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小鳴門海峡に面する撫養港  提供:徳島県

【港湾概要】
【港湾面積】1,162ha
【臨港地区】3.7ha
【バース数】11バース
【取扱貨物量】142.330トン(2012年実績)
 徳島県の北東部に位置し、背後に鳴門市の中心市街地を擁する撫養港。近畿地方と四国地方を結ぶ海上交通の要衝として栄え、港の歴史は奈良・平安時代までさかのぼる。明石海峡大橋の開通前までは大阪・神戸とを結ぶ高速旅客船航路もあり、港湾地区周辺には企業の倉庫群などが立地する。現在、物流基地や背後の市街地を地震・津波などから守るため、国直轄の撫養港海岸桑島瀬戸地区直轄海岸保全整備事業が進行中だ。徳島県の沿岸地域の防災・減災対策も含め、撫養港の現状を紹介する。
 
1300年前から「四国の玄関口」として栄える
 
塩や木材などの積出港
 小鳴門海峡に面する撫養港の歴史はおよそ1300年前にさかのぼる。和同開珎で有名な元明天皇時代に編纂された風土記(733年)には「阿波の国の牟夜戸(むやと)」という表現があり、〝むや〟についての記録が残る。当時、撫養(鳴門)が四国の玄関口で、そこから阿波・讃岐・伊予・土佐へ通じていた。
 中世では森水軍(阿波水軍)の本拠地として吉野川物流の積出港として栄えた。近世に入り、1585(天正13)年に蜂須賀家政が阿波に封じられて以降は、塩田開発も進められ、この頃から塩、吉野川上流域で産出される木材、中下流域で栽培される藍、煙草などが大阪、遠くは北陸、東北地方まで積み出され、阿波第一の商業港として発展した。
 鳴門市や周辺の地域には「室」や「泊」という地名が数多く残り、小鳴門海峡沿いには「土佐泊」という地名がある。これは参勤交代時に土佐藩の宿舎や土佐への航路をとる船が一時停泊したことから名称がついたと言われる。
 
本州との結節点として繁栄
 明治時代に入ると、本州との交易が盛んになり、撫養港は繁栄を極めた。1881(明治14)年の徳島県の統計書によると、年間出入り船は7,200隻(当時岡崎港と呼ばれた)を数え、県内2位の小松島港1,800隻を大幅に引き離していた。さらに地元で大塚製薬が創業するなど、製塩・製薬などの産業が発展した。
 ただ、昭和時代に船舶の大型化が進むと、地形的な条件で対応できず、徐々に繁栄にも陰りが見え始める。撫養港は湾口部に岩礁が多く、一部の岸壁がある撫養川河口も水域が狭い。小鳴門海峡の潮流も早く、船が沖合で待機できず、不利な条件が重なった。1932(昭和7)年に地方港湾の指定を受け、翌年から1,500トン級の船が通れるように暗礁を除く工事や、撫養川の浚渫工事が行われたが、立地条件に恵まれた小松島港や徳島港に物流の主導権が移っていた。
 
取扱貨物量は15万トン前後で推移
 撫養港の岸壁は、撫養川の北半分(文明橋より以北)や、小鳴門海峡・鍋島周辺の桑島・岡崎地区などに位置する。主な岸壁は1961(昭和36)年完成の桑島地区物揚場(−4m、延長150m)、1965(昭和40)年の大桑島地区物揚場(−4m、延長180m)などがある。1991(平成3)年には大阪・神戸との間に高速旅客船航路が開業したが、明石海峡大橋の開通にともない1997(平成9)年に航路は廃止された。
 総取扱貨物量は2012(平成24)年ベースで142,330トン。うち移出が79,673トン、移入が62,657トン。移出はすべて原塩で、移入は石炭が57,509トン、原塩が400トン、石油製品が4,748トンとなる。「塩や製薬会社関連の貨物が中心になっています。物流の効率化のため、県では徳島小松島港に貨物を集めていますから、撫養港は地元産品や地元企業に関連した貨物が中心になっています」(徳島県県土整備部運輸戦略局運輸政策課)。
 取扱貨物量は減少傾向が続いていたが、ここ数年は15万トン前後で推移している。
 
2012年に総合的な防災対策を策定
 撫養港はこれまで、何度も地震・津波被害を受けている。昭和以降でも1946(昭和21)年12月に発生した昭和南海地震で、鳴門市内で死者が10人でている。徳島県では撫養港以外でも県内全体の港が地震・津波による被害を過去に何度も経験していることから、2003(平成15)年に海岸保全基本計画を策定。防護に加え、環境、利用にも配慮した海岸の保全対策に本格的に着手した。
 2011(平成23)年の東日本大震災後には、2012(平成24)年に総合的な防災対策として「とくしま−0作戦」地震対策行動計画を策定。南海トラフ地震および活断層地震に備え、死者ゼロを目指す方針を明示。各種施策の数値目標を設定し、実効性を担保した。その年には全国に先駆けて県内の津波浸水想定を作成するとともに、「徳島県南海トラフ巨大地震等に係る震災に強い社会づくり条例」も制定した。
 
防護・環境・利用の3つの視点で防災対策
 
改正海岸保全基本計画の防護面での対策
 
死亡者ゼロを目指す防災対策
 
段階的な防災対策で避難時間を確保
 一方、海岸保全施設の対策も進めた。2014(平成26)年3月に内閣府・中央防災会議が示した「新しい津波対策への対応」を踏まえ、2003(平成15)年に作成した海岸保全基本計画を大幅に改正。これまでにない思い切った施策を数多く盛り込んだ。
 「改正海岸保全基本計画では、新しい地震・津波対策を全国初で位置付けました。まずは住民の生命を守ることを最優先に考え、必要な避難時間を確保するため、段階的な施設整備を実施します。縦方向の整備をできるだけ多くの沿岸部で進める方針です」(徳島県県土整備部運輸戦略局運輸政策課)。
 同時に各海岸ごとに防護面での緊急度や重要度、津波・高潮・浸食などの対策の必要性、背後地の重要度などの観点から整備対象の海岸を抽出し、その整備の優先度も決めている。
 「津波の高さや到達時間などを考え、施設整備の優先度が高いのは県南部の海岸に集中しています。ただ、県北部の撫養港の海岸は背後地に10,200人が暮らす鳴門市の中心市街地が広がっていることや、護岸(堤防)が築造後40年以上経過し、老朽化が進行していること、海岸が砂地盤で液状化の恐れがあることなどから、国の直轄工事として海岸保全施設整備事業が現在進められています」(徳島県県土整備部運輸戦略局運輸政策課)。
 
岸壁と海岸保全施設整備事業の位置図
提供: 小松島港湾・空港整備事務所
 
桑島瀬戸地区直轄海岸保全施設整備事業
 
現場条件に合わせ各種の地盤改良工法を選定
 
堤防の嵩上げや液状化対策を実施
 桑島瀬戸地区の海岸保全施設整備事業は、2006(平成18)年に事業化され、2008(平成20)年から本格的な工事に入った。事業延長は小鳴門海峡沿いの堤防2,590m。南海トラフを震源域とする地震が発生した場合、液状化により既存の堤防が倒壊あるいは沈下することが予測されるため、総事業費約162億円を投入し、老朽化した堤防の改良・嵩上げや液状化対策などを実施するほか、堤防の粘り強い構造への補強、陸閘の電動・自動化を行う。
 「老朽化した堤防の改良は、想定されるL1津波に対応し、かつ背後の施設に合わせ4工区に分けて実施しています。この工事では堤防の嵩上げだけでなく、各種の地盤改良工法を用い、液状化対策も行っています。現地条件にあったさまざまな地盤改良工法を採用しているのが、この工事の最大の特長と言えるでしょう」(四国地方整備局小松島港湾・空港整備事務所)。
 
背後の施設に合わせ4工区に分割
 工区は西側から背後に民家がある1工区(延長320m)、工場のある2工区(延長940m)、鳴門競艇場がある3工区(延長490m)、倉庫や石油貯蔵所などがある4工区(延長840m)に分かれる。どの工区も各種施設が近接しているため、地盤改良工法の選定に当たっては騒音・振動・地盤変位量・作業スペースなどの現地条件に最適な工法を選定し、施工している。
 具体的には、振動で締固めるのではなく、強制昇降装置にて砂の貫入を繰り返し行い、地中に強制的に砂杭を造成して地盤を締固める「静的締固め砂杭工法」を基本の工法におき、十分に作業スペースが確保できない場合は「静的圧入締固め工法」、さらに地盤の変位がほとんど許容されない場合は「薬液注入工法(細粒分の少ない地盤)」あるいは「全方位高圧噴射工法」が用いられている。屋内での作業を余儀なくされる場合は「高圧噴射攪拌工法(屋内対応)」が採用されている。
 「工法の選定はボーリング調査をしっかり行い、近接施設の状況なども把握した上で、こちら(発注者)が詳細な施工条件を示し、それに適合する施工方法を対応業者に提案いただき、打ち合せのうえ決定しています。施工場所近くにあるワカメの養殖場にも配慮しながら、最適な工法を採用しています」(四国地方整備局小松島港湾・空港整備事務所)。
 
地盤改良工法の選定方法
 
来年度は嵩上げや陸閘工事が中心に
 工事は地盤改良や嵩上げ工事のほかに、水門(7基)、陸閘新設(11基)、陸閘改良(13基)の工事も実施中。2015(平成27)年3月末での工事進捗率は77%となっている。「2015(平成27)年11月末時点で地盤改良工事が約9割、嵩上げ工事が約6割程度というところでしょうか。本年度、来年度にもまだ工事が残っており、来年度は嵩上げ工事と陸閘工事が中心となります」(四国地方整備局小松島港湾・空港整備事務所)。
 2016(平成28)年度の事業完了を目指し、今後工事は大詰めを迎える。
 
背後に民家が位置する1工区の施工状況
提供:小松島港湾・空港整備事務所
地盤改良工事の実施状況
提供:小松島港湾・空港整備事務所
 
浸水時に自動で扉が浮上するフラップゲートを設置
平成27年10月3日に現地で開催されたフラップゲートの起動確認見学会
提供:小松島港湾・空港整備事務所
 2011(平成23)年の東日本大震災では、陸閘の閉鎖操作に向かった多くの方が殉職された。こうした痛ましい被災を防ぐために、同事業では、閉鎖作業に多くの労力と時間がかかる大型の陸閘について電動・自動化が進められている。
 なかでも4工区の民間の倉庫前の陸閘には、津波時に浮力により自動的に浮上するフラップゲート4基を整備する予定である。
 フラップゲートは、地中に格納された扉体が津波や高潮が到達すると、その水位上昇に伴い水の浮力で扉体が徐々に起立して閉鎖する。シンプルな構造で、電気系の装置類は一切備えていない。また、通常時は自由に車両の通行ができる。すでに徳島県内で数件の設置事例がある。「設置予定の4基のうち、2基が完成し、2015(平成27)年10月3日に現地起動確認見学会を開催しました。扉体の初期浮上開始水深や扉体の動作、漏水の有無などが確認できました。残る2基は現在工事中で、年度内には完成を予定しています」(四国地方整備局小松島港湾・空港整備事務所)。
 

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