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 国土交通省は、港湾事業の「選択と集中」の一環として、2つの国際コンテナ戦略港湾を選定し、重点港湾として43港を絞り込んだ。国際コンテナ戦略港湾は、アジアにおける国際拠点港の地位復活を狙い、韓国の釜山や中国の上海といった急成長中の近隣諸港に対抗できる機能の整備に向け、予算を集中投下する。重点港湾は、現在103指定されている重要港湾の中から、国が優先的に整備する港湾を選定。国の予算削減の流れの中、直轄工事での新規事業着手を認める港湾を絞り込んだ形だ。効率的な予算配分のもとで、国際競争力強化に向けた取り組みが加速される。
(日刊建設工業新聞社)
国際コンテナ戦略港湾
阪神港(神戸港、大阪港)と京浜港(東京港、川崎港、横浜港)を選定

 前原誠司国土交通相(当時)は8月6日、アジアにおける国際拠点港の再興を目指した「国際コンテナ戦略港湾」を公表した。公募に応じた4港の中から、阪神港(神戸港、大阪港)と京浜港(東京港、川崎港、横浜港)の2港を選定。伊勢湾(名古屋港、四日市港)、北部九州港湾(北九州港、博多港)は選定からもれた。国際コンテナ戦略港湾の選定は、アジア諸国の主要港湾に押され地位が低下している日本の港湾の活性化を目指すのが狙い。正式決定を受け、阪神と京浜両港に対しては予算の集中投下・税制支援を行う。
 他にも国交省は来年の通常国会で、港湾法の改正を目指す。大型船舶が着岸可能なターミナル整備や、港湾運営の24時間化、海外に比べて割高とされる入港料の見直し、港湾整備への国庫負担率の引き上げ、埠頭公社の民営化促進税制の拡充など、さまざまな規制緩和を進める。世界の港湾間競争に打ち勝つには拠点となる港湾への重点整備が不可欠だからだ。従来、全国の主要港湾に均等に投資してきた方針をようやく転換したといえよう。

残る2港に「支援惜しまない」
 国交省では「国際コンテナ戦略港湾」を選定する有識者委員会を設置し、検討を重ねていた。採点結果は、阪神港769点、京浜港729点、伊勢湾553点、北部九州港湾277点の順だった。阪神港と京浜港はアジア諸国の港湾に対抗する戦略が明確で、広域からの集荷が可能な点が高く評価された。同委員会の評価結果を受け、同省政務三役で協議し、700点を超える阪神港と京浜港を選定した。
 前原国交相(当時)は会見で、「港湾の国際競争力の強化はやっとスタートラインに立ったに過ぎない。(選定された港湾は)目標達成年次の2020年まで、国際コンテナ戦略港湾検討委員会において、計画書の実施状況を毎年チェックすることとしている。3年後を目途に中間評価を行い、提案された内容が着実に実施されてない場合には、取消や入れ替えもあり得る」と選定結果と今後の方向性に対する考えを表明した。
 次点評価の伊勢湾については、「今後の民営化の進展等、提案された施策の取り組み状況や基幹航路寄港の実績、取り扱いコンテナ数の動向によっては、2つの国際コンテナ戦略港湾と入れ替えもあり得る。いわば次点と位置付けたい」と評価。また、北部九州港湾に対しては「日本海におけるアジアへの玄関口として特色を生かした港の育成の支援は惜しまない」と、一定の配慮を見せた。

パナマ運河供用に対応
 有識者委員会に提出されていた計画書によると、阪神港では「釜山港と戦えるターミナルコストの実現」を目標に掲げ、日本の港湾の海外フィーダー化を阻止し、釜山フィーダーからの奪還を狙う。その体制として神戸港、大阪港の2つの埠頭公社を2011年までに株式会社化した上で2015年までに経営統合する。総合特区制度を活用し、大阪港の夢洲地区に延長1,100m、水深15〜16mの岸壁を整備する。併せて、神戸港のポートアイランドには水深18mの岸壁を整備し、拡張後のパナマ運河供用に伴う船舶の大型化にも対応する。
 京浜港では、東京、川崎、横浜の3港を連携させて役割分担を明確化。横浜港の南本牧ふ頭に水深18m超の岸壁を集中整備する。水深16mの岸壁も2カ所整備する。東京、横浜で既存ターミナルの再編を進め、川崎港でも増大するアジアの輸入貨物を分担する。横浜港の持つ国際トランシップ機能を維持しながら、釜山港積み替え貨物の獲得も目指す。横浜、川崎ではコンテナターミナルの一体運営を進め、生産性を向上させる。2014年度には東京港埠頭会社と横浜港埠頭公社の経営統合を行い、東京湾全体の一体的な経営主体の構築を図るなど、コスト競争力も高める。


「アジアのハブ」奪回に向け集中投資

上海、釜山などが台頭
 阪神港と京浜港は、国内港湾の貨物取扱総量の過半数を占めるが、シンガポールや上海、釜山に後れを取って久しい。シンガポール、香港、上海、釜山などアジアのハブ港は、政府支援による入港料や岸壁使用料の安さで躍進。いずれも1990年代に国が集中投資して超大型船対応の設備を整えてきた。
 国交省によると、釜山の港湾コストは日本より約4割安い。国内発着貨物の約2割が国内港での集貨を選ばず釜山などを利用、海外のハブ港湾化を後押ししている側面もある。その結果、「欧州〜アジアのハブ港〜北米」を主流とする物流ルートが確立した。
 アジア諸港の取扱量が伸び、順位を上げる一方で、わが国の主要港は取扱量を伸ばしながらも順位が下降。相対的な国際的地位低下につながった。コンテナ取扱量が1980年に世界4位だった神戸港は阪神・淡路大震災後ふるわず、2008年は44位。東京港は24位(1980年18位)、横浜港は28位(1980年12位)などと順位を落としている。

問われるコスト競争力
 日本の貿易貨物量の99%は船便で、日本の輸出企業にとってアジアの主要港経由は納期短縮の阻害要因となり、競争力の低下が危ぐされている。近隣諸港のこれ以上の伸長は、貿易立国を維持する上でも看過できない状況で、阪神、京浜といった拠点港への集中整備と、それに伴う競争力強化は避けられない。
 ただ、戦略港湾に選定しさえすれば、おのずからコンテナ貨物が集約され、世界の諸港と互角に競争できるというわけではない。北米航路貨物を全国から横浜港に集めようと狙うが、現在積み替えている釜山から自動的に変更されるのかは疑わしい。荷主はコストで搬出入港を選ぶのが一般的だからだ。
 釜山と比べ約4割高いといわれる港湾コストに加え、荷役、入港料、水先案内を含めたコスト全体の圧縮を迫られる。そのため、荷役に効率的なターミナル造成と一元的な運用、内航、鉄道、トラックによる貨物集散ルートの改善など、課題は山積している。「アジアのハブ」奪回に向けた重点投資の内容も問われそうだ。

効率的な運用と集散ルートの改善

年度内に工程表
 国際コンテナ戦略港湾の決定を受け、国交省は京浜、阪神両港の今後の事業スケジュールを示す工程表づくりに乗りだす。国際競争力を備えたコンテナ港の構築に向け、貨物取扱量の最終目標やその実現に必要となる施設、整備目標、事業の優先順位などを年度末までに策定する考えだ。
 工程表は、有識者委員会に提出された計画書の内容を参考にする。工程表で示す施設の整備目標などを踏まえ、2012年度以降に投資す る予算の均等化にも役立てる。国交省では2011年度予算に、両港の整備として、国費381億円を概算要求している。

国際コンテナ戦略港湾(2港湾)
  阪神港/(神戸港、大阪港)
京浜港/(東京港、川崎港、横浜港)
特定重要港湾(23港)
  苫小牧港・室蘭港・仙台塩釜港・東京港・川崎港・横浜港・千葉港・新潟港・伏木富山港・清水港・名古屋港・四日市港
・大阪港・堺泉北港・和歌山下津港・神戸港・姫路港・水島港・広島港・徳山下松港・下関港・北九州港・博多港
重点港湾(32道府県43港)
  北海道/ 函館港・石狩湾新港・釧路港
  東北/ 青森港・八戸港(青森)・大船渡港(岩手)秋田港(秋田)・酒田港(山形)・小名浜港(福島)
  関東/ 茨城港・鹿島港(茨城)・木更津港(千葉)・横須賀港(神奈川)
  北陸/ 金沢港(石川)・敦賀港(福井)
  中部/ 御前崎港(静岡)・三河港・衣浦港(愛知)
  近畿/ 舞鶴港(京都)・東播磨港(兵庫)
  中国/ 境港(鳥取)・浜田港(島根)・宇野港(岡山)・福山港・呉港(広島)・岩国港・宇部港(山口)
  四国/ 徳島小松島港(徳島)・高松港・坂出港(香川)・松山港・東予港(愛媛)・高知港(高知)
   九州・沖縄/ 苅田港(福岡)・伊万里港(佐賀)・長崎港(長崎)・八代港(熊本)・大分港・中津港(大分)
・細島港(宮崎)・鹿児島港(鹿児島)・那覇港・中城湾(沖縄)
重点港湾(新規の直轄港湾整備事業の着手対象とする港湾)
103の重要港湾から43の重点港湾に絞り込み

 国が来年度以降に岸壁や施設を集中的に整備する「重点港湾」には、全国に103ある重要港湾から舞鶴(京都府)や東播磨(兵庫県)など32道府県の43港=図参照=を選んだ。投資先を絞り込み、港湾の国際競争力を高める。

海上輸送網の拠点機能を
 前原国交相(当時)は会見で、「人口減少、少子高齢化、また莫大な財政赤字という制約要因の中で、重要港湾のうち新規事業を行う港湾を更に選択をすることになりました」と絞り込みの背景を説明。合わせて「基本的には1県に1港。貨物の取扱量実績、国際・国内海上運送網の拠点としての機能、それから地域からの提案、あるいは産業、経済を支える地域としての拠点、あるいは民の視点、こういった観点から選ばさせていただきました」と述べ、貨物取扱量や将来の需要見込み、地域経済への影響などを考慮して選定したことを明らかにした。

残る60港「継続案件は進める」
 選ばれた43港湾は集中投資で整備に弾みがつく。逆に、選定から漏れた60港湾は競争力低下が懸念される。そこで、前原国交相(当時)は「その他の60の港についても継続案件については、国の直轄事業として行わせていただく」と発言。新規整備事業は期待できないものの、継続事業については実施を確約した。また、23の特定重要港湾の位置付けは変わっておらず、必要に応じた機能整備などは従来通りに進めていく方針だ。
 離島にある港や老朽化した施設についても、前原国交相(当時)は「必要最小限の直轄の新規事業を行う」と表明。その港湾として▽両津▽小木▽西郷▽福江▽厳原▽郷ノ浦▽西之表▽名瀬▽運天▽金武湾▽平良▽石垣の各港を会見で明らかにした。
 「選択と集中」の成果に期待したい。

国際バルク戦略港湾
国際バルク戦略港湾を年末に選定11港が応募し優位性をアピール

 鉄鉱石や石炭、穀物のばら積み貨物を取り扱う港の整備に重点投資する「国際バルク戦略港湾」の選定作業が進められている。国土交通省の「国際バルク戦略港湾検討委員会」は、8月19、20、27日に開いた3回の会合で、計画書を提出していた11の港湾管理者にヒアリングを実施した。ただ、「総じて計画内容の熟度が低かった」(当時、長安豊政務官)として、秋以降に再プレゼンテーションの機会を設ける方針だ。年末には国際バルク戦略港湾が決まる。

鉄鉱石、石炭、穀物の3品目が対象
 国際バルク戦略港湾は、鉄鉱石などのばら積み貨物を取り扱う国際バルク戦略港湾を国が選定し、大型船舶による一括大量輸送を可能とする港湾整備などに重点的に投資する。対象は穀物(トウモロコシ、大豆)、鉄鉱石、石炭を取り扱う港湾で、各港湾管理者(自治体)が2020年時点でアジア主要港湾と比べ遜色がない物流コスト・サービスを実現するための施策などを提案し、その実現性などを審査して、国際バルク戦略港湾を決める。
 応募者は、単独の港湾管理者に加え、大型船舶が2つの港に寄港して貨物の積み降ろしをする場合を想定して連携港湾の港湾管理者との連名も可能。公募対象品目以外の品目を含めた提案もできるが、選定はあくまで公募品目を対象に行う。
 選定は、各品目で共通する施策の評価と、品目ごとに設定した施策の評価の二つで実施する。各項目別に配点し、合計1000点で評価する。共通の施策項目には物流コストや二酸化炭素(CO)排出量の削減効果、「民」の視点での効率的な運営体制の確立なども含まれている。

国際バルク戦略港湾の各応募者
公募港湾名 公募対象品目
室蘭港 石炭
釧路港 穀物
小名浜港 石炭
鹿島港 穀物、鉄鉱石、石炭
木更津港 鉄鉱石
清水港・田子の浦港 穀物
名古屋港 穀物
水島港 穀物
福山港 鉄鉱石
徳山下松港・宇部港 石炭
志布志港 穀物
選定港数は限定しない
 対象品目ごとに最低1港湾を選ぶ予定だが、長安豊政務官(当時)は「大きな経済効果が得られるなら数を決めず、何港に絞るということではない」と指摘。その上で「中国などに石炭、穀物、鉄鉱石を買い負けないようコストダウンを図ることが重要だ」と強調し、品目ごとに絞り込む港湾数は決めず、経済効果を重視して選定を行う考えだ。
 応募受付期間は6月1日〜8月3日。有識者で構成する「国際バルク戦略港湾検討委員会」が8月に応募した港湾管理者に対しヒアリング(3回実施)を実施。この中で各港湾管理者は地理的特性を活用した物流コストの優位性や2020年までにパナマ運河の拡張に対応した大型船対応の施設整備の推進、港湾運営の民営化、地域産業の発展につながる港湾づくりなどを提案した。

秋以降に再度ヒアリング
 ただ、8月27日のヒアリング終了後に会見した長安豊政務官(当時)は「計画内容の熟度や、港と企業間の連携面での調整に不十分なところが目立った」と指摘。各応募者に計画書の改善を求め、「秋以降にもう一度プレゼンテーションしてもらうことを決めた」と述べた。年末の選定スケジュールは変えないという。

黒田勝彦(くろだ・かつひこ)
1966年京都大学大学院工学
研究科修了。93年神戸大学工
学部教授、05年から現職。
専門は港湾・空港計画、土木計
画など。
戦略港湾・釜山港から集荷機能を取り戻す
〜地方港湾・産業育成策を考えた新たな港湾利用を〜
 国際コンテナ戦略港湾や国際バルク戦略港湾の選定の動きや重点港湾の絞り込みなど、港湾事業の「選択と集中」について、戦略港湾の選定委員の一人でもある交通政策審議会港湾分科会の黒田勝彦分科会長(神戸市立工業高等専門学校校長)に聞いた。
−国際コンテナ戦略港湾に阪神港と京浜港が選ばれた。
 「地形的な条件や提案内容などからして妥当な選定だと思う。応募した4港から戦略企画書が提出され、その政策目標達成手段の妥当性や実現性などを、選定委員が港湾管理者から直接ヒアリングし、それが採点結果となった。採点結果はすでに公表されているが、両港とも提案内容が優れていて、実現性があった」
−選定のポイントは。
 「今回の政策的な狙いは、釜山フィーダーにかかっている日本貨物を戦略港湾に取り戻すことだ。日本から欧米の基幹航路の抜港が進んでいるが、その最大の原因が瀬戸内、日本海の地方港から出るコンテナ貨物が韓国の釜山港に吸い上げられている点だ。それだけでなく3大湾の直背後貨物でさえも釜山港にフィーダー輸送され始めている。日本全体でみると、欧米基幹航路を利用する貨物のうち、20数%が釜山港経由でフィーダー輸送されている。この状況を放置すれば、ストロー現象で貨物がどんどん釜山港に流れる。これを食い止めるためには、貨物を国内のどこに、どのような手段で集約するかが重要となる。それが選定のカギとなった。さらに、1港だけでは危機管理やセキュリティーの面で心配があるため、国家戦略という大きな視点に立ち2港が選定された」
−提案内容の実現性は。
 「釜山港経由との価格差のデータなどを使い、具体的な提案が出された。例えば内航新造船への補助金制度の創設や内航船の石炭・石油税の免除など、こうすれば集荷ができるという提案が多く出された。また、阪神港は大阪港と神戸港の両埠頭公社を来年度に民営化し、5年後に経営統合させるなど、具体的なロードマップも提示していた。現在、瀬戸内の港湾から釜山港にフィーダーしている貨物は100万TEU程度ある。これを阪神港に取り戻し、ふ頭公社の経営を民営化してコスト競争力をつければ、十分に釜山港と戦えるはずだ」
−年末の選定に向け、国際バルク戦略港湾に11港が応募している。
 「8月に各港湾管理者にヒアリングを行った。国際バルク戦略港湾の選定ポイントは、税金を使って集中的に整備予算を投入するため、公共性が担保され、国民にも説明できる提案内容でなくてはならない。その意味では提案内容がまだ十分とは言えない状況だった。複数の企業が連携し、同時に港湾同士も連携する。そうしたダイナミックな動きの中で『国際マーケットで買い負けない』、『大量に安価に購入し、それを国民に還元できる』という提案が必要だろう。選定港湾数は未定だが、再提案が出揃った時点で議論されるものと考えている」
−重点港湾に43港が絞り込まれたが、地方港湾は今後どのような方向に進めば良いのか。
「いまや全国の多くの港湾に国際コンテナターミナルがある。これは税関機能があり、海外との窓口がすでに整っているということだ。地方自治体(港湾管理者)は地場産業と一緒になって知恵を出し、この国際コンテナターミナルを使った独自の産業育成を考えるべきだ。重点港湾からもれた港湾でも、知恵を出せば海外との商売はできる。例えば、観光産業を発展させたいのであれば、アジアのクルーザーとフェリーを呼び込む港に変えていけばよい。これから海外で電気自動車が普及すると思えば、国内の中古ガソリン車を集め、そのエンジンをモーターに取り替える産業を育て、海外への中古電気自動車輸出基地にするなどの知恵はある筈だ。一方、国はこうした地方の独自の港湾育成策を支援していくべきだ。具体的には港湾補助金コンペなども一案として考えられるのかもしれない」


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