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灯台などを目印にしたアナログの方位測定もまだまだ健在

古代の航海術
スターナビゲーション
 レーダーやGPSはもちろん、六分儀やコンパスさえもなかった数千年前、古代ポリネシア人は、すでに大海原に乗り出していた。古代の航海術は、星や波、風などの自然環境の変化を読み取り記憶することで、正確な針路を定めるというものであった。現在、こうした古代人の用いた航海術を「スターナビゲーション」と呼んでいる。古代人たちは、船の移動に従って変化する特定の星や星座などの軌道や、水平線からの高さなどを手がかりに、船位測定を行い航海をしたと考えられる。こうした伝統航海術は近代になって失われたが、これを再び現在に甦らせようという試みも進められている。
GPSの時代にも必須な航海術
 海上で自分の船の位置を把握し、目的地まで確実に到達するための技術・航海術は、遠く先史時代から人類によって活用されてきた。少なくとも紀元前3500年に中国大陸から台湾に渡った人類は、その後1000年をかけて太平洋の中心に位置するフィージー諸島やサモア諸島に到達している。紀元前1200年頃には、すでに大海原を自在に移動するための航海術を確立していた。
 その後、人類は正確な方角を知ることのできる方位磁針、天体の高度と方位で位置の線を求めることのできる六分儀、時計や速度計など、航海に必要な計器を発明し、近代的な航海術を作り上げていった。コロンブスのアメリカ大陸発見やマゼランによる世界一周など、15世紀中ごろから17世紀にかけての大航海時代も、こうした航海術の発達によって実現したものである。
 21世紀の現在、外洋を航行する船舶はもちろん、ヨットやクルーザーなどの小型船舶にまで、衛星を利用して位置を確認するGPS受信機が普及しているが、それでも航海術は、大航海時代に確立された天文航法や地文航法が基本になっていることに変わりはない。航海術は、古代から続く海の基本技術として、今も脈々と受け継がれている。

航海術の基本は船位測定
 航海術の基本は、自分の現在地を知ること、つまり「船位測定」にある。自分が今どこいるのかが分かるからこそ、正しい方向に進んでいるのかを知ることもできる。
 一般的に船位測定は、日本の瀬戸内海のような多島海域を航行中は10〜15分間隔、沿岸航海の場合は30分〜1時間、陸地の見えない航路では4時間間隔で昼夜に関わらず行われる。現在はGPS受信機の普及により、船位測定は簡単になったが、GPSのない時代には、さまざま方法により船位測定を行ってきた。
 最も基本的な船位測定法の1つが、「地文航法」である。これは灯台や山、岬や島など、陸上の目標物を対象にして船位を測定する方法である。古くは、漁師などが陸地の特徴的な地形を目印にする「山アテ」と呼ばれる方法があり、これも地文航法の1つともいえるが、現在の航海術で地文航法の基本となるのは、「交叉方位法」や「重視線と方位線による方法」などである。交叉方位法は、目標のコンパス方位(角度)を測定し、海図にその目標物から測定した方位の線を引く。これを2つまた3つ行えば、それぞれの線が交差した地点が現在地となる。重視線と方位線による方法はさらに簡単で、周囲の風景に2つの目標物が同一線上(一直線上)に見えている場合、海図でそれを特定し2つの目標物を結ぶ線を引く。この線を「重視線」と呼ぶ。その上で、重視線に用いた以外の目標の方位を測り、その方位線を海図に書き込めば、重視線と方位線の交差した点が、現在位置である。
 これらの地文航法による船位測定術は、航海術だけではなく、登山やハイキングなどで、コンパスと地図を用いて自分の現在地を測定する山座同位法としても用いられているので、ハイキングの際に試してみると面白い。

大海原で用いられる天体航法
 地文航法は、陸地や島などの目標を使って船位測定を行うため、何一つ陸地の見えない大海原では使うことができない。そこで太陽や星などを目標に、船位測定を行うのが「天文航法」である。天文航法は、水平線から目標の天体までの垂直角度を測定することにより、現在地を測定する技術である。天文航法には天体と水平線の角度を測る「六分儀」、天体の位置情報を知る「天測暦」や「天測計算表」、さらに正確な時刻を示す時計を用いて、船位測定を行う。現在の船位測定はGPSが主体であるが、機械は故障することも考えられるため、現在でも外国航路の船や遠洋魚漁船には、必ず天文航法のできる船員が乗り込んでいる。
 以上のような地文航法や天体航法のほか、GPSやレーダーなど電波計器によって船位測定をする「電波航法」、海図上で計算などにより針路と航走距離の2要素で到着位置を予測する「推定航法」、高緯度の海域を東西に長距離に渡って航海する際に用いられた「大圏航法」など、航海術にはさまざまな方法が用いられる。
 こうした航海術は、長い時間をかけて人類が学んできた、海と宇宙に関する知恵の結晶と言えるだろう。

交叉方位法
重視線と方位線による方法
天体航法に用いられる六分儀
[写真提供:山口県立山口博物館]

21世紀の航海術GPS
大王崎(三重県)に設置されたDGPS局
[写真提供:鳥羽海上保安部]
 カーナビゲーションでもおなじみのGPS(Global positioning system)は、高度約2万mに位置する周回衛星を、経度差60度ごとに区分けした6つの軌道に4個づつ、合計24個配置し、これによって地球上のあらゆる場所で自分の位置を知ることのできるシステムである。これまでの天文航法は、目標となる天体が雨や雲などにより見えない場合、船位測定をすることができなかった。また地文航法も、荒天時や航行中の測定では誤差が見られる可能性があった。しかしGPSを使えば、あらゆる天候の中、世界中のどんな場所でも、船位測定を正確かつ瞬時に行うことができる。
 GPSは、船位測定だけでなく港湾整備の分野にも大きな進化をもたらした。例を挙げると、ケーソンを整備する前の段階でも海底の捨石マウンドの位置を決定(計測精度±5cm)する、岸壁整備において船体方位と浚渫深度を把握するといった活用がおこなわれている。
 このようにGPSが活用されているのは、米国で軍事用に開発されたGPSの精度をさらに高めるために海上保安庁がDGPS局を全国各地に設置した成果である。

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