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[写真左より]褐藻類のヒジキ、紅藻類のマクサ(テングサの一種)、緑藻類のナガアオサ、海草のウミヒルモ

藻場は生き物たちのパラダイス
 大型の褐藻類や海草が群落を作っている場所は、「藻場(もば)」と呼ばれる。藻場は、中心的に生息する海藻の種類によって、コンブ場やアマモ場などといった名前がつけられている。これらの藻場には、名前の由来となっている大型の褐藻類だけではなく、その他の海藻、そして海草、さらに魚類をはじめとした海洋生物が生息しており、これを「藻場生態系」という。藻場生態系は海のなかでも生物多様性と一次生産性が最も高い場所であり、海の生物のパラダイスであるともいえる。
「海藻」と「海草」の違い
 周囲を海に囲まれた日本では、世界的にも珍しいほど、海藻の恵みを味わってきた。コンブ、ワカメ、ノリなどは、いわば日本人のソウルフードといっても過言ではない。一方で海外、特に欧米などでは、海藻はSeaweed、つまり「海の雑草」とよばれ、食用に供されることは少ない。このように考えてみると、海藻は、自然の恵みを大切にする、海の国・日本ならではの貴重な資源といえるだろう。
 「海藻」とは、海に生息している藻類の総称である。これらの中には、肉眼以下のごく小さいものも含まれるが、一般的に海藻と呼ばれるものは、目で見える大きさ以上のもので、岩などに付着しているものをさす。また同じ読み方のものに「海草」というものがあるが、「海藻」は胞子によって繁殖をする藻類であり、コンブやワカメ、ヒジキやノリ、テングサなどがあり、良く知られたカイソウはいずれも「海藻」である。一方で「海草」は種で繁殖する種子植物であり、種類も「海藻」に比べると限られている。主な「海草」には、アマモやウミヒルモ、スガモなどの種類が挙げられる。

「垂直分布」と「水平分布」
 現在、日本では、およそ1500種類の海藻類が生息している。これらは大きくコンブやワカメ、ヒジキなどの褐藻類、テングサやアマノリなどの紅藻類、アオノリやアオサなどの緑藻類の3つに分類される。
 これらの海藻類は、海面から数十mの海底まで、さまざまな場所に生息している。ただし、地上の植物が海抜0mから2000m以上の場所で生息しているのにくらべると、ごく狭い範囲にすぎない。これは、海藻も地上の植物同様に光合成によって生息するが、海面下では光合成に好適な環境条件を備えた場所が限られているためである。
 一般的に海藻は、沿岸の浅い場所には緑藻類が多く生息し、水深が深まるにつれて、褐藻類、紅藻類へと推移する傾向がある。こうした高低による生息分布を「垂直分布」と呼ぶ。海藻の垂直分布では、最も潮が満ちた時の海面の位置(高潮線)から最も潮が引いた時の海面(低潮線)の間を「潮間帯」と呼び、潮間帯よりも下を「潮下帯」と呼ぶ。また、潮が引いた時に海水がたまっている場所、いわゆる潮だまりは「タイドプール」と呼ばれている。
 一方で、日本は南北に長く、変化に富んだ地形をしており、寒流や暖流など、さまざまな海流の影響を受けている。海藻の生育・分布も、こうした地理的な影響を受けており、このような分布について、先の垂直分布と区別して「水平分布」と呼んでいる。水平分布では、本州の中部太平洋沿岸や九州から北海道にいたる日本海沿岸、つまり暖かい黒潮の影響を受ける地域には温帯性の海藻が多く、冷たい親潮の影響を受ける北海道東南部から東北の太平洋沿岸には、寒流性の海藻が多い。また沖縄周辺では、熱帯性や亜熱帯性の海藻が見られる。なお、大型の海藻は寒い地方に多く、熱帯の海では少ないとも言われている。
 近年、日本各地の海岸で海藻が消失する『磯焼け』という現象が問題になっている。その原因は、温暖化による海流変化・水温上昇、ウニなど藻食動物による食害ほか諸説が挙げられているが、未然に防ぐことは困難だ。海藻の群生は水生動物の生息場所であり、豊かな漁場でもあるため、消波ブロックなどのブロックを沈めて人工的に藻場を造るなどさまざまな試みが各地で行われている。

水平分布は、図の文字色で分類したとおり、北海道・日本海沿岸・太平洋沿岸・瀬戸内海・九州西岸・諸島部と大きく分けられ、さらに各地域のなかで北部や南部というように細分化されている
 

いま見直される海藻の栄養効果
 従来、日本以外ではあまり食べられることのなかった海藻だが、そのビタミンやミネラルの豊富さや、食物繊維の重要性から、近年では欧米でも、ヘルシーな食べ物として注目されている。
 緑藻類は銅や鉄、マグネシウムなどを豊富に含む。褐藻類はアルギン酸を豊富に含んでいることから、高血圧の予防や血中の悪玉コレステロールの低下を促進する。紅藻類はビタミンBやCなどが豊富だ。
 コンブで出汁をとったワカメの味噌汁、箸休めにヒジキをいただき、おやつにはトコロテン。古くから日本人の食文化に海藻は欠かせないものであった。生活習慣病が問題になっている昨今、海藻の有効性をあらためて見直したい。


味噌汁だけではない、ご当地海藻料理
佐渡の郷土料理「いごねり」は、
イゴクサを煮詰めて固め、醤油と薬味、
または酢味噌で食べる
 全国に約1500種もの海藻が生息する日本では、古くから海藻を食材として用いてきた。和食に欠かすことのできない出汁のもととしてのコンブ、味噌汁の具や酢の物に使うワカメ、ヒジキの煮物など、まさに定番の日本の味といっていいだろう。
 一方で、地方独特の海藻料理も実に豊富だ。たとえば伊豆半島は古くからテングサの産地として知られているが、この地方では、いわゆるトコロテンを、麺状に細長くせずにさいの目に切って、砂糖をかけて食べることがある。また海藻の種類が豊富な瀬戸内海では、「いぎす豆腐」という料理がある。これは豆腐といっても大豆はまったく使用せず、イギスという海藻を煮て溶かし、固めた一種のトコロテンだ。同様の料理としては福岡の「おきゅうと」や、佐渡の「いごねり」、沖縄の「もーい豆腐」などがある。ちなみに長寿県として知られる沖縄は、海藻料理がたいへんに豊富な場所であり、1人あたりの海藻の摂取量は、東京都の4倍以上になるという。

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