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国土交通省 港湾局海洋・環境課専門官 齋木 良之
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1.洋上風力発電を取り巻く情勢
 我が国のエネルギー政策の基本的な方向性については、平成14年に制定された「エネルギー政策基本法」に基づき、エネルギーの需給に関する施策の長期的、総合的かつ計画的な推進を図るために策定する「エネルギー基本計画」において示されている。現在は第四次計画(平成26年4月11日閣議決定)が策定されたところであるが、本計画において再生可能エネルギーについては、「温室効果ガスを排出せず、国内で生産できることから、エネルギー安全保障にも寄与できる有望かつ多様で、重要な低炭素の国産エネルギー源である」、「平成25年から3年程度、導入を最大限加速していき、その後も積極的に推進していく」とし、さらに、洋上風力発電については、「中長期的には、陸上風力の導入可能な適地が限定的な我が国において、洋上風力発電の導入拡大は不可欠である」と位置付けている。
 また、平成19年に制定された「海洋基本法」に基づき、海洋に関する施策についての基本方針等を定めた「海洋基本計画」(平成25年4月25日閣議決定)においては、「管理者が明確になっている海域における先導的な取り組みとして、港湾区域においては、洋上風力発電が、港湾の管理運営や諸活動と共生していく仕組みの構築によって、引き続き導入の円滑化に取り組む」と位置付けている。
 港湾が洋上風力発電の導入海域として期待されているのは、①港湾背後の工場立地が多いことから電力系統への接続が容易であること、②大型風力発電施設の建設のための輸送インフラ(岸壁、ヤード)が近接していること、③管理主体である港湾管理者が存在し、海域の利用調整や管理の仕組みが港湾法により担保されていることが挙げられる。
2.港湾における洋上風力発電の導入に向けた取組状況
 こうした社会的要請を受けて、国土交通省港湾局は、平成24年6月に、環境省地球環境局と連携して、「港湾における風力発電について−港湾の管理運営と共生のためのマニュアル−」(以下、「マニュアル」という。)を策定し、港湾空間へ風力発電を円滑に導入するための手順を示した。マニュアルでは、港湾管理者による導入検討協議会の設置、導入適地の設定、適地の港湾計画への位置付け、公募による発電事業者の選定、港湾区域の占用許可手続き等について記載している。
 マニュアルに基づき、現在、稚内港、石狩湾新港、むつ小川原港、能代港、秋田港、鹿島港および御前崎港において、港湾計画に導入区域が設定されるとともに、むつ小川原港、能代港、秋田港及び鹿島港においては事業予定者が選定されている(図−1)。また、鹿島港では、選定事業者が平成27年度に陸上建設工事に着手する予定である。
図−1 港湾における洋上風力発電の導入計画等
3.技術ガイドライン
 港湾管理者は、導入適地の設定、適地の港湾計画への位置付けおよび港湾区域の占用許可手続きの各段階において、洋上風力発電の導入が、港湾の開発、利用および保全と調和するよう様々な観点から所要の検討や審査を行うことが必要となる。しかし、沖合を広範囲にわたって占用することとなる洋上風力発電については、検討や審査の際の判断基準となるものがなく、このままでは円滑な導入に支障が生じかねない。そのため、国土交通省港湾局では、洋上風力発電施設の構造安定や船舶航行の安全にかかる技術的な事項を、上記の検討や審査の際に確認できるよう、平成27年3月、「港湾における洋上風力発電施設等の技術ガイドライン(案)」(以下、「技術ガイドライン」という。)を策定し、公表した。技術ガイドラインの概要は次のとおりである。

(1)検討体制
図−2 検討体制
 技術ガイドラインの策定にあたっては、有識者、関係団体、関係機関等からなる「港湾における洋上風力発電の導入円滑化に向けた技術ガイドライン等検討委員会」(委員長:足利工業大学 牛山泉学長)を平成26年1月に立ち上げ、平成27年3月までの間、4回開催し、洋上風力発電施設の構造安定や船舶航行の安全性の確保等についてご議論頂いた(図−2)。

(2)構成
図−3 技術ガイドラインの目次制
 技術ガイドラインは、5章構成となっており、第1章に総則、第2章に洋上風力発電を導入する適地を港湾計画へ位置付ける際に考慮する事項を定め、第3章以降は港湾管理者が占用許可の審査の際に確認する事項として、第3章に洋上風力発電と港湾施設等との離隔や、洋上風力発電施設の捕捉・識別を容易にする塗色や灯火等、第4章に維持管理計画、第5章に緊急時対応計画について定めている(図−3)。

【第1章 総則】
 技術ガイドラインを適用する対象は、原則として、港湾区域に設置される着床式の洋上風力発電施設等(洋上風車、洋上変電施設、観測塔及び海底送電線・通信ケーブル)とし(図−4)、技術ガイドラインに記載のない事項については、洋上風力発電施設等に関するその他の基準・指針等に準拠することとしている。この他、港湾法や港則法等の関連法令等を記載し、技術ガイドラインで使用される用語の定義についても定めている。
図−4 技術ガイドラインの対象施設
【第2章 港湾計画への位置付けおよび占用許可申請の審査事項】
 港湾管理者が、港湾計画に洋上風力発電施設の設置可能な範囲である「再生可能エネルギー源を利活用する区域」を設定する際には、次の9事項を考慮するものとしている。
①洋上風力発電の計画規模
②自然条件
③港湾施設・海岸保全施設
④港湾計画で定める事項(将来構想を含む)
⑤海岸保全基本計画などの既存の他の計画との整合
⑥飛行場等の施設
⑦船舶交通およびその他の水域利用等
⑧荒天時の避泊
⑨景観
 また、港湾管理者は、洋上風力発電事業者が港湾区域に洋上風力発電施設等を設置する場合の水域占用許可の審査にあたって、マニュアルも参考としつつ、洋上風力発電事業者による技術ガイドラインの第3章以降の記載事項の実施状況を確認するものとしている。

【第3章 洋上風力発電施設等の計画および設計】
 第3章では、洋上風力発電施設等の計画および設計等に必要となる調査項目、施設の配置計画に必要となる港湾施設等との離隔距離や船舶交通への配慮事項、施設の設計にあたり必要となる船舶交通や構造安定への配慮にかかわる事項、および海底送電線・通信ケーブル敷設時の配慮事項等について定めている。

①調査項目
 洋上風力発電事業者は、港湾区域における洋上風力発電施設等の計画および設計にあたって、気象、海象、地盤、生物環境、船舶交通およびその他の水域利用、港湾計画等についての調査を実施するものとしている。ここで、気象とは風、海象とは潮位、流れ、波浪、津波および流氷、地盤とは土質および基礎地盤の変化、生物環境とは基礎工の表面に付着する生物、船舶交通とは洋上風力発電施設の設置海域及びその周辺における船舶の航行、停留、錨泊、その他の水域利用とは漁船、遊漁船、プレジャーボート等による水域利用をそれぞれ指している。

②洋上風力発電施設の配置
 洋上風力発電施設の配置については、洋上風車のロータの範囲が「再生可能エネルギー源を利活用する区域」の外側に突出しないようにするものとしている(図−5)。また、洋上風力発電施設と航路等の水域施設等との離隔は、洋上風力発電施設が倒壊した場合でも、水域施設等に直接の影響がおよばないこと及び風車後方の乱流範囲の影響を考慮したものとなるよう、設定するものとしている(図−6)。ここで、航路等の水域施設等とは、港湾法上の水域施設の他、港則法上の航路、管制水路、指定錨地及び検疫法上の検疫錨地、法律に基づかずに慣習的に航路や錨泊に用いられている水域を指している。また、洋上風力発電施設と外郭施設等との離隔は、防波堤等の外郭施設、あるいは離岸堤や潜堤などの海岸保全施設に対して、洋上風力発電施設が倒壊しても直接の影響が及ばないよう設定するものとしている(図−7)。なお、外郭施設等との離隔は、施設管理者及び施設所有者との協議により、技術ガイドラインで示している考え方で設定される離隔距離より短くすることができる。また、洋上風力発電施設の基礎が重力式基礎である場合には、地震動の作用時に滑動することが見込まれるため、これも踏まえて離隔距離を設定するものとしている。
③船舶交通への配慮した配置計画
 洋上風力発電事業者は、港湾区域における洋上風力発電施設の具体的な配置計画の策定に際して、船舶交通に影響を及ぼすと懸念される場合は、その影響の度合いを評価し、必要に応じて影響を軽減する措置を講じるものとしている。また、船舶交通に及ぼす影響の一例として、洋上風力発電施設が船舶操船時において他の船舶、地形、航行援助施設、その他の物標等の捕捉・識別に及ぼす影響及び船舶用レーダー等の機器に及ぼす影響が考えられる。

④船舶交通に配慮した設計にかかわる事項
 洋上風力発電事業者は、船舶接近に対し十分な安全性を確保するため、昼夜や気象などの環境条件に関わらず、洋上風力発電施設を常に捕捉・識別性を維持するものとしている。技術ガイドラインでは、施設の捕捉・識別性を維持するための方法として、施設の視認性を高める塗色を採用し、夜間や視界制限状態における視認のための灯火を設置することを示している。なお、施設の捕捉・識別性を維持するための方法の検討に際しては、国際航路標識協会の勧告書等を参考にできることとしている(図−8)。また、洋上風力発電事業者は、洋上風車のロータ最下端の最低高さの設定において、風の乱れの影響や荒天時でも波浪が当たらないロータの高さを考慮するものとしている。
図−8 洋上風力発電施設と外郭施設等との離隔
⑤構造安定に配慮した設計にかかわる事項
 洋上風力発電事業者は、波浪・潮流・津波による基礎地盤の洗掘、港湾工事に伴う浚渫および施設設置後の圧密沈下といった基礎地盤の変化が考えられる場合、あらかじめその変化量を考慮し、地震による基礎地盤の液状化が考えられる場合、事前にその変状を考慮した上で、必要に応じて適切な対策を講じるものとしている。また、洋上風力発電施設の基礎工が海水中の腐食作用のほか、海底砂の移動による構造表面の摩耗作用を受けることに留意するものとしている。

⑥海底送電線・通信ケーブル敷設時の配慮事項
 海底送電線・通信ケーブルの敷設は、埋設を標準とし、基礎地盤が岩である等の理由により埋設が不可能な場合は、防護管等による海底送電線・通信ケーブルの保護や強度を有するケーブル材の活用をもって、埋設に代えることができるとしている。また、海底送電線・通信ケーブルの敷設にあたり、外郭施設等の横断が必要な場合は、施設管理者との協議が必要となる。

【第4章 維持管理計画】
 洋上風力発電事業者は、港湾区域に設置される洋上風力発電施設等について、「維持管理計画」を策定し、当該計画に基づいて、的確に維持管理を実施する必要があり、その維持管理の結果を港湾管理者に報告するものとしている。当該計画には、少なくとも維持管理体制及び維持管理項目について記載する必要がある。維持管理体制については、海洋・港湾構造物の維持管理に専門的な知識および技術または技能を有する者の下で行うこととしている。維持管理項目については、防食管理および基礎地盤の変化について記載することとし、施設の点検の頻度、方法、結果の評価基準および対応策について定めておくものとしている。

【第5章 緊急時対応計画】
 洋上風力発電事業者は、洋上風力発電施設等に異常が発生した場合等についての「緊急時対応計画」を策定し、緊急時には当該計画に従って対応し、緊急時の対応について、その結果を関係機関に報告するものとしている。当該計画には、少なくとも関係機関との連絡体制、緊急時における対応手段および緊急時対応訓練の実施について記載する必要があるとしている。
4.洋上風力発電の導入に伴う課題と将来の展望
 洋上風力発電施設は、沖合に広範囲に多数設置されることが想定される民間所有の大型施設である点から、従来の占用物件とは異なるため、港湾管理者による水域占用許可にあたっては、技術ガイドラインで示した技術的な判断基準に加え、管理面での判断基準が必要となる。そのため、水域占用許可の付款が的確なものとなるよう、洋上風力発電の導入に対応した港湾区域の管理にかかる指針の策定に取り組むこととしている。
 一方、洋上風力発電は、陸上風力発電と比べ風況が良好な区域への立地や大規模化が可能であること、人家への騒音影響が少ないことなどのメリットがあるものの、風車の設置や維持管理をはじめ関連施設の設置等にかかるコストが増大するといった課題がある。
 今後の導入拡大にあたっては、このコストの低減が課題の一つとして挙げられるが、導入海域の大規模化が解決に向けた鍵になると言われている。
 これは、大規模な導入容量が見込まれる海域の創出によって、事業の採算性の目処が立ち、投資環境が整うことによる洋上風力発電の資機材の製造やメンテナンスに関する国産技術が成長、更に加工組立拠点の形成の促進により施工効率や関連機器の稼働率の向上が見込まれるためである。
 また、大規模な導入海域の創出により加工組立拠点の形成が進んだ場合、地域経済の活性化も見込まれる。そのため、地方公共団体によっては、再生可能エネルギーの導入に向けた構想を策定するなど、様々な取り組みを進めているところであり、特に風力発電は、大規模なものになれば、必要な部品点数が約2万点といわれているため、幅広い産業を生み出すことが期待されている。さらに、風力発電の構成部品は精密加工が必要となる大型歯車や大型軸受、ハイテク化した発電機や電力変換装置など、日本のものづくりの強みを活かしやすいものであるため、海外への輸出や、新たな産業雇用の創出に向け大きな期待がもたれている。港湾において洋上風力発電の導入が大規模に進んだ場合には、港湾背後の産業集積や新たな雇用の創出をはじめ、取扱い貨物の増大により、港湾の一層の活性化が見込まれる。
5.最後に
 今後とも、港湾区域の的確な管理・利用調整方策や港湾の効果的な活用方策について検討を進め、関係省庁等との連携のもと、港湾の開発、利用及び保全と調和のとれた洋上風力発電の導入となるよう、所要の取り組みを進めていきたい。

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