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 東日本大震災などを踏まえ、社会資本整備のあり方が大きく見直されようとしているが、港湾空港をめぐる技術のニーズはどこにあるのか。国土交通省が昨年12月にまとめた「技術基本計画」(2012〜2016年度)をベースに、同省の港湾空港技術に関するニーズを探ってみる。技術基本計画では、政策課題を解決するために今後、取り組むべき技術研究開発課題として162件を提示。このうち港湾空港関連の課題は32件あり、特に「防災・減災」および「港湾空港施設の維持管理」に重点が置かれている。
(日刊建設工業新聞社)
●「安全・安心の確保」など3本柱で162課題
 「技術基本計画」は、国土交通行政における技術政策の基本的な指針だ。政府全体の科学技術基本計画や社会資本整備重点計画などを踏まえ策定される。今回まとめたのは国交省として3期目の技術基本計画にあたり、計画期間は2012〜2016年度。業界団体や関係学会へのヒアリング、国民に広く意見を問うパブリックコメントなどを経て、国土交通大臣の諮問機関である社会資本整備審議会および交通政策審議会による合同の技術部会で了承された。
 今回の技術基本計画の特徴は、「技術研究開発」を主眼とした内容から、「技術政策全般」に関する内容へと対象を拡大し、国土交通行政における技術政策の基本方針を明らかにした点だ。考慮すべき諸情勢として、特に東日本大震災や近年の風水害、雪害から学ぶべき内容を整理。また、近年の人口減少や地球温暖化、高度情報化社会の進展など、国土交通行政をめぐる諸情勢も勘案した。
 今後、取り組むべき技術研究開発の柱として示したのは、「安全・安心の確保」「持続可能で活力ある国土・地域の形成と経済活性化」「技術研究開発の推進を支える共通基盤の創造」の三つだ。
 「安全・安心の確保」では、防災対策、社会資本の適正な維持管理・更新、交通・輸送システムの安全性向上などが課題となる。東日本大震災を踏まえた地震・津波への対応技術、さらには老朽化した社会資本の維持管理・更新技術が含まれる。「持続可能で活力ある国土・地域の形成と経済活性化」の対象技術は、地球温暖化・エネルギー問題、自然環境の保全・再生、水資源の確保、国際競争力の強化、海洋フロンティア戦略など。「技術研究開発の推進を支える共通基盤の創造」では、膨大な情報の有効活用、地理空間を基礎とした各種情報の有効活用、公共調達支援などが研究開発の対象だ。
 これらに対応するため、国交省は162件の具体的な技術研究開発課題を提示。所管する独立行政法人を含めて取り組む課題であり、うち32件が港湾局の所管する港湾空港関連だ(表)。32件のうち13件が「安全・安心の確保」、19件が「持続可能で活力ある国土・地域の形成と経済活性化」の関連技術だ。
表 港湾局関連の技術研究開発課題
注)重点プロジェクトは(Ⅰ)災害に強いレジリエントな国土づくり、(Ⅱ)社会資本維持管理・更新、
(Ⅲ)安全・安心かつ効率的な交通の実現、(Ⅳ)海洋フロンティア、(Ⅴ)グリーンイノベーション
●技術基準を改定し「粘り強い防波堤」を実現
 港湾局として特に力を入れている研究開発課題が、「防災・減災」および「港湾施設の維持管理」に関する技術研究開発だ。2011年3月の東日本大震災では、想定を超える規模の津波により太平洋沿岸の広い地域で甚大な被害を経験。2012年12月には中央自動車道の笹子トンネルで天井崩落事故が発生し、インフラ施設の維持管理の重要性が大きくクローズアップされたためだ。
 港湾局が所管する32件の港湾空港関連技術を具体的に見ていくと、まず、「防災・減災」の関係では「津波災害低減のための技術の開発」に取り組む。今後予想される東海、東南海、南海などの大規模な海溝型地震に伴う巨大津波による市街地や港湾への被害を軽減し、避難に必要な時間の確保を目指す。港湾局では、「防波堤の耐津波設計ガイドライン(案)」を1月にまとめている。東日本大震災に伴う防波堤の被害や、震災後に実施された水理模型実験の結果などを総合的に検討し、容易に倒壊しない「粘り強い防波堤」を設計するための基本的な考え方をまとめたものだ。
 今後、ガイドラインの内容を深掘りし、津波だけでなく地震による防波堤の沈下の評価や対策、さらには防波堤の基礎マウンドへの津波水位差による浸透流の影響の評価なども検討。今夏にも(案)を取り、ガイドラインとして正式決定するとともに、その内容を港湾施設の技術基準省令(港湾の施設の技術上の基準)にも反映させる考えだ。併せて、技術基準の内容を詳細に解説した「港湾の施設の技術上の基準・同解説」も見直す。
 「粘り強い防波堤」を設計するための基本的な考え方が、港湾の技術基準に盛り込まれる意義は大きい。港湾局技術企画課の遠藤仁彦技術監理室長は、「技術基準に取り込むことで、技術開発を行う民間に対して要求水準が明確になる」と強調し、粘り強い防波堤の実現に向けた民間の技術開発に期待を寄せる。粘り強い防波堤を具体化するための既存技術はある。だが、その多くが発展途上であり、「民間の技術開発を促進し、コストを抑えながら、より防災・減災に資する確実な技術を現場で適正に選定していきたい」(遠藤技術監理室長)という。ガイドラインをベースに、これまで以上に民間の技術開発に注目していく考えだ。
 例えば、粘り強い構造の防波堤としては、津波や地震によりケーソンを滑動させないための基礎マウンドの拡幅やかさ上げ、基礎マウンドを洗掘させないための被覆材の設置などが想定されている(図)が、いろいろな手法が考えられるという。例えば、防波堤のすぐ背後に航路があり、マウンドをかさ上げできないケースも想定され、基礎マウンドをかさ上げする代わりにブロックや鋼矢板を設置する選択肢も考えられる。最大クラスの津波でもできる限り粘り強く、踏みとどまることができる性能を期待しており、民間の柔軟な発想を求めていく。
図 防波堤の粘り強い構造に係わる具体的な補強案  国土交通省資料
●東日本大震災踏まえ津波減災技術も開発
 「防災・減災」の関連では、「東日本大震災を踏まえた観測およびシミュレーションが連携した津波減災技術の開発」にも取り組む。津波の大きさや激甚被災地の把握が難しく、東日本大震災の緊急復旧に混乱を来したという反省を踏まえた研究を推進。海洋レーダーおよびGPS波浪計、シミュレーションを連携させることで、津波の大きさを把握することにより、発災から24時間以内に激甚被災地を探索できる技術の確立を目指す。
 臨海部の工業地帯では、大規模地震に伴う護岸の液状化や側方流動などにより、石油コンビナートが大規模に被災し、火災が発生して石油などの危険物が海域に流出・拡散すれば、地域の産業活動や物流機能が停滞するおそれがある。このため「臨海部工業地帯における防災対策を推進するための技術的研究」にも着手し、護岸などの耐震性を向上させるため、液状化に関する技術開発や関係者への技術支援などの防災対策を推進する。
 東日本大震災では、発生頻度は極めて低いが、発生すれば甚大な被害をもたらす最大クラスの津波に対する備えが課題となった。特に港湾では堤外地など浸水に対し無防備な区域が多く、避難を軸に土地利用、避難施設、防災施設などを組み合わせた総合的な津波対策を確立し、最優先で人命を守る必要がある。このため「津波防災に関するハードソフト複合対策の評価に関する研究」では、住民の避難行動や液状化リスクを考慮した津波避難シミュレーションの改良、避難訓練プロセスの提案などを行い、効果的な避難計画の策定や最適な避難施設の配置を後押しする。
「防波堤の耐津波設計ガイドライン(案)」
 国土交通省が1月に公表した「防波堤の耐津波設計ガイドライン(案)」は、東日本大震災による津波被害の調査結果や震災後の水理模型実験の結果などを総合的に検討し、粘り強い防波堤を設計するための基本的考え方をまとめたものだ。津波が防波堤を越える際に作用する波力を評価する手法や、大津波でも倒壊しない粘り強い防波堤を造るための方法などを盛り込んだ。有識者を交えた検討会(座長・磯部雅彦東京大学大学院教授)でとりまとめた。
 東日本大震災では、防波堤の高さを大きく越える津波が押し寄せ、防波堤が破壊される被害が多く出た。このためガイドライン案ではまず、津波が越流する時の防波堤前面(港外側)と背面(港内側)の水位差から防波堤に作用する力を評価する新手法を提示。具体的には、防波堤の前面(港外側)の静水圧に1.05、背面(港内側)には0.90を乗じた水圧から水平力を求め、津波越流時の外力として設定するとした。
 震災で大きな被害が出た防波堤では、越流水の勢いで背面側の基礎マウンドがえぐり取られる洗掘現象が発生。防波堤が支えを失って倒壊する被害も多かった。このためガイドライン案では、設計を超える規模の津波に対しても粘り強く耐えられる防波堤の考え方を示した。
 基本となる対策では、防波堤が津波に押されて水平に滑るのを防ぐよう、背面側の海底地盤を高く盛って堤体を押さえる腹付工を実施し、その上を洗掘防止マットとブロックで被覆。防波堤の天端の断面形状を前面側が高く、背面側が低くなるよう工夫することで、越流の着水位置を防波堤からできるだけ遠ざけ、基礎マウンドの洗掘を防ぐことにした。
 防波堤を越える津波が押し寄せた場合、防波堤が多少変形しても倒壊を免れれば、陸地の被害を低減する効果を見込むことができる。
 ガイドライン(案)では、津波のほかに地震動や地殻変動なども合わせて防波堤の安定性を総合的に評価する検証フローを提示。施設の重要度や費用対効果などを踏まえて断面を設定する手順なども例示している。
 今回のガイドライン(案)は、主に重力式の混成堤と消波ブロック被覆堤が対象だ。国交省では、それ以外の構造形式にも対象を拡大し、防潮堤や水門、陸閘、胸壁などの関連構造物の耐津波設計の考え方もまとめる予定だ。
●健全度評価のモニタリング手法を開発
 「港湾施設の維持管理」については、5月29日に港湾法が一部改正され、点検方法が法律に位置付けられるとともに、民間所有施設についても、港湾管理者が立ち入り検査をすることができるスキームが構築された。例えば、大規模地震が首都圏を襲った時、航路が輻湊した東京湾で民有施設の護岸が崩れれば、東京湾全体に影響を与えかねない。このため民有施設についても港湾管理者が維持管理の状況などを確認し、必要に応じて改善に向けた勧告・命令といった措置を講じられるようになった。
 この点について、遠藤技術監理室長は、「港湾法の改正に伴い、(点検診断を)具体的に進めるための技術が必要になる」と話す。「いかに低コストで港湾施設の状況を把握し、点検するか。モニタリング技術が必要だ」という。このため「構造物のライフサイクルマネジメントのための点検診断手法に関する研究」にも取り組み、防波堤などの構造物の健全度を適切に評価できるモニタリング手法を開発。直轄管理者、港湾管理者、民間事業者への活用を図ることで、維持管理費の縮減を目指す。
 具体的には、港湾構造物の点検診断やモニタリングにICTを活用した非破壊試験技術を導入することで、信頼性の高い定量的データを取得できる手法を検討。特にコンクリート中の鉄筋や鋼材の腐食、さらには電気防食の陽極の消耗などの変状に着目し、コンクリート部材や鋼部材にセンサーを取り付けて腐食状況がわかるようにするなど、モニタリングに非破壊試験技術を応用できないかを研究する。
 また、桟橋の鋼管杭の肉厚測定を行うには、付着した牡蠣殻や藻を落としてから測る必要があるが、これらを落とさずに肉厚を測定できる技術も検討(写真)。船から人が目視で健全度を確認してきた、桟橋上部工の下側の点検診断を機械化できないかも研究中だ。
 これらの研究開発を通して港湾構造物の点検診断・モニタリングシステムの確立を目指すが、点検診断を効率的に行うには、やはり民間技術が不可欠だ。構造物のひずみを計測するセンサーなどの要素技術は既にあるが、陸上向けに開発された民間技術を港湾施設にいかに応用するかが課題となる。
 例えば、道路下の空洞探査技術は既にいくつかあるが、港湾施設の岸壁には荷役機械やクレーンなどの重量物が載るため、港湾施設のエプロンの荷重条件は道路より厳しく設定されている。既にエプロンの陥没事案も発生していて、空洞化の状況を簡易に点検できる技術が必要だが、エプロンの舗装は厚く鉄筋が密に入っているため、電磁波で測定が難しく、港湾の環境に即した空洞探査技術が求められる。
 遠藤技術監理室長は、「民間の技術のシーズを、我々のニーズとマッチングができればよい」と話す。「こういうものをモニタリングしたいと示すことで、仕組みとして民間技術を引き出したい」と考えている。
 維持管理の関係では、ほかにも「作用性能の経時劣化を考慮した社会資本施設の整備管理水準のあり方に関する研究」に取り組む。社会資本施設として、防波堤にも戦略的な維持管理が求められる中、既存の防波堤施設が保有するべき性能、作用の経時劣化を考慮した管理水準のあり方を検討する。検討結果は、既存防波堤の維持管理方針の検討に反映される。
写真 超音波厚さ計による鋼の肉厚推定  国土交通省提供
●風力・波力などの再生可能エネルギーも研究
 「防災・減災」および「港湾施設の維持管理」は、いずれも「安全・安心の確保」に関する技術研究開発課題だ。もう一方の「持続可能で活力ある国土・地域の形成と経済活性化」に向けても、さまざまな技術研究開発に取り組むことにしている。
 地球温暖化、エネルギー問題に関しては、「海洋(沿岸域)における炭素固定に関する調査研究技術開発」を推進する。沿岸域の干潟や藻場が二酸化炭素を吸収する機能が注目され、国際環境計画(UNEP)の報告書でも、海洋における炭素固定(ブルーカーボン)の重要性が指摘されている。四方を海に囲まれた日本にとって、沿岸生態系による炭素固定効果は大きいことから、干潟・海草藻場を対象にブルーカーボンに関する調査研究を実施。浚渫土砂の有効活用による干潟・藻場の造成、生物共生型護岸の整備を通じて、自然環境の保全・再生を図るとともに、地球温暖化対策に貢献する。
 「閉鎖性海域の水環境改善技術に関する研究」では、水質悪化現象を解析するとともに、内湾水質複合生態モデルを使って環境修復効果を予測する手法を提案。生物多様性を実現する干潟・浅場の修復技術も研究し、閉鎖性海域の水環境の改善に役立てる。
 海洋フロンティアの戦略的開発・利用に向けては、「海洋再生可能エネルギーの有効利用に関する研究」に力を入れる。近年、波力発電、風力発電などの取り組みが活発化しており、波浪、洋上風などの海洋再生可能エネルギーを高度に有効活用し、低炭素社会の実現を目指す。具体的には、海洋再生可能エネルギーを使った発電システムの実用化に向け、技術的課題を検討するとともに、港湾域における効率的な電力供給システムを研究。洋上風力発電施設の港湾への導入に伴う技術的課題を明らかにし、整備に向けた基準も検討する。
 国際競争力と国際プレゼンスの強化に向けては、「港湾の技術の国際標準化」に取り組む。我が国の港湾技術や基準を国際標準化することが、高質かつ安定的な国際物流ネットワークの構築に貢献し、日本の港湾関連産業の海外展開の機会拡大につながる。そうした認識から港湾技術の国際標準化の動向を把握し、関係者間で情報を共有して意識向上を図るとともに、基準類を外国語に翻訳、日本の港湾基準類の国際展開を図ることにより、国際競争力の強化を後押しする。
 「港湾空港施設の機能向上に関する技術開発」では、地盤対策技術の観点から、港湾・空港施設の機能を向上させる技術を開発する。特に、バルク(ばら積み貨物)を取り扱うような既設係留施設の機能向上、廃棄物処分場の遮水工の品質管理手法、環境対応型地形の構築手法などを検討する。これらの研究成果を活用することで、港湾施設の機能向上を図る。
●七つの重点プロジェクトを設定し強力に推進
 国交省は、技術基本計画で示した162件の研究開発を進めるにあたり、特に優先度の高い政策課題の解決に向けて、強力に推進する七つの重点プロジェクトを設定した。政策課題に沿って分野横断的に一連の取り組みを整理した。重点プロジェクトは以下の通り。
 災害に強いレジリエントな国土づくり(Ⅰ)
 社会資本維持管理・更新(Ⅱ)
 安全・安心かつ効率的な交通の実現(Ⅲ)
 海洋フロンティア(Ⅳ)
 グリーンイノベーション(Ⅴ)
 国土・地球観測基盤情報(Ⅵ)
 建設生産システム改善(Ⅶ)
 港湾空港関連の32件もそれぞれ重点プロジェクトに位置づけられていて、「災害に強いレジリエントな国土づくり(Ⅰ)」が6件、「社会資本維持管理・更新(Ⅱ)」が2件、「安全・安心かつ効率的な交通の実現(Ⅲ)」が12件、「海洋フロンティア(Ⅳ)」が5件、「グリーンイノベーション(Ⅴ)」が7件(P7に表)だ。
 国交省では、重点プロジェクトを明確化することで、産学官の関係者の共通認識を醸成し、それぞれの取り組みを連携させ、要素の統合、融合、組み合わせによる相乗効果を引き出す方針だ。また、各重点プロジェクトには、省内横断的に多くの所管課が関係することから、実施にあたってはプロジェクトリーダーを置き、その下に所管課長級のプロジェクトチームを設置するなどして体制を確立し、関係者の緊密な協力の下で研究開発を推進していく。
Interview
時代の先を読んだ技術開発を
独立行政法人 港湾空港技術研究所 理事長 高橋 重雄
 地震・津波への対策をはじめ、港湾施設の維持・更新、海洋資源開発、効率的な物流対策など、さまざまな分野で海洋土木技術の革新が求められている。独立行政法人港湾空港技術研究所の高橋重雄理事長に、現在重点的に取り組んでいる技術やこれから必要となる研究開発分野などを語ってもらった。
−港湾空港技術研究所で取り組むべき技術開発分野は。
我々が取り組むべき技術開発は、時代の流れを予測し、一歩先のことを読み、それに対応したものでなければならない。例えば現在、港湾構造物の維持・更新が喫緊の課題となっているが、研究所内には1966年に設置されたコンクリート暴露試験装置がある。その中には当時(約45年前)のコンクリートのテストピースが今も置かれ、その経年変化が記録されてきた。こうした先人たちの長期的視点に立った研究姿勢を学ぶ必要がある。
−4月1日付でライフサイクルマネジメント支援センターを設置したが、この目的は。
研究センターではなく、支援センターとしたのが特徴だ。維持管理に関してこれまで研究・開発してきた成果を生かし、実際の現場などに適用する際の支援を行うのが狙いだ。これまでも現場のさまざまな相談に応じてきたが、相談窓口を設け、維持管理・更新に関する情報交換や技術的な指導など、現場に密着した支援を行う。職員は総勢13人。他部署との兼務が多いが、各種のマニュアル類の作成をはじめ、点検診断技術の高度化や保有性能評価技術の確立、維持・補強および長寿命化技術の高度化などの研究開発も同時に進める。特に、先端技術を取り込んでインフラの点検診断を大幅に省力化・自動化する技術などがまず求められている。大学や他の関連機関との連携も重視している。
−防災・減災に関する技術開発は。
東日本大震災では、地震と津波によって港湾・海岸施設が甚大な被害を受けた。地震や津波から人命や財産を守るため、震災以降さまざまな研究開発に取り組んできた。その一つのキーワードが〝粘り強さ〟だ。港湾・海岸施設は、仮に想定を上回る地震や津波が来襲しても、できるだけ壊れにくくして、減災やその後の復旧復興に貢献する施設にしなければならない。2004年のインドネシア大津波災害直後から海外の防災研究者と国際沿岸防災ワークショップを毎年開催しているが、特に2005年の米国ハリケーンカトリーナ災害の後に、レジリエンスという言葉を米国の研究者などが頻繁に使っていた。日本では最近、国土強靱化=レジリエンスというニュアンスでも使われているが、もともとは〝回復力〟という意味。バネが伸びた後に戻るのと同じように、被害を受けても早期に社会生活や経済が回復できるようにしておく。そのためには港湾や海岸施設には〝粘り強さ〟が不可欠である。米国の研究者は、この〝粘り強さ〟もレジリエンスと表現している。東日本大震災の被災地では、港湾構造物の復旧に粘り強い構造を採用しているが、今後、全国で防災・減災対策を行う上で、もう一段の技術開発が必要と考えている。また、地震や津波だけでなく、高潮や高波災害も、その早急な検討が必要となっている。
−他の分野での技術開発は。
海洋工事と陸上工事の最大の違いは、海の中で施工するため、作業状況や出来形が見えないということだ。それを容易にするため、四次元広角映像および測量ソナーシステムの開発をしている。これは、海中の見えないところを映し出すまさにビデオカメラだ。これ以外でも干潟に住む生物が地盤を強くするという地盤生態学の研究、海洋の生物が二酸化炭素を吸収するブルーカーボンの研究など、さまざまな分野の研究にも取り組んでいる。
−日本近海にある海洋資源への取り組みは。
海洋資源を開発していくための各種の技術開発を進めているが、そこで重要になるのは離島開発だ。広大なEEZ(排他的経済水域)の海洋資源の開発基地となるのは離島である。離島のような厳しい場所で船舶を安全に係留する施設を効率的に整備する技術が求められている。また、沿岸で培った土木技術を深海の現場でも活かすような発想も必要。例えば、深海底で活動できるロボットや希少資源(レアアース)の採取、処理の工法開発など長期的観点での取り組みが必要となる。さらに、海洋エネルギーについても取り組みを強化しなければならない。
−マリコンに求める技術開発は。
海洋土木の施工を担当するマリコンとは、連携しながら各種の技術開発を今後進めていきたい。マリコンには優れた技術者が大勢いるので、技術開発テーマも含めて前向きな提案を是非してもらいたい。

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