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2010年10月21日0時20分。真新しい羽田空港D滑走路を1番機が離陸した。桟橋と埋め立てのハイブリット構造という世界でも希な構造。設計・施工一括発注方式による建設。厳しい工期での急速施工。様々な制約のもとで工事を無事終え、この日を迎えた工事関係者にとっては万感胸に迫るものがあったに違いない。難工事に挑んだ工事関係者の苦闘の足跡を改めて振り返ってみる。
提供写真:羽田再拡張建設工事共同企業体

世界でも希なハイブリッド構造
 「桟橋と埋め立てのハイブリッド構造は、世界で数カ所あるようですが、新規でこれだけの規模の滑走路をつくるのは羽田空港が初めてでしょう」。羽田空港D滑走路の特徴について国土交通省関東地方整備局東京空港整備事務所は、第一に構造の特異性を指摘する。羽田空港D滑走路(2,500m、滑走路島3,120m)をハイブリッド構造としたのは、建設地の一部が多摩川の河口に位置するからだ。これまで国内の海上空港は埋め立てによる建設が当たり前だったが、D滑走路は埋め立てによって多摩川の流れが妨げられないよう滑走路の一部(1,100m)を桟橋構造とした。
 1つの滑走路に桟橋と埋め立てという2つの構造体を共存させると、その接合部が大きな問題となる。沈下する埋め立て部と沈下しない桟橋部。「構造的に接合部が一番苦労しました。沈下は計算上70cmで想定しています。今後の一番の課題は沈下によって生ずる段差をどう解消していくかです。2cm程度の段差が発生すれば、アスファルト舗装の切削・オーバーレイにより埋め立て部を嵩上げすることになります」(東京空港整備事務所)。埋め立て部の工事は、数多くの沈下計を使い施工中から緻密な管理が行われた。ある区域の観測結果を見て地盤強度を確認、次の施工に移るという手間のかかる作業だった。

地震などの変位対策に新工夫
 地震などの変位に対する対策も重要な問題だった。桟橋部は198基のジャケットがつながっており、地震が発生した場合は、これらが一体のように動く。問題は接合部。接続部は、鋼管矢板井筒護岸で埋め立て部の土圧による側方変形を抑制するため鋼管矢板の継手には高耐力継手を採用。護岸は波の反射を低減するスリット式消波構造としている。地震の揺れなど±60cmの変位に対応できる伸縮装置を設置、仮にこの変位を超えて破壊に至っても、「アスファルトは壊れるが、支えとなるコンクリートは壊れない構造としており、復旧がすぐできるようにしてあります」(同)という。

短工期を急速施工で克服
 埋め立て部の延長は2,020m。幅員は424m、埋め立て土量は約3,800万3(東京ドーム31杯分)に及んだ。埋め立て部の工事を含め、工事全般で工事関係者を苦しめたのは、現場海域を行き交う船舶の安全を確保し、しかも供用中の滑走路の航空制限下で約41カ月という短工期で昼夜連続の急速施工を行うことだった。
 ただでさえ厳しい工期なのに、工事はスタートからつまずく。「完成時期が決められている中で、実際の工事着手が遅れたことは痛かった。しかも、いざ工事がスタートすると、材料が遅れるというトラブルが起きました」(同)。工事は15社JVが一括で請け負ったが、施工形態は「乙型」で、各工区が責任をもってそれぞれ施工をする形となっている。埋め立て工事は4工区に分割して施工した。

桟橋部での工事 埋め立てでは緻密な管理が行われた

D滑走路建設の経緯
2000年 9月  ・首都圏第3空港調査検討会を設置。羽田空港の再拡張案と公募のよる他の候補地について検討を開始
2001年 7月  ・羽田空港再拡張の優先を調査検討会が決定
12月  ・「羽田空港の再拡張に関する基本的考え方」を国交省が決定
2002年 3月  ・新滑走路の工法を検討する「羽田空港再拡張事業工法評価選定委員会」を設置。
 桟橋工法、埋立・桟橋工法、浮体工法の3工法の検討を開始。
10月  ・選定委員会が「3工法とも致命的な問題はない」との結論。「設計・施工一括発注方式」を提案
2004年 6月  ・入札実施方針の公表
7月  ・入札公告
・埋立・桟橋ハイブリッド工法による入札申し込み/技術提案書(基本設計図書)提出
2005年 3月  ・羽田空港D滑走路建設外工事に係る工事請負契約を締結
2007年 3月  ・羽田空港D滑走路建設工事着手

D滑走路外工事の概要
工事名:東京国際空港D滑走路建設外工事
発注者:国土交通省関東地方整備局
請負金額:〈当初〉JV全体・5,700億円(消費税抜き)
請負者: 鹿島・あおみ・大林・五洋・清水・新日鉄エンジ・
JEFエンジ・大成・東亜・東洋・西松・前田・
三菱重工・みらい・若築異工種建設工事共同企業体
工事内容: D滑走路および連絡誘導路の新設
    埋立部  全長/2,020m
 構造/緩傾斜堤
 埋立土量/約3,800万m3
    桟橋部  桟橋部全長/1,100m
 基礎杭/1,165本
 ジャケット/198基
 (標準寸法W63m×L45m×H31m)
    連絡誘導路部  全長620m
  東京港第一航路移設
    航路浚渫  183万m3
D滑走路外工事の施工分担表

工期短縮で多くの提案を採用
 工程の遅れを取り戻すために、施工者側から様々な工法変更の提案がされた。たとえば、埋め立ては当初、護岸を完成させて底開式土運船で土砂を運搬・投入する予定だった。この方法では護岸が完成していないと海が濁ってしまう。しかし、護岸の完成を待っていては工期が守れない。このため施工者側からトレーミー船を使い、護岸が完成する前に土砂を入れる工法が提案された。「当初の計画通りでは、着工が遅れたので工期に間に合わない。発注者と施工者がお互いに知恵を出し合いながら課題を克服しました」(東京空港整備事務所)。発注者と施工者は定期的に会議を繰り返しながら工程の管理に努めた。
 現空港を使用しながらの工事は、一部工区で航空制限がかかり、地盤改良船など高さのある大型作業船は夜間作業を強いられた。日中の作業を含め、飛行機の運航に支障をきたすことは絶対にできない。神経をとがらせる毎日が続く。作業船にGPSを取り付け位置を常に把握し運用した。

緻密な沈下観測と管理を実施
 地盤沈下を観測しながらの施工も大変だった。埋め立て部4工区のうち、2工区、3工区は開口部がある。各工区の地盤改良や埋め立ての時期にはズレがある。余盛りの高さを調整して供用時に合うようにする。沈下が遅れた部分は余盛りを高くするなど緻密な管理を行った。
「発注者として品質管理や出来形管理を数万回確認しました。当然、職員だけでは無理なので確認作業を委託で行いました」(東京空港整備事務所)。
 限られた工期のもとで幸運だったのは、期間中に大きな台風等が来ず、工事を中断することが少なかったことだ。一端、船が避難基地(千葉県袖ヶ浦等)に行くと作業の再開までに1週間近くかかる。「天候が比較的順調だったのは助かりました」(同)という。

設計・施工一括で大きな成果
 施工者側による積極的な提案を可能にしたのは「設計・施工一括発注方式」だ。性能発注方式ということで新しい技術が提案された。施工者側の提案に対する技術的な検討は、学識者で構成する技術検討委員会やコスト縮減委員会で検討・確認し、実際の現場に適用された。
 多くの難条件を克服し、しかも100年間耐えられる滑走路を実現する。滑走路は完成したが、同工事の真価が問われるのはこれからといえるかもしれない。

[写真左]埋立部外周護岸の捨石マウンドが概成 [写真中]揚土工事は最終段階へ  提供:羽田再拡張建設工事共同企業体

国際空港化へ大きく羽ばたく〜再拡張事業の中核だったD滑走路建設
 D滑走路は羽田空港再拡張事業の一つとして計画された。拡張事業はD滑走路建設のほか、国際線地区整備事業として国際線地区旅客ターミナルビル、貨物ターミナル、エプロン等がPFI手法で整備された。国際線地区整備によって羽田空港は、国際空港の色合いを強めることになったが、これが可能になったのはD滑走路の完成、運用よって発着数が大幅に拡大するからだ。羽田空港のそれまで年間発着数は約30.3万回、これが年間40.7万回に拡大し、旅客数も6,670万人から約2,000万人増加すると予想されている。
 空港の処理能力が向上したことで、国内線については発着枠の増加により現在より小型の飛行機を用いた多頻度運航化が可能になる。国際線についても、将来の国内航空需要に対応した発着枠を確保した後の余裕枠を活用して短距離便と中・長距離便がそれぞれ3万回の年間6万回程度、1日約80便の就航が可能になるという。国際定期便については、短距離便だと北京やソウル、釜山、上海、大連など、中・長距離便で北米や欧州、東南アジアなどの主要都市を結ぶ。
21日早朝、旅客機として離陸した1番機

Interview 施工に携わった人の銘板を
培ってきた技術を大規模に適用し、集大成した工事
 羽田空港D滑走路の建設は、わが国の土木技術の水準の高さを示したものだ。大量急速施工に加え、最新鋭の技術を駆使し、構想からわずか約10年という異例のスピードで供用開始にこぎ着けた。国土交通省の「羽田空港新滑走路建設工事にかかわる技術検討委員会」の座長を務めた石原研而氏(中央大学研究開発機構教授)に技術的な特長などを聞いた。
国土交通省・
技術検討委員会座長
石原研而氏
(中央大学研究開発機構教授)

−羽田空港D滑走路の技術的な特長は。
 「ここ10数年の間に土木分野でさまざまな技術開発が行われてきましたが、その技術を大規模かつ広範囲に適用し、集大成したのが羽田空港D滑走路工事と言えます。今まで部分的にしか適用されていなかった技術を大規模に展開することは、ある意味“未知への挑戦”でもあった訳ですが、それを無事に成功させた意義は大きい」
−具体的にはどのような課題があり、どんな技術が使われたのか。
 「D滑走路は埋立部と桟橋部で構成されます。このうち、埋立部では盛土の荷重にどう対応するかが課題でした。海中と陸上を合わせて約41mの高さを埋め立て・盛土しなければならなかったのですが、これだけの厚い盛土を過去に東京湾で実施した例がない。羽田の軟弱地盤がこの盛土の荷重に対し、どんな挙動をするかは未知の世界でした。それをサンプリング調査などから予測し、最適な地盤改良工法を選定しました」
 「もう一つの大きな特長は広範囲に情報化施工を導入したことです。圧密度は通常80〜90%となっているのですが、この現場では埋め立て作業のスピードを上げるため50%としました。つまり、十分な沈下を待たずに次の埋め立て作業を行った。このため、膨大な計測器を設置し、土の強度変化などを把握しながら慎重に工事を進めました」
−管中混合個化処理土も多く使われた。
「管中混合個化処理工法は、廃棄処分となる粘土(浚渫土)と固化材を輸送管の中で攪拌混合させ、数百mの距離を空気で圧送する革新的技術です。この工事では粘土の再資源化だけでなく、処理土に発砲剤を混入して比重のコントロールも行いました。気泡を入れて軽量化した処理土を桟橋部との接続部分に大量に投入し、接続部にかかる土圧を抑えるようにしました。処理土は中部国際空港などにも使われましたが、大規模に適用したのはこれが初となります」
−桟橋部の特長は。
 「桟橋部で特筆すべきは施工精度と腐食の対応です。桟橋部は海上で1,165本もの基礎鋼管杭を打ち、陸上で製作したジャケットを海上輸送して接続させ、その上に床版を置いて構築します。ジャケット(全部で198基)は6本の鋼管が下に突き出た格好で、それを基礎鋼管杭に差し込んで接続します。その誤差はわずか数センチしかなく、高い施工精度を求められました。一方、ジャケットは鋼桁の上部と鋼管トラストの下部の上下構造となっていますが、いずれも鋼管のため腐食対策が課題となっていました。このため、海中部は電気防食を施し、鋼管トラストには耐海水性ステンレス鋼ライニングを行い、鋼桁にはチタンカバープレートをかぶせました。このチタンカバープレートは鋼桁を覆う箱形の形状で、その中の湿度を50%に保ちながら腐食を防ぎます。この技術は製鉄会社が保有していたもので今回初めて大規模な適用となりました」
−埋立部と桟橋部の接続部はどうでしょうか。
 「接続部の構造はいろんな案が検討されました。最終的には鋼管矢板井筒護岸が採用されました。また、その上部にはローリングリーフ形式の伸縮装置が設置されています。これは地震時の相対変位を吸収するものです。仮に想定していた以上の変位があった場合でも、伸縮装置の台座コンクリートが壊れて桟橋部の本体に損傷がないような構造になっています。ローリングリーフはポルトガルの空港で小規模に採用された実績があるようですが、これだけの規模は世界初となります」
−今回の工事を今後どう生かせていけばよいか。
 「工事開始から供用開始まで3年5ヵ月という短期間でやり遂げたのがD滑走路事業です。これは異例の早さですが、その陰には発注者や受注者の大変なご苦労があったはずです。それを何かの形にして残せないかと思い、技術的な課題や対策などをまとめた報告書の作成や、施工に携わった方々の氏名を銘板にして、現場内のどこかに配置できないかと提案しています。この工事で得られたさまざまな知見を世界に発信する一方で、ものづくりの喜びを何かの形にして残したいですね」

講 演 会
 社団法人日本埋立浚渫協会は11月18日、「羽田D滑走路建設工事(埋立部)技術講演会」を東京都千代田区の学士会館で開催しました。講演会には会員企業の技術者や発注機関の関係者ら約140人が出席し、みなさまのご協力で盛況に終えることができました。紙面をお借りして御礼を申し上げます。
 講演会の冒頭、当協会の平尾壽雄専務理事は「今回の工事は大量急速施工、埋め立てとジャケットのハイブリッド構造、設計施工一括発注などの特長があり、新技術の活用やこれまでにない施工経験を得ることができました。この成果を次のプロジェクトに活用していくのが我々の使命だと思っています。今回のレビューを出発点に当協会としても羽田空港のさらなる能力拡張や利便性の向上に向け、検討を進めていきたいと思います」と、あいさつしました。
講演会プログラム
講演
  関東地方整備局東京空港整備事務所所長・・・鈴木弘之氏「羽田の再拡張事業の現状」
報告I
  五洋建設・・・・・梯浩一郎氏「軟弱地盤上の高盛土海上空港の設計」
東洋建設・・・・・相川秀一氏「大量急速施工における埋立用材の品質管理」
若築建設・・・・・川端利和氏「地盤改良工(SCP工、SD工)と沈下・安定管理」
東亜建設工業・・・石井浩和氏「情報化施工と安全対策24時〜港湾・空港運用下での海上建設工事」
報告II
  日本埋立浚渫協会企画部長・・・鈴木雄三氏「今後の協会の取り組み」
講評
  中央大学研究開発機構教授・・・石原研而氏


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