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海水といえば「塩辛い」というイメージだが、太古の発生時には……

世界の海の海水成分の違い
 今から100年以上前の19世紀後半、英国の軍艦チャレンジャーが、世界各地の海水のサンプルを採取し、これをエジンバラ大学のディットマー教授が分析した。その結果、海水の濃度はサンプルによって異なるが、その組成はいずれも一定していることが証明された。つまり、海水に含まれる物質の濃度は、海水の蒸発、降水、川などからの淡水の流入、北極や南極での氷の生成・融解などにより、濃度は変化するものの、組成は同じであるということである。
 このため、海水を構成する約96.6%の水と約3.4%の塩分のうち、塩分の占める割合は、海域によって微妙に異なる。たとえば大西洋と太平洋を比較すると、北大平洋(北緯0〜70度)の表面塩分の平均は3.41%で塩分が低く、北大西洋(北緯0〜70度)は3.54%と塩分が高くなっている。これには貿易風が深く関係しており、大西洋で発生した、湿った空気を含んだ空気を貿易風が太平洋に運び、北太平洋に雨を降らすことでその塩分濃度は下がり、一方で水蒸気が発生した北大西洋は水分が蒸発した分だけ塩分濃度が上がるからである。このように、海水の微妙な塩分濃度の違いには、風や地形などが、複雑に絡み合って関係している。
太古、酸っぱかった海水
 地球の表面積の約70%は、海水に覆われている。その量は約
140京tで、地球上に存在する水分のおよそ97%を占めている。そもそも海水がどのように誕生したのかには、さまざまな仮説がある。一般的には、46億年前の地球の形成期、小惑星が次々に激突と合体を繰り返して原始地球を形成した後、地球内部の含水物質の水分が熱エネルギーによって蒸発し地表に現れた。これが地表温度の冷却とともに凝縮されて水となり、地殻内に溜まることで、原始海水が生成されたと考えられている。
 この時期、つまり今から45億年ほど前の海水は、現在のような塩辛い水ではなく、酸っぱい水であったと考えられている。当時、地表から噴出した多量のガスには水素や塩素、水蒸気などが含まれていた。なかでも塩素ガスは水に溶けやすい性質をもっており、雨と一緒になって塩酸の雨として地表に降り、海に溶け込んでいった。このため当時の海水は強い酸性を示す、いわば塩酸の海であった。その後、長い年月の経過とともに、海中の岩石に含まれるカルシウムや鉄が溶け出し、これらが海水に混じることによって、次第に海水は酸性から中性に変化し、現在のような塩辛い海水となったのである。

変化してきた成分比率
 海水は、96.6%ほどの水と約3.4%の塩分で構成されている。つまり1リットルの海水には、34gほどの塩が含まれていることになる。では、この塩の成分をさらに分類すると、いわゆる食塩と呼ばれる塩化ナトリウム(NaCl)が77.9%と、その大部分を占めている。以下、順に塩化マグネシウム(MgCl2)が9.6%、硫酸マグネシウム(MgSO4)6.1%、硫酸カルシウム(CaSO4)4.0%、塩化カリウム(KCl)2.1%、その他0.3%となる。
 ところで、よく「海水の塩分比率は生物の体液と近い」と言われることがあるが、生体の塩分濃度は約0.9%であり、海水の約3.4%に比べるとはるかに低い。ただし、海水の塩分濃度は、地球という惑星の長い歴史のなかで少しずつ濃度を増しており、原始海水は現在の海水よりもカリウム濃度が高かった。このため生体の細胞質基質の電解質組成は、地球に生命が誕生した当時の海水に近いものと考えられている。また、細胞外液の組成は、浸透圧が低くナトリウムの比率が高くなっており、これは生命が海から陸上に生活圏を広げた時代の海水に近いと言われている。
 つまり現在の海水の塩分比率こそ、生物の体液の塩分比率とは異なるが、生物の細胞質基質や細胞外液などは、太古の海水の組成を今に伝えているともいえるだろう。
コンクリートの「百年耐久性試験」に用いられている供試体

建造物に対する海水の影響と対策
 海水の成分は、海上や海中の人工物にさまざまな影響をおよぼす。たとえばコンクリートは建造物の主要な構造材料として使用されているが、防波堤など港湾構造物の場合、陸上とは異なり海水という厳しい環境条件に対する耐久性が求められる。そのため、コンクリート材料として灰を混入させるという手法を日本で初めて実施したのは、明治時代の土木技師にして「近代港湾の父」と呼ばれる廣井勇である。廣井が手がけた小樽港北防波堤の建設工事において、着工から5年が経過した1902(明治35)年に採用された。
 海外ではすでに効果が実証されていたものの、国内では初の試みである。そこで、供試体をつくって経年変化を実際に調べるという耐久性試験がおこなわれた。試験は火山灰を混入したものと混入しないものをそれぞれ空気中と海水中に保存した4種類の強度を比較対象。50年先を見据えて6万個を超える供試体が製作されたこの試験は「百年耐久性試験」と名づけられ、1896(明治29)年の第1回目からのべ1万回以上、現在も試験はつづけられている。空気中に保存したものは火山灰の有無による強度の差が小さいのに対し、海水中の場合、火山灰を入れたものは強度の発現が早いことが実証されている。


海洋深層水の産業利用
 ミネラルや栄養塩に富んだ海洋深層水は、産業利用可能な資源として注目されており、その最先端を担っているのが日本である。当初は、雑菌がたいへん少なく栄養塩が豊富な深層水は、養殖業への利用が行われ、富山県では国内で初めて深層水によるアワビの養殖を実施、旅館などに出荷されている。さらにトマト栽培をはじめとした農業や発酵分野への応用なども研究が進められている。身近なものでは、深層水によるリラクゼーション効果や皮膚への効果が、富山大学医学部と富山県衛生研究所によって行われ、「タラソテラピー」として注目されている。

富山湾の水深321mの海水を利用した深層水体験施設「タラソピア」

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