title
title
title
国土交通省港湾局 技術企画課技術監理室 技術基準第一係長 岡本 敦史
国土技術政策総合研究所 港湾研究部港湾施設研究室 主任研究官 竹信 正寛
Back Number

1.はじめに
 平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震およびその際に発生した津波による災害の教訓を踏まえ、今後の港湾における地震・津波対策のあり方を検討するために交通政策審議会港湾分科会防災部会が設置され、平成24年6月に「港湾における地震・津波対策のあり方(答申)」(以下「答申」)がとりまとめられた。その中では、発生頻度の高い津波の規模を超える津波に対して粘り強く減災効果を発揮できる港湾構造物の必要性が示されている。
 国土交通省港湾局では、答申を受け、平成25年9月に、設計津波を超える規模の強さを有する津波に対し、構造の安定に重大な影響を及ぼすのを可能な限り遅らせることを施設の要求性能として新たに規定するという内容を含んだ、港湾の施設の技術上の基準を定める省令、関連する告示及び解釈通達(以下、「技術基準省令等」)の一部改正を行い、さらに、東北地方太平洋沖地震・津波による防波堤・防潮堤等の被害調査結果や一連の水理模型実験結果等を総合的に検討し、粘り強い防波堤・防潮堤を設計するための基本的考え方をとりまとめたガイドラインを公表した。
 本稿では、先日公表した防波堤・防潮堤の耐津波設計ガイドラインの記載内容を中心に、技術基準省令等の改正内容とあわせて簡単に紹介したい。
2.技術基準省令等の一部改正の内容
図−1 設計に使用する津波の概念図
図−2 津波に対する構造物の粘り強さのイメージ図(防波堤の場合)
1)設計津波の定義
 今回改正された技術基準省令等においては、設計津波を定義し、耐津波設計で考慮する津波の明確化を行っている(図ー1)。
 「技術基準省令等」では、設計津波の定義として、当該施設の設計供用期間中に発生する可能性が低く、かつ、当該施設に大きな影響を及ぼすものとして規定した(省令第1条関係)。
 なお、解釈通達に相当する「解説」では、性能照査に用いる設計津波および設計津波を超える規模の強さを有する津波は、再現期間が数十年から百数十年の発生頻度の高い津波の規模以上とし、当該施設の重要度等に応じて適切に設定するものと規定した。
2)津波に対する構造物の粘り強さ
 防波堤や防潮堤等の構造物のうち、当該施設の被災に伴い人命、財産又は社会経済活動に重大な影響を及ぼすおそれのある重要度の高い施設について、設計津波を超える規模の強さの津波に対して可能な限り安定を保持する粘り強さ(図ー2)を規定した。
 「技術基準省令等」では、要求性能として、当該施設の被災に伴い、人命、財産または社会経済活動に重大な影響を及ぼすおそれのある施設の要求性能にあっては、構造形式に応じて、当該防波堤を設置する地点において設計津波を超える規模の強さを有する津波が発生した場合であっても、当該津波等の作用による損傷等が、当該施設の構造の安定に重大な影響を及ぼすのを可能な限り遅らせることができるものであることと規定した(省令第14条、16条及び18条関係)。
 また、「解説」においては、偶発対応施設の防波堤にあっては、それを設置する地点において設計津波を超える規模の強さを有する津波等の作用を受けた場合であっても、減災効果の発揮や被災直後から港内の静穏度を確保できるよう、可能な限り安定が保たれる構造上の工夫を施すことと規定した。
 以下においては、上述で紹介した技術基準省令等の改正内容を受けて、実際の構造物の耐津波設計を実施する上で参考となる、防波堤・防潮堤の耐津波設計ガイドラインに関する記載内容と今後の課題について紹介する。
 なお、両ガイドラインとともに、設計津波やそれを超える規模の津波が作用した際の構造物の挙動に関する技術的知見や設計の考え方等について、現段階の知見をベースに取りまとめて整理したものであり、今後新たな技術的知見等が得られた段階で、両ガイドラインの記載内容も適宜リバイスされる可能性があることに御留意いただきたい。
3.「防波堤の耐津波設計ガイドライン」について
1)防波堤の耐津波設計ガイドラインの主な内容
 本ガイドラインは、平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震の際に発生した津波(以下、「今次津波」)による防波堤の被害を受けて、関係各所で整理された被災調査ならびに被災メカニズムの解明に当たっての各種実験・解析結果を取りまとめ、現時点における防波堤の耐津波設計の考え方について取りまとめたものである。
 ガイドラインの全体構成は、津波外力に対する設計の考え方をまとめたガイドライン本編と合わせ、その記載内容を補足する形で、被災状況や現時点での「粘り強い構造」に関する知見等を整理した参考資料Ⅰ〜Ⅳの各資料が整理された形となっている。ガイドライン本編に記載されている内容の一部については、参考資料で整理されている内容をベースとして取りまとめた形となっているため、考え方の背景理解という観点からも、参考資料についても合わせてご覧頂ければ幸いである。また、本稿においても、本編資料と参考資料の内容を合わせて紹介させて頂きたい。
 本ガイドラインの記載内容としては大きく分けて次の2点であり、1点は、「設計津波」に対する設計手法の考え方、もう1点は「設計津波を超える規模の津波」に対する「粘り強い構造」の考え方である。
2)「設計津波」の設定
 設計手法に関する内容の前に、「設計津波」そのものについて、少々触れておきたい。「設計津波」は、本稿の前段で紹介させていただいた通り、「発生頻度の高い津波」と、「最大クラスの津波」をそれぞれ想定した上で、「発生頻度の高い津波」以上の強さを有する津波を、「設計津波」とする必要がある。この「設計津波」は当該施設の設置者が設定するものであるが、その方法としては、防波堤が設置される地域の地域防災計画を参考として決定する方法や、周辺の港湾管理者等と協議の上で決定する方法も考えられる。
 ただし、ガイドライン本編にも記載があるように、今回新たに定義された「設計津波」は、最終的には背後の構造物の重要性や、防護目標に基づいて適切に設定すべき性質のものであることに十分留意しなければならない。
3)「設計津波」に関する設計の考え方
 今次津波による被害を受けて、これまでに被災した防波堤の被災メカニズムに関する検証がなされてきた。個々の事例検証については、本ガイドラインの参考資料Ⅱに詳細に整理されているが、防波堤が津波外力を受けた際の被災メカニズムは、浸透流その他の影響についても指摘がなされているところではあるものの、図ー3、4に示すように、地盤の洗掘作用と津波波力による堤体の滑動に大別されることが分かっている。
図−3 推定される八戸港北防波堤の被災メカニズム(主に洗掘作用による被災)
図−4 推定される釜石港湾港防波堤における被災メカニズム(主に滑動による被災)
 このうち滑動に関しては、今次津波が作用した防波堤についての再現数値計算を行った結果から、防波堤の港外側・港内側の津波高に関するデータと、津波外力作用時における波力算定式を用いて、個々の防波堤の滑動抵抗安全率と越流水深、および当該防波堤の被災の有無について整理を行った。図ー5にその整理結果を示す。
 図ー5によると、洗掘作用によって被災したと思われる防波堤(図中の点線で囲われた3事例)を除けば、津波による防波堤の被災は、概ね滑動安全率1.2のラインが被災と無被災の境界線であると判断した。この整理結果を用いて、「設計津波」に対して滑動に関する照査を行う際の滑動安定率(構造解析係数)は、当面1.2を確保するという扱いとした。
 「設計津波」に対する防波堤の安定性検証に際しては、他に堤体の転倒と支持力に関する検討も必要であるが、支持力については、被災メカニズムの検証の際の実験において、支持力が1.0を下回った段階で安定性が損なわれたという検証結果を受け、構造解析係数は1.0とした。また、転倒に対しては、現時点で津波波力作用時における設計対象構造物の転倒への影響に対して明確な根拠があるわけではないが、波浪に対する防波堤の転倒の安全率については過去に1.2という値が多く用いられていることから、この値を準用した形を採った。
 津波外力算定時における波力算定式については、波状段波の発生の有無や防波堤に対する越流の発生の有無を、津波シミュレーションの実施結果を踏まえて検討するとした上で、図ー6に示すような3パターンの波力算定式を提示した。それぞれの式の使い分け方等については、ガイドライン本編を参照頂きたいが、静水圧差による算定式を用いた場合は、被災メカニズムの検討時における水理模型実験の結果から、防波堤前面の静水圧を1.05倍に、背面の静水圧を0.90倍した形の式が提案されており、上述の滑動安定性についても、この係数を用いて検討を行っている。
 また、津波越流時の洗掘対策としては、復旧断面の検討事例(参考資料Ⅳ)や現状の知見(参考資料Ⅲ)に示されるような水理模型実験を最大限に活用した上で、具体的な洗掘対策断面を決定することを推奨している。水理模型実験が困難な場合は、図ー7に示すような技術的知見を活用することも可能である。
 なお、防波堤の被災要因は、洗掘作用と津波波力による堤体の滑動の2種類に大別されることを上述したが、現時点で洗掘作用に対する照査(例えば被覆ブロックの選定等)や、津波の作用時間を考慮した安定性照査は、水理模型実験や高度な数値シミュレーションに頼らざるを得ない状況であるため、実際の設計業務における効率性等を考慮した場合、この照査方法に関する適切な簡便法についても今後検討する必要があると考えている。
 津波発生時には、防波堤の設計地点からの震源距離の遠近はあるものの、地震の発生も当然懸念されることから、津波に先行する地震動に対する防波堤堤体への影響についても検討しておく必要がある。
図—5 越流水深と滑動安全率の関係における防波堤の被災有無(2011年東北地方太平洋沖地震の被災事例)
図—6 防波堤に対する津波波力算定手順
 
図−7 洗掘に対する対策断面の一例
4)「設計津波を超える規模の津波」に対する「粘り強い構造」について
 港湾構造物を津波外力に対して「粘り強い構造」にするという考え方は、「設計津波を超える規模の津波」に対し、構造上の安定性が損なわれるまでの時間を可能な限り稼ぐという考え方である。
 ただし、原則として「粘り強い構造」は、「設計津波」等の作用外力に対して決定した断面について、例えば構造的に弱い箇所(例:基礎マウンドの洗堀)に対して、あくまでも付加的な対策を行うという思想であることに注意する必要がある。
 すなわち、外力としての津波の規模が「設計津波」を超えて段階的に大きくなっていくことを想定し、水理模型実験等も活用しながら、津波の規模に応じた防波堤の破壊形態と構造上の弱点について十分な検討を行った上で、施設の重要度や費用対効果等を踏まえつつ、その弱点部分に付加的な対策を施すことによって、「設計津波」を超える規模の津波に対しても防波堤が変形しつつも倒壊しない「粘り強い構造」とし、可能な限り防波堤の全体安定性が損なわれないようにするというものである。
 防波堤の粘り強さを検証する際には、本来、防波堤の種々の変形モードに対して適切に評価する必要があるが、それぞれの変形モードに対する安定性を定量的に評価することは現時点では困難であるため、簡易的な手法として、滑動安全率等が1.0以上となることを照査することで、「粘り強い構造」の一つの目安とすることとした。なお、「粘り強い構造」の確認については、洗掘対策の効果の確認を含め、水理模型実験を用いて具体的な対策の有効性について確認することも検討する必要がある。
 また、「設計津波を超える規模の津波」に対する段階的検討イメージを図ー8に示す。波浪が穏やかな条件下に設置された防波堤(防波堤A)と波浪が厳しい条件下に設置された防波堤(防波堤B)について、設計津波を超える規模の津波に対して、津波の規模を段階的に増大させた場合に、「粘り強く」するために必要となる付加的な対策の費用の増加する傾向を概念的に示したものである。
 防波堤Aは、通常の波浪で決定した断面が耐えることができる外力を超えた場合において、急激に安定性が損なわれるような場合(イメージは図の●点)であり、この場合はこのポイントで大規模な対策が必要となる。付加的な対策費用もこのポイントで大幅に増加する可能性が高い。一方、防波堤Bは、通常の波浪条件が厳しいため、最大クラスの津波に対しても急激な安定性の低下は考えにくいケースであり、このような防波堤については、小規模の対策のみで最大クラスの津波に対しても「粘り強さ」を保持できる可能性もある。
 このように、どの段階までの津波規模に対して、「粘り強さ」を防波堤に保持させるかについては、対象となる防波堤の条件によって考え方が異なることが想定される。
5)「粘り強い構造」の例
 参考資料Ⅳでは、八戸港北防波堤における被災断面の復旧設計例を示した。当該防波堤は、今次津波の津波外力により、港内側の地盤が大きく洗掘作用を受けた結果、地盤の支持力を失って倒壊するに至ったと考えられていることを踏まえ、「粘り強い構造」を検討する際に、基礎マウンドや海底地盤の洗掘対策を基本とする設計方針が打ち出された。
 検討に当たっては、主に水理模型実験による被覆材等の安定検証が実施され、今次津波ならびに過去に発生した津波の津波シミュレーションの結果に基づき、防波堤の越流状態を再現させた実験が行われた。
 これらの実験結果を踏まえ、防波堤の越流水塊が基礎マウンドに直接作用させることを避けるための、防波堤天端におけるパラペット構造の採用や、洗堀作用を受けにくく、かつ経済的な被覆材についての検討がなされ、図ー9に示す形の復旧断面が提案されている。
図−8 設計津波を超える規模の津波に対する付加的な対策費用の概念図
図−9 八戸港北防波堤における復旧断面図(検討時案)
4.「港湾における防潮堤(胸壁)の耐津波設計ガイドライン」について
 上述で防波堤の耐津波設計ガイドラインの内容について紹介を行ったが、最後に防潮堤の耐津波設計ガイドラインについても若干触れておきたい。
 本ガイドラインは、港湾施設の外郭施設である防潮堤等(防潮堤、護岸、堤防、胸壁)のうち、胸壁を主たる対象としている。
 設計対象とする津波外力の考え方や津波に先行する地震動の考え方は、防波堤の耐津波設計ガイドラインの記載に準じるが、胸壁の耐津波設計として考慮すべき事項として、津波による天端の越流は、引き波時にも生じる可能性があることや、背後地の地形の影響を強く受けた流れが生じて胸壁に大きな流体力が作用すること、等について留意する必要がある。また、越流時の基礎地盤の吸い出し現象が、構造体に大きな影響を与える可能性が高いため、これらについても検討する必要性がある。
5.今後解決すべき課題について
 公表した両ガイドラインにおいては、基本的な設計に対する考え方を記載しているが、上述の通り、未だ技術的に解明されていない点や、設計手法について改善を要する点も大いにあると考えられる。前者の例については、浸透流が捨石マウンドへ作用した場合の構造安定性に及ぼす影響や、津波発生時の洗堀量の推定、あるいは引き波発生時における構造物の挙動等であり、後者は、津波の作用時間や作用の方向を考慮した性能照査のあり方や、設計業務の効率化を考慮した、水理模型実験や数値計算を行うべき(または、行わなくてもよい)設計手法の整理等が挙げられる。
 これらの課題を解決するためには、解析手法等に代表される照査方法や対策断面への施工法など、津波対策に関する技術開発に対して、官民問わず積極的に取り組んでいく必要がある。また、冒頭に述べたとおり、両ガイドラインはあくまで現段階での耐津波設計に関する知見を整理したものであるという性質のものであるため、新たに有用な知見が得られた場合には適切にリバイスし、耐津波設計の合理化につなげていくことが肝要である。

Back Number