波が下降すると空気室内の気圧が下がり、吸気弁から外部の空気が入り込む。波の上昇時には吸気弁が閉じるとともに排気弁が開き、タービンへつながる送気管へ空気が送り込まれる。下の酒田の例では、空気の流れの方向に関係なく一定の方向に回転するタービンを用いており、より効率的な構造となっている。 |
山形県酒田市の防波堤発電設備(写真提供:国土交通省酒田港湾事務所) |
|
|
海洋エネルギーの課題と可能性 |
地球全体が直面するエネルギー問題を解決の方向へ導く策として「再生可能エネルギー」の研究が各国で精力的に続けられている。再生可能エネルギーとは、太陽光や風力、水力、波力、バイオマスなど、地球上で繰り返し起きる自然現象を資源として得られるエネルギーのこと。無限の資源量を見込むことができ、化石燃料のような温室ガス排出の心配もない。ただし、本格的な実用にはまだ時間を要するが、こうしているあいだにも石油や石炭など有限の資源が刻一刻と消費されていることも確か。枯渇しきってしまう前に、再生利用エネルギーが実用化されることを願いたい。
効率面から風力エネルギーが各国で広く活用されているなか、海洋国日本で期待される再生可能エネルギーのひとつが、海洋エネルギーである。その種類と形態などについては、左の表を参照されたい。これらのほとんどが発電を前提にしているが、いずれもエネルギー密度が低いため電気として効率的に回収できる方法と技術の確立、および設備立地の選定が課題である。海洋エネルギーは総じて時間や時期などの条件による変動が激しいうえ、定点での利用可能量に限界があるため、年間を通じた安定的な電力生成が難しい。また、沖合に設備を造るとなると建設費用や消費地への送電コストもかさんでしまう。
しかし、それでも日本で海洋エネルギーが期待されている理由は、四方を海に囲まれていることはいうまでもなく、経済水域面積が世界1位のアメリカの約6割に相当するにもかかわらず、国土は約25分の1と、海洋エネルギー利用に恵まれた条件にあるのだ。
国内で最も研究が盛んなのは波浪エネルギーの利用、波力発電だ。他の海洋エネルギーにくらべて、大規模な実証実験が行われた施設の数だけでも圧倒的である[図1]。 |
|
波から空気へ、空気から電気へ |
波力発電の設備は、海に浮かぶ浮遊式と海底に固定する固定式、また波をどのような原理で電力に変換するかによって分類される。ただし、浮遊式・固定式いずれも、変換方式は波のエネルギーを一度空気などの動きに変換し、機械的処理を経て発電する「空気変換方式」が一般的だ。
具体例を挙げると[図2]のように海面の上下運動にしたがって装置内で空気の吸入・排出が行われ、排出された空気流が送気管に設置されたタービン発電器を回して発電する。この原理を基本に、海底に固定したケーソンに発電機構を備えた試験設備が、1989(平成元)年から山形県酒田港で試験運転を開始した。この事例のように、発電だけではなく防波堤など別の用途を兼ねることで、発電コストの問題が緩和される。技術力はもちろん、このような発想も波力発電を含む海洋エネルギー利用全般の実用化を推し進めるだろう。
別のエネルギー変換方式として「物体運動方式」がある。これは波エネルギーを物体の運動エネルギーに変え、さらに油圧に変換したのち発電させる仕組みだ。この場合、エネルギーを電力に変換する効率は良いが、システムが若干複雑であり、また大型化を図るにはコスト面でのデメリットが生じやすく、現段階では小型装置への実用化にとどまっている。
モノをつくることにかけて、日本は小型かつ高性能、低コストを得意としてきた。この優位性が発揮されれば、波力発電の実用化がさらに現実味を帯びてくるはずである。 |
|