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 1995年1月に発生した阪神・淡路大震災では神戸港が大きな被害を受け、港湾機能が一時的にマヒした。震災後に復旧工事が行われ、港の機能は回復したものの、国際コンテナ取扱量は震災前の規模には戻っていない。海上輸送ネットワークの枠組みからいったん外れてしまえば、港勢を取り戻すのは容易ではない。それだけに防災に対する備えは決しておろそかにできない。日本の港湾施設の防災力はどの程度備わっているのだろうか。
 国土交通省港湾局の小野憲司海岸・防災課長に「港湾の防災力の課題と展望」をテーマに寄稿してもらうとともに、岸壁の耐震化や堤防の整備状況などを表やグラフで紹介する。

港湾の防災力の課題と展望
国土交通省港湾局 海岸・防災課長  小野 憲司
1.はじめに
 1995年1月17日早朝に発生した兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)や2004年12月26日のインド洋津波、更には2005年8月末のニューオリンズの高潮災害は、我が国における地震・津波、高潮等の自然災害の脅威をあらためて国民に思い起こさせ、安全・安心への関心を大きく高めることとなった。
 この様なことを踏まえ国土交通省港湾局においては、災害に強い海上輸送ネットワークの構築と地域の防災力の向上をめざして、2005年3月に「地震に強い港湾のあり方」を、また2009年3月には、「地球温暖化に起因する気候変動に対する港湾政策のあり方」をとりまとめた。
 本稿では、上記の検討データ等も参照しつつ、地震や津波による災害リスクに加えて地球温暖化による海面上昇や大型台風の発生などの中長期的なリスクに対するわが国港湾の防災力とその課題の概要を述べることとしたい。

2.地震・津波防災とその課題
 我が国近海で発生した大型地震はしばしば津波を伴い、特に、人口や産業活動が集中する港湾周辺の沿岸域において大きな被害をもたらす。近年の津波被害として記憶に新しい日本海中部地震津波(1983年5月)では、海浜に遠足に来ていた小学生や魚つり客、港湾工事中の作業員を含む100人が犠牲となり、また死者・行方不明者230人を出した北海道南西沖地震津波(1993年7月)では、津波によってフェリーターミナルが破壊され、港内には瓦礫や車、漁船等が散乱したためフェリーの運航が停止した。
 兵庫県南部地震では、震災前には270万TEUの国際コンテナを取り扱う、我が国最大のコンテナ港湾であった神戸港が壊滅的な打撃を受けた結果、この年の神戸港のコンテナ取扱量は半減し、現在に至るまで当時の港勢を取り戻していない。
 これまでもこの様な地震・津波による大きな被害を受けてきた我が国沿岸域は、今後も、三陸から日向灘に至る広い地域で30年以内にマグニチュード7を超える大型地震が50%を超える確率で起こるものと予測されており、岩手県三陸沿岸には20mを超える津波が押し寄せる可能性があるとされている。
 一方、全国の海岸堤防は、その6割が予想される津波の高さに対応したものとなっているものの、十分な耐震性が確認されているのは3割弱にとどまる。4割弱の市町村で津波防災訓練をまったく実施しておらず、津波に対する備えは必ずしも十分ではないと言えよう。

3.高潮防災とその課題
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三重県の的矢港(提供:国土交通省)
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 日本の沿岸域には、地表の標高が満潮時の平均海水面よりも低い、いわゆるゼロメートル地帯が約1,650km広がっており、540万人が住んでいる。
 先述のニューオリンズの高潮災害の事例では、市域の約半分が海抜0mを下回るゼロメートル地帯であるにもかかわらず十分な堤防の高さが確保されていなかったため、ハリケーン・カトリーナによって6〜9mの高潮が発生すると、市の周辺約50ヵ所で堤防が決壊し市街の約8割が水没した。その結果、約30万戸の家屋が全壊し犠牲者は
1,464人、約960億ドル(約11兆円)といわれる甚大な被害を出した。
 このように、大型台風等によって、人口・機能が集積する都市部のゼロメートル地帯の高潮防護ラインが破堤すると、大規模な浸水災害が発生することとなる。一方、わが国の海岸堤防は、1949年のキティ台風や1951年のルース台風、1959年の伊勢湾台風等の被害を契機に本格的に整備され、また新潟地震を契機に耐震性強化が進められてきた。このため、これらの堤防の約3分の2は、高潮に対応可能な高さを有するものとなっているものの、築造後40年〜50年を経て老朽化が著しい。
 例えば、伊勢湾台風の復興に際して海岸堤防が築造された伊勢湾地域では、築造後40年を経過した施設が大半を占め、東京湾においても、築造年不明のものを含めると、老朽化が進んでいるものと推定される海岸堤防は全体の3分の1に達する。
 このように、わが国の高潮防護ラインでは、老朽化による防潮機能や地震に対する耐久性の低下が進展しており、今後の海面上昇や台風等の大型化への対応が次第に困難になりつつあると危惧される。

4.複合要因による巨大災害のリスク
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三重県の的矢港(提供:国土交通省)
 国土交通省港湾局が2009年4月2日に公表した東京湾を対象とした大規模高潮浸水想定では、東京湾沿岸域の高潮防護能力の検証及び長期的な海面上昇による高潮災害リスクの把握を目的として、伊勢湾台風級及び室戸台風級の大型台風が東京湾岸の首都圏に対してもっとも影響の大きいコースで上陸した場合に加えて、今後地球温暖化の影響によって中長期的に東京湾の平均海面が最大60cm上昇した場合のリスクについても評価を試みている。
 現在の東京湾の高潮防護ラインは、堤防の3分の1、水門の3分の2が耐震性に課題を有することから、首都直下型の大型地震が発生すると一部の区間で海岸堤防等が破損し、復旧工事完了前に大型台風が襲来する危険性がある。
 図はこの様な複合災害が起こった場合の浸水被害の拡大率を示したもの。首都直下地震との複合災害が発生すると、現在東京湾において想定されている伊勢湾台風級の大型台風による高潮災害に比べて、浸水面積で1.6倍、市街地に流入する海水の量は2.2倍となる。
 また、地球温暖化の影響による海面上昇と台風の大型化が生じると、高潮防護ラインの外側に位置する港湾ターミナルや企業の敷地から小型船舶や木材、コンテナ等の様々な物質が流出し、海岸堤防を破損したり水門の閉鎖を阻害する危険性がある。このような複合災害が発生すると、図に示すとおり浸水面積は3.2倍、市街地に流入する海水の量は9.1倍に増加し、東京都のゼロメートル地帯などでは浸水深が5メートルを超えることから、高齢者や病人を中心として多数の人的被害を引き起こす恐れがある。

5.今後の政策課題
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三重県の鳥羽港(提供:国土交通省)
 本稿では港湾を取り巻く地震・津波及び高潮災害に関する防災の現状と課題について述べた。これらを踏まえると、港湾の防災力向上に向けた課題は以下の3点に集約されよう。

ハード、ソフトを組み合わせた総合的な防災の推進:特に、海岸保全施設の緊急強化と老朽化対策や耐震化が間に合わない場合にあっても、災害の規模を小さくするための様々な「減災策」の展開が必要。
 
港湾に特有の「堤外地」対策の促進:津波・高潮防護ラインの外側に位置する堤外地には港湾機能のみならず鉄鋼や重化学等の我が国の基幹産業、電力、エネルギー基地等が立地することから、これらから流出する漂流物の発生を防止するとともに、これらの基幹産業の機能の継続性を強化するBCP(業務継続計画)の策定を進めることが重要。
 
海面上昇や台風等外力の巨大化への適応:地球温暖化に対処するための、オランダのデルタ計画やイタリアベニスのモーゼ計画のような、国家百年の視点に立脚した戦略的な適応策の展開が求められる。
 
 国土交通省港湾局においては、上記の3項目を今後の防災戦略の中心となる視座に据えて、着実な政策の立案、実施に結び付けていくこととしたい。

耐震強化岸壁
2010年度の整備目標率を70%に設定 急ピッチで進む耐震岸壁整備
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 日本は世界でも有数な地震国であり、耐震対策は欠かせない。港湾施設についても国土交通省港湾局が2006年3月に「耐震強化岸壁緊急整備プログラム」を作成。このプログラムに基づいて、耐震強化岸壁の整備が現在進められている。
 プログラムは大規模地震が発生した場合でも震災直後の緊急物資、建設機械などの海上輸送機能を担う必要性の高い岸壁の耐震強化を図る目的で作成された。震災時に担う機能の面から、耐震強化岸壁を「耐震強化岸壁(特定)」と「耐震強化岸壁(標準)」の2種類に分け、整備を進めるとしている。
 このうち、耐震強化岸壁(特定)は、大規模地震等による被災時に利用が困難となるような変形・変位を生じさせない係留施設を指す。想定される最大規模の地震直後から緊急物資の輸送が可能で、例えば首都圏で想定される最大規模地震(震度6強〜7、
300年〜500年に1度に発生)でも震災直後から利用可能な状態を目指す。
 一方、耐震強化岸壁(標準)は、大規模地震等による被災時に応急復旧を行うことで、緊急物資を輸送できる係留施設を指す。応急復旧の期間は被災から7日間程度とし、首都圏で想定される震度6弱〜6強(100年〜150年に1度発生)の地震では震災直後から利用ができるよう整備する。
 耐震強化岸壁が必要とされる各港では耐震強化岸壁(特定)を最低1バース確保する。それ以外は耐震強化岸壁(標準)を配置することを基本とし、被災直後から使用が可能な施設が近傍にある場合は耐震強化岸壁(特定)の代替施設として「耐震強化岸壁(標準)」配置するとしている。
 整備の対象期間は2006年度から2010年度までの5年間。2010年度の目標整備率(計画バース数に占める整備済み及び整備中バースの数の率)は概ね70%に設定。これらの耐震強化岸壁は①耐震強化岸壁が整備されていない県②耐震強化岸壁が未整備である港湾などに高い優先順位を与えつつ、既存老朽岸壁の改良を中心に整備を進めることが盛り込まれている。
 現在プログラムに沿って耐震強化岸壁の整備が急ピッチで進められている。国土交通省がまとめた2009年5月末での整備状況によると、整備計画バース336カ所のうち、耐震強化岸壁整備完了が170バース、同整備中が46バースで全国平均の整備率は64%となっている。
 図1は東海地震、東南海・南海、首都直下、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震など大規模地震が切迫する地域の耐震強化岸壁(重要港湾以上)の整備状況を示したものだ。これを見る限りではまだまだ未整備港湾が多いことが分かる。国土交通省港湾局では整備目標の達成に向け、今後耐震強化岸壁の整備をさらに加速させていく方針だ。

高潮・高波対策
三大湾のゼロメートル地帯の浸水を防げ 所定高さの海岸堤防は東京湾で89% 
 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書によると、地球温暖化に伴い、21世紀末に最大59cmの海面上昇や熱帯低気圧の強大化などが予測されている。こうした気候変動は災害規模を拡大させる可能性が高く、気候変動に対応した防災対策が今後求められる。特に人口や資産が集積する東京、伊勢、大阪の三大湾は沿岸域にゼロメートル地帯が広がっており、大型台風などによる高潮・高波対策は急務と言える。三大湾の堤防整備などはどの程度進んでいるのだろうか。
 図1は三大湾の高潮堤防の整備状況を示したものだ。伊勢湾台風級の台風が満潮時に来襲した場合を想定した高潮堤防がどの程度整備されているかを示している。
 三大湾の海岸堤防の整備状況(2005年9月現在)は東京湾で89%、伊勢湾で90%、大阪湾で100%が所要の高さで整備済みだ。一方、全国平均でみると、所要の高さで整備され、堤防高が充足されているのが65%で、暫定的には充足しているのが21%となっている。
 図2は堤防の耐震性を示したもの。海岸堤防の耐震性は東京湾で62%、伊勢湾で65%、大阪湾で90%が対策を終えている。
 図3は堤防の築造経過年数を色分けしたもの。東京湾で20%、伊勢湾で61%、大阪湾で20%が建設後40年以上が経過している。一部で老朽化も確認されており、早急な対策が求められている。
 図4は水門・陸閘(りくこう)などの海岸保全施設の操作訓練と耐震対策の実施状況を示している。海岸保全施設のほぼすべての水門・陸閘などは年1回以上開閉確認が実施されている。一方、水門・陸閘などの耐震対策は東京湾で32%、伊勢湾で5%、大阪湾で100%が耐震対策を実施済みで、三大湾でばらつきがある。
 国土交通省は2008年度から海岸保全施設の老朽化対策を本格的に着手。空洞化や沈下などで海岸堤防・護岸などの機能が著しく低下し、甚大な被害が発生するおそれがある海岸について、①老朽化調査②緊急的な老朽化対策を実施するための「老朽化対策計画」の策定③老朽化対策工事(海岸堤防・護岸などの改修・更新、消波機能新設による機能向上)の実施を進めている。
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沖合波浪観測体制の強化
全国11カ所にGPS波浪計を設置 波浪を観測し、地震時の津波情報に生かす
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 国土交通省は、港湾施設に必要な沖合の波浪情報を取得するため、GPS波浪計を2006年度から設置している。GPS波浪計は、GPS衛星を用いて、沖に浮かべたブイの上下変動を計測し、波浪や潮位を観測するシステム。平時は波浪や潮位などの海面変動をリアルタイムで観測し、地震時にはその観測データを気象庁に提供し、津波の陸上への到達時間の計測などに活用する。リアルタイムキネマティックGPSを採用しているため、高い精度の測位が可能で、誤差は数cm程度に納まるという。
 すでに全国11カ所で設置を終えており、2007年8月から岩手釜石沖と宮城金華山沖の2カ所、2009年3月から宮城北部沖、岩手中部沖、青森東岸沖、三重尾鷲沖、和歌山南西沖、高知西部沖の6カ所が本格運用を開始し、その観測データをリアルタイムナウファスで公表している。残る岩手北部沖、静岡県沖、福島県沖の3カ所についても現在システムの設定中で、2009年度末を目途に公表を開始する予定。
リアルタイムナウファス
 ナウファス(全国港湾海洋波浪情報網)は国土交通省港湾局、各地方整備局、北海道開発局、沖縄総合事務局、国土技術政策総合研究所及び独立行政法人港湾空港技術研究所の相互協力のもとに構築・運営されているわが国沿岸及び沖合の波浪情報網。ナウファス波浪観測情報は、蓄積された長期間のデータの統計解析を通じて、港湾・海岸・空港事業の計画・調査・設計・施工をはじめとした沿岸域の開発・利用・防災に幅広く活用されるとともに、気象庁による波浪予報に活用され、海の安全に貢献している。リアルタイムナウファスは、ナウファス波浪観測情報をリアルタイムで提供するウェブサイトで、台風時の高波等の波浪情報をだれでも閲覧することができる。
URL http://www.mlit.go.jp/kowan/nowphas/

基幹的広域防災拠点の整備
大阪湾の堺泉北港堺2区で整備が進む
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基幹的広域防災拠点活動イメージ(発災時)
 基幹的広域防災拠点は大規模かつ広域的な災害が発生した際に、救援物資等の物流のコントロールセンターや海上輸送等の中継基地、広域支援部隊のベースキャンプなどの災害対策活動の核となる施設。首都圏では川崎港の東扇島地区に第一号の基幹的広域防災拠点が2007年度に完成している。現在、東南海・南海地震や近畿圏の内陸直下型地震などの大規模災害に対応するため、大阪湾の堺泉北港堺2区で基幹的広域防災拠点の整備が進めてられいる。完成は2010年度を予定。

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