title
title
title
Back Number

建設業界で女性技術者を活用しようという動きが活発化している。港湾土木工事ではまだ少数だが、第一線で活躍する女性技術者がいる。4人の技術者を紹介する。
 東洋建設(株)の鬼塚恵さんは現在、神戸港ポートアイランド(第2期)地区航路・泊地(ー16m)等浚渫工事(第2工区)を担当する東洋・みらい・大本特定建設工事共同企業体の事務所に勤務する。入社して9年目だが、長年勤めた一般職(事務)から昨年7月に総合職に移り、この現場に配属された。鬼塚さんが現場に出てみたいと思った動機はなんだったのか。
現場に出てみようと思った動機は
 もともと高等専門学校の都市工学科を卒業したのですが、入社当時は体力的に自信がなく、事務職を選択しました。ただ、会社勤めをしているうちに、自分もものづくりをしてみたいと思いはじめ、上司に相談したら挑戦してみたらどうかと言われ、まず資格取得の勉強を開始しました。資格取得には現場経験も必要ですので、いくつか陸上土木の現場を担当させていただきました。こうした周囲の方々の支援もあり、一昨年一級土木施工管理技士の資格を取得でき、少し自信もできたので、昨年7月に総合職に移らせていただきました。
現場ではどのような仕事を担当されているのですか
 作業船の運航管理が主な仕事です。浚渫船は船団をつくって作業するのですが、レーダーで作業区域内に入ってきそうな一般船舶を感知し、警戒船にその情報を伝え、注意喚起を促してもらったり、航路浚渫時に大型船舶が入港してくると、作業船団を速やかに待避させたりしています。現在は1船団ですが、航路浚渫時は3船団いましたので、船舶の運行を妨げることなく、安全な施工ができるように心がけていました。同時に土運搬船を効率よく運行させるため、配船管理も行っています。運行管理の仕事はこの工事の主船団となるグラブ浚渫船「讃岐号」のブリッジに詰め、そこでレーダーのチェックなどを行いながら、指示を出しています。
作業船に乗船して困ったことはありますか
 周囲の方々がいろいろな面で気を遣ってくださり、私自身が困ったと感じることはありません。トイレは作業船の2階にある船員住居用トイレを専用に使わさせてもらっています。個人的には、作業船の中の階段が急だと最初感じましたが、それも慣れてきました。
現場に配属されて5カ月が経過しましたが
 当初、現場の上司や作業船の船員の方々の会話内容がほとんど理解できませんでした。ウインチやペンドル(船の緩衝材)、ボラード(船を係留する柱)などと言われてもまったく分からなかったのですが、今は専門用語も少しずつ理解できるようになりました。とにかく分からない、理解できない時はそのままにせずに、その場で上司や先輩方に聞く。これを心がけています。作業時の危険ポイントなども自分では判断できないことが多いので、必ず聞くようにしています。
将来の目標は
 今は上司にいろいろなことを聞き、実際の現場を見て、いろいろなことを覚えることが大切だと思っています。いずれは自分で施工上の判断や金銭的な管理などもできるようになりたいと思います。最終目標はやはり現場所長です。それはだいぶ先になりそうですけど。
グラブ浚渫船「讃岐号」のブリッジに詰め、レーダーで作業区域内に入る一般船舶をチェックする。
鬼塚 恵(おにつか・めぐみ)
 周囲からは「ものおじをしない。よく質問し、何でも聞いてくる」(東洋・みらい・大本JVの高木崇現場代理人)という印象のようだ。協力会社である作業船の船員の方々とも「きちんとコミュニケーションがとれています」という。休日は資格を持つネイルアートを楽しんでいる。
 今年が入社21年目。(株)不動テトラの赤井洋子さんは、港湾土木女性技術者の先駆者とも言える女性だ。港湾土木分野に女性技術者がほとんどいない時代に、入社後14年間にわたって現場の第一線で活躍した。現在、子育てをしながら土木事業本部技術部積算室に勤務する。赤井さんに今の目標を聞くと、「今は仕事と家庭の両立です」ときっぱりと答えた。
現場勤務はどうでしたか
 最初の現場は東京港臨海道路西仮防波堤建設工事でした。現場事務所には当社の上司とJV(建設共同企業体)のサブ会社の職員、私の3人でした。何でもやる覚悟で現場に行ったのですが、本当にお弁当の注文から現場の施工管理まで、何でもやるのだなと思ったことと、みなさんにいろいろと教えて頂いたことが記憶に残っています。
初めて現場代理人に就任されたのはいつですか
 31歳の時です。清水港新興津泊地(−15m)浚渫工事を担当したのですが、とにかく仕事のことで頭がいっぱいでした。海洋工事は気象や海象によって作業が左右されるので、天気マニアのように気象情報を常に気にしていました。休暇でも気が抜けず、無我夢中で仕事をしたという感じです。その後も8現場ほど現場代理人や監理技術者を経験させてもらいました。
女性技術者だから苦労したという点はありますか
 よく同じ質問を受けるのですが、建設業界に入職する女性技術者はみんな覚悟を決めて入ってきていると思います。周囲の方々は、いろいろと気を遣ってくださっていると思うのですが、女性技術者本人はそれほど困ったということは少ないのではないでしょうか。ただ、海洋工事では作業船に乗り移る時にはしごで上がったりすることもあるので、体力的に厳しい面が多少あるかもしれません。
現場勤務時代に心がけていたことはありますか
 立場上、作業員の方々に指示を出さなければいけないのですが、年配の男性が指示するのと、私が指示するのでは受け取り方が違うのか、言い合いになることもありました。でも、いつも思っていたのは「最初は仕方がない。次の仕事であった時に信頼関係ができ上がっていればいい」ということです。海洋工事は狭い世界です。何度も同じ方と一緒に仕事する機会があります。その時に信頼関係でつながっていれば良いのです。
女性技術者の後輩にはどのような声をかけていますか
 社内に現在、7人の女性技術者がいます。年に1〜2回みんなで会合を開き、悩みや課題を話し合っています。大きな課題があれば、労働組合に相談することもあります。おかげさまで当社の女性技術者の離職率は低いと思います。私も何とか子育てをしながら仕事ができているのは職場の方々の理解と家族の協力によるところが大きいので感謝しています。
 現場代理人になりたてのころ、ある会合で港湾にかかわる女性の方々と懇談し、みなさんが仕事以外にもいろいろな活動をしていて、すごい人たちだと思いました。その時、その中の方に『あなたは今、仕事を一生懸命にやる時期なのよ。そういう時期も大切なのよ』と言われました。今は子育てと仕事の両立が目標ですが、あの時仕事に打ち込んだことが後になって良かったと思っています。後輩技術者には、その時の状況にあった適切なアドバイスができれば良いと思っています。
現場の経験を生かし積算業務を担当。
赤井 洋子(あかい・ようこ)
 1歳と3歳の子供を持つ2児の母親。現場復帰については「子育て中で、正直分からない」という。現場の厳しさや責任の重さを知っているだけに、安易な決断は下せない。ただ、入社した時からの「とにかく何でもやります」という気持ちは今も変わらない、とも。
 五洋建設(株)土木部門土木本部環境事業部に勤務する竹山佳奈さんは海洋生物の専門家。工事施工中の生物への影響や、海洋構造物完成後の生態系や環境の変化、藻場や干潟の環境などを調査し、良好な生物環境づくりの提案などを行っている。2児の母親で子育て中だが、現場から依頼があれば、数日間家を空けて現地調査に出かけることも多い。女性が子育てをしながら、どう仕事を円滑に行っているのか、極意を聞いた。
現在の仕事内容は
 港湾工事に伴う海水の濁りや騒音、水中音などが海洋生物にどのような影響を与えているのか。あるいは造成した干潟や藻場の効果や環境の変遷、漁業関係者が心配される魚や貝などの生息状況などを調査しています。現場からの海洋生物に関する要請があれば、各種調査を行い、その結果を関係者に説明したりしています。
仕事で苦労されていることは
 各種調査やその調査結果を関係者に説明する際、女性研究者で大丈夫なのかと思われることがありました。環境事業部に配属された当初は、経験が少ないこともあり、明らかにそういう態度を感じることもありました。そこで、経験を積むことと、資格を取得することを目指しました。現在、技術士(水産部門・建設部門)の資格を取得したのですが、この資格を取得したことで、周囲の見る目は違ってきたと思います。週末に資格取得の勉強をしていたのですが、その間主人が子どもの面倒を見てくれたお陰です。
子育てと仕事の両立は大変なのでは
 1人目の子どもができて、育児休暇から仕事に復帰した時は、ちょうど夫も仕事が忙しくて、私1人が仕事をしながら子育てをしなければならない時期がありました。これではとても仕事は続けられないと思い、夫と相談しました。夫は土木技術者なのですが、建設会社には土木技術者は大勢いるが、海洋環境分野のスペシャリストは少ないと言ってくれて、夫が会社を辞めました。いまは子どもが成長し、再び建設関係の仕事に就いて、自分のやりがいのある分野で活き活きと働いていますが、夫の決断には今も感謝しています。
仕事で出張なども多いのでは
 国内外に出張します。現場で調査する際、最低でも2〜3日は現地に滞在します。2人の子どもがいますが、夫と出張が重なったり、残業で忙しい時は、地域のサポートを受けたり、近所のママ友達に子どもを預かってもらったりしながら、仕事に影響がでないように何とかやっています。女性が働くということは保育所や学童保育など施設面の整備はもちろんですが、男性も育児にも積極的に参加できるような環境が大切です。
今後の目標は
 自分がやりたいと思っていたことが仕事になっていることはありがたいことです。ただ、自分がしたいと思うことと、会社が求めていることが必ずしも全て一致するとは限りません。会社の中で私の仕事は何が求められているのか。それが少しずつわかってきて、会社の中でやるべきことと、自分がやりたいこととのベクトル合わせが少しできてきたように思います。海洋環境を良くする。工事によって海洋環境に与える影響を最小限にする。特に人と海が接する沿岸域環境の共存方法や環境創造のための具体的な方法をこれからもっと提案していきたいと思います。
ウエダーを着込んで干潟で海洋生物の生息状況などを調査する
竹山 佳奈(たけやま・かな)
 造成した干潟を初期段階から定期的に現地調査を行っている。長期的に調査を重ねることで「いずれ理想的な干潟や浅場環境を造成したい」という。趣味は海釣り。週末は家族で釣りに出かけ、その夜は自分で釣った魚をさばくのが楽しみという。
 東亜建設工業(株)の富澤瑞樹さんは、昨年4月に入社し、初めて配属された現場が横浜港の「南本牧セル築造作業所」だった。慣れない港湾土木工事に戸惑いを感じながら、与えられた仕事をきちんとこなしてきた。富澤さんは現場の仕事を通じて「早く自分の得意な分野を見つけ、そこを伸ばしていきたい」という。仕事の内容やその面白さなどを聞いた。
どんな工事を担当されているのですか
 勤務している工事現場は、横浜市中区の南本牧ふ頭で計画されている廃棄物最終処分場の遮水護岸を築造しています。配属された当初は、鋼板セルを据付する際の誘導を担当しました。光波測距儀で設置位置を確認しながら、起重機船に無線で位置情報を知らせ、誘導するものでした。1函目の設置は緊張していてドキドキしましたが、設置回数を重ねるごとに上手に誘導できたと思います。この作業が昨年8月に終了し、その後は鋼板セル護岸を遮水するための水中不分離性コンクリートの積み出しを担当しています。陸上で生コンをホッパーに入れ、それを台船に積み込むまでが担当です。1日に6回程度打設するのですが、その作業が円滑に進むように生コン車の手配やホッパーの清掃などを行っています。
現場で苦労されたことは
 最初は、現場の作業員の方とうまく会話ができませんでした。自分に現場の知識がないためですが、相手の方も私が女性なのでどう接して良いのか分からないということもあったのかもしれません。その時、この仕事はコミュニケーションが取れなければできない仕事だと痛感しました。今はおかげさまで、多くの作業員の方たちとお話をさせてもらっています。
女性という点で困ったことは
 現場に配属された直後は女性用トイレもなく、周囲にまったく女性がいませんでしたので、精神的にも肉体的にもつらいと感じたこともありました。海洋土木工事は日の出とともに工事を始めますので、朝の早い出勤もきつかった。いまは女性用のトイレも更衣室も整備していただき、早朝出勤も慣れてきました。女性だから困るということは今ではありません。新入社員として仕事を覚えていくのは大変ですが、それは女性も男性も関係ありません。
これからやりたいことや目標は
 当社で現場に勤務する土木系女性技術者は私を含め3人しかいません。今年4月には新たに数名の女性技術者が入社されると聞いていますが、今後も継続的にその数を増やしてもらいたいと思います。女性の人数が増えれば、いろいろな意見も言いやすく、仕事がしやすい環境づくりも進むと思います。女性技術者同士で意見交換を行い、働きやすい良い方向に持っていければと思います。
これからの目標は
 今はどんな仕事でも挑戦し、やってみることが勉強になります。港湾工事だけでなく、陸上工事も担当し、いろいろなことを吸収していきたいと思っています。同時に自己啓発のために、資格取得も目指したい。将来、結婚や出産した時に仕事がどうなるのか。当社では先例が余りないので分かりませんが、仕事も家庭も両立できる良い事例がつくれればと思っています。
横浜港の南本牧ふ頭に事務所があり、周囲は各種の港湾工事が進む
富澤 瑞樹(とみざわ・みずき)
 東京湾の新海面処分場の現場見学会で同社の深層混合処理船「黄鶴」に乗船したことが、マリコンに就職するきっかけに。大学の担当教授からは海洋土木は陸上土木よりも「男くさい」職場と言われたが、意外に「社員の方は几帳面な方が多い」という。休日は寝ることと買い物することが楽しみになっている。

Back Number