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 100年に一度といわれる世界的な経済危機の克服のため、世界各国で積極的な財政出動の動きが広まっている。わが国でも08年度補正予算、09年度予算の成立に続き、追加経済対策が策定され、港湾・空港や高速道路などの公共事業に加え、環境や福祉、新エネルギーなど多岐に渡る事業が展開されることになった。厳しい経済状況にあって、公共事業の追加は建設産業界にとってフォローの風といえるが、単純に喜んではいられない。雇用の確保や将来の国の成長につながる投資など、国民の目に見える形での実績が求められるからだ。公共事業の経済効果を実証し、公共事業の拡大を国民から支持されるようにしなければならない。建設産業界の英知に期待がかかっているのである。

■深刻な世界的な景気後退■
img 今年3月、IMF(国際通貨基金)が「2009年の世界経済は年平均ベースで0.5%〜1%のマイナス成長になる」との見解を明らかにした。(表1参照)
 このような落ち込みは、過去60年で初めてのこと だ。IMFは今年1月に09年の世界経済成長率見通しを公表したが、その時点の成長予測率は
0.5%。わずか3カ月での下方修正は、世界経済が深刻な景気後退に直面していることを浮き彫りにしたものといえた。先進諸国や新興市場国数カ国が大規模な景気刺激策の乗り出したにもかかわらず、依然として世界の取引高は急速に縮小しているのだ。一方、IMFは09年を底に世界経済成長率は回復に転じ、10年には上向くと予測したが、この予測は金融情勢安定に向けた包括的な政策や大規模な財政支援などを前提としており、「世界経済成長が好転するには、需要の下支えのための断固とした持続的政策支援と、金融情勢の安定に向けさらに協調を進めた政策措置が不可欠」(IMF)と述べている。世界経済の先行きは予断を許さない状況といえる。 

■世界各国で財政出動の動き■
 このような世界的な経済不況を克服するため、世界各国がその対応策に乗り出した。2月14日、イタリア・ローマで開かれた先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)の会合では、09年中は世界経済の低迷が続くとの認識で一致するとともに、低迷からの脱却のため内需拡大や雇用創出等を主眼とした財政出動の前倒しを、各国が機動的に協調して取り組むことで合意した。G7で採択した共同声明では、財政出動の具体的な使途にも言及、弱者支援や成長力強化につながる公共事業などの前倒しを迅速に行うことを求めた。さらに、4月2日にイギリス・ロンドンで開かれた金融サミットでは、世界20カ国・地域の首脳が集まり、各国が景気刺激のための政策等を報告、世界経済を成長軌道に戻すための協議を行った。
 財政出動に関し、世界の主要国は大胆な政策を打ち出している。米国では総額7870億ドル(約72兆円)と過去最大の景気対策法が成立、最大350万人の雇用創出に向けて動き出した。中国は昨年11月、10年までに総投資額約57兆円を投入する大規模な景気刺激策を公表。欧州各国も相次いで金融・財政政策に着手している。米中両国の財政出動の特徴は、即効性のある景気対策として公共事業を位置付け、巨額な投資を行おうとしていることである。
 日本も追加景気対策に乗り出した。今回の世界的経済不況は、米国発の金融危機が発端だ。その金融危機で日本の金融機関が受けたダメージは比較的少なかったといわれるが、実体経済の悪化は想定以上のスピードで進行している。内閣府が2月12日に発表した昨年10〜12月の実質国内総生産(GDP)改定値は、年率換算で前期比12.1%減、速報値(12.7%減)に比べ小幅上方修正された。しかし、先進各国との比較では、ドイツが8.2%減、危機の震源地である米国でさえ6.2%減で、日本経済の落ち込みがいかに突出しているかがわかる。それだけ経済の悪化は深刻なのである。このような経済情勢を受け、麻生内閣は4月10日、15兆4,000億円の財政支出を盛り込んだ追加経済対策(経済危機対策)を決定した。

■国際競争力強化の視点を■
img 日本の追加景気対策では、港湾整備への重点投資が不可欠だ。わが国は四方を海に囲まれた海洋国であり、貿易立国である。物流の拠点である港湾施設の整備は、国力を維持・向上のために必要なものであり、国際競争力という面でも早急に整備する必要がある。国際競争力強化の観点からプライオリティーの高い国内主要港湾の整備を急ぐべきである。
 国際競争力という面から港湾整備の現状を見てみよう。05年、06年の世界の港湾別コンテナ取扱個数ランキングでは、シンガポールや中国、韓国、台湾の港湾が上位6位を占めている。日本の港湾では東京港が05年の20位から06年は23位に、横浜港は27位が28位に順位を下げている。(表2参照)
 これを80年当時と比べると日本の港湾の地位低下と他のアジア諸国港湾の隆盛が浮き彫りになる。80年でのトップはニューヨーク、ニュージャージー。日本の港湾では神戸が4位に入っているほか、横浜が12位、東京が18位である。06年に上位を占めたアジアの港では、香港が3位、高雄が5位と当時から上位にいるものの、釜山16位などいずれも10位以下だった。この25年間でアジアの主要港が規模の拡大やコスト低減でコンテナ取扱量を増やし、国際コンテナ港湾の地位を確保する一方で、日本の主要港湾は世界の下位に甘んじてしまったのである。

■重要港湾の整備に着手■
 国際物流の大動脈であるコンテナ船の基幹航路ネットワークから、日本の国際コンテナ港湾がはずれることは、日本の産業競争力の低下を招くだけでなく、国民生活の利便性を損なうことにつながる。基幹港ではなく、積み替え(トランシップ )による2次輸送(フィーダー輸送)の端末港になれば、リードタイムが増加し、コストの上昇にはね返ってくるからだ。このような危機感を背景に、わが国でも重要港湾を対象とした本格的な整備への取り組みが始まった。04年からスーパー中枢港湾整備事業が始まり、国内主要港(5大港)を対象に特定国際コンテナ埠頭(次世代高規格コンテナターミナル)を形成することになった。これによりコストを3割減、リードタイムを現在の3、4日を1日に短縮することを目指している。
 港湾整備の重要性を以前から訴え続けている政治評論家の森田実氏は、日本が港湾への公共投資を減らした90年代初期から、アジアが経済大成長の時代に入り中国、韓国などが国家戦略とした大港湾を整備、また阪神大震災での神戸港の被災などもあり、海運の主導権はアジアの他の港に移ったと指摘。その上で、「日本のような貿易国で、しかも、経済大国において、巨大船舶が停泊できないような港のままでいいのか、日本はこんな閉鎖政策をとっていいのか。港湾こそは日本の命である、港湾を大切にすべきだ。港湾は道路と並ぶ日本の最大の社会資本なのだ」と強調し、巨大船舶が東京湾や伊勢湾、大阪湾に入れるようにすべきだと訴えている。傾聴に値する主張である。

■雇用確保に一定の効果■
img 森田氏が港湾・空港の整備の必要性を訴えたのは、著書「新公共事業必要論〜港湾・空港整備が日本を救う」(日本論評社)だが、同氏はこの著書で、公共事業への言われなき批判にも反論し、国民生活を向上させるための国民にとって必要な公共事業は実施しなければならないと主張している。
 ここでは、一般に言われる公共事業への批判は正しいのかを他の資料をもとに検証してみる。
 三井住友フィナンシャルグループの日本総合研究所は2月中旬、「公共投資の意義を問いなおす〜雇用・景気対策としての有効性を高めるために〜」と題するレポートを公表した。レポートは、公共投資に対する批判として指摘されている、
1)景気押し上げ効果がない
2)成長力強化や生活向上などの便益につながらない
3)財政健全化の道筋に悪影響がおよぶ
—の妥当性を検証したものだ。結論としてレポートは「公共投資に対する批判は必ずしも妥当性はなく、そのやり方次第では効果が見込める」としている。
 景気の押し上げ効果では、90年代の経済対策における公共投資の追加は、雇用の確保に一定の効果があり、92年から99年までの総額56兆円の公共投資追加によって合計117万人程度の雇用が創出されたと指摘。最近の内閣府の試算では、1兆円の公共投資で就業者は1.7万人増加する計算になるという。(図1、2参照)
 便益に関しては、既存の投資配分を前提とせず、公共投資の配分やカバー範囲を見直すことで、便益性の高い社会資本が整備されるとした。財政面では、景気後退の深刻化・長期化による税収減少を考えれば、公共投資を呼び水に景気回復を図れば税収の回復が期待できるとした。民間投資を呼び込む投資をすれば公共投資の拡大は適切な政策方針であると強調している。
図1、2:日本総合研究所調査部ビジネス戦略研究センター/ビジネス環境レポート「公共投資の意義を問い直す〜雇用・景気対策としての有効性  を高めるために」より抜粋

■無駄を排除し市民を味方に■
 公共事業予算は、ここ10年ほど一貫して減少している。特に小泉政権のもとで公共事業が悪者扱いされ、公共事業費の拡大に対する国民からの批判が起きた。これが公共事業費の削減に結びついた。確かにムダが多いなど一部に問題はあるが、だからといって公共事業全てがムダなわけではない。事業の重点化、効率化を国民の目に見える形で実施し、公共事業の拡大を理解してもらう必要がある。今回の世界的経済危機は建設産業界も苦境に陥れているが、公共事業の持つ効果を再検証する良い機会である。経済苦境というピンチをチャンスに変え、国民からの支持、信頼を得る公共事業へと脱皮する好機なのである。
(文責:日刊建設工業新聞社)

環境・安全への投資主眼に地域特性生かした整備が必要
法政大学大学院政策創造研究科教授 黒川和美
 今後の港湾整備への投資は、環境や安全に主眼を置くべきではないかと思う。地域の港の特色を生かしたまちづくりも重要だ。例えば、東京港は船の航行が非常に過密な港である。日本は東京にオリンピックを誘致しようと運動しているが、仮に実現すれば臨海部でトライアスロン競技が行われることなり、今のままでは競技場所のそばをコンテナ船が行き交うことになる。これは非常に危険である。
 東京港の水質も心配だ。東京湾に流入する河川の水は以前にくらべ浄化されており、少しずつきれいになってはいるが、これは上の部分だけで底の方はヘドロだらけだ。キチンと浚渫して水質を含め環境の良い港とする。そこに観光要素などを取り入れれば、美しい魅力のある港を核とした地域ができることになる。
 すでに全国には港の立地をいかしインナーハーバーとして整備されている地域もある。貨物取扱施設をあらたに外港に整備し、旧来の港をインナーハーバーとして魅力ある地域とする。全国すべての港が単純にコンテナ対応を目指す必要はなく、地域の特性を踏まえた整備に心がけるべきだ。港を使ってどんな投資を呼び込めるかが重要なのである。
 人の安全という点では、港の持つ防災拠点としての役割も重要だ。例えば、東海地震が起きた時、東京湾の東扇島が物資の集積拠点となり、そこから各地に物資を動かす。まだ、全国ではこのような基幹的防災広域拠点が2、3個所程度しかない。早急に防災拠点を整備すべきである。
 安全や水質の向上を含めた環境問題、港の背後地の高度利用など建設企業各社も、これらの分野の技術開発に投資すべきであろう。
 財政的な制約を考えれば、投資はできるだけ実需を伴うものでなければいけないだろう。工事が済めば終わりというのではなく、民間が協力してお金を出し、そこに国の補助金が少し入る。官民がそれぞれの役割を踏まえ、皆が実需ある投資に参加できるメカニズムの構築が必要だ。

img黒川 和美(くろかわ・かずよし)
1945年、岐阜県生まれ。
70年横浜国立大経済学部卒、76年慶応義塾大大学院経済学研究科博士課程修了。77年法政大学経済学部助教授、85年教授。08年法政大学大学院政策創造研究科教授。公共選択学会会長、日本計画行政学会会長などを歴任。内閣府規制改革・民間開放推進会議委員、財務省財政制度等審議会委員、財務省独立行政法人評価委員会委員など多くの委員を務めた。現在も国交省交通政策審議会港湾部会委員を務める。著書に「公共部門と公共選択」(三嶺書房)「地域金融と地域づくり」(編者、ぎょうせい)など著書多数。

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