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日本の伝統的な塩づくりの原理は、海水を濃縮してかん水をつくり、煮つめるもの。かん水をつくる技術は、時代とともに発展を遂げた。
●左上:人力で汲み上げた海水を塩田の砂にかけて乾かす『揚浜式塩田』
●右上:潮の干満の差を利用して海水を引き入れ毛細管現象によって砂を湿らせる『入浜式塩田』
●左下:ポンプで海水を汲み上げ、3段階の工程を通じて水分を蒸発させることを繰り返す『流下式塩田』
●右下:電気の力を利用して海水の塩分を集める最新の製塩方法『イオン交換膜法』

酸性雨が地表へ噴き出して形成された海水が、現在のような弱アルカリ性になるまでに約10億年を要した.

 『海の水はなぜ塩辛いの?』小学生向けの学習本などにもよく出る質問だが、さて、答えられるだろうか。 四方を海に囲まれ、また『塩梅(あんばい)』なる言葉を使う国に住んでいることを思えば、答えられないのは名折れかも……、そんな自省を込めつつ、海水と塩に迫ってみたい。
『酸』から『塩』へ10億年
 地球が誕生した約46億年前、地表の温度は1500℃以上にも及び、水蒸気、二酸化炭素、窒素からなる大気で覆われているだけで、まだ液状の水は存在しなかった。
 やがて地表の温度が下がると、大気中の水蒸気が雨となって降り注ぎ、地下に浸透した水は温泉のように地上に噴き出す。この現象が何千年ものあいだ繰り返され、海が形成されることになる。
 当時の雨は、火山ガスに含まれる塩素ガスや塩酸ガス、亜硫酸ガスが溶け込んで強い酸性を示していたため、私達が触ればたちまち火傷してしまっただろう。酸性の強い雨は、岩石からナトリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムなど鉱物のアルカリ性の成分を溶かし出し、海水は中和されていく。さらに二酸化炭素や酸素の働きを伴って、アルミニウムやカルシウム、鉄などの成分は沈殿し、水に溶けやすい塩化ナトリウムなどが海水中に残った。海の誕生から約10億年の歳月をかけて、海水は現在の成分に近づき、塩辛くなったのである。
優秀で特殊な日本の塩づくり
 現在の海水は約3〜3.5%の塩分を含み、そのうちの約78%を占める塩化ナトリウムが一般にいうところの『食塩』だ。日本の塩づくりは、海水をただ蒸発させているわけではなく、海水を濃縮してから煮つめるという2工程が基本となっている。わずか30gの塩をつくるのに1リットルの海水を費やすのは効率が悪いのだ。時代とともに技術は大きく進歩を遂げたものの、濃縮した海水を煮つめる原理は昔から変わっておらず、万葉集に出てくる「藻塩焼く」という表現も、同様の原理に則った製塩方法と見られている。
 このような日本の塩づくりは、諸外国から見て非常に優秀であると同時に、特殊でもある。海外では自然に塩が結晶化した岩塩を利用したり、乾燥した地域であれば天日で製塩するなどの方法が主流。日本には岩塩がなく、多雨多湿のため、外国のような塩づくりは不可能なのだ。海に囲まれているにもかかわらず、国内の塩の供給量の約84%が、メキシコやオーストラリアなどからの輸入でまかなわれているのは驚きだ。
海水の組成に見る生命の起源
 塩分と水、これが海水の成分だが、組成を細かく見ると、海水は天然の元素90種すべてを含んでいる。
 海が生命の起源であることは、さまざまな方面から立証されているが、そのひとつに、人体と海水の組成に着目した説がある。人体と海水に存在する元素は、水素、酸素、炭素、窒素というように、量の多い順に10位までが、ひとつを除いて完全に一致するのである。海水は10位以内にマグネシウムが、人体にはリンがランクインしている点が異なるのだが、マグネシウムは人体の11位であり、きわめて近い組成であることがわかる。このように、人体と海水の多量元素とのあいだには明確な相関関係が見られるのに対し、人体と地表ではまったく異なっていることから、生命の起源が海にあるとされている。
 人体の組成にきわめて近い、とすれば、健康ブームのご時世、海水に注目が集まるのは必然だろう。次回は、その最たるものである『海洋深層水』についてレポートする。

塩を原料として苛性ソーダやソーダ灰、塩素などを製造するソーダ工業。この分野の製品だけでも、塩がわたしたちに身近な幅広い用途に使用されていることがわかる。
取材協力:
特定非営利活動法人日本海洋深層水協会/財団法人塩事業センター
●塩の用途 食用以外にも多様な分野で
 日本の塩の年間消費量約900万トンのうち、調味料や食品加工など、食用として使われる量は、約15%にすぎない。その他は、ソーダ工業を中心にさまざまな産業分野で活用されており、主にメキシコやオーストラリアからの輸入物でまかなわれているのは驚きだ。
ソーダ工業用
 塩を原料として苛性ソーダ、塩素、炭酸ナトリウムを製造する。この製品を原料にガラス製品、パルプや紙、レーヨン等の化学繊維、塩ビ等のプラスチック、石鹸・洗剤、有機材料、塩酸・さらし粉等の無機材料、半導体シリコン等の電子材料を作るためにも使用される。
一般工業用
 染料・顔料、化学薬品、合成ゴム、油脂等の製造、皮なめし、イオン交換樹脂の再生、窯業、鉱業、染色などに塩が使用される。
動物飼料用
 餌に混ぜるか、塩を塊にして舐めさせて使用する。草食動物は塩で植物から摂取するカリウムとのバランスを取る。乳牛は乳とともに塩を排出するため、摂取が必要となる。
医薬用
 局方塩、生理的食塩水、リンゲル液、人工透析液等の製造に使われる。 
融氷雪用
 冬期の交通を確保するために、塩で雪や氷を溶かす。飽和塩水がマイナス21℃まで凍らない性質を利用し、湿った路面に撒くことで凍結を防ぎ、凍結した路面に撒いた塩は氷を剥がれやすくして車輌のスリップを防止する。

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