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 日本埋立浚渫協会の清水琢三会長と日本潜水協会の鉃芳松会長が8月22日、岩手県洋野町にある県立種市高校を表敬訪問し、潜水士育成現場の最前線を視察しました。港湾工事に関わるすべての技術者と技能労働者の働き方改革実現に向けた取り組みの一環です。同校の佐々木信明副校長らと潜水士の資格取得や卒業生の進路状況などについて意見を交わしたほか、実習施設や実習船、学生寮を視察しました。
 種市高校は、潜水と土木の基礎的知識と技術を学べる「海洋開発科」を置いています。卒業までに生徒の9割が潜水士の資格を取得し、港湾工事に従事する潜水士を輩出しています。NHKの朝の連続テレビ小説「あまちゃん」に登場する高校のモデルとなったことでも知られています。
 当協会は昨年、日本海上起重技術協会(寄神茂之会長)と全国浚渫業協会(金澤寛会長)、日本潜水協会との意見交換を開始しました。「元請会社の技術者だけでなく、港湾工事に関わる技能労働者全体の働き方改革を実現しなければ、将来の担い手を確保できない」(清水会長)との危機感から、連携して取り組むべき課題を整理し、現場で働く人のアンケートも実施して、国土交通省地方整備局などとの意見交換会で問題提起することにしています。
 今回の訪問には、当協会から清水会長をはじめ、福田功専務理事、田口智基本問題検討部会長、中村俊智東北支部長ら、日本潜水協会からは鉃会長と幸田勇二専務理事、川村昭二総務部長の総勢10人が参加しました。
卒業後の進路などについて意見を交わした
 一行を迎えた佐々木副校長は、「昨年、海洋開発科の学生寮ができ、今年は新しい実習船も完成しました。施設・設備が充実し、ますます注目度が高まっていると感じています。職員、生徒ともども一層努力を重ね、皆さんの期待に応えられるよう、国内そして世界の舞台で活躍する人を育てたいと考えています」とあいさつされました。
 清水会長は「ちょうど一年前に鉃会長から『潜水を学ぶ生徒たちを見て、実際に潜水を体験してほしい』と言われました」と今回の訪問に至った経緯を説明。「元請の技術者だけでなく、潜水士を含む技能労働者全体の働き方改革を実現しないと若い人に入ってもらえません。潜水士はわれわれの工事に欠かせません。技術がいろいろと進歩しても、人の目で見て確認することは不可欠です。潜水士の処遇改善につながるよう、一生懸命取り組んでいきたいと思っています」と述べました。
 鉃会長は「同じテーブルに着かせてもらい、昨年から働き方改革の話し会いをしてきました。埋浚協会の会長が自ら潜水を体験することは大きなインパクトであり、働き方改革の第一歩となります」と期待を語りました。
校内を視察
 この後、清水、鉃両会長や福田専務理事らは、実習プールで伝統のヘルメット式潜水「南部もぐり」を体験しました。総重量が65kgに上る潜水具を身に着け、水深3mまで潜水。陸上から送られる空気を頼りに、水中での動作を体験しました。
 初めての潜水体験に清水会長は「思ったよりスムーズにいった。空気の不安はなかった」と感想を話しました。34年ぶりに潜水したという鉃会長は「こんなに装具は重かったのか」と述べ、潜水士の仕事が体力勝負であることを改めて強調していました。
 港湾整備やサルベージ、船舶などの事業に従事している潜水士は国内に3,300人程度いるとされています。日本潜水協会はこの数を維持していくには、おおむね3%の新規参入者を確保する必要があるとし、年間で100人程度の潜水士を新規に確保する目標を掲げています。
清水会長(右)と鉃会長が南部もぐりを体験
 作業環境が厳しい潜水士は、体力的にも長く働くのが難しいといわれています。意見交換会で両協会の幹部からは、「次の世代に潜水士の仕事を選んでもらうには、生涯賃金の確保や処遇改善が必要」という意見や「現場を退いた後も指導者として潜水に関われる仕組みが求められる」といった声が上がりました。
 当協会と日本潜水協会のトップが、潜水士育成の実態や課題を共有することで、潜水士の働き方改革の推進に一段と弾みがつきそうです。
潜水具を身に着けた清水会長(左)と鉃会長
今春は14人が潜水士の道へ
伝統の「南部もぐり」継承
実習船新造、寮も完成
 2018年10月に創立70周年を迎えた岩手県立種市高校。海洋開発科の吹切重則科長は「潜水を教える学科は水産高校や海洋高校など各地にありますが、水中土木工事に特化した授業を行っているのが本校の特徴です」と説明します。
 従来の他給気式潜水器(ヘルメット式潜水器)に加え、スキューバと呼ばれる自給気式潜水器が誕生し、潜水士の作業環境が改善しつつある中、同校では地域に伝わる伝統のヘルメット式潜水「南部もぐり」を実習に取り入れています。
南部もぐりの潜水具(一部)
 南部もぐりは、装具やおもりを着けると総重量65kgに達します。一人で着用するのは難しく、潜水中も空気を送るホースの管理など、周囲のサポートが必要となります。多くの人手がかかり、生徒が手を動かす機会が増えるため教育に適しているとのことです。「南部もぐりができれば他の潜水方式にも対応できます。伝統技術であり基礎技術です」(吹切科長)。
 現在の生徒数は1年生30人(うち女子5人)、2年生24人(同3人)、3年生29人(同1人)。今春卒業した35人のうち14人が潜水の資格が生かせる海洋関連工事会社への就職を進路に選択しました。
 「今春は多い方でしたが、来春、潜水の仕事に就くのは4人。向き不向きのはっきりする仕事で、押し付けることはできません」と吹切科長は潜水の仕事の難しさを語ります。潜水でなくても海洋関連の仕事に進んでもらうため、同校は潜水士の資格だけでなく、測量士補や2級土木施工管理、ガス溶接、アーク溶接など、建設現場で役立つ資格取得の支援に力を入れています。
協力して実習に取り組む生徒たち
 より実践に近い環境での教育が同校の方針です。海洋で潜水訓練する実習船「種市丸」が3月に完成しました。約30年ぶりの新造で7代目の実習船となります。全長23.8m、幅5.7m、深さ2.0mの総重量43t。最大搭載人員は50人。左舷と右舷3人ずつが一度に潜水できる設備が整っています。
 海洋開発科の寮「白鴎寮」も昨年4月に開寮しました。全4棟で定員は19人。現在は男女12人が入寮しています。佐々木副校長は「遠方からの生徒も受け入れられるようになり、全国から入校を希望する問い合わせが増えました」と効果を話します。
3月に完成した種市丸
 それでも、少子化で生徒の確保に苦労している状況に変わりはありません。文化祭「種高祭」に訪れた人を中心に、実習プールで潜水体験をしてもらうなど、潜水の魅力を積極的に発信し、潜水士が登場するPRポスターも作製しました。佐々木副校長は「引き続き、全国で活躍できるダイバーや海洋技術者を輩出していきたい」と話しています。
種市高校のPRポスター

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