title
title
Back Number

日本有数の漁港・境港は、実は“妖怪の里”だった…

ゲゲゲの鬼太郎 Gegege no kitaro
作者:水木しげる。雑誌での発表から42年が過ぎた今も、幅広い世代に支持される水木しげるの代表作。もとは1954年に、紙芝居作者であった水木が描いた作品が原点で、その後、貸本漫画家時代にも、「墓場鬼太郎」として描かれている。これらの作品も含めれば、すでに半世紀以上に渡って描かれ続けていることになる。連載漫画としては、1965(昭和40)年、『少年マガジン』で連載が開始。当初、不人気で3話で打ち切りが検討されたが、貸本時代の熱心な読者からのファンレターで連載は続行。その後、アニメ化などにより人気を博し、国民的漫画作品となった。

妖怪が出迎える町・境港
 古くから山陰地方の交通の要衝として、また日本海有数の水産業の町として栄えてきた境港。美保湾の向こうには山陰の名峰・大山を望み、弓ヶ浜には白砂青松の風光明媚な風景が広がる。
 ところで、境港を訪れる人の玄関口となるJR境港駅を一歩出ると、そこで旅人を迎えるのは、無数の「妖怪」たちである。河童や海坊主、座敷童子やろくろ首など、古くからおなじみの妖怪たちはもとより、口裂け女や魔女の花子などといった新しい妖怪たちも混じっている。その中心となるのが、鬼太郎と目玉おやじ、そしてねずみ男…。昭和を代表する漫画家で、いまも現役で活躍を続ける、水木しげるの代表作『ゲゲゲの鬼太郎』のメイン・キャラクターたちである。
 別名「鬼太郎駅」と名づけられたJR境港駅から水木しげる記念館まで、およそ800mの通りは、「水木しげるロード」と呼ばれ、沿道には120体もの妖怪のオブジェが並んでいる。週末や祭日ともなれば、通りには妖怪人力車が往来し、旅行者は妖怪神社で神だのみならぬ、妖怪だのみに願いをかける。水木が集めた妖怪に関するコレクションを集めた記念館は、連日多くの家族連れや妖怪ファンで多いににぎわう。
 まさに、現在の境港は、にぎやかで愉快な妖怪の町となっている。

 
赤貧の暮らしから生まれた「鬼太郎」
 漫画家・水木しげる(本名・武良茂)は、1922(大正11)年に、ここ境港に生まれた。武良(むら)家は、隠岐発祥の家柄で、戦国時代から続く豪族の家系。江戸時代には回船問屋を営み、大きな財をなしたという。また水木の祖父は実業家として成功し、ジャカルタでも事業を起こしている。
 一方、水木自身も幼い頃から、いささか浮世離れしたキャラクターであった。父に買ってもらった油絵具で絵を描く毎日を過ごし、清華美術学校という図案の学校に入った。そこは教師が校長一人という学校で、大半は休み、しげるは、もっぱら家で頼まれもしない数十冊の絵本を描いて、一人で楽しんでいた。
 長じてからは、太平洋戦争時に南方の戦争で九死に一生を得て、戦後は紙芝居の絵描き、貸本作家などの職につき、長らく赤貧の暮らしを送っていた。しかし、貸本業の衰退から当時興隆し始めていた漫画の世界に飛び込む。当初は、なかなか作品を認められることがなく苦しい時代を送ったというが、40歳代半ばになり代表作である『ゲゲゲの鬼太郎』が世間に認められ、一躍、売れっ子漫画家の仲間入りを果たす。
 その後、昭和の時代の終わりとともに、漫画界の重鎮であった手塚治や石ノ森正太郎などが次々と鬼籍に入るなか、水木はいまや、「存命する最後の大物漫画家」と呼ばれる。  また漫画界の大御所という確固たる地位を築いたにもかかわらず、本人のいささか浮世離れしたユーモラスな人柄は変わらず、多くの人々の敬愛を集めている。

 
約800mの「水木しげるロード」に、おなじみのキャラクターからマニアックな妖怪まで120体の像が並ぶ

町に活気を取り戻した妖怪たち
 境港は、海運や水産業の停滞、人口の過疎化などの問題を抱えていたが、近年、境港出身である水木のキャラクターである『ゲゲゲの鬼太郎』を中心に、「妖怪」をテーマにした町おこしで、大きな成果を挙げている。
 「水木しげるロード」にある妖怪のオブジェは、当初、86体であったが、100体を目指してスポンサーを募ったところ、2007年には当初の目標を上回る合計120体となった。週末や休日には、全国から水木ファンや家族連れが集まり、町には活気が戻ってきた。さらに、妖怪の大家である水木の出身地ということで、水木自身が会長を務める世界妖怪協会が、定期的に行っている世界妖怪会議の会場としても、境港がたびたび利用され、町おこしのイベントの目玉となっている。
 遠く大山を望み、穏やかな波が打ち寄せる白砂青松の海岸。そして、山陰の古きよき伝統と自然がはぐくんだ、いささかユーモラスな少年が、長じて港町の活性化に「妖怪」を通じて貢献したというのも、なにやら説話めいている。もしかすると、水木という人物こそ、本物の妖怪なのかもしれない…。
 
「水木しげる記念館」に展示された、水木氏の制作室の様子
 


参考文献:『ねぼけ人生』(水木しげる/ちくま文庫)

Back Number