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1.生産性革命プロジェクトの推進
 平成28年3月、石井啓一国土交通大臣は、人口減少時代においても経済成長を実現するために、労働者の減少を上回る生産性の向上を目指して、省を挙げて生産性革命に取り組むことを決め、大臣自らが本部長となり「国土交通省生産性革命本部」を設置した。
 そして、同年を『生産性革命元年』と位置付け、都市の渋滞解消による時間短縮や港湾におけるクルーズ船受入環境の整備などいわゆる「社会のベース」の生産性向上に取り組むこと、建設産業や物流産業など「産業別」の生産性を向上させること、さらには「未来型」の投資や新技術で生産性を高めることの3つの分野で生産性向上に取り組むことを示した。(図−1)
 この中で、「産業別」の生産性を高めるプロジェクトの中核として位置づけられたものが、建設現場の生産性向上による魅力ある建設現場づくりの新しい取り組みであり、これが「i-Construction」である。i-Constructionは、ICT(情報通信技術)の全面的な活用等を通じて一人一人の生産性を向上させ企業の経営環境を改善すること、建設現場に携わる人の賃金の水準向上を図るなど魅力ある建設現場を実現すること、これにより「きつい、危険、きたない」のいわゆる3K職場から脱却し希望の持てる職場に変えていくことを目指している。
 i-Constructionの具体的な検討については、生産性革命本部の設置に先立ち、平成27年12月15日に第1回i-Construction委員会が開催され検討が始められた。i-Constructionで中核となる技術は、ドローン(無人航空機)等による3D測量技術と、この3Dデータを取り込んで動く施工機械の技術等である。これらの技術を現場で使いやすくするためには、発注や検査の基準改訂や要領の策定が不可欠である。合計4回の委員会審議を重ねた末、平成28年4月に報告書が取りまとめられるとともに、土工を中心に新たに導入する15の新基準が取りまとめられた。これらは早速、平成28年度から国が発注する土工工事に適用されている。
 このように、新しい技術を積極的に取り入れて現場の施工管理や検査の仕組みを変えていこうという、建設現場に着目した新しい風が吹いており、国土交通省だけでなく、建設業界や建設コンサルタント業界を巻き込んだ大きな流れが動き出している。
図−1 生産性革命プロジェクトの推進
2.港湾工事におけるICT活用状況
 港湾工事の現場においても、ICTの進展の中で、安全で確実な施工管理を行うことにより生産性を高めていくという大きな流れは着実に進展してきている。
 港湾工事で用いる作業船は、陸上工事用機器と比較しても大型のものが多いばかりでなく、ICTを用いた装置等を備えているものも多くみられ、近年その性能も向上してきている。特に、比較的規模の大きい航路浚渫工事に用いられる作業船は、既にGNSS(全球測位衛星システム)を装備したものも多く見られ、浚渫工事の施工管理にICTを取り入れることにより施工箇所のビジュアル化が進んでいるものも多い。(図−2)
 また、水中の測量技術についても、東日本大震災時の航路啓開作業時に大活躍したマルチビームに代表されるように、海底地形を3Dで面的に精度良く把握できる機器が普及してきている。これらの技術は既に海上保安庁の水路測量においても認められているものもあり、従来の深浅測量の方法に取って代われる技術として急速に普及しつつある。
 また、海中の状況を把握できる航空レーザー測深機の技術も精度の向上が見られ、広範囲での海底地形の変化を捉えるツールの一つとして利用を検討する段階まできている。さらに陸上の3Dレーザースキャナやドローンによる写真撮影も含めて、それぞれのツールを組み合わせた活用を考える段階に来ている。(図−3)
 このように、港湾工事の現場においても、生産性革命を進めるための個々の要素技術は発展してきており、これらの技術を生かせる未来型の現場を実現するためには、これらの装置や機器を活用しやすい環境整備を進める必要がある。
図−2 施工箇所の可視化
図−3 ブロック沈下管理をドローン等で実施
3.港湾の特殊性への対応(課題と対応策)
 一方、港湾工事は陸上工事とは異なる特殊性があり、陸上工事とは異なる大変さがある。このため、陸上と同じ仕組みを用いることは難しく、港湾独自のシステムや基準が必要である。
 港湾工事の特異性の一つが、潮汐と波の存在である。港湾工事で用いられる様々な作業船は、時々刻々と変わる潮汐を受けて常にゆっくりではあるが上下に移動しており、また、場所によっては潮流や波の影響により上下及び水平に移動することもある。このため、施工する位置(高さも含む)の精度を向上させることが陸上よりも難しい。
 もう一つの特異性は、海底地形自体が波浪や潮流の影響で変わり得るという点である。特に、外洋で大きな波浪の影響を受ける地域では、時化(しけ)のたびに海底地形に変化が見られる場所もあり、また、内湾においても軟弱な地盤で形成された海底では、海中浮遊物の堆積などにより一度浚渫した地形が変形することもしばしば発生する。
 さらに、透明度が低い海域や、海藻などの海底生物の影響などにより正確な海底地形を把握しずらいことも陸上工事との相違点として挙げることができる。
 もちろん、港湾工事の特異性に対する対処法がないわけではなく、港湾工事の様々な基準や要領は、潮汐や波の影響を受けることを前提として作られている。また、海底地形が変化することについても、工事を受注した業者がまず海底地形を確認するなど、この特異性や地域特性を考慮している。このように現行の制度(基準や要領を含む)は、港湾工事の特異性や地域特性を包含したものとなっている。
 このため、港湾工事において、i-Constructionの新しい技術を本格的に導入する際には、従来の考え方を尊重しつつも、新しい技術への適応性が良く、かつ、将来の類似の技術発展をも視野に入れたシステムや基準を考えておく必要がある。
4.新しい仕組みづくりの要点
 これからの港湾におけるi-Constructionの取り組みの核となるものは、調査から設計、施工管理、検査そして維持管理のフェーズまでの3Dデータの受け渡しと、そのデータを活用できる仕組みづくりである。このために重要となるのは以下の三つの取り組みである。
①3Dデータ受け渡しの環境整備  まず一つ目は、3Dデータ受け渡しのための環境整備である。3Dデータを調査から維持管理の各フェーズまで受け渡しするためには、そのためのソフト・ハード面の環境を整備する必要がある。ソフト面の環境整備のために不可欠なことが、発注や検査などで現在使われている基準や要領の新設・改訂である。従来から用いられている発注や検査の基準や要領は、3Dデータに対応したものとなっていないため、調査や工事で3Dデータを取得しても、その成果の受け渡しは、2Dの図面等で行うことが前提となっており、調査や施工管理で使われている3Dデータを次のフェーズに受け渡しする仕組みが存在しない。また、これらの基準や要領の整備と併せて、ハード面の環境整備として、3Dデータを取り扱える性能をもったPCや大量のデータをやり取りできる記憶媒体などの整備も必要である。これらの整備により、データを受け渡しできる環境(プラットフォーム)を整えることができる。
②アプリケーションやコンテンツの整備  二つ目は、受け渡しできた3Dデータを活用して効率的な業務を行うためのソフトの整備である。例えば、3Dデータを用いて、港湾工事独自の考え方を取り入れた数量計算や、工事の出来形の確認・評価などが行えるアプリケーションソフトの開発・整備は、業務の効率化には欠かせない。また、防波堤や岸壁などに用いられる各種資材等の仕様等を整理したコンテンツ(部品)の整備も重要である。これらの開発・整備にあたっては、官民の役割分担や民同士の協力及び競争により進められるものと考えている。ノウハウを持った港湾関係の法人やコンサルタントの協力や開発競争により、より質の高いものができることを期待したい。
③人材の育成  三つ目は、新しい仕組みを支え利用する人材の育成である。特に、新しい基準や要領の内容を理解した上で、3Dデータを取り扱える人材が育たなければ、この仕組みは機能しない。このためには、発注側と受注側の両方に、3Dデータを取り扱うことができ、かつ、港湾独自のアプリケーションソフト等を使える技術者が必要である。このため、発注者及び受注者を交えた研修等、技術者を育成する取り組みも進めていく必要がある。
 三つの取り組みを進めるにあたって特に留意すべき重要な点は、今回の生産性革命が単にコストダウンの取り組みに終わらないようにすることである。今回の生産性革命は、将来予想される労働者・技術者の不足の状況の中でも良い品質のものが作れる仕組みを整備することであり、業務の効率化を通じて労働生産性を上げる取り組みである。i-Construction推進の過程では、ICT導入のための先行投資も必要であり、今後の港湾工事現場のために今乗り越えていかなければならないことでもある。
 さらに、この仕組みを支える基礎的な技術のレベルアップ、精度向上等のための技術開発も非常に重要であり、例えば水中遠隔操作システムの開発や水中音響3Dカメラの開発など海上工事ならではの新技術開発を積極的に進める必要がある。このようなことも踏まえて、国土交通省港湾局では平成28年4月に「港湾の技術開発にかかる行動計画」を策定している。
5.港湾分野へのICT導入の取り組み
 港湾分野でi-Constructionに取り組んでいくためには、前述の3Dデータ受け渡しの環境整備など、現場におけるICTの導入・活用に向けた具体的な検討が必要であることから、国土交通省港湾局では平成28年6月に「港湾におけるICT導入検討委員会」を設置し、測量から設計、施工、検査に至る一連の建設プロセスへのICT導入による情報の3D化の実現に向けた検討を進めてきた。平成28年度は、ICT導入のトップバッターとして、浚渫工を対象に3Dデータの受け渡し環境の実現に必要な基準類の整備について検討を実施したところであり、今回整備した基準類の概要は以下のとおりである。
【調査・測量】 〇「マルチビームを用いた深浅測量マニュアル(浚渫工編)(案)」
 浚渫工におけるマルチビームを用いた深浅測量を実施する際の標準的な作業方法、使用する機器等について規定するとともに、測量技術としてのマルチビームを用いた深浅測量に対する理解を深め、その利用の普及・促進を図るための解説を記載。
【設計・施工計画・積算】 〇「3次元データを用いた港湾工事数量算出要領(浚渫工編)(案)」
 マルチビーム測量により取得された3Dデータを用いた浚渫土量の算出方法として、「TIN分割等を用いて求積する方法」、「プリズモイダル法」の二つの手法を記載。
〇「港湾請負工事積算基準」
 マルチビーム測量の歩掛かりを新たに策定。
【施工・施工管理】 〇「3次元データを用いた出来形管理要領(浚渫工編)(案)」
 マルチビームによる出来形計測および出来形管理が、効率的かつ正確に実施されるため、以下の事項を明確化。
 1)マルチビームを用いた出来形計測の基本的な取り扱い方法や計測方法
 2)取得データの処理方法
 3)各工種における出来形管理の方法と具体的手順、出来形管理基準及び規格値
【検査】 〇「3次元データを用いた出来形管理の監督・検査要領(浚渫工編)(案)」
 マルチビームを用いた出来形管理に係わる監督・検査業務に必要な事項を定めるとともに、受注者に対しても、施工管理の各段階で、より作業の確実性や自動化・省力化が図られるよう留意点等を記載。
6.今後の展開
 平成29年度は、今回整備した基準類を用いて、全国でICTを活用した浚渫工(ICT浚渫工)の試行工事を実施し、基準類の精査・検証を行うこととしている。また、ICT浚渫工の導入に引き続き、港湾構造物工事における3Dデータの活用や、水中施工機械の遠隔操作化といったICTの活用など、港湾工事の生産性向上に向けた取り組みを推進するため、これらの実現に不可欠となる基準・要領等の検討を進めるとともに、ICT施工を支える要素技術、システム等の開発・導入を推進していく。(図−4)
図−4 今後の展開イメージ
7.おわりに
 我が国の港湾開発は戦後の経済復興とともに飛躍的に進んだが、その中で積み重ねてきた港湾整備の技術や経験を整理し、調査、設計、発注(積算)、出来形確認や完成検査等の仕組みが整えられてきた。
 このような仕組みに、近年飛躍的に進展したICTを取り入れ、今後10年先、20年先の港湾の未来の現場のあり方を模索する作業が、港湾におけるi-Constructionの取り組みであると考えている。
 このためには、新しい技術の取り入ればかりに目を向けるのではなく、今日まで積み上げられてきた技術に光をあて、その内容を理解した上で、従来技術の優れた部分の継承と新しい技術との融合を図る必要があり、多くの関係者の知見や経験を集約することが欠かせない。次世代のための新しい仕組みづくりを行うため関係者の皆様の協力を引続きお願いしたい。

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