、工事が始まる前はヌックマム(魚醬)と塩の生産地として有名で、田舎の雰囲気漂う島でしたが、現在は地場企業による自動車工場が創業するなど、その様相は大きく変わりました。ハイフォン市内には最近、ホテル・ニッコー・ハイフォンがオープンしました。イオンモールも建設中で、今年オープンするそうです。ラックフェン港の開港で地域の経済にも良い波及効果が出てきていると感じます。
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日本埋立浚渫協会 技術委員会 洋上風力部会 部会長野口 哲史(五洋建設)
 副部会長 長坂 明典(東亜建設工業)
 部会員小倉 勝利(東洋建設)
 部会員中山 久之(若築建設)
 部会員力石 大彦(五洋建設)
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 洋上風力発電施設の建設工事において、風車部材や基礎鋼材の陸揚げ、保管、事前組立、積出しといった作業を実施するためには拠点港湾が必要となるが、国内では拠点港湾の整備が今後の課題である。そこで洋上風力部会では、今後の実施工を見据え洋上風力発電施設の施工方法を想定し、公表されているプロジェクト計画から必要と考えられる拠点港湾の規模や仕様を検討し、2019年度の検討成果としてとりまとめた。なお、この成果は2019年12月に発足した「洋上風力発電施工技術研究会」〔会員:(一社)日本埋立浚渫協会、(一社)日本建設業連合会、オブザーバー:(一社)日本風力発電協会〕においても検討され、拠点港湾のあり方の重要性を洋上風力関係者に広めることができた。
1.はじめに
 国内では、洋上風力発電の導入促進のため、改正港湾法や海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用促進に関する法律(再エネ海域利用法)が施行されるなど法整備が進められている。それらに伴って多くの事業者の間で8~10MW級の大型風車を採用したウィンドファームの計画が進められており、数年後には多くの事業が同時期に工事着手することが考えられる状況となっている。一方、洋上風力発電施設の建設工事に関しては、日本では実績に乏しい状況であり、実施工に向けた課題を解決していくことが求められている。
 実施工に関する大きな課題として、事業動向に応じた拠点港湾の整備が挙げられる。そこで本検討では、国内で計画されるプロジェクトの案件数、対象風車の規模などを考慮し、それらの標準的な施工方法を想定し、必要となる拠点港湾の仕様や原単位※を、またその原単位の必要数を検討することで、拠点港湾のあり方を示すことを目的とした。また、物品輸入による通関、クレーンでの吊り荷走行、作業船に関する制約など、その他の課題についても検討を行った。(原単位※:一定規模の洋上風力発電施設を建設するために必要な拠点港湾の規模、規格を示すものとして定義)
2.検討条件
 本検討では、国内で計画されるプロジェクトでの状況を踏まえ、次のような10MW級風車(モノパイル式基礎)×50基のウィンドファーム(東北地方日本海側の想定)を検討対象として条件の設定をした。
図-1 検討対象施設 図-2 ウィンドファーム配置
3.施工方法の検討
 拠点港湾の検討に先立ち、2.検討条件での想定に対する基礎構造や風車の各工種の施工方法、サイクルタイム、全体工程の検討を行った。
3-1基礎(モノパイル式)の施工
 SEP船については、国内調達の状況を踏まえて、1,500t吊級を想定したSEP(大)と800~1,000t吊級を想定したSEP(小)の2パターンでの施工方法を想定し、それぞれのサイクルタイムを設定した。なお、SEP(小)の場合は、吊り能力が不足しモノパイルの立て起こしが困難であるため、大型起重機船および台船を併用した施工となる。
 作業ステップごとの時間を想定し、サイクルタイムはSEP(大)の場合は12.5日/3基、SEP(小)+大型FC+台船の場合は12.0日/3基と設定した。
図-3 モノパイル基礎の施工方法
3-2風車の据付
 風車の据付についても基礎の施工と同様に、SEP船については、SEP(大)とSEP(小)の2パターンでの施工方法を想定し、それぞれのサイクルタイムを設定した。なお、SEP(小)の場合は、吊り能力および揚程が不足するため、風車タワーは拠点港湾でのプレアッセンブリー(仮組立)で一体化せず、2分割で運搬・設置する施工となる。
 作業ステップごとの時間を想定し、サイクルタイムはSEP(大)の場合は8.5日/4基、SEP(小)の場合は5.5日/2基と設定した。
図-4 風車の据付方法
3-3全体工程
 基礎2パターン×風車2パターンの計4パターンに対して50基建設の全体工程を検討した。
 工程検討の条件として、東北地方日本海側での施工を想定して海上作業期間は5月~10月、供用係数は作業船ごとの作業限界波高を考慮してSEP船はα=1.40、大型起重機船はα=2.60と設定した。
 各パターンで若干の差異はあるものの、概ねウィンドファームの建設期間は3ヶ年(1年目:基礎、2年目:基礎+風車、3年目:風車)となった。
図-5 全体工程表
4.拠点港湾の検討
 洋上風力発電施設の施工及び維持管理においては、重厚長大な資機材について仮置きやプレアッセンブリーを行うことが可能な耐荷重・広さを備えた埠頭、また作業船が係留する岸壁を有する拠点港湾が必要となる。しかし国内ではそれらに対応した拠点港湾は整備不十分な状況である。なお、拠点港湾の機能としては次の2種類が挙げられる。
 ・PA(PreAssembly)拠点
 風車部材の仮置き、組立、作業船舶の係留・停泊を行う拠点
 ・OM(Operation&Maintenance)拠点
 運転開始後の維持管理、保守などを行う拠点
4-1陸域施設の検討
 陸域施設の必要面積は、風車部材搬入、プレアッセンブリー、風車据付のサイクルタイムを考慮して、風車部材の仮置き数が最大となるケースを保管ヤード面積とし、これにプレアッセンブリー作業エリア、クレーン稼働エリア、運搬路などを加え、陸域施設の原単位を設定した。
 なお、複数のプロジェクトで連続的にPA拠点を使用した施工を想定した場合の原単位は約22haとなった。この規模は、欧州で供用中の拠点港湾における陸域面積と概ね同等である。
図-6 陸域施設の原単位
4-2岸壁などの改良方法
 既存港湾の岸壁や背後地を洋上風力施工の拠点港湾として使用するためには、風車部材の諸元、使用船舶・機械の規格に見合った改良が必要となる。改良の目的と範囲を整理し、本検討条件において必要となる地耐力の目安を例示した。岸壁部では重量物である風車タワーを事前に組み立てて岸壁本体の直上に置くことができ、またSEP船をジャッキアップしてそれを積み込めるようレグを支える岸壁前面の地耐力も必要となる。
図-7 改良箇所と仕様の例
4-3水域施設の検討
 風車部材の運搬船、モノパイル基礎や風車据付作業時に使用するSEP船、海底ケーブル敷設船など、一連の作業で使用される作業船団の諸元と係留方法を整理し、係留に必要な水域面積を水域施設の原単位とした。結果として必要な面積は約11haとなった。
4-4OM拠点の検討
 OM拠点の検討に当たっては不明な点も多いため、まず運転中のOMに関する事項の根拠となる法令・指針などを調査した。次にOM実施にあたっての点検項目、留意事項、使用船舶などを整理し、OM拠点に求められる要件、作業船舶、原単位規模について検討した。OM作業においては大型作業船の使用は想定されないため既存港湾を活用し、陸域施設についても1~2ha程度の陸域の原単位で済むものと考えられる。ただし、SEP船での大規模修繕の場合には、PA拠点の活用が必要となる。また、OM拠点は日常点検や定期点検での使用が主となるため、作業を効率化するためにウィンドファームから30海里内にあることが望まれる。
5.施工に関するその他の課題
 実施工を想定し、以下の課題について検討、整理した。
・部材の通関
 洋上風力発電施設の部材は多くが輸入品となるため、その通関を迅速に行う必要がある。なるべく保税区域に物品を持ち込まずとも通関できるように、特定輸入者申告制度(AEO)や、輸出入港湾関連情報システム(NACCS)を活用しつつ、円滑な通関体制を構築する準備が必要である。
・吊荷作業
 重機による重量物の吊荷走行に関する制約を調査し、その対応について検討した。また吊りワイヤーの安全性確保については日欧の基準で大差は無いと判断できた。いずれの作業に対しても、その基準が成り立つ前提条件(例:定期的な点検と予防保全など)を整理し、これに対応することが肝要である。
・施工稼働率の向上
 洋上風力発電施設の施工は、沖合にて1~2週間連続で作業を行うことが考えられる。したがって、稼働率算定にあたっては連続静穏時間を反映した算定方式を採用し、さらに気海象予測の精度を上げるため実観測データによるキャリブレーションを行う体制の構築が必要である。
・作業船の位置決めに関する制約
 欧州では沖合での位置決めを行うために位置保持装置(DPS)を装備したSEP船を使うことを前提とした基準が使われている。一方、国内ではSEP船以外の国内作業船は未だこれに十分対応しておらず、補助船、ダブルアンカー等による対応をとる必要がある。
6.事業計画を踏まえた拠点港湾数の試算
6-1必要となる拠点港湾の原単位数
 国内の事業計画を踏まえ、必要となる拠点港湾の原単位数を試算した。検討では、2020年4月現在で公表されている47プロジェクトの事業者要望の発電容量(約17.5GW)、既に環境アセスが進んでいるもの(約14.7GW)、2030年の想定目標(10GW)、さらに既に港湾区域および一般海域で有力とされるプロジェクト(約6GW)、それぞれのケースで空間的統合(各港湾でのネットワーク化)と時間的平準化を考慮した効率的な拠点港湾の必要原単位数を算出した。その結果、国内の拠点港湾(PA拠点)として7原単位(特に事業が集中する北海道・東北エリアで5原単位、北陸・九州で1単位、関東・中部・近畿で1単位)、またPA拠点との兼用も含めたOM拠点は20原単位に集約できるという結果を得た。ちなみにPA拠点を7原単位整備した場合、1原単位当たりは平均6.7事業者で計12.4年の使用期間となる。
図-8 発電容量と整備拠点の原単位数
6-2日本と欧州の拠点港湾比較
 上記の検討結果を基に、日本と欧州の拠点港湾の位置関係を比較した。日本・欧州の両方とも約1,000km以内にプロジェクト位置と拠点港湾が分布している。欧州では約18GWのプロジェクトを約20年かけて大小17の拠点港湾で対応してきたことから、7原単位という今回の検討結果は過大ではないと考えられる。ただし、欧州の拠点港湾の中には風車の大型化に対応できないなど、後に使用されなくなった例もあるため、国内の拠点港湾整備については、今後の事業動向を踏まえて柔軟に対応していくことも必要であると考える。
図-9 日本と欧州の拠点港湾比較(左:日本、右:欧州)
7.おわりに
 本検討は、海外事例や関係者ヒアリングを基にした様々な想定の下での試算結果ではあるが、今後の拠点港湾整備などの考え方の一助になると考えている。洋上風力発電の施工については、我が国で本格的な導入実績が少ないことから、様々な課題が残っているが、洋上風力部会では今後も実施工の観点から課題解決に取り組み、国内の洋上風力発電導入促進に貢献したいと考えている。


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