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国土交通省 大臣官房公共事業調査室 |
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はじめに |
平成28年5月、東亜建設工業㈱が施工した平成27年度東京国際空港C滑走路他地盤改良工事を始めとする5件の地盤改良工事において、施工不良及びデータ改ざんによる虚偽の報告等(以下「施工不良事案」)の問題が判明しました。これらの施工不良事案に関し、原因、修補、再発防止等について専門的見地から検討し、国土交通省に対して提言を行うことを目的として、同月31日に「地盤改良工事の施工不良等の問題に関する有識者委員会」(以下「有識者委員会」)を設置しました。 本稿では、有識者委員会において提言としてまとめられた中間報告書のうち、施工不良事案の概要、施工不良等に係る原因、再発防止策及び地盤改良工事の修補を中心にその内容を簡単に紹介します。 有識者委員会の構成(役職・所属は委員会当時) 委員長:大森文彦東洋大学教授・弁護士 委 員:春日井康夫国土技術政策総合研究所副所長 委 員:桑野玲子東京大学生産技術研究所教授 委 員:芝昭彦弁護士 委 員:善功企九州大学大学院特任教授 |
1.施工不良事案の概要 |
過去10年間に東亜建設工業㈱が行った「薬液注入」または「曲がり削孔」を伴う国土交通省発注工事のうち、バルーングラウト工法を用いた地盤改良工事5件において、施工不良及び虚偽報告が発覚しました。 5件の工事は、いずれも供用中の空港の滑走路等の直下の液状化対策のためのもので、薬液が必要量注入されない等の施工不良、加えて工事の監督・検査においてデータ改ざん等による虚偽報告が行われたものです。 |
1−1.施工不良 |
(1)曲がり削孔に関する問題
東京国際空港H誘導路等では、鉛直に削孔しているため、削孔自体には問題はありませんでした。一方、福岡空港、東京国際空港C滑走路等で行われた曲がり削孔については、次のような問題が生じていました。
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1−2.データ改ざんによる虚偽報告 |
(1)曲がり削孔時
曲がり削孔においては、削孔精度が極めて低い状況でしたが、監督職員の立会時に、実測値ではなく規格値を満たす削孔位置及び削孔長を管理用パソコンのモニターに表示し、虚偽の報告を行っていました。 (2)薬液注入時 施工不良事案においては、いずれも薬液注入が計画通りに行えなかったため、実際の注入速度、注入圧力等ではなく、所定量を注入できたかのように規定値を満たす注入速度、注入圧力等をモニターに表示し、またチャート紙にも規定値を満たす値を記録し、発注者に提出していました。 (3)材料の不正な処分 薬液注入に使用する薬液については、規格値を満足する数量を現場に搬入していますが、薬液の注入ができないことにより生じた廃液や余った薬液については、注入がうまくできていないことが発覚しないよう、産業廃棄物としてまたはメーカーへの返品により処理をしていました。 (4)事後ボーリング 地盤改良施工後の地盤の強度確認を行うための事後ボーリングにおいて、薬液が十分注入されておらず、供試体に十分な強度が発現しないことが予想されたため、供試体を差し替えて、一軸圧縮試験を実施していました。 |
2.施工不良・虚偽報告の原因 |
東亜建設工業㈱がとりまとめた「平成27年度東京国際空港C滑走路他地盤改良工事における施工不良等に関する調査報告書」等によれば、施工不良及び虚偽報告等に至った原因は、以下のとおりとなっています。 (1)新たな工法の技術開発審査と現場適用の不適切さ
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3.再発防止策 |
3−1.受注者側による再発防止策 |
(1)東亜建設工業㈱の対応
今般の事案は、未成熟な工法であるにも関わらず、バルーングラウト工法(これに伴う曲がり削孔技術を含む)を適用した工事を繰り返し行っていたところに問題の根幹があります。また、施工不良が発生した場合に、適切に対応する仕組みの不備と意識の欠如が、虚偽報告の大きな要因となっています。 再発防止策は、策定すること自体が目的ではなく、確実に実施することが重要です。国土交通省においては、以下の視点を踏まえて、しっかりとフォローを行うことが求められます。
特に、新技術の導入時には、想定外の問題が発生し、これが施工不良につながることが、どの企業においてもあり得るため、関係業界において以下の点について、点検を行うことが望まれます。
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3−2.発注者側が行うべき再発防止策 |
発注者側である国土交通省が取り組むべき事項として、東亜建設工業㈱による再発防止策のフォロー、関係業界の取り組みを適切に支援する施策の展開のほか、次のような対応が求められます。 (1)施工方法の選定における対応
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4.地盤改良工事の修補 |
(1)基本的な考え方
施工不良事案に係る修補においては、適切に施工管理を行った上で、確実に施設の修補を行うことが必要です。しかし、施工不良事案に係る修補は、中途半端に改良され、また残存物の存在する地盤を再改良するというこれまでに未経験の工事であり、地盤条件のばらつきが大きな課題となります。 このため、地盤をどのように評価するかがポイントとなり、修補に際しては、工事において設定した仕様(薬液注入量等)を厳密に履行することよりも、地盤の改良効果を性能の面から評価することが適当です。 そのような観点から、各現地での実施工に先立ち、綿密な地盤調査及び試験施工を実施し、原地盤及び改良地盤の強度の適切な評価、削孔精度、地盤改良効果等の施工品質の確実性、並びに今般のような施工不良が生じた場合の対応などを検討する必要があります。 また、供用中の各空港において、施工条件は様々異なることから、各地方整備局が、工事(または空港)ごとに有識者による委員会を設け、技術的な検討を行い、修補の施工方法について決定することが望まれます。さらに、修補工事の実施に当たっては、3−2で示した監督・検査の方法を先行的に適用することなどにより、確実な施工を担保する必要があります。 (2)考慮すべきポイント 修補計画を立案する場合にあっては、下記の項目を考慮し、適用可能な工法を選定することを基本とします。なお、試験施工において、確認された地盤の状況から、修補の工法の再検討が必要になる場合もあります。
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終わりに |
施工不良事案については、再発防止策を早急に検討し、実行に移していくことが重要であり、国民の皆様の懸念を払拭するためにも、国土交通省としても再発防止策、修補について、真摯に取り組んでまいります。ここでは簡単に御紹介しましたが、国土交通省ホームページに「地盤改良工事の施工不良等の問題に関する有識者委員会」に係る開催状況、配布資料、中間報告書等を掲載しておりますので、ご参照ください。最後に、中間報告書のとりまとめにあたり、有識者委員会の皆様をはじめ、ご協力・ご指導いただいた関係者の方々に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。 |
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