title
title
title
国土交通省港湾局 産業港湾課クルーズ振興室長 石原 洋
Back Number

1.はじめに
 近年、安価で手軽に海外旅行を楽しめるクルーズ旅行は世界的に人気となっており、世界のクルーズ人口は、10年の間に69%増加した(2005年:1,374万人→2015年:2,320万人)。特に、アジア地域では経済成長とともにクルーズ人口が急増しており、10年の間に174%増加した(2005年:76万人→2015年:208万人)(※1)。
 アジアのクルーズ市場の急成長を背景に、我が国港湾へのクルーズ船の寄港回数も急増しており、2016年のクルーズ船の寄港回数は、外国船社運航のクルーズ船が1,443回、日本船社運航のクルーズ船が574回、合計では過去最高の2,017回(前年比38.7%増)となった(図−1参照)。同時に、訪日クルーズ旅客も急増しており、2016年に我が国へクルーズ船により入国した外国人旅客数は、約199.2万人(2015年:約111.6万人、前年比78.5%増)と過去最多を大きく更新した(図−2参照)。
 我が国では、2016年3月30日、明日の日本を支える観光ビジョン構想会議(議長:内閣総理大臣)において、「明日の日本を支える観光ビジョン」が取りまとめられ、その中で、「クルーズ船受け入れの更なる拡充」を図ることとし、「訪日クルーズ旅客を2020年に500万人」という目標が立てられたところである。本稿では、最新のトピックスである「官民連携による国際クルーズ拠点の形成」を中心に、急増するクルーズ需要やクルーズ船の大型化に対応するためのハード・ソフト両面におけるクルーズ船の受入環境の整備に係る取り組みについて紹介する。
図−1 我が国港湾へのクルーズ船の寄港回数 図−2 クルーズ船による外国人入国者数(概数)
2.クルーズ船受け入れに係る課題港
 我が国への、クルーズ船の寄港の急増に伴い、その受入環境の整備が十分に追いついていないため、ここ数年例えば以下のような課題が生じている。・一部の港湾での「お断り」
 我が国港湾は、大型クルーズ船が寄港できる岸壁や、クルーズ旅客の乗降に適したふ頭が限られている。また、日本に寄港するクルーズ船の多くの発着地である中国では3〜5泊程度のショートクルーズが人気であり、中国から距離が近い九州や沖縄などの西日本の港湾に寄港が集中している。このため、大型クルーズ船に対応した九州・沖縄などの一部の港湾では、クルーズ船社の希望日に予約が取れず、寄港を「お断り」せざるを得ない状況が発生し、潜在的な寄港需要を取りこぼしている。・旅客ターミナルの不足
 我が国港湾は、旅客船専用岸壁が限られており、貨物用岸壁等を活用してクルーズ船を受け入れている。貨物用岸壁で受け入れる場合、クルーズ旅客の乗降時の安全性を確保するため、貨物の荷役の休止や制限を行う必要が生じるなど、荷主や港湾運送事業者の協力を得ながら受け入れることが必要であり、受入可能な岸壁に限りがある。また、旅客と貨物の分離、限られたスペースにおける旅客と車両(バス・タクシー)の導線分離等が課題となることもある。
 さらに、貨物用岸壁等の旅客施設がない岸壁でクルーズ船を受け入れる場合、税関・出入国管理・検疫(CIQ)官署の職員が、クルーズ船の接岸後に乗船し、船内のレストラン等一定のスペースが確保できる場所に仮設の会場を設けて、持ち込んだ機材を設置し、検査・審査を実施することとなる。旅客の下船開始までに時間を要し、検査・審査効率も上がらないことから、旅客にとっては国内で観光するための貴重な時間が削られるという課題も生じている。
図−3 「国際クルーズ旅客受入機能高度化事業」イメージ
3.クルーズ船受け入れの更なる拡充に向けた取り組み
 これら諸課題へ対応するため、「明日の日本を支える観光ビジョン」に基づき、クルーズ船受け入れの更なる拡充に向けてハード・ソフト両面から取り組んでいるところである。
 ここでは、2017年5月30日に観光立国推進閣僚会議(主宰:内閣総理大臣)において決定された「観光ビジョン実現プログラム2017」(観光ビジョン実現に向けたアクション・プログラム2017)の中で掲げられた、以下4つの施策を紹介する。
 
(1)クルーズ船寄港の「お断りゼロ」の実現  クルーズ船寄港の「お断りゼロ」を目指し、国土交通省では、既存の貨物用岸壁等を活用しつつ、大型クルーズ船に対応した係船柱・防舷材の整備やドルフィン・桟橋等の整備を行い、寄港可能な港湾の多様化を推進しており、既存ストックを活用しつつ、少ない投資で多くのインバウンド(訪日外国人旅行者)の獲得を図っている。
 この他、国土交通省港湾局では、2017年4月に、クルーズ旅客の受入機能の高度化を図るため、地方自治体などが実施するクルーズ旅客の利便性、安全性等を向上させるための移動式ボーディングブリッジ等に対する補助制度を創設した(図−3参照)。6月20日には、2017年度第1回募集分として、24港29地区を採用した。本年度内に、予算の範囲内で第2回の公募を行う予定としている。
 
(2)世界に誇る国際クルーズの拠点形成  待合所やCIQ施設がないふ頭では、船内でCIQを行う必要があること等から、クルーズ旅客の受け入れが非効率的な状況が発生している。待合所やCIQ施設を含む旅客施設の整備を促進し、こうした状況を改善するため、2016年度に民間事業者による旅客施設等の建設または改良に対して、資金の無利子貸付による支援を行う制度を創設した。旅客施設等が整備されると、CIQにかかる時間が短縮され、旅客の快適性の向上が期待できる。当該無利子貸付制度の概要は、以下のとおり。
 
<外航クルーズ旅客施設に対する無利子貸付制度の概要> 〔根拠規定〕港湾法第55条の7
〔対象施設〕旅客施設及びこれに附帯する駐車場等の港湾施設
※ 附帯施設…駐車場、道路、橋梁、広場、緑地(イメージは図−4参照)
〔貸付割合〕国:港湾管理者:民間=3:3:4(資金調達の流れは図−5参照)
〔償還期間〕20年(5年以内の据置期間を含む。)
※ その他の貸付け条件は、港湾法施行令第5条から第8条までに規定。
図−4 貸付対象となる施設のイメージ 図−5 資金調達の流れ
 前述のとおり、外国クルーズ船の我が国港湾への寄港需要は増え続けており、クルーズ船社にとって、日本の港湾で寄港できる岸壁を確保することがますます困難になってきている。クルーズ船社は、一般に、一年以上前からクルーズ商品の企画立案を行っているため、早期に寄港地と寄港スケジュールを確定する必要がある。しかしながら、既存の貨物用岸壁を活用してクルーズ船を受け入れている港湾においては、一般に、貨物船のスケジュール確定が後になるため、貨物船とクルーズ船との岸壁の利用調整が問題になる場合がある。このため、特に寄港需要の大きい港湾においては、貨物用岸壁を活用してクルーズ船を受け入れる方法は限界に達しつつあり、クルーズ船を専用的に受け入れる岸壁を備えた国際クルーズ拠点の形成が必要となっている。
 また、我が国に寄港するクルーズ船を運航する船会社の中には、岸壁の優先的な使用を希望する一方で、旅客ターミナルビル等への投資の意向を示す船会社も出現してきた。こうした民間の需要を取り込み、クルーズ船社による投資と港湾管理者による受入環境の整備を組み合わせて国際クルーズ拠点を形成する新しい制度(図−6参照)を創設するため、第193回国会に「港湾法の一部改正する法律案」を提出し、2017年6月2日に成立し、7月8日に施行された。今般の法改正で創設した新たな制度の概要は以下のとおり。
 
① 受入拠点の形成を図る港湾(国際旅客船拠点形成港湾)を国が指定
 ・岸壁の整備状況、クルーズ船社との連携の度合い、クルーズ旅客の見込み数等を総合的に勘案して、国が指定
② 港湾管理者がクルーズ拠点の形成計画(国際旅客船拠点形成計画)を作成
 ・将来の外航クルーズ旅客の受入目標、ターミナルビル等の施設の整備概要、官民の役割分担等を内容とする受入拠点形成計画を港湾管理者が作成
 →計画に基づく工事の許可等の特例を措置
③ 港湾管理者が民間事業者と協定(官民連携国際旅客船受入促進協定)を締結
 ・港湾管理者はクルーズ船社に長期の岸壁の優先的な利用を認める
 ・クルーズ船社等は形成計画に沿って旅客施設を整備するとともに、自社の使用しない日には他社の使用を許容する
 →クルーズ船社等の地位を引き継いだ承継者にも協定の効力が及ぶ規定を創設
 →クルーズ船社等が所有する旅客施設の利用料金が著しく不適切な場合等における港湾管理者による変更命令を規定
 
 7月26日、国土交通大臣は「国際旅客船拠点形成港湾」として横浜港、清水港、佐世保港、八代港、本部港および平良港の6港を指定した。
図−6 国際旅客船拠点形成のイメージ
(3)新たなクルーズビジネスの確立  港湾における多様化するニーズに対応する港湾管理者の負担を軽減し、NPO等による活動を支援するため、港湾の利用促進や管理に資する業務(港湾法第41条の3、表−1参照)を適正かつ確実に行うことができると認められるNPO等を、港湾管理者が「港湾協力団体」として指定(港湾法第41条の2)し、必要に応じて国や港湾管理者が監督や助言等を行うことができる制度が2016年7月1日に施行された。「港湾協力団体」に指定されたNPO等は、業務の実施に関し必要な情報等を国および港湾管理者から受けられるようになった(港湾法第41条の5)。また、港湾区域内水域等を占用する際、港湾管理者との協議が成立することをもって、占用の許可があったものとみなされ、手続の簡素化を図ることができる(港湾法第41条の6)。
 さらに、クルーズふ頭における臨時免税店の出店の促進、「みなとオアシス」(※2)における農水産品等の販売環境の改善によるクルーズ旅客による地域産品の消費の拡大、旅客船ターミナルにおけるユニバーサルデザインへの対応等の取り組みを通じて、クルーズ船の受入環境の向上を推進していく。
表−1 港湾の利用促進・管理に関する業務の概要
(4)全国クルーズ活性化会議と連携し、寄港地の全国展開に向けたプロモーション  クルーズ船の寄港を活かした地方創生のためには、西日本の一部の港湾だけではなく、全国にクルーズ船寄港による効果を波及させることが必要である。
 クルーズ船の寄港地を全国津々浦々に広げるため、「全国クルーズ活性化会議」との連携のもと、外国クルーズ船社と港湾管理者等との商談会を実施するとともに、港湾施設の諸元や寄港地周辺の観光情報を一元的に発信するウェブサイトについて、掲載港湾数を増加させるなどの更なる充実を図り、港湾と観光が一体となったプロモーションを展開していく。
4.「国際旅客船拠点形成港湾」における今後の取り組みの概要
 「国際旅客船拠点形成港湾」として指定された横浜港、清水港、佐世保港、八代港、本部港および平良港の6港の取り組み概要においては、公共がクルーズ船専用岸壁の整備等を行うとともに、民間が旅客ターミナルビル等の整備を行うことになる。なお、2017年度に佐世保港、八代港および平良港においてクルーズ船専用岸壁の整備事業が新規採択されており、横浜港(新港地区)および本部港(本部地区)においても、岸壁の整備が進められている。今後、民間による旅客ターミナルビルの整備等が行われることとなる。
5.最後に
 「明日の日本を支える観光ビジョン」に掲げられた「訪日クルーズ旅客を2020年に500万人」という高い目標の実現のためには、クルーズ船社による配船動向やアジアのクルーズ需要を把握・分析し、受入環境の改善に取り組むことに加え、クルーズ船社、旅行会社、国・地方自治体の関係機関、民間事業者、地域住民、NPO等との協力関係の構築・強化し、我が国へのクルーズ振興を図っていく必要がある。
 その協力関係を深めながら、今回紹介したハード・ソフトの施策を通じて、全国の港に多くのクルーズ船が寄港することで、我が国の成長、観光立国や地方創生の実現に繋げていきたい。
※1クルーズライン国際協会(CLIA)資料
※2地域住民の交流や観光の振興を通じた地域の活性化に資する「みなと」を核としたまちづくりを促進するため、住民参加による地域振興の取り組みが継続的に行われる施設として、港湾管理者等からの申請に基づき、国土交通省港湾局長が認定・登録したもの。

Back Number