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国土交通省 港湾局 計画課 企画室 専門官 坂井 啓一
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これまでの港湾の中長期ビジョンの変遷
 国土交通省港湾局では、社会経済情勢の変化に対応して、節目ごとに港湾政策の中長期的なビジョンを策定してきました。昭和60(1985)年に戦後初めて策定された『21世紀への港湾』では、成熟化により港湾整備に求められる要請が多様化・高度化したことを受けて、「物流・産業・生活に係る機能が調和した総合的な港湾空間の形成」を目指すこととされました。その後、平成2(1990)年に策定された『豊かなウォーターフロント』でフォローアップを行いました。続いて平成7(1995)年に策定された『大交流時代を支える港湾』では、経済のグローバル化に合わせ、中枢・中核港湾を指定し、港湾の機能分担や拠点化等により効率的配置や投資の重点化を図ることとされました。その後、平成12(2000)年の『暮らしを海と世界に結ぶ港ビジョン』でフォローアップを行いましたが、最近は、新興国の台頭や海運市場の再編をはじめ、我が国港湾はかつてない変化と競争に晒されており、新たな中長期ビジョンが求められています。
 こうした中、2030年頃を目標時期とする港湾の中長期政策を策定することとし、平成28年4月より交通政策審議会港湾分科会において議論を行い、約2年3か月の議論を経て、本年7月にとりまとめを行いました。
我が国の港湾を取り巻く情勢変化と課題
 我が国では、平成7(1995)年の阪神淡路大震災以降、神戸港に集約されていたアジア諸国のトランシップ貨物がアジア主要港へ流出したこと等を契機として、我が国のコンテナ港湾は激しい競争に晒されることになりました。そのため「選択と集中」の方針の下、平成16(2004)年よりスーパー中枢港湾政策、更には、北米・欧州基幹航路の我が国への寄港を維持・拡大し企業の立地環境を向上させるため、集貨・創貨・競争力強化を3本柱とする国際コンテナ戦略港湾政策を平成22(2010)年より実施してきたところです。
 また、中国をはじめとするアジア近隣諸国の急激な経済発展は、資源、エネルギー、食糧等の世界的な獲得競争の激化をもたらしました。それに伴い、輸送コスト削減を目的としたバルク船の大型化が進展してきたため、平成22(2010)年より国際バルク戦略港湾政策を実施してきたところです。この中で、穀物、石炭及び鉄鉱石の品目ごとに拠点港を選定し、公共事業により大水深バルクターミナルを整備することで、利用企業の合従連衡による共同調達・共同輸送の取り組みを促進しました。
 一方、空間形成の面では、深刻な公害問題への対応が一段落した昭和60年代以降は、より質の高い臨海部空間を積極的に創造していくことが求められるようになりました。例えば、物流機能の沖合展開により生じた旧港地区や内港地区について、民間活力を導入した商業施設や緑地の整備により、親水空間を創出するウォーターフロント開発が全国的に進められました。また、臨海部空間に多様な産業を誘致して地域活力の向上を目指すとともに、阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、耐震強化岸壁や緑地等から構成される臨海部防災拠点の整備が進められました。
 近年では、状況は更に変化してきており、コンテナ輸送については、急速なコンテナ船の大型化やコンテナ船社間のアライアンスの再編による基幹航路の寄港地の絞り込みが進み、また、中国の「一帯一路」政策に代表されるように、アジア近隣諸国も戦略的に海外港へのネットワーク拡充を図ってきています。我が国としても世界の成長市場とをつなぐ、スピーディで信頼性の高い輸送網を構築することが求められてきています。一方で、高度経済成長期に整備された港湾施設については老朽化対策が必要である点や、旅客輸送の面では、近年爆発的に増加してきているクルーズ船や旅客の受け入れのための港湾整備や美しく快適で賑わいのある空間づくりが求められています。更に、臨海部産業の構造転換や新たな物流産業の立地を円滑に進めるための港湾空間の利用再編や面的再開発の推進や、近年急速な進化を遂げる情報化技術を港湾の運営や建設・維持管理に活用していくことも求められてきています。
中長期政策のポイント
 本年7月に公表した「港湾の中長期政策『PORT2030』」では、こうした情勢変化や課題を踏まえ、2030年頃の我が国港湾が果たすべき役割として、ネットワーク形成と空間創造について「1.列島を世界につなぎ、開く港湾【ConnectedPort】」と「2.新たな価値を創造する空間【PremiumPort】」を掲げるとともに、近年、目を見張る速度で進化を遂げる革新的技術を最大限に活用し、物理空間だけでなく情報空間も合わせてつなぎ、第4次産業革命を先導するプラットフォームを構築する「3.第4次産業革命を先導するプラットフォーム【SmartPort】」という3つの役割として掲げました。
 これらに基づき、本中長期政策では、2030年頃に港湾に求められる機能とそれを実現するための具体的施策を以下8つの柱にまとめました。
1.グローバルバリューチェーンを支える海上輸送網の構築
 我が国産業の国際競争力を向上させるため、成長著しい東南アジア地域等へのシャトル航路を戦略的に重要な航路と位置付け、国内主要港からの直航サービスを強化するためのハード・ソフト施策を展開します。また、背後地においては、新たな価値を創造し、外貨を稼ぎ、雇用の創出を促すため、高度な流通加工・検疫・発送、再生部品の輸出、越境修繕サービス等新たな付加価値を提供する機能を有するロジスティクスハブを形成し、アジア等からの貨物の集貨を目指します。更に、農林水産物等の輸出を強化するため、小ロット貨物について複数企業による共同調達・共同輸送を促進します。加えて、アジア地域を中心に国際フェリー・ROROやコンテナシャトル航路を強化のための施設や環境整備を進め、多様な速度帯からなる重層的な航路網形成を目指します。(図1参照)

図1
2.持続可能で新たな価値を創造する国内物流体系の構築
 内航フェリー・RORO航路については、国と、改革に意欲的な運航事業者、港湾管理者等が協力し、船舶及び港湾の双方の設備や運営体制を検討するための「ユニットロード生産性革命協議会(仮称)」を設置し、輸送生産性の向上や災害時等の機動的な対応が可能になるよう、岸壁の規格統一化・標準化のための体制構築を目指します。また、国際コンテナ戦略港湾への集貨等を促進するため、ふ頭再編により国際コンテナターミナルと内貿ユニットロードターミナルを近接化させ、港湾と背後の道路等とシームレスな接続、船舶大型化に対応した岸壁整備・改良を推進します。加えて、海上輸送の安全性・効率性向上を図るため、AI(人工知能)等を活用した船舶自動運航・航行支援技術の導入促進を図るとともに、高規格な荷役機械、自動運航船舶と連携した自動離着岸システム、決済を効率化するシステム等を実装した「次世代高規格ユニットロードターミナル」を展開します。更に、情報通信技術(ICT)の活用によるトラック・シャーシ位置のリアルタイム把握やリーファーコンテナ温度モニタリングシステム等の導入により、輸送の効率化と品質管理の向上を図ります。(図2参照)

図2
3.列島のクルーズアイランド化
 我が国発着クルーズを拡大し、「北東アジアのクルーズハブ」を形成すべく、官民連携による国際クルーズ拠点の形成やフライ&クルーズの促進等に取り組みます。特に、外国人クルーズ旅行客のリピーター化を促すため、ターミナルビル等において無料無線LAN整備、案内の多言語化等に対応し、利用者の利便性向上を図ります。また、日本人クルーズ旅行客の増加を図るため、近年、高質化が進む国内・国際フェリーとの連携を図っていきます。更に、鉄道・航空等とのシームレスな接続・連携を図り、島嶼部等も含めた広域周遊ルートの形成を目指します。(図3参照)

図3

4.ブランド価値を生む空間形成
 近年、物流・産業機能が沖合展開していく中で、物流機能移転後の内港地区等の有効活用が求められています。このため、民間資金も活用した新たな手法による港湾の再開発を促進し、活性化を図ります。そして「みなと」に賑わいを呼び込み、外国人旅行客・市民の交流の場を提供するため、文化・歴史、ビーチスポーツ体験・景観・自然環境・魚食、工場夜景・水辺のライトアップを活用したナイトタイムエコノミーなど、様々な観光資源を発掘し磨き上げ、魅力的なコンテンツ作りを促進していきます。(図4参照)

図4

5.新たな資源エネルギーの受け入れ・供給等の拠点形成
 臨海部の石油関連産業や、地域経済を支える基礎素材産業の競争力を強化するため、他省庁等とも連携し、輸送インフラの更新・改良・強靱化を促進していきます。例えば、石油関連産業において事業集約等により発生した空き地の有効活用の面から、例えば、LNGや水素など臨海部と親和性のあるエネルギー産業等の誘致を促進していきます。また、石炭など従来から力を入れてきた資源の輸送について、船舶の大型化や調達先の多様化に対応するともに、ICTを活用した企業間共同輸送を促進していきます。更に、我が国の資源エネルギー等の安定的・安価な供給や海洋権益の保全を図るため、洋上風力発電や水素供給、バイオマス燃料供給等の拠点確保を通じて、資源エネルギーの多様化へ貢献していきます。(図5参照)

図5

6.港湾・物流活動のグリーン化
 地球環境問題に対応するため、洋上風力発電の導入や、船舶・荷役機械・トレーラ等の輸送機械の低炭素化、陸上給電設備の導入等の「CO2排出源対策」を行うとともに、鉄鋼スラグ等の産業副産物を有効利用した藻場等のブルーカーボン生態系の活用等による「CO2吸収源対策」を促進し、世界に先駆けた「カーボンフリーポート」の実現を目指します。また、LNGバンカリング拠点を形成することにより環境に優しい港湾を目指します。更に、港内や航路の航行環境・安全を保持するため、現在主要港で導入が進んでいる環境配慮型の船舶の寄港を促進する優遇策の展開や、航路の拡幅、緊急時の避泊場所の確保等を行います。(図6参照)

図6

7.港情報通信技術を活用した港湾のスマート化・強靱化
 港湾・貿易手続きをはじめ、港湾に関する様々な情報を電子的に接続し、連携させる「港湾関連データ連携基盤」を構築します。この基盤上で、全ての港湾情報や貿易手続きを電子的に取り扱うことを標準とする環境「港湾の完全電子化」を形成し、この基盤と海外港湾や異業種の情報プラットフォームを接続することにより、貨物情報や観光情報等と連携を図り、利便性・生産性を最大限まで高める「CyberPort」を実現します。これにより、国際貿易、観光振興、港湾施設利活用、臨海部防災その他多様な分野で、港湾情報を核とした新たな情報活用ビジネス・サービスを創出することを目指します。
 また、ターミナルの生産性向上や労働環境改善の観点では、AI、IoT、自働化技術を組み合わせ、コンテナ蔵置計画の最適化や貨物の搬入・搬出の迅速化等を図り、世界最高水準の生産性を有する「AIターミナル」の形成を目指します。そして、将来的には、上述の基盤から得られる情報を最大限活用しつつ、コンテナの搬出入手続きやCYカット等に係る所要時間がほぼゼロとなるよう、「AIターミナル」のアルティメットモデル(究極型)の実現を目指し、ゆくゆくは、その技術とインフラ整備をパッケージ化し、海外港湾へ積極的に輸出することを目標としています。
 一方、今後懸念される、大規模・広域的な災害に対し、早期復旧・復興を支援するため、岸壁や臨港道路等の耐震化等を進めます。また、災害発生直後の緊急物資輸送に迅速に対応するため、津波警報等により現場に人が近づけない場所であっても、高度なセンシング技術やドローン等を活用し、早期に被災状況を把握する体制を構築し、迅速に復旧・復興活動に移る体制を整えます。更に、海上からの支援受け入れや広域的な代替輸送が機動的に行えるよう、情報を統合・分析し、被災状況やインフラの利用可否、代替ルート情報等を迅速に提供できるシステムを構築します。平成30年7月豪雨や9月の北海道胆振東部地震発生後、離島や陸路が寸断され孤立した沿岸地域等において、海上ルートによる緊急物資輸送、市民移動支援、給水・入浴・洗濯その他生活支援等において港湾業務艇が活躍しました。このため、平常時から、地方港湾も含め港湾施設やその利用状況を把握し、災害時に円滑に輸送支援を実施できるよう事前に関係者との協力関係を強化するとともに、生活支援の一部を担うことも想定し、港湾業務艇について必要な性能等を確保していきます。(図7−1、図7−2参照)

図7−1 図7−2

8.港湾建設・維持管理技術の変革と海外展開
 港湾建設における生産性・安全性の向上と将来の労働力不足に対応するため、調査・測量等の建設生産プロセス全体で3次元データを使用するCIMを積極的に推進します。マルチビーム・水中ソナー・AR(拡張現実)等の先進技術や、IoT・ロボットを活用したモニタリング等の点検業務の効率化を進める等、維持管理業務における生産性の向上を推進し、「i-Construction」の取り組みを更に深化させます。また、プロセス全体の3D化を進め、インフラの点検・管理の効率化や、例えば、ARを活用して若手技術者への熟練技術の継承を支援するための体制構築を進めます。
 更に、新技術の現場への適用を推進するため、国による港湾技術パイロット事業等を通じ、その成果を港湾管理者・民間事業者と共有するためのガイドライン等を作成します。併せて、港湾関連事業者の海外展開を支援するため、技術基準等の国際標準化を進め、ICT等を活用した我が国の先進的な港湾の建設・維持管理・運営技術をパッケージ化し、輸出していくこととしています。(図8参照)

図8

おわりに
 港湾は多様な産業活動・国民生活を支える重要な物流・生産基盤と同時に、人々が集う交流拠点でもあります。国土交通省港湾局では、今回約20年ぶりに策定した「港湾の中長期政策『PORT2030』」に基づき、将来においても、港湾が、我が国経済・社会の発展の原動力として役割を果たせるよう、各施策の実施に向けて邁進して参ります。


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