title
title
title
Back Number

 四方を海に囲まれた我が国において、海域を利用した海洋再生可能エネルギーは新たなクリーンエネルギーとして注目されている。なかでも洋上風力発電は開発ポテンシャルが高く、本格的な実用化に向けた動きが加速している。地球温暖化対策や東京電力福島第1原子力発電所の事故などを受け、再生可能エネルギーによる省エネルギー対策は待ったなしの状況。自然エネルギーの主役として洋上風力発電は今後普及していくのか。現況と課題などを整理した。
(日刊建設工業新聞社)
●各省庁で洋上風力発電に関する動きが加速
 2012年5月に内閣官房総合海洋政策本部が発表した「海洋再生可能エネルギー利用促進に関する今後の取り組み方針」。この方針では、我が国の海洋再生可能エネルギーの利用が欧米に比べ極めて限定的で遅れていると指摘。早期に発電技術を実用化し、我が国のエネルギー供給源の一つとして活用できる環境を整備する必要があるとしている。
 また、実用化に向けた技術開発を加速させるため、実証フィールドを行うための場所の選定方法や運営主体、関係者との調整のあり方なども提示。同時に海域利用に関わる法整備の必要性や海洋構造物や発電機器の安全性の確保、環境影響評価のあり方、コスト低減に向けた取り組みなども示している。
 この方針を受け、海洋再生可能エネルギーの技術開発や実証フィールド試験などの動きが加速している。これまで陸上を中心に進められてきた風力発電は、海洋での利用に向けて、各省庁の動きが活発化。実証実験などを通じて洋上風力発電事業を主導してきた経済産業省だけでなく、国土交通省や環境省なども各種制度の整備に乗り出した。
●昨年6月に港湾管理者向けマニュアルを作成
 国土交通省は2012年5月に浮体式洋上風力発電設備の技術基準を制定。同6月には浮体式洋上風力発電施設を建築基準法の規制対象外にすることを決定するとともに、環境省と共同で港湾管理者などが大規模な洋上風力発電施設の建設を計画する場合のマニュアルを作成した。このマニュアルでは港湾区域内で風力発電施設を建設する場合、関係機関などが集まった協議会を設置し、建設地などを港湾計画に位置づけた上で、実際に風力発電事業を行う事業者を港湾管理者が公募で選定するなどの手順を示した。
 今年6月には政府が新たに策定した「海洋基本計画(計画期間2013〜2017年度)」を踏まえ、太田昭宏国土交通相をトップとする省内組織「国交省海洋の利用に関する技術開発推進本部」を設置。海洋エネルギーと海底資源開発の両方の取り組みを加速させるための内部体制も整えた。2013年度内には浮体式洋上風力発電の整備指針となる安全ガイドラインを策定し、その後、国際海事機関(IMO)に提案を行い、国際基準化を目指している。
●国内には8カ所で整備済み
 洋上風力発電にかかわる各種制度が着々と整備される中で、洋上風力発電の実証実験なども進められている。国内ではすでに整備されている(あるいは整備中の)洋上風力発電施設が8カ所ある。洋上風力発電は、風車の設置方式で「着定式(着床式)」と「浮体式」の二つに大別されるが、着定式が「北海道せたな町・風海鳥」、「サミットウィンドパワー酒田(山形県酒田市)」、「ウィンドパワーかみす(茨城県神栖市)」、「千葉県銚子沖(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構=NEDO・東京電力株式会社)」、「北九州市沖(NEDO・電源開発株式会社)」の5カ所、浮体式が「博多湾」、「福島県沖」「長崎県五島市糀島沖」の3カ所ある。
 着定式は電信柱のように発電装置の基礎が海底に固定されているもので、浮体式は船のように発電装置が海に浮いている状態となる。着定式は水深50〜60mぐらいが限界とされ、それよりも水深のある海域では浮体式が利用される。我が国の場合、浅海域が少ないため、浮体式が今後増えていくことが想定されるが、着定式に比べ高度な技術が求められ、コストも2〜3倍程度高いと言われており、実証実験などを通じて技術的な課題の解消やコスト縮減策などが検討されている。海外ではノルウェー(Hywindプロジェクト)とポルトガル(WindFloatプロジェクト)でフルスケールの浮体式のプロトタイプ機がすでに稼働している。
図−1 港湾区域内の風力発電設備の現状  提供:国土交通省
●外洋に着定式施設を設置し各種調査を実施
提供:NEDO
着定式洋上風力発電施設(北九州市沖)
 8カ所の洋上風力発電をもう少し詳しく見ていくと、2004年に稼働を開始した「せたな町・風海鳥」は発電能力が600kW(キロワット)×2基で、水深約12mのところに設置されている。基礎は組杭式基礎4本。同年に建設された「サミットウィンドパワー酒田」は発電能力が2MW(メガワット)×8基。水深は約4m。基礎は同じく組杭式基礎8本で、陸側から650トン吊りクローラクレーンで施工した。
 「ウィンドパワーかみす」は第1と第2があり、第1は2010年6月に稼働を開始。護岸から約50m外洋に2MW×7基を設置。基礎は鋼製モノパイル(直径3.5m、長さ24.5m、重量約100トン)。振動対策のため、中詰めコンクリートを打設している。施工は陸上から大型クレーンで行い、洋上風力発電所と陸を50mの桟橋でつなぎ陸上風車と同等のメンテナンスを可能としている。第2は2013年3月に稼働を開始。仕様などは第1とほぼ同じで、風車は8基。着床基礎部はすべて洋上から施工した。
 「銚子沖」は外洋での洋上風力発電の問題点などを探るため、2009年からNEDOと東京電力㈱が事業を開始した実証実験施設。銚子沖3kmの水深11mのところに、洋上の風向と風速を観測するタワーと洋上風力発電施設(発電能力2.4MW×1基)を建設した。風車のハブ高さは80mだが、将来の風車の大型化に備え、100mの観測タワーを整備した。基礎は銚子沖の海底地盤が非常に固く、ほとんど岩のため、重力式のPCケーソンを採用。フローティングドック(FD)で製作し、全旋回式1,600トン起重機船で浮遊曳航し、設置した。風車の設置はSEP船2隻を使用。2012年10月に完成し、今年1月から発電と観測が開始されている。
 北九州沖は同様な目的でNEDOと電源開発㈱が実証実験施設として2010年から整備に着手した。北九州沖の約1.4km、水深14mのところに観測用タワーと2MWの風車1基を設置。基礎はジャケットと重力式のハイブリッド式基礎(鋼管とRC併用)を採用。銚子沖と同様に起重機船で基礎を設置し、風車はSEP船を使用して施工した。今年6月から発電を開始し、データを取り始めている。
●期待のかかる浮体式は実証実験が進む
浮体式洋上風力発電設備を曳航する様子
表−1 洋上風力発電施設の実施例
 浮体式の「博多湾」は、環境省からの受託事業「地球温暖化対策技術開発等事業」の一環として、九州大学が受託し、福岡市と連携して実証施設を昨年12月に整備した。設置場所は博多湾の沖合約650m。セミサブ式の浮体構造で、浮体はRCコンクリート、トラスはPCコンクリートで製作。総重量140トン、全長18m。浮力体円柱の直径3.5m、高さ4m。コンクリートアンカーによる6点で係留する。風レンズ風車3kw×2基のほかに、太陽光発電1kw×1基と0.5kw×1基も設置している。
 「福島沖」は丸紅株式会社や三菱重工業株式会社など民間企業・大学11者で構成する福島洋上風力コンソーシアムが経済産業省からの受託事業として「浮体式洋上ウインドファーム実証研究事業」を進めている。福島県沖の沖合約20kmのところに実証研究用の風力発電施設を整備する。事業は、1期事業(2011〜2013年度)で2MWのダウンウインド型浮体式洋上風力発電設備1基、浮体式洋上サブステーション(変電所、観測所)、海底ケーブルを設置。2期事業(2014〜2015年度)で新たに7MWの風力発電設備(風車・油圧式ドライブ型)2基を設置する。
 1期事業は今年7月に浮体式洋上風力発電設備を現地に曳航し、すでに設置してあるチェーン・アンカーに係留。電気関連の工事、調整を現在進めており、10月中には発電を開始する予定だ。海底ケーブルは古河電気工業が敷設・埋設を整備中だ。実証実験では、
 ▽風向・風速などの観測と予測技術の確立
 ▽浮体式洋上風力発電技術の確立
 ▽浮体式送発電技術の確立
 ▽洋上風力発電用浮体の事前調査及び施工技術
 ▽高性能鋼材の開発
 ▽航行安全性
 ▽環境影響評価
 ▽漁業との共存などを検証する。
 「長崎県五島市糀島沖」は戸田建設株式会社や京都大学などのグループが環境省からの受託事業「浮体式洋上風力発電実証事業」として進めている。五島市糀島沖約1km、水深約100mの実証海域に小規模試験機(100kw)を2012年6月に設置。鋼・PCコンクリートのハイブリッドスパー形状の浮体構造物で、すでに各種のデータを収集している。このデータを基に、2013年度中に2MWタワー実証機1基を設置し、2015年度以降の本格的な実用化につなげていく。
●台風やうねりなど日本特有の気象・海象条件を調査
 こうした各種の実証実験などを通じて、洋上風力発電事業の運転上の課題や施工上の課題なども指摘されつつある。運転上の課題では台風というヨーロッパにはない風がどのような影響を与えるのかという点だ。季節風と台風の鉛直分布や乱流強度は同じなのか、違うのかなどを実際に洋上で測る必要がある。波もヨーロッパとは異なるため、うねりと風波の両方の影響を事前に計測しておかなければならない。設備面では信頼性や耐久性が求められる。洋上では簡単にメンテナンスができないため、故障予知や診断ができる遠隔監視システムの開発が必要となる。塩害・腐食対策や落雷対策、生物の付着なども今後の検討項目として挙がっている。メンテナンスをどう効率的に行うかは、コストにも大きく影響するため、今後の大きな検討課題となる。
 一方、施工上の課題として挙がっているのが、作業を効率的にできる作業船の不足だ。ヨーロッパではジャッキアップ船が50隻以上あるが、日本には5隻(SEP船)しかない。最大作業水深は20〜30m、押し上げ力は1,600〜3,600トン、積載荷重450〜1,050トンで、能力的にも劣る。こうした作業船は施工効率と密接な関係があり、洋上風力発電の建設が本格化した場合、作業船の不足と能力アップをどうするかという問題が間違いなく出てくる。また、風車の製作・組み立て、保管が港湾施設内で行われることが多く、高耐荷重の岸壁や用地の整備も今後の課題だ。
●発電ポテンシャルの高い洋上風力発電がカギに
 わが国の洋上風力発電の導入可能量は約16億kwと言われている。この数字は、全国の10電力会社の総電力設備容量2億kwの約8倍となる。再生可能エネルギーの導入拡大を考える上で、洋上風力発電をどこまで活用できるかが大きな成功のカギを握る。各地の実証研究などを通じ、わが国特有の気象・海象条件を明らかにするとともに、優れたものづくりの技術を最大限に活用して安全性、信頼性、経済性に優れた洋上風力発電技術が確立できるように、国全体で今後取り組む必要がありそうだ。
Interview
省庁が連携して戦略的な誘導策が必要
国土交通省港湾局海洋・環境課 海洋利用開発室長 池田 直太
昨年6月に港湾管理者向けのマニュアルを作成したが。
 洋上風力発電は現在、全国8カ所で稼働していますが、港湾区域外は銚子沖の1カ所だけで、あとはすべて港湾区域内です。こうした洋上風力発電の施工事例が増える中で、港湾区域という空間を管理する港湾管理者から国土交通省に対し、さまざまな相談が増えてきました。再生可能エネルギーと港湾機能をどう共生させていけば良いのか、その考え方や手続きを示したのが、このマニュアルです。

洋上風力発電施設の整備での課題は。
 さまざまな課題が指摘されていますが、施工面では高耐荷重の港湾施設と作業船不足が大きな課題と言えます。洋上風力発電施設は港湾施設内で組み立てたり、保管したりするケースが多い。ただ、その重量に耐えられる岸壁が少ない。ドイツのブレーメン市のブレーマーハーフェン港は洋上風力発電設備の製造、保管および荷役など必要な高耐荷重の岸壁やヤードが整備されていますが、日本にも高耐荷重に対応した岸壁が必要です。作業船については海上で羽根を取り付ける際にSEP船が使われているのですが、国内にある船は規模が小さく、隻数も少ない。作業効率を上げるには大型で能力の高い作業船が必要です。

今後洋上風力発電はどうなりますか。
 洋上風力発電の事業主は原則、民間事業者です。民間事業者は商業ベースで事業を行いますので、個別最適というか、コスト最優先で事業を行います。採算性はもちろん重要なことですが、洋上風力発電を普及させるためには設置費・機械設備費の両面のコスト削減が必要です。機械設備費は量産できればコストを下げることが可能ですが、量産するには設置費を下げ、全体のコストを下げることが必要です。いわば、設置費の削減が洋上風力発電の普及や、わが国国内での生産や、関連の雇用拡大のカギを握っているとも言えるのではないでしょうか。

設置費のコスト縮減はどうすれば良いのか。
 設置費のコストを下げるには、単に個別企業間の取引関係や、その営業努力を促すということだけでは達成できるとは思えません。設置費が高い要因を分析し、その要因に対する対策を国家戦略的に進めていくということが必要です。個人的には、我が国の条件に適合するように、我が国で作業船を建造し、岸壁の背後ヤードで極力大きく組み立てを済ませ、それを作業船で海上の所定位置まで運んで短時間で効率よく設置することが重要だと思います。そのためには、洋上風力発電の拠点港のような港湾整備も必要ですし、拠点港の周辺における風力発電のマーケット規模を示すこと、また、民間投資を促す何らかの仕組みを構築すること、などが必要ではないかと考えています。

Back Number