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パルテノン神殿風の建物が特徴的な城ヶ島灯台公園

城ヶ島の雨 Jogashima no ame
作詞:北原白秋、作曲:梁田貞。1913(大正2)年、三浦三崎に滞在中の白秋に、演出家島村抱月が自身の主催する芸術座の音楽会で発表するための新曲として作詞を依頼。梁田貞が附曲し10月28日に完成し、2日後の10月30日に東京有楽座で発表された。なお、白秋の詩で曲が附されたものは、この『城ヶ島の雨』が初めてのものであった。その後、奥田良三が吹き込んだレコードが発売され、全国的な大ヒットとなる。その後も多くの人に歌い継がれ、1959(昭和34)年にはこの曲をモチーフとした同名の映画も製作された。

三浦半島南端の景勝地・城ヶ島
 浦賀水道と相模湾を隔てる三浦半島の南端、神奈川県三浦市の三崎は、国内でも有数のマグロの水揚げ港として全国的にその名を知られている。波穏やかな港には数多くの漁船が係留され、市場では毎朝、活気溢れる売買(セリ)の呼び声の中、冷凍された巨大なマグロが取引される。通りを歩けば、マグロ料理を看板にした味処や老舗の宿が軒を連ね、これを目当てに当地を訪れる旅人の姿も多い。
 三崎から海を隔てること数百m、沖合いに浮かぶ城ヶ島は、風光明媚な景勝地である。半島と島とは城ヶ島大橋で結ばれており、自由に往来することができる。島の西側は県立城ヶ島公園として整備されており、夏はガクアジサイ、秋はハチジョウススキ、冬にはスイセンの可憐な花が美しい。遊歩道を歩けば、名勝・馬の背洞門があり、11月〜4月には、およそ2000羽の海鵜が羽を休め、年間を通して旅人の姿が絶えることがない。
 そんな島の一角、城ヶ島大橋の橋げたと並ぶように建つ、船の帆を形どった巨大な石碑がある。碑に刻まれているのは戦前の日本を代表する詩人であり、今なおその詩の多くが愛されている北原白秋の名曲『城ヶ島の雨』の一節である。

 
「城ヶ島の雨」の一節が刻まれた
白秋詩碑

道ならぬ恋に苦悩する詩人
 1913(大正2)年1月、1人の青年が東京から海路三浦三崎に渡り、当地で苦悩の日々を過ごしていた。この青年こそ、齢28歳、前年までは気鋭の青年詩人として評判であった北原白秋である。
 白秋は24歳で処女詩集『邪宗門』を刊行。その2年後には明治十大文豪詩人の部第一位に最年少者として入選、文壇に綺羅星のごとく現れた。しかし、詩人としての評価が高まる一方で、私生活では心休まらぬ日々を送っていた。道ならぬ恋である。1910(明治43)年、都内の青山に転居した白秋は、隣家に住む松下俊子と知り合い、ほどなく恋に落ちた。叙情溢れる新進気鋭の詩人の恋。しかし、恋人の俊子は、夫と別居中の人妻だったのである。
 封建制度が社会にも法律的にも色濃く残っていた明治の時代だけに、2人は俊子の夫から、姦通罪で告訴された。このため白秋は、市ケ谷の未決監に拘留される。その後、周囲の尽力により拘留2週間ほどで釈放され、後に和解も成立。告訴は取り下げられたものの、白秋の詩人としての名声は地に落ち、文壇はもちろん世間からも厳しい批判にさらされることになる。
 繊細な魂に恋の終わりと名声の失墜という2つの傷を負った白秋は、死を決意して、かつて訪れたことのある三浦三崎の町を徘徊。しかし、結局、死ぬことはできなかった。このときの思いを白秋は、次のように詠んでいる。
「寂しさに、浜へ出て見れば波ばかり、うねりくねり、あきらめきれず」

 
「馬の背洞門」は波の浸食でできた奇岩
 
日本で5番目の洋式灯台として建てられた城ヶ島灯台

名曲『城ヶ島の雨』の誕生
 傷心のまま、しかし自ら死ぬこともままならぬ詩人・白秋は、三浦三崎におよそ半年ほど滞在。東京の雑踏とかけ離れた港町の風情と潮風、そして美しい海が、詩人の心を癒したであろうことは、想像に難くない。
 ちょうどその頃、「芸術座」を率いる島村抱月が、白秋に作詞を依頼。このときに作られたのが、後の名曲『城ヶ島の雨』であった。

 雨はふるふる城ヶ島の磯に
 利休鼠の雨が降る
 雨は真珠か 夜明けの霧か
 それともわたしの忍び泣き

 1913(大正2)年10月30日に開催される「芸術座音楽会」で発表するために、春には依頼があったが白秋はなかなか仕上げることができない。作曲者にして音楽会で歌手を務めることになっていた梁田貞(やなだただし)のもとに詩が渡ったのは10月27日。梁田は2日間ひたすら詩を読み、29日の夜に作曲を始め、完成したのは音楽会当日の明け方であった。
 旅情と詩情溢れるこの曲は、瞬く間に大ヒットとなり、以降、大正ロマンを代表する名曲として長く後世に受け継がれることとなる。同時に詩の舞台となった城ヶ島も、浪漫溢れる島として多くの人に知られ、発表から約100年を経た今も、全国から多くの旅人が訪れている。
 
白秋記念館から「城ヶ島の雨」の
曲が流されている
 


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